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188話 組織のボス

「っと、着きましたよ、レアさん」

「ここが、その貴族のお屋敷ですか…」


 そうしてアルマさんの案内のままに歩いていた私たちでしたが、意外と時間がかかることもなく目的地である暗殺貴族のお屋敷前まで到着しました。


 アルマさんからは、ここに住んでいる貴族は暗殺者組織の元締めと聞いていましたけど、外から見た限りではそうとは想像出来ません。


 まあ当然ですね。表立って暗殺者組織を運営していると知られていれば、他の貴族などから逆に暗殺者を仕向けられそうですし、仕事に関しても面倒なことになるのは間違いないとは思いますしね。


「おや、貴方は確か、アルマ殿でしたっけ?」

「そうです。伝えていた通り、通してもらえませんか?」


 アルマさんはこのお屋敷の門番らしき男性と顔見知りなのか、そのように言葉を交わしています。ここに来る前に"面会の準備をしていた"とも言っていたので、それででしょうか?それか、ここの貴族と関わりがあると言っていたので、それの可能性もありそうです。


「大丈夫ですよ。して、そちらのお嬢さんは?」

「ああ、彼女は私の連れです。この子もいいですか?」

「おそらく大丈夫でしょう。では、どうぞ」

「ありがとうございます。ではレアさん、いきますよ」

「わかりました」


 そんな言葉を交わした後、門番さんは普通に通してくれたので、私はアルマさんに着いていきながら門を潜ってお屋敷の敷地へと足を踏み入れます。


 門から先に広がっていた光景は、しっかりと手入れをされていて美しい見た目をした庭となっており、花壇のような場所にはこれまた美しく飾り付けられている花園のようになっているため、とても美しくて目が惹きつけれてしまいます。


 私が見たことのあるお屋敷であるイザベラさんのものとは違って、こちらはお屋敷だけではなく庭に対しても整えられているみたいですね。


 もちろん、イザベラさんのお屋敷がこちらより劣っているわけではなく、どちらも手入れが行き届いているため美しさに関してはどっちが上とかはありませんけどね!


「アルマ様、お待ちしておりました」

「どうも、セヴァさん。案内、お願いしますね」

「お任せくださいませ」


 そしてお屋敷の敷地に広がっていた庭を通ってお屋敷まで来た私とアルマさんでしたが、玄関である扉を開けて中に入り次第、ピシッと執事服を着こなしている身長180cmはありそうな程大きい執事のお爺様が待ち構えていました。


 …この世界のお爺様は、皆こんなにかっこいい人しかいないのですかね?私が今までに対面したのは、どの人もそれはもうかっこいい人ばかりでしたので、どうしてもそう思ってしまいます。


 単に私が見てきたのがそうした人だけだった可能性もありますが。


「ここでございます。私は旦那様をお呼びに行くので、この部屋で待機していてください」

「わかりました、案内ありがとうございます。ではレアさん、入りますよ?」

「あ、はい!」


 そんなどうでも良いことを考えていると、アルマさんから部屋に入ろうと即されたので、私はアルマさんに続くように部屋の中へと入ります。


 部屋の中はやはり貴族であるためか、とても綺麗で落ち着いた雰囲気を感じ取れる部屋となっており、イザベラさんのお屋敷に行った時と同様に少しだけ落ち着けません。


 しかも今から会う人は初対面ですし、どうしても緊張してしまいますが……重要な情報を伝えるのですから、しっかりしないとですね…!


「レアさん、緊張してますか?」

「もちろんですよ。だって初対面なんですしね」


 そんな部屋に置いてあるソファに座って待っていた私に対して、アルマさんはそう声をかけてきたので私はそのように言葉を返します。


 初対面でもあり、暗殺者組織の元締めということなのです。であれば、私がここまで緊張してしまうのは当然のことです!


 まあアルマさんは信頼出来る人、と言っていたのでそこまで不安に感じなくても良いのかもしれませんけど、そこはそれ、仕方ないのですよ…!


