174話 悪魔討伐
「今度こそ、貴方を仕留めさせてもらいますよぉ!」
「行きますよ!クリア、セレネ!」
先程の攻撃を当てることが出来なかったのにも関わらず、それを気にする様子もなくこちらへと迫ってくる悪魔に対して、私はクリアとセレネの協力を受けつつそれに対応します。
まずは〈第一の時〉を付与してから、最初のように分身を出して攻めますか!
「〈第一の時〉!そして〈第七の時〉」
「ふん、分身などこの手で引き裂いてくれますよぉ!」
分身が現れたのを見た瞬間、悪魔はその両手の爪を交差するように構えたと思ったら、そのまま振るってきます。
「〈悪魔の鋭爪〉!」
「「〈第零・第一の時〉!」」
闇のように漆黒色をした爪の攻撃に対して、私は分身と共にノックバック効果を持つ武技を放って相殺しますが、それでもなかなかの威力のようで生まれた衝撃のせいでお互いの距離が空いてしまいました。
距離が空いたのは偶然でしたが、これはチャンスですね!距離が空いたのなら、手数を増やすためにあの武技を使用させてもらいますよ…!
「〈第零・第七の時〉!」
「また幻影ですか?それはもう見ましたよぉ!」
私が再び生み出した無数の幻影と未だに残っている分身は、ただの目眩しです。悪魔も口にしている通りすでに一度見せているため、それで惑わすのは出来ないと思いはしますが、これは一瞬でもいいので気を引くためのものです。なので…
「…〈第八の時〉!」
本来の狙いである、過去にやられたことのある敵を三十秒間生成するという効果を持つ武技を自身に撃ち込むことが見事に成功します。
その武技の効果で私を持ち上げるかのように真下から現れるのは、もちろん深森のアビシルヴァです。
〈第零〉を使い、倒したことのある敵を生成する方で天災の本体を生み出してもよかったのですけど、ここは広いとは地下なので今回は見送りました。流石に生き埋めは嫌なので。
まあこちらでも十分強いですし、三十秒とはいえかなりの手助けにはなるでしょう。
「さあ、いきますよ!」
「ちっ、新手ですか…!」
現に悪魔もそのようにぼやいていますし、悪魔から見ても手強い相手ではあるようです。なら、効果時間も決まっていますしその時間の間に攻めるとしましょうか…!
「シャァ!」
「〈悪魔の黒炎〉!」
私の呼び出した深森による激しい攻撃に対し、悪魔は両手の爪に纏わせた漆黒の炎を操って対応していますが、それでは深森にしか意識が向いてませんよね?なら、隙だらけですよ…!
「隙だらけです!〈スプリットバレット〉!」
「……!」
「キュゥ!」
「ちっ…!」
呼び出した深森の頭の上にいる私たちはその隙を当然見逃さず、悪魔の頭上からそれぞれの攻撃を放ちまくりますが、悪魔はそれらに完璧な対応をするのには至らずに徐々に傷を与えていけてます。
黒炎の纏った爪であらかたは防がれていますが、そうすれば今度は深森からの攻撃が飛んでくるため、戦いづらそうにしているのがわかりますね…!
それに私たちの攻撃も全て捌けていないので徐々に傷が増えていっているため、この調子なら倒せそうではあります。だからといって、油断はしませんが!
「〈第二の時〉!」
「くっ…!またですか!」
そんな中に再び混ぜ込んだ遅延効果持ちの武技は思わず爪で相殺してしまい、効果が発揮したせいで動きの精細さがガクンと落ちます。
そこに深森による尻尾の薙ぎ払いまで受けてはたまらないようで、激しい赤いポリゴンを撒き散らしつつ後方へと吹き飛んでいきます。
しかしそのタイミングで効果時間が切れたらしく、深森の分身体は消えてしまいました。
「…分身体は消えてしまいましたが、なかなかの結果を出せましたね」
やはりワールドモンスターは仲間としてみればかなり強くて助かりますね! 効果時間が短いとはいえ、この短時間で結構なダメージを与えられたでしょうし、ここからは私たちで頑張らないとでいけませんね…!
遅延効果が切れる前に、さらに攻めるとしましょう…!
「〈第七の時〉、〈第一の時〉!」
「ちっ、厄介ですねぇ!」
手始めに分身を再び生み出してから共に加速効果を付与した後、今度はこちらから悪魔に向けて一気に踏み込んでいきます。もちろん、その間でも双銃による攻撃とクリアとセレネによる攻撃も放っていますよ!
