189話 生贄
「それじゃあ、行くか」
「はい!」
その後は広場に集まった私とアルマさんは、私の送ったメッセージを見てやってきたクオンたちにしっかりと貴族の人であるルルアさんに情報を伝えたと述べ、早速とばかりに私が受け取った地図を見ながら目的である貴族、エリナさんのお屋敷へと向かいます。
さて、今から行くお屋敷はどんな風ですかね…?おそらくは幹部である【瘴魔】がいるのは間違いなさそうですし、隠しているらしいとはいえ邪命教のボスでもあるのです。であれば、その構成員もいたりするかもしれませんね。
まあ少しだけ不安にはなりますけど、今は一人ではなくクオンたちもいるのですし、問題が起きてもなんとかなるでしょう。
「…そういえば、クオンたちは私たちが貴族の人に会いにいっている間は何か掴めたのですか?」
「ん?ああ、それについては言ってなかったな。俺たちも調べたんだが、やはり住人には知られていないらしく、特に何も掴めなかったんだ。すまんな」
ふむ、組織が隠していることから薄々勘づいていましたが、やはり知られていなかったみたいですね。
私が会った暗殺組織を運営しているルルアさんはそちらの裏方面から情報を入手していたのでしょうし、普通の住人が知っているはずがありませんか。
まあ必要な情報はすでにはアジトで掴んでいるため、問題はないですけどね。なのでクオン、そこまで申し訳なさそうにしなくても大丈夫ですよ!
「そういうレアの方はどうだったんだ」
「私ですか?私の方はルルアさんという貴族の人に会って協力してくれることになったくらいですね。あ、それと捕まえている幹部の方にも人を送ってくれるようなので、逃げられる心配もなさそうでしたよ」
それに組織の問題を解決した後の後始末もしてくれるようなので、意外と縁の下の力持ちとしてサポートをしてくれるため、改めて考えるととても助かるのでありがたいですよね…!
そのことも簡潔にクオンたちへと伝えましたが、クオンたちも私の考えに同意するかのように納得してますし、やっぱり同じ思考になりますよね。
まあそれはともかく、それのおかげで貴族のお屋敷を襲撃するといった行動をとっても問題はなさそうと感じるので、キチンと協力を要請していて正解でした!
「…あ、着きましたよ」
「ここか…」
そんな会話をしつつも夜の街中を歩き続けていると、やっとマップに記されていた目的地であるお屋敷の前へと到着しました。
「貴様ら、何者だ!」
しかし、貴族のお屋敷なので入り口には当然門番である住人が存在します。なのでどうにかしないといけませんが、この人は別に悪い人でもないので手を出す気はありませんし、どうするかを悩んでしまいます。
うーむ、どうしましょうか?どう考えても通してくれるはずがないですし、ここは気絶させて無理やり入るのがいいですかね?
「ここは私に任せてください」
私たちが門番さんからの警戒を秘めた視線を浴びつつ悩んでいると、そんな言葉と共にアルマさんが前に出ていきます。
…何をする気でしょうか?流石にただの一般市民である門番さんを傷つけるのはやめてほしいですけど……アルマさんはそのようなことをしないと信じてますよ?
「…何をするつもりだ!?」
「ごめんなさい。少しだけ、眠っていてもらいますよ」
そう言ってアルマさんは門番さんに対して一瞬で近づき、そのままその頭に手を触れてなんらかのスキルを発動させました。
すると門番さんはすぐに意識を失ったらしく、その場に倒れ込みました。…アルマさんがすぐに支えたので怪我はありませんでしたけど、少しだけ乱暴なやり方ですね…?
魔力の反応もありましたし、間違いなくなんらかの能力かスキルだとは思いますが、アルマさんはそんなことまで出来たのですか。
「…よし、これで通れますね」
「アルマさん、こんなことを出来たんですね」
クオンたちもそれを見て驚いた様子でそのように呟いているので、私と同じ気持ちになってきたらしいです。そりゃそうですよね。普通の人にはそんなことは出来ないですし。
「まあ私は悪魔ですしね。それはともかく、眠らせていられる時間は短いですし、今のうちに入りましょうか」
「っと、それもそうですね。では、行きますか!」
アルマさんの行動に驚いていないで、さっさと動かないとですね。眠らせていられる時間も短いとのことなので、今のうちにこのお屋敷にいるであろう貴族であるエリナさんと悪魔を見つけて対処しなくては…!