「あの人は顔は怖いですけど、優しい人なので大丈夫ですよ」

「そうなのですか?…なら、信じますよ?」

「ふふ、はい」


 うーむ、アルマさんから優しい人であると伝えられましたが、本当にどんな人なのでしょうか?顔が怖いということは、よくある暗殺者組織のボスのような強面の人だったり…?とりあえず、女性ではなさそうですけど…


「待たせたな、アルマ」

「いえ、そこまで待っていないので大丈夫です」


 そんな思考を巡らせていると、ふと男性の声が聞こえてきて、それと同時にこの部屋の扉が開かれて一人の男性が入ってきました。


 その男性は肩まである夜の闇のような漆黒色の髪を頭の後ろで纏めてあり、身長は先程の執事さんくらい大きい180cmで、氷のような青色をしたその鋭い瞳からは敵対者は殺す、とでもいわんばかりのオーラをひしひしと感じます。


 どう考えてもこの人が私たちが会いにきた貴族の方でしょうけど……なるほど、確かに顔は怖いですね。ですが、それは敵対者に対してのように感じるので私的にはそこまで怖くは感じません。


「アルマ、その少女は?」

「紹介しますね。こちらはレアさんと言って、私と共に邪命教をなくすために動いてくれている方です」

「紹介に預かったレアです!よろしくお願いします!」

「そうか、私はルルア・アンリーシュ。知っての通り、この国の貴族だ。そして、この国の暗部である暗殺組織『闇の牙』の元締めでもあるな」


 黒髪の貴族、ルルアさんと私は互いに自己紹介を済ませた後、早速本題に入るために言葉を交わしていきます。


「それで、今この街に蔓延っている邪命教についてだったか?」

「はい。私たちは少し前にその組織のアジトまで向かったのですけど、このような情報を確保したのです」


 そう言って私は、ログアウトする前にクオンたちから受け取っていた情報が書かれた書類をインベントリから取り出し、ルルアさんへと差し出します。


 ここに書かれている情報はクオンたちが見つけてきたものであり、組織のボスに目的、そして残っている幹部の一人について載っています。


 あ、それとルルアさんにすでに捕まえていた幹部が逃がされないようにしてくれないかも頼みますか。別に逃げられない可能性はありますけど、組織のボスは貴族なんですし、わずかでも可能性があるのなら警戒に越したことはないですしね。


「…ふむ、住人たちを生贄に邪神の力を自身に宿すため、か。しかも、その組織のボスがあいつだとはな」


 むむ、その発言からして、そのボスの貴族の人とは交友関係がある感じですかね?しかもルルアさんはその顔に悲しげな表情を浮かべているため、その人とは知り合いなのですね。


 そんな表情をするくらいには親しかったのでしょうし、そんな友人が悪に手を染めていては悲しげな表情をするのも無理はありませんが。


「知っている人なのですか?」

「ああ、私の古くからの友人でな。そんなことに手を染める奴ではないと思っていたが……これを見るに事実なのだろう」


 ふむ、私はルルアさんの知り合いであるその人については一切知りませんけど、そこまで言うのなら事実なのでしょうね。


 だとすると、何故そのようなことをしてしまったのでしょうか?…あ、もしかして、残りの幹部である【瘴魔】と呼ばれている悪魔のせい……だったりしますかね?


 その悪魔はアルマさんから聞くに、アルマさんのように理性的になっている者ではないようなので、この考えは当たっていそうではありますが…


「…多分、それは唯一残っている幹部である悪魔の仕業だとは思います。あいつは精神支配の術が得意なので、それのせいでしょう」

「ふむ、精神支配か。そういえば、アルマの狙っている奴は悪魔だったな?…であれば、それのせいと見て間違いないか」


 …そういえば、ヴァンさんとライトさんもその悪魔は闇魔法と精神支配に長けている、と言ってましたね。


 しかもアルマさんの口からもそう聞きましたし、その予想は間違いなくあっていそうですね。なら、その悪魔さえ倒せば組織のボスであるその貴族も元に戻ってこの問題は解決が出来そうではありますし、それを目指すのがいいと思いますね。


「…では、彼女を元に戻すためにも、再びお前たちの手を借りてもよいか?私は貴族なため、そう簡単に動けなくてな」

「もちろんですよ。私もあいつを倒すつもりですし、頼まれなくても行く気ではありますしね」

「私も、アルマさんと同じです。私は復讐相手というわけではないですが、悪さをしているのならそれを止めに動くのは自然なので!」

「ふっ、そうか。なら、申し訳ないが頼むとするな。それと捕まえている二人の幹部に関しては任せてくれ。絶対に逃しはしないさ」


 よーし、これで私たちのやることは決まりですね!まずはクオンたちにもこのことを伝え、その後はその貴族のいる場所に向かって幹部である悪魔を倒し、その人を元に戻すと言う形で良さそうです…!


