175話 報酬と密林
「すみません、言伝を頼んでもいいですか?」
そうして街に戻り次第、ログアウトをして現実世界で兄様と一緒にお昼ご飯を済ませてきた私は、早速王様に報告をするためにお城に向かいました。
そしてそこの門番さんに王様からの通行書を見せ、言伝を頼みもしました。…なんというか、通行書を見せたのと言伝を伝えたことで緊張した様子でしたので、ちょっとだけすまない気持ちが湧いてきました。…まあ悪いことはしていないので、気にしなくてもいいかもしれませんが。
それよりも今は、王様にしっかりと悪魔の件を報告しないといけません。門番さんの一人はこのことを伝えるためにお城まで向かったので、今は門付近で待機していますし、気まずい雰囲気なので出来れば早めに帰ってきてくれると嬉しいですが…
そんな願いを秘めつつも門の前で立っていた私でしたが、すぐに門番さんが執事らしきお爺様を連れて戻ってきました。執事さんが来たということは、問題なく面会が出来るということでしょうか?
「お待たせしました。早速ご案内致します」
「お願いします」
執事さんはその言葉と共に私を城の中へと招いてくれたので、私はそれに着いていきます。
お城の中は昨日見た時と変わっていないため見ているだけでも楽しくなりますが、この後は大事な話をしなくてはいけないので気を引き締めないとですね…!
執事さんに着いていきながらそのような思考をしていると、いつのまにか目的の部屋の前に着いていました。扉からはどんな部屋からわかりませんが、昨日と同じ応接室でしょうね。
「入れ」
「失礼します」
執事さんがノックをするとそんな言葉が返ってきたので。執事さんは躊躇いなく扉を開けて中に入っていくため私もそれに続いて入りましたが、中は想像とは違った部屋となっていました。
綺麗な木目が目立つ大きな本棚に、同じく木製である温かみのある大きめの机。白色をした暖炉に革製のソファなど、高級そうではありますが実に上品なイメージを持てるものが存在している、いわゆる書斎と呼べる部屋となっていたのです。
そしてその書斎の奥には王様が書類仕事をしているところらしく、今も手早い動きで次々と書類を確認しています。
…今の様子を見た限り、どうやら仕事をしているところに来てしまったみたいですね?
「…よし、レア……だったか。待たせたな」
「いえ、そこまで待っていないので大丈夫ですよ!」
王様の仕事が終わるまでは、執事さんが入れてくれていた紅茶を飲んでいたのでそこまで待たされた感じはしませんし、王様なので忙しいのもわかるため私は特に気にしていませんよ!
「では、悪魔に関しての報告をしますね」
「ああ、頼む」
そして私は、悪魔を見つけた時から討伐するまでの過程を簡潔にまとめて王様へと報告すると、王様は目を閉じて一息ついた後、言葉を返してきました。
「無事に、倒せたのだな」
「はい。なので、もう悪魔の心配は一切しなくても大丈夫です!」
あの悪魔が私とクリア、セレネの三人でも簡単に倒せた原因は、まず間違いなくアルベルトさんのおかげでしょうね。
悪魔は過去にアルベルトさんから与えられていたと思しき傷が完全には癒えていなかったですし、私自身も成長していたためか特に怪我を負ったりもしないで無事に倒すことが出来ましたしね。
「イザベラからも言われていたが、心配は杞憂だったみたいだな」
「まあそう思うのも無理はないとは思いますけどね」
私はその言葉に苦笑しつつもそう返します。王様の口にした通り、私の見た目はこんななりですし心配になってしまうのもわかります。実力は申し分なくても、人はどうしても見た目から判断してしまう生き物でもありますからね。
「だが、感謝はさせてもらおう。王としての立場であるため頭を下げることは出来ないため、済まないな」
「このくらいは別に気にしてないので大丈夫ですよ!」
頭を下げて感謝しろ、なんて気持ちは欠片もありませんし、そこまで申し訳なさそうにしなくてもよいのですけど、王様はどうしてもそう思ってしまうようです。
特に頭を下げられたいとも思っていないので、別にいいんですけどねぇ…?
「では、そろそろ報酬の話に移ろうか」
「報酬、ですか…?」
そんな話は一切聞いていませんでしたが、王様は悪魔討伐のお願いに対して何かをくれるみたいですね?
別に私がしたいからさせてもらったので報酬に関しては特に気にしてませんでしたが、王様的には渡さなければ体面的に悪いみたいですし、受け取ってほしいらしいです。…なら、遠慮なくせずに貰っちゃいますか!
「これが、その報酬だ。受け取ってくれ」
「これは……ブレスレット、でしょうか…?」
そう言って私に渡してきたのは、黒をメインとして銀で装飾をされた細めの腕輪らしきアクセサリーでした。
見た目はかなりオシャレなうえに綺麗なため、私が持っているゴスロリや暗殺者衣装、シスター服に男装装備などの色々な装備とも合う感じがするので、これはとても嬉しいですね…!