悪魔は動きが鈍くなっているせいでそれらの攻撃を捌ききることは出来ないらしく、徐々にダメージが重なっていき、順調にHPを削ることは出来ています。
「この調子でいきたいですが、そう簡単にはいきませんよね…」
悪魔からの反撃の攻撃もフェイントを混ぜた不規則な動きで全てを回避出来ているため、こちらへの被害はほとんどありませんが、当然このままではいけないとは感じます。
それに悪魔のHPはまだ三分の一近くは残っていますし、油断は出来ませんしね…!
「ここまで追い込まれたのは初めてですよぉ!なら、ここからは本気でいきますよぉ!」
「…っ、やはり全力ではありませんでしたか…!クリア、セレネ、ここからはさらに気を引き締めていきますよ!」
「……!」
「キュッ!」
悪魔はその言葉を合図に一度私たちから距離をとり、自身の周りに瘴気を生み出し始めます。ここからは本気でくると言ってましたし、あれは自身の強化に使うのでしょう。
であれば、当然妨害に動きますよね?ここからさらに強化をされてしまえば、今の状態を保つことが出来ずにやられてしまいそうなので、出来る限りは阻止しますよっ!
「〈第三の時〉!」
「……!」
「キュッ!」
私たちはそれを阻止するべく攻撃を放ちましたが、しかし悪魔の周囲に溢れ出していた瘴気が盾となることで防がれ、妨害には至りません。
くっ、瘴気が邪魔ですね…!でも近づくことも危険なので出来ませんし、これは阻止するのは難しそうです…!
「さあ、呼び覚ませ魔の躰よ!〈瘴気の悪魔躰〉!」
そうして悪魔の能力が発動したらしく、周囲に漂っていた瘴気を吸収したと思ったら、悪魔の身体が一回りくらい大きくなったのと同時に先程までよりもかなり強くなっているのを感じとります。
「…すごく、強そうです…!」
これは、かなりヤバそうですね…!瘴気は吸収されたせいなのか消えていますが、明らかに力強さが感じ取れるので攻撃を受けてしまえばそのまま倒されてしまいそうです…!
私がそんな思考をしつつ警戒しながら悪魔を見つめていたのですが、何やら悪魔が不思議そうな表情を浮かばせているのが確認出来ました。
「…強化が低いですね?何故でしょうか?」
悪魔は強化されたはずなのにその強化が弱いと感じているらしく、自身の身体を確認して首を捻っています。
…あ、もしかして【嫉妬の大罪】のスキルである〈嫉妬の眼〉の効果でしょうか?確か効果は、視界内に入れた敵対生物の受けているバフを消す、でしたっけ。
「…なるほど、それのせいですか」
バフを消すと書いてありましたし、おそらくはこれのおかげでしょうね。今までは体感することはありませんでしたが、こうして効果が発揮されるとかなりぶっ壊れなスキルとわかります…!
だとしても、悪魔が強くなっているのには変わりがありませんし、ここは一つ私も自身を強化するためにスキルを使わせてもらいましょうか…!
「〈大罪を背負う者〉!」
【嫉妬の大罪】に内包されているスキルの一つである十分間自身の全ステータスを1.5倍にする〈大罪を背負う者〉を使用すると、それの効果が発揮されることで私の全身に力が漲ります。
効果時間が長いとはいえ、リキャストタイムは二十四時間とこちらも長いので連発は出来ませんし、手早く倒す必要がありますね…!
「おやおや、貴方も強化スキルを持っていたのですねぇ?」
「ここからはさらに全力でいきますよ!ここで倒させてもらいますっ!」
私は両手の双銃を構え、早速とばかりに銃弾を乱射します。そのうえ肩と首元にいるクリアとセレネによる攻撃も加わりますが、弱めの強化とはいえ先程よりかは強いため、それらは全て両手の爪で打ち払われてダメージにはなりませんでした。
「ちっ、そう簡単にはいきませんか…!」
うーむ、やはり強くなっているみたいですね。私自身も強化されていますが、それでも離れた位置からでは有効打に欠けてしまうみたいです。
…それなら、遠距離からではなくある程度近づいて攻撃をするとしますか!ステータスも上がってますし、動きも加速させればあの悪魔相手でもなんとかなるでしょう…!
「いきますよ!〈第一の時〉!」
「む、また加速ですか!」
動きを加速させ、再び悪魔に対して接近しつつクリアたちと共に攻撃を放ちます。が、それでも攻撃を当てることは出来ず、あちらも両手の爪を構えつつこちらに迫ってくるので、私はさらに加速するために〈第零・第十一の時〉を左手の短銃で自身に撃ち込みます。
「まだまだ!〈第六の時〉!」
続けてバフの効果時間を伸ばす武技も同時に使用することで、加速を維持出来るようにしつつ超加速した動きを活かして悪魔へと駆け出し、そのまま悪魔の周囲を〈飛翔する翼〉を使いつつ飛び交いながら二人と共に攻撃を加えていきます。
「ちっ、速いですねぇ!」
流石の悪魔もこれには完璧な対応をすることは出来ないようで、徐々に傷を負っているらしくドンドンHPが削れていってます。そのうえ悪魔からの攻撃も最初よりも動きが速いのにも関わらず、こちらも強化をフルで使っているため被害はありません!