 それに捕まえた幹部の方はルルアさんが対応してくれるみたいなので、そちらも問題はないでしょう!


「これで伝えるべきことはすべて伝えましたし、私たちは早速その貴族のいる場所に向かって悪魔を倒してこようと思いますね」

「了解した。私も遅れはするが部下を連れていくつもりなので、それまでは頼む。…では、あいつの屋敷の場所についての地図を渡すので、少しだけ待っていてくれ」


 その言葉を発したルルアさんは地図を書いてくるためか一度この部屋から出ていったので、私たちはソファに座りつつ待つことにします。


 …それにしても、まさか組織のボスがルルアさんの友人だとは思いませんでしたね。しかも本来ならそのような行動を取る者でもないときたものです。


 これから察するに、やはり悪魔は敵と見て間違いないとわかります。まあアルマさんのように理性的に悪魔もいるみたいではありますが、おそらくそれは極わずかなのかもしれませんね。


「レアさん」

「ん、なんですか?」


 ソファに座りながら悪魔について考えていると、ふとアルマさんから声をかけられました。


 どうしたのでしょうか?なんだか浮かない表情を表していますけど、もしかして今から行く悪魔退治に怖くなってしまぅたのですかね?


 アルマさんはその悪魔によって両親をやられてしまったと言っていたので、そうなるはわかりますけど…


「レアさんは、怖くないのですか?」


 私の予想とは違い、単に私のことを心配していたようでした。ふむ、怖くないか、ですか…


「…そうですね、特に恐怖はありませんね。確かに緊張はしますけど、私たちがこの問題を解決しなくては被害が大きくなりそうですしね。それに悪魔に対してよりも、人が傷つく方がもっと怖いですからね」

「…なるほど」


 私はクオンたちに限らず、人が傷つくのは見たくないので、それが今の原動力になっているのだと思います。


 そりゃあ死ぬのは怖いですけど、それを超えるほどに守り切りたいという願いがありますからね。


「レアさんは、優しいのですね」

「…そ、そうですか?」

「そうですよ。レアさんはとても優しい人なんですし、もっと自信を持っていいですよ!」


 う、うーん、自信を持っても良いと言われてもそう簡単には出来ませんよ…!ですが、それはいつかは出来るようになった方が良いとは思いますし、納得しておきますか。


 私的には普通に接しているだけですけど、これが優しいのでしょうか…?それに、そこまで褒められると恥ずかしくもなってしまいますよ…!


「すまない、待たせたな」


 そんな会話をアルマさんとしていると、ルルアさんがその手に地図らしき紙を手に戻ってきました。


 地図を持ってくるだけだったので結構早く戻ってきましたね?この後はすぐにその貴族の元に行く気であったので、早めに用意してくれたのは助かりますね。


「これが、あいつの屋敷のある場所だ。まあそこまで離れてないからなくても良いかもしれんが、一応な」

「ありがとうございます、ルルアさん!」

「なに、このくらいはな。私は自分の用意をしてくるので、後は頼むぞ。それと、無事に組織の問題を解決した後の後始末は私に任せてくれ。お前たちの手を煩わせないように済ませてみせるのでな」

「はい、わかりました」


 そう言葉を残し、準備をするために部屋を出ていったルルアさんを見送った私とアルマさんでしたが、私たちもここでしなくてはいけないこともないので、ルルアさんに続くように部屋を出て、そのままお屋敷も後にします。


「では、この後はまずクオンたちと合流してから、早速貴族の人のお屋敷へと乗り込みに行くとしますか!」

「そうですね。集合場所は決めているのですか?」

「今メッセージを送ったので、とりあえず広場で集合にしました」

「わかりました。なら、まずはそこに行きますか」


 よーし、ルルアさんにもしっかりと情報を伝えて協力をしてくれることにもなりましたし、これで心置きなく乗り込めますね!


 ひとまずはクオンたちと合流しますし、その後に悪魔を倒しに行きましょう!

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