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黒転の腕輪 ランク S レア度 固有品
INT+40
DEX+40
MP+20%
耐久度 破壊不可
・黒き魔力 自身の放つ攻撃全てに対象の耐性を無効化する効果を持たせる。
黒魔女が丹精込めて作り上げた漆黒のブレスレット。このブレスレットはとある国の国宝として収められていたが、報酬として一人の少女へと渡されることになった。
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鑑定結果からもかなりの性能を持っているのがわかりますし、強そうな特殊な能力まで付いているので、これはすごいものですね…!ですが、説明には国宝として収められていた、と書かれていますけど……これ、貰っても良いものなのでしょうか…?
「こ、こんな凄いものを貰ったも良いのですか…?」
「もちろんだ。これは正当な報酬なのでな」
う、うーん、そこまで言っているのな、ぜひいただかせてもらいますか…!それにこの装備はアクセサリー系ではなく手の装備らしいので、これからはずっと使うことになるでしょう!
「…では、ありがたくもらいますね!」
「うむ、大切に使ってくれ」
『ユニーククエスト【過ぎ去りし闇の記憶】をクリアしました』
王様からの報酬としてブレスレットを受け取ったタイミングでクエストクリアのシステムメッセージが届いたので、これで今度こそ終わりと見て間違いないようですね。
ふぅ、少しだけこのクエスト中は緊張してしまいましたが、無事にクリアをすることが出来てよかったです…!それに報酬としてこんな素晴らしいものも貰えたのですし、とても良いクエストでしたね!
「あ、あと、今の時間は元銀竜騎士団の皆さんは訓練場にいますかね…?」
「ん、多分いるとは思うが……何か用事か?」
私の問いかけた言葉に王様は不思議そうな顔をしつつもそう聞いてきたので、特に隠すことでもないですし私は素直にそれに対して答えます。
「ちょっとだけ騎士団長であったアルベルトさんのことについて話したいので、会いに行こうと思ったのです」
「ふむ、それでか。おそらくは訓練場にいると思うから、一応気をつけて行くと良い」
「はい!では!」
私は要件も済んだので王様へと挨拶をした後、今いる書斎から外に出て目的地である訓練所まで歩いて向かいます。
昨日は少しだけ話をしましたが、腹を割って話すまでには至っていませんでしたし、この機会にアルベルトさんのこと以外にも話してみたいですね。
「…そうか、団長の仇を討ってくれたのか」
「はい。これでもう、団長さんさんのような人は出ないはずです」
そこから訓練場まで向かった私は、銀竜騎士団の生き残りであるアルトさんを筆頭としたメンバーに対してこの件のことを伝えると、そのように返ってきました。
アルトさんたちは自分たちが慕っていた団長の仇を討ってくれたことによって心の底から嬉しく感じているらしく、全員が私に対して涙を流しながらありがとうと声をかけてきます。
…このような場面を見ると、やはりあそこでアルベルトさんからの願いを受けて敵討ちとして悪魔を倒したのは、アルトさんたちにとっては何よりも嬉しく感じるのでしょう。
加えてこうして対面するのは二度目ですけど、見知った仲でなくともアルトさんたちのような人たちが悲しむ顔は見たくないですし、この件が無事に解決出来て本当によかったです…!
「…俺たちからはありがとうの気持ちしか伝えられないが、改めて言わせてもらうな。本当に、ありがとう」
『ありがとう!』
アルトさんが中心として、元銀竜騎士団のメンバーが声を揃えてそう感謝を伝えられたので、私は思わず顔を赤くして慌ててしまいます。
そ、そんなに深く感謝の気持ちを伝えられると恥ずかしくなってしまいますよ…!?私はただアルベルトさんから頼まれただけですし、私がやりたいと思っただけなのでそこまで"ありがとう"と言わなくてもいいのに…!?
「はは、そんな態度だと団長の仇を討ってくれた人物には見えんぞ?」
「むう、恥ずかしいものは恥ずかしいんですし、仕方ないじゃないですか…!」
アルトさんたちは私の様子を見て、微笑ましそうにしつつもニヤニヤと笑みを浮かべているのを見るに、どうやら揶揄われているみたいですね…?
もう、アルトさんも皆さんもそう揶揄わないでくださいよ…!私はこう見えても大人なんですからっ!
「…よし、ではこの時間はどうしましょうか…」
そうして騎士団のメンバーとその後も少しの間語り合った私は、門を通ってお城から出て街中に向けて歩いています。
あの後に語り合った内容については特に気にかけることもないので割愛しますが、一つだけ気になることを聞きました。
それは、この国に国宝を献上したという黒魔女と呼ばれる人物のことです。私が王様から貰ったこのブレスレットを作った人物であり、このラベラ王国にとって重要な立場にいるらしいと騎士団の人たちが言ってました。
まあそう簡単に合える人物ではないとは思うので頭の片隅に置いておくくらいで良さそうですけど、ユニークアイテムを作れる人物が裏世界のお爺様以外にもいるとは思いませんでしたね。
特殊な住人のようですし、意外とユニークアイテムを作れる人は多いのでしょうか…?…気にしてもわかりませんし、これも置いておきますか。
「それよりも今はこの時間をどうするか、ですね」
今の時刻はまだ一時半くらいなので時間には余裕がありますし……そうですね、前に行こうと思っていた南大陸の港町ルーイ、その東にあるという森の中に存在するらしい呪い人の集落を目指してみますか!