「ふっふっふ、スピードには追いつけていないみたいですね!」
「ふん、鬱陶しいですよぉ!」
やはりこのスピードには着いてこれないみたいですし、ここからはさらに攻めさせてもらいますよ!
「〈第十一の時〉!」
「くっ、足が…!?」
手始めに切り札の一つである足を縫い止める効果を持つ〈第十一の時〉を悪魔に対して撃ち込み、動きを止めます。
「これで終わりではありませんよ!〈バレットフィーバー〉!」
さらにそこへ、高速でステップ移動しつつ銃弾を連射する【双銃】の武技を放ち、さらにダメージを与えていきます。
この武技は〈第一の時〉で加速した状態で使えばそれを維持しつつ攻撃を出来るため、凄まじい速度で悪魔の周りを移動しつつ放てるようで、足を縫い止められているとはいえかなりの勢いで弾丸を命中させることが出来ています。
説明を見ただけで使う機会はありませんでしたが、これはユニークスキルとのシナジーが強いためかなり便利な武技ですね…!これからは、これも使う機会が増えてきそうです!
「足が動くのなら、こんなもの!」
そうして効果時間が過ぎて足が動くようになった悪魔は、湧き上がる怒りをぶつけるかの如く両手の爪を構えながらこちらへの向かってきます。
しかし、そんな感情任せでは動きに精細さが欠けてしまいますよ!
「隙だらけです!〈第七の時〉!」
私は迫ってくる悪魔を見て、分身を生み出す武技を自身に使用することで二手に分かれてから、悪魔に向けて合計4丁の銃による弾丸の雨とクリアたちによる魔法攻撃を放ちます。
「ちっ!やはりそれは厄介ですねぇ!」
これまでの戦闘で何度か見せているとはいえ、これはそう簡単に対応出来るものではないので悪魔は苦々しげな表情を浮かべつつ、両手の爪で必死に捌いています。
見たところ悪魔のHPも残り少ないですし、そろそろ決めにいかせてもらいますか…!
「…なら、ここは手を引かせてもらいますよぉ!」
「む、逃げる気ですか!?」
そう決めて動こうとしたタイミングで、悪魔はなんと背中から黒色の蝙蝠のような翼を生やし、そのままここから逃げようとしました。
HPも残り少なくて分が悪いと思ったのでしょうね。ですが、もちろんここで逃すはずがありませんよ!
「逃しませんよ!〈第零・第十二の時〉!」
私は切り札である、撃った対象の時を三秒止める効果を反転させ、動く時間を十秒狂わせる効果に変えた弾丸を今も逃げようとしている悪魔の背中目掛けて放ちます。
「ぐっ!?動きが…!?」
その武技は私が今も加速した状態であったために躱すことが出来なかったようで、見事に命中してその効果を遺憾無く発揮します。
そしてそれのおかげで悪魔は動きが狂ったようで、不安定な動きで地面に落ちてしまいます。
「ふふ、動きが狂ってますよね?では、トドメをささせてもらいますよ!」
そう言って地面に落ちてきた悪魔の翼を念の為撃ち抜いて飛べなくした後、きっちりとトドメを刺すために悪魔の心臓の位置へと〈第三の時〉を撃ち込みます。
すると、それでHPが削り切れたことによってポリゴンとなっていくので、これでようやく倒せたのだとわかります。
「ふぅ、無事に倒せましたね…」
「……!」
「キュゥ!」
首元と肩にいる二人も、お疲れ様!とでもいうように気持ちを伝えてくれるため、少しだけクスッとしつつも疲れがなくなったかのように感じます。やはり二人は戦闘でも頼りになりますし、可愛くて心も癒されるので大助かりですね!
「クエストクリアの報告はありませんし……王様へ報告に行けば出ますかね?」
なら、悪魔討伐も無事に済みましたし、この辺で街に戻るとしますか。別にここでしないといけないこともないうえに何かがあるわけでもないですしね。
あ、でも今の時刻はすでに十時半くらいですし、ひとまずお昼ご飯を食べてからのほうがよいですね?すでに倒し終わってもいますし、急ぐこともないのでそうしますか。
「ではクリア、セレネ、戻りましょうか」
「……!」
「キュッ!」
二人も問題ないようですね。なら、さっさと街に戻ってログアウトをしちゃいましょう!