後からルルアさんたちも来ると言ってましたし、門番さんについてはそちらに任せておきましょうか!私たちは、ボス狙いです!
「…誰もいない、ですね?」
そうして門番さんがいた場所を超えてお屋敷へと向かった私たちでしたが、私が今口にしている通り人の気配が一切感じれないのですよね。
一体どういうことでしょうか…?貴族のお屋敷なので普通はたくさんの人がいるはずなのですが、気配も人影も、なんなら物音までないのは明らかにおかしいです…!
「…もしかして、悪魔が何かやっているとか?」
「その可能性はありそうだね…?」
「なら、急いで行くとするか!」
「ですね。行きましょうか」
クオンたちの言葉を合図に、私たちは庭を超えて急ぎの様子でお屋敷の中へと侵入していきます。
通ってきた庭には人は一切いませんでしたが、お屋敷の中も同様のようで人の気配などはやはり感じ取れません。
うーむ、クオンが言っていた通り、やはり悪魔が悪さをしているのですかね?こうまで人の気配がなければ、少しだけ不安になってしまいます…!
「…レアさん、おそらくは悪魔がいる場所を感じとりました」
「アルマさん、そんなことがわかるのですか?」
「一応は私も悪魔ですし、悪魔の放つ瘴気を感じ取れるので。着いてきてください、案内します」
アルマさんは狙いである悪魔がどこにいるかがわかるようなので、申し訳ないですけど案内は頼むことにします。
しかし、このお屋敷には人っ子一人いませんが、悪魔は何をしでかしたのでしょうかね…?もしかするとすでに邪神の力を宿すのを実行していて、それの影響で人がいなかったり…?
まあ考えてもわからないですし、今は悪魔を討伐するために動くのを優先にしないとですね。今はアルマさんの案内で悪魔の元へ向かっていますが、出来ることならそのようなことをしていなせればよいですが…
「…ここですね」
「…着いたようだな」
そんな思考をしつつもお屋敷内を歩き続けていると、アルマさんは一つの部屋の前で止まりました。
どうやらここの中に悪魔がいるみたいですね?悪魔がいるということは、きっと貴族であるエリナさんもいると思うので、そちらには危害が加わらないように気をつけないといけませんね。
「では、行きますよ?」
「ああ」
私は皆さんにそう口にした後、一気に部屋の扉を開けて中へと入っていきます。クオンたちも私に続くように中に入ってきましたが、私たちはその部屋の中を見て驚愕の表情を浮かべてしまいます。
何故なら、私たちが足を踏み入れたその部屋には赤黒い色をした魔法陣のようなものが描かれており、その魔法陣の中心には人の女性が横たわっていたからです。しかもそのそばには黒い髪に赤い瞳をした男性までいるため、その男性が悪魔で間違いないと感じます。
というか、この状況は明らかにやばいですよね…!?悪魔もそうですが、妨害をしなくてはエリナさんと思しき人に何かをされてしまいそうです…!
「ふん、やはり来たか」
黒髪赤目の男性……狙いである悪魔は、そのような言葉を呟きつつ私たちの方へも視線を向けてきますが、その視線がアルマさんを捉えたと思ったら、当然ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべます。
「おや、お前はあの時の少女か?」
「お前は、また人を犠牲にするんですか!」
「アルマさん!」
アルマさんは感情を抑えられなかったのか、そんな咆哮をあげながら悪魔に対して駆け出していきました。
ちょ、アルマさん!?流石にいきなり一人でいかないでくださいよ…!?気持ちは痛いほどわかりますが、一人で突っ走らないでください…!
「〈悪魔の刃〉ッ!」
私の気持ちはさておき、そう武技を使用しながら悪魔に向けて爪による斬撃攻撃を放ったアルマさんでしたが、その攻撃は後方に跳ばれることで容易く回避されてしまっています。
ううむ、結構な速さの攻撃でしたが、余裕な様子で回避されてしまっていますね?これから察するに、この悪魔はかなりの実力なのが感じ取れます。
「くく、そんなものは効かぬぞ?」
「お前…!」
「アルマさん、落ち着いてください!」
そう、いくら憎い相手だとしても冷静さを欠けてしまえば相手の思う壺です。それにここにいるのはアルマさんは一人ではありませんし、私たちの武器は協力をすることでもあります。
ですから、一度落ち着いて冷静になりましょう…!
