182話 邪命教
「…ここ、ですかね…?」
そこからクオンたちに続くように街の中へと歩き出した私は、手始めにこの街で生活している住人の方々に冒険者ギルドの場所を聞いてみると、少しだけ私のことを警戒されてはいましたが、なんとかその情報を掴むことが出来たため、早速教えられた場所まで来たというわけです。
確か暗殺者ギルドは冒険者ギルドに備わっていますし、ここに来れば暗殺者ギルドがあると踏んで向かったのですが、その予想は正しかったらしく、冒険者ギルドの裏には暗殺者ギルドに入るための入り口がありました。
「…よし、入りますか…!」
おそらく、私が知りたい情報である闇に染まったモンスターとその裏についても知っているでしょうし、もし知っていなければ無駄足にはなりますが、そんなことはないとは思うので少しだけ期待してしまいます…!
「…誰だ?」
そんな思考をしつつも暗殺者ギルドの扉をノックしてみると、そのような言葉が返ってきたため、私は自身が暗殺者ギルドのメンバーであることと目的があって寄らせてもらったと伝えます。
するとすぐに扉が開かれ、中から一人の男性が現れました。
その男性の見た目は焦茶色の髪に青い瞳をした鬼人のようで、私よりも頭二つくらいは大きめの体格なので少しだけ威圧感を感じてしまいます。
まあ私が倒してきたモンスターよりかは強くはなさそうなので、そこまで気圧されたりはしませんけどね。
「…お前、もしかして今噂になっている副マスターであるナンテさんの弟子か?」
「確かにナンテさんの弟子ではありますけど……噂ってなんですか?」
この男性の言う噂とは何でしょうか?私、特に暗殺者ギルドのメンバーと会ったこともないですし、暗殺者ギルドの依頼もそこまで受けていないのにも関わらず噂が立っているということは、ナンテさんが流しているのですかね?
「その噂では、ナンテさんに実力を認めさせて弟子になったとか、悪徳商人を片っ端から潰しているとか、超絶美少女が暗殺者ギルドのメンバーになったとか聞いていたが…」
何ですか、その噂…!?事実であることも含まれてはいますが、悪徳商人を片っ端から潰してなんかいませんよ…!?
それに超絶美少女だなんて、嬉しいですけどいったい誰がそんなことを広めたのでしょうか?まあ悪い噂ではないので特に害はないのでいいですけど、どうしても微妙な表情になってしまいます…!
「まあそれはいいとして、目的があってきたんだろ?とりあえず中に入れや」
「…そうですね。では、お邪魔します!」
「おう、まあ俺の家ではないんだがな」
ふふっ、確かにそうですね。この暗殺者ギルドのメンバーらしき男性は私の心情に気を遣ってくれたのか、茶目っ気のある言葉を返してくれたので、少しだけ笑ってしまいました。
やっぱり、暗殺者ギルドのメンバーということなので人柄などが良い人が多いのかもしれませんね。
そうでないと、本来は断るはずの暗殺依頼などを騙されて受けてしまうかもしれませんし、ナンテさんも私を弟子に誘う時に人柄を重要視していたので、これが暗殺者ギルドによる規律のようなものなのですかね?
「それで、この暗殺者ギルドに何の用なんだ?」
そうして暗殺者ギルドの中にあるテーブル席まで案内された私は、対面に座った鬼人の男性にそう聞かれたので、ここにきた目的を話し出します。
「実は、ここに来るまでに闇に染まったモンスターを見かけたので、裏事情に詳しそうな暗殺者ギルドに来たのです」
「なるほど、それでか。確かにそれに関係してそうな情報はあるし、その判断は間違ってないな」
目の前でうんうんと頷いている鬼人の男性はそう言っているので、やはりここに来たのは正解だったようですね?
なら、是非ともその情報をいただかせてもらえるか聞いてみますか!私はこれでも暗殺者ギルドのメンバーなんですし、教えてくれるとは思いますけど……断られたら悲しいですね。
「よければ、聞かせてもらえますか?」
「お前は暗殺者ギルドのメンバーなんだし、いいぞ。出来ることなら俺たちの手で解決したかったが、この情報的に難しそうだったし、お前にも協力してもらえるの助かる」
むむ、そこまでやばい情報なのですか?この男性は私よりかは劣るとはいえある程度の実力はありそうですけど、その人で解決出来ないということは、よほど危険な情報みたいですね。
なら、気を引き締めて聞かせてもらうとしますか!聞いた情報はクオンたちにも伝えるとは思いますが、私たちでその問題は解決してみせますよ!