「なら、そこはシスター服を着て行くとしましょうか」
呪い人の長らしきあの女性と会った時はシスター服姿でしたし、あの姿でないと私と判断出来ない可能性もありますしね。
…というか、今更ですけど名前を聞いてませんでしたね?私もシスター様と呼ばれて名前を教えてなかったですし、次に会った時にお互いに自己紹介をするのがいいですね。
「っと、広場に着きましたね。ではまずは港町ルーイまで転移で移動して、シスター服に着替えて東に、ですね」
考えつつも歩いていると気がついたら迷宮都市の広場まで着いていたので、私は早速転移で港町に移動した後、すぐさま装備をシスター服に変えてから満腹度を回復するために片っ端から屋台のご飯を食べつつ、足早に街の東を目指して歩いていきます。
「もぐ……確か、東のエリアの名前は『ブローズ密林』、でしたっけ」
私は屋台で買った魚の塩焼きを食べつつ、そう呟きます。
あの呪い人の長である女性から聞いた限りでは木々が無数に生えている、まさに密林と呼べるほどの森林地帯となっていると聞いていましたが……一体どんなエリアなのでしょうかね。
今までにも複数の森には行っているのでそこまで驚くことはなさそうとは思いますが、密林とつく名前の森は初めてなので少しだけワクワクしてしまいます!
「…これは、確かに密林と呼べそうな規模の森ですね」
そうした思考をしつつも東に広がっていた草原を歩いていた私でしたが、ようやく私の感知範囲に森らしきものが確認出来てきました。しかし、その規模は予想よりもはるかに大きいものだったのです。
今までのどの森よりも深めである、まさに密林と呼べるほど木々が密集しているため少しだけ気後れしてしまいますが、それも無理はありませんよ…!
「…まあ見ているだけでは意味がないですし、早速中に入っていくとしますか!」
手早くそう決めた私は、早速密林の中へと足を踏み入れ、このエリアの攻略へと向かいます。
密林の中は外からも見てわかった通り、かなり木々が密集しているせいで意外にも戦いにくそうであり、目視では敵の発見も難しそうに感じます。
まあ私にはそれらは一切問題がありませんけどね。今の装備では最初から目が使えないので関係ないですし、感知系にしても同じく装備のおかげで強化されています。
さらには、私の戦い方的にはこのような四方に飛び回ることが出来る木々が無数に生えているエリアは相性が良いのもあるので、気をつけるとするなら出てくるモンスターでしょうね。
密林に入ったばかりなのでまだモンスターは発見出来ていませんが、おそらくはモンスターたちも木々を活かして襲ってくるとは思うので。
「ん、早速発見しましたね」
そうして密林の中を歩いて進んでいた私でしたが、このエリア初のモンスターの反応を感じとりました。この体格からして……おそらくは虫でしょうか?
反応を感じたタイミングで即座にインベントリから黒十字剣クルスを手元に取り出した私は、そのままこちらに向かってきている虫らしきモンスターを待っていると、その姿が確認出来ました。
鑑定を出来ないため詳しくはわかりませんが、そのモンスターの見た目は私より二回りくらい小さめのカブトムシでした。
私よりは小さいとはいえ、普通の虫にしてかなりのデカさなので気持ち悪く感じそうですが、カブトムシならまだそこまで忌避感は感じませんね。
「おそらく、頭部に生えている立派な角が一番の武器でしょうし、それに気をつけておきますか」
そう呟きつつも剣を構えた私に対して、カブトムシ型のモンスターはその角をこちらに向かながら突進してきます。
ある程度のスピードはあるようですが、そのくらいでは当たるわけがありませんよ!
カブトムシの突進をギリギリまで引きつけてから、当たる直前に横に半歩ズレつつその軌道に剣を置くと、カブトムシは突進の勢いを殺せなかったようでそのまま身体を剣によって両断され、ポリゴンとなって倒れました。
「よし、上手く倒せましたね!カブトムシのモンスターはこのように戦えば簡単に倒せて楽そうですし、次からはこうしますか」
落とした素材は、甲殻に角、そして黒色をした蜜でした。…何故カブトムシのドロップアイテムに蜜があるのかは謎ですが、おそらくカブトムシが食べていたものなのでしょうかね?
まあ蜜以外には売るくらいしか使い道がなさそうですし、また今度売りに行くことにします。では、この調子でドンドン倒して進んでいきましょう!