「…すみません、レアさん。もう大丈夫です、落ち着きました」
私の言葉を聞いたアルマさんは正面にいる悪魔を憎々しげな様子で睨みつけてはいますが、一応会話を出来るくらいには落ち着いたようですね。
なら、ここからはアルマさんだけではなく私たちも参加するとしましょうか!
悪魔はどう考えてもエリナさんらしき女性を生贄にするところのようでしたが、アルマさんが悪魔へと攻撃を放った時にクオンがこっそりと魔法陣の上からこちらへと救出しておいたので、一応は阻止することは出来た……はずです。
「ちっ、奪われたようだな。だが、問題はない。今ここで、貴様らを屠るとしよう」
悪魔は奪われたエリナさんをチラリと見つつも、そう呟いて両手の指の先から漆黒の爪を伸ばし、そのまま私たち目掛けて接近してきます。
「クオン、その女性は頼みます!」
「了解!俺は先にこの人を安全圏に連れていく!」
「わかりました!では、私たちはこの人を倒しましょう!さぁ、悪魔退治ですよ!」
クオンは私の言葉を聞き、すぐさま部屋を出て抱き抱えている女性を安全圏へと連れて行ってくれるようなので、私たちはこの悪魔の相手をすることにします。
この悪魔は確か、闇魔法と精神支配に長けているとヴァンさんは言ってましたね。なら、それらに気を付けて戦うのが良さそうですね…!
ひとまず前衛はヴァンさんとアルマさんに任せることにして、私は中距離から遊撃として動きますか!
「〈第一の時〉!」
手始めに加速効果を自身に付与した後、私はそのまま両手に取り出した双銃を乱射して悪魔に向けて攻撃を開始します。
それと同時に、ヴァンさんとアルマさんがそれぞれの武器を構えて迫ってくる悪魔に向けてこちらからも駆け出していき、メアさんとライトさんの攻撃も放たれます。
メアさんとライトさんは完全に後衛型のスキル構成なので接近されないようにしないといけませんが、それは私が対応することにします。
まあ前衛の二人がいるのでそこまで心配はしてまけんけど、一応は、ですね。
「くく、あの時の少女がいるとは思わなかったぞ!」
「今ここで!お前を倒させてもらいます!」
そんな声をあげながらお互いに黒色の爪をぶつけ合っている二人でしたが、やはり実力に関しては相手の方が高いようで、徐々にアルマさんが押されてしまっているのがわかります。
むう、私もサポートをするように銃弾を放ってはいるのですが、それらは片手間で生み出された黒色の炎のようなもので防がれてしまってなかなか思うように迫られません…!
しかし、ここにいるのは私とアルマさんだけでは有りません!
「俺もいるぜ!〈ブレイクスマッシュ〉」
「わたしも!〈シュートアロー〉!」
「僕もいきます!〈アクアランス〉!」
「ふん、鬱陶しいな」
アルマさんの攻撃の隙を見て放つヴァンさんによる武技に加え、メアさんとライトさんによる攻撃も次々と放たれることで流石の悪魔も全てに完璧に対応するのは難しいらしく、わずかではありますが徐々に掠り傷を負っていってます。
…ですが、言い換えれば皆で協力しているのにも関わらず、それくらいしかダメージを与えられていないとも言えます。
この悪魔は、私が今までに戦ってきた悪魔の中ではダントツで強く感じますね…?邪神の力を宿すのは阻止出来たと思っていましたが、ひょっとするとすでにそれは行われていた可能性もありそうですかね…?
エリナさんを救出しましたけど、他の人はすでに見受けられなかったのでそれはあながち間違いではないかもしれません。
「…だとするなら、この悪魔の強さには納得ですね」
邪神の力をすでに己の身に宿すことを出来ているようですし、これはかなり厳しそうですね…?苦戦は確実でしょうけど、今ここで逃すわけにはいきませんし、もっと全力を出して戦わなくてはいけませんね…!