「じゃあ伝えるが、ここ最近になって現れるようになった闇に染まったモンスターというのは、とある組織が生み出しているみたいなんだ。何らかの目的を持っているらしいが、そこまではまだ特定は出来てないがな」
ふむふむ、やはり私の予想した通り組織として動いているのはあっていたみたいですね?そのうえこの人が言うには目的まではまだわかっていないようですけど、どう考えても碌でもないことだというのはわかります。
一体何が目的でこんな非道なことをしているのでしょうか…?明らかにやっていいことではないですし、この情報はクオンたちにも伝えるのが良さそうですね。っと、思考を巡らすのはいいですけど、今は情報について聞かないとですね。
「…ちなみに、その組織の名前とか構成員とかはわかっているのですか?」
「全てではないが、大体は確保してきているぞ。組織の名前は『邪命教』といって、まあ簡単に言えば宗教団体だな。そして構成員はおそらく百名近くだとわかっている。加えて幹部と呼ばれているメンバーも三人がいるらしく、一人が【悪逆】、二人目が【堕ちた神官】最後の三人目が【瘴魔】と呼ばれているとのことだ」
…意外とその組織に対しての情報は得ることが出来ているのですね。しかも、こんな邪悪なことをしている組織が宗教団体とは思いませんでした…!
そのうえ二つ名が付いている幹部が三人もいて構成員も百人もいるとは、かなりの規模なのは間違いなさそうです。
なるほど、道理でこの人では解決出来ないわけですか。明らかにその組織の幹部などは強そうな人たちのようですし、ただの暗殺者であるこの人には厳しいのでしょうね。
「…あれ、そういえばその組織のボスは特定出来ているのですか?」
男性からの情報を頭の中で整理していると、ふと気になってことが浮かんできたのでそう聞いてみると、男性は苦々しげな表情を浮かべながらそれに答えてくれました。
「実は、まだそれは知ることが出来ていないんだ。やつらのアジトをいくつか潰してはいるのだが、ボスに関してはメンバーにすら伝えられていないらしくてな。未だに情報はないんだ」
「うーん、それなら仕方ないですね」
末端にはボスのことが伝えられていないのなら、普通にアジトを潰すだけでは難しいのでしょう。
であれば、その組織を本格的に潰すには幹部を捕らえて情報を吐かせ、そこからボスを何とかする、という風に動くのが良さそうですね。
「ああでも、幹部に詳しいやつはここにいるから、そいつから詳しく聞くと良いぞ。今連れてくるから、待っててくれ」
男性から粗方の情報を聞いた私でしたが、男性はふと思い出したようでそう呟いた後、座っていた椅子から立ち上がって暗殺者ギルドの奥へと向かっていきました。
ううむ、その組織の幹部に詳しい人を連れてくるとは言ってましたけど、それを知っているなんて、一体どんな人なのでしょうかね?暗殺者ギルドにいるみたいですし、メンバーの一人……でしょうか。
「連れてきたぞ」
そう思考をしていると、すぐに男性がそんな声と共にこちらへと戻ってきました。
背後に一人の人を連れていますし、あの人が幹部に詳しい人なの……って、あれは…!
「待て待て待て!そいつは敵じゃない!」
私が背後に連れられていた人を目視した途端、即座にインベントリから双銃を取りだしてその人物を撃ち抜こうとすると、鬼人の男性が慌てた様子で私を止めてきました。…なぜ、止めるのですか?その人、いえそいつは悪魔ですよね?
「でも、悪魔ですよ?」
「それはそうなんだが……あー、もう!お前、自分で説明しろ!」
「あはは……わかりました」
その黒い髪に赤い瞳をした女性……悪魔は、男性の言葉に苦笑しながら頷いた後、私へと視線を向けてから喋り出します。
「私は上位悪魔のアルマと申します。私は、敵ではありません」
「…私は、今まで貴方と同じ階級である二体の悪魔と戦ってきました。なので、そう簡単にその言葉を信じることは出来ません」
そう、私が今まで出会ってきた悪魔はどれもが悪き者だったのですから、普通に考えて敵ではないと言われても易々と納得が出来るはずがありません。
この悪魔の女性も私の気持ちが理解出来るからか、苦笑しつつどうしたものかと悩んでいますけど……ここは私が認めるしかなさそうですね。
敵ではないと言っているうえに暗殺者ギルドのメンバーである鬼人の男性も疑っていないのです。なら、私が納得しないと話が出来ないですしね。
「…ひとまずは納得しますけど、裏切ったと思ったら即座にその頭を撃ち抜かせてもらいますからね」
「わかりました。では、話を進めそうなので次に行くとしましょうか」
そう言って女性の悪魔は話を進め出したので、私は一旦武器をインベントリに仕舞ってからその話を聞く姿勢に移ります。
とりあえず、この悪魔は邪命教という組織の幹部について知っているようですし、どうしても警戒はしてしまいますが話はキチンと聞きましょうか。
「私が知っている三人の幹部なのですが、【悪逆】はその名の通り街の中で悪逆の限りを尽くしている、一番組織の中で目立っている人物ですね」
ふむふむ、悪逆の限りを尽くしているということは、ここまでに来るまでに見かけていた住人たちがビクビクしていたのには納得が出来ますね。
その人がいたからこそ、門番さんといい情報を聞かせてもらった住人といい、あそこまで警戒心が強かったのでしょう。
「二人目の【堕ちた神官】については、こちらもその名の通り、この街にある教会から闇に魅了されてしまった神官であり、実験と称して無数のモンスターたちに闇の力を流しこんだりしてますね。そのため、教会の人たち以外に知っている人は少ないはずです」
こちらの幹部に関しては知っている人は少ないみたいですが、やっていることはえげつないみたいですね…?
この人が、この街の外にも現れている闇に染まったモンスターを作っている元凶のようですし、その人を倒せばそれらのモンスターはいなくなるとみて良さそうです。
「そして最後の三人目の【瘴魔】は、私が追い続けている人物であり、私と同じ悪魔でもあります」
…なるほど、その組織には悪魔が関わっていたのですね。まあ協力してくれるらしいアルマさんも悪魔なので、この間には深く悪魔が関係しているとみて間違いなさそうです。
「何故、その悪魔を追い続けているのですか?」
「それは長くなるので簡潔に教えますが、私の両親を殺した相手だからです。それと貴方は知らないかもしれませんけど、本来の悪魔は今の私のように理性的であり、人の害となることをする存在ではないのですよ」
んむ?それは初めて聞きましたが……本来の悪魔は理性的、ですか…?私が今まだに見てきた悪魔はどの個体も人に害を与えるために動いていましたが、本当は違うと言いたいのでしょうか?
「それは、どういうことですか?」
「うーん、上手く伝えるのが難しいですけど……本来の悪魔は天使と同じように神に作られた存在であり、その創造主である神に祈りを捧げて人のために動いている、といえばわかりますか?」
「んー……一応?」
天使という存在には会ったことがないので詳しくはわかりませんが、これを聞く限り悪魔も神による眷属といっても過言ではない存在であり、人のために活動している……ようですね。
ううむ、私が今までに出会った悪魔たちはどれもがそんな崇高な目的があるようには見えませんでしたけど、それらの悪魔は何か理由があって本来の姿から変わってしまっていた、ということですかね?
ですが、それだとふと疑問が生じます。
「アルマさんは悪さをしていた悪魔たちとは違うように見えますけど、それは何故ですか?」
そう、今私の目の前にいるアルマさんは、どう考えても今までの悪魔とは違うように感じます。
何か理由があって変わったのか、はたまた最初からこうだったのか。あるいはいつのまにか変わっていたのかはわかりませんが、こうして会話をしてみると他の悪魔とは違うように思えますし、話をしていても特に邪念なども感じないのですよね。
「それについては至極簡単で、理性のある悪魔だけがいる魔界と呼ばれる街に生まれたからですね。そこには私のような悪魔しかいませんでしたし、それでそう見えるのだと思います」
なるほど、それでアルマさんは私が今までに出会ってきた悪魔と違うようなのですね。
それに魔界と呼ばれる街にはアルマさんのような悪魔しかいないみたいですし、意外と理性を持っている悪魔は普通に存在しているともわかりますね。




