172話 腕前の確認
「着いたぞ。ここが訓練場だ」
「おおー!結構広いのですね!」
そうして王様に着いて行くように歩き続けること数分。まだかな、と思った頃合いにやっと訓練場とやらに到着しました。
今の時刻がおよそ六時くらいなのも相まって、空が顔を見せているその訓練場は少しだけ暗めであるにも関わらず、その広々とした空間には複数の騎士らしき人たちがそれぞれ訓練をしている、まさに名前の通りの場所となっていました。
訓練場というのをこの目で見るのは初めてですが、イメージと違わない雰囲気を感じさせてきているので、ちょっとだけ興奮してしまいますね!
騎士団の人たちはここに集まっている人たちが全てではないでしょうけど、結構な人数がいるみたいなので僅かに威圧されてしまいます…!
騎士団の皆さんはどの人も身長が高めであり、一番小さい人でも私より頭一つは大きいため、少しだけしょんぼりしてしまうのは仕方ないですよね…?
というか、アルベルトさんの記憶を見た時のように小さめである少年などはこの騎士団にはいないのでしょうか?…いや、今の時刻がすでに遅くなっているからですね。
流石に夜遅くまで訓練をさせられているわけもないはずですし、これは的外れな予想ではないとは思いますが…
「…!陛下、何か御用ですか?」
そんな中で一人の男性がこちらを見ていた王様と私たちを見つけたようで、訓練を一度止めてそのような言葉と共に王様の元へと向かっていきました。
「遅くにすまぬな。少しばかり、この者の実力を見させてもらうためここにきた」
「それは、そちらのお嬢さん……ですか?」
「うむ」
王様の言葉を聞いた男性は見定めるかのような視線を私に向けてくるので、それを受けつつも私は前に出て、ここにきた目的を話し出します。
「実は、銀竜騎士団の団長さんからある願いを頼まれて、それをこなすために王様に実力を見せることになったのです」
「銀竜騎士団の団長、だと!?」
私がそう口にすると、話半分に聞いていた様子だった一人の男性がそんな声をあげつつ私の元へと向かってきました。
…何やら怒りのような後悔のような、具体的にはわかりませんがそのような感情が入り混じった表情を浮かばせていますが、一体なんでしょうか…?
それに表情が少しだけ怖くて威圧されてしまいますし、私に対して何かあるのですか…?
「お前、団長と会ったのか!?」
…なるほど、アルベルトさんについて聞きたかったようですね。それなら、私が見たアルベルトさんの最期についても簡単に説明するとしますか。
なんだかこの人はアルベルトさんのことを知っているように見えますし、責められるかもしれませんが素直に答えるとしましょう。
「…お前が、団長を倒したのか」
「…はい。責めるのなら、どうぞ」
あの森で私が見たことを全て伝え終わり、私は覚悟を決めてそう口にします。
が、今の話を聞いた男性といつのまにか周りにいた騎士団のメンバーたちは誰一人として私を責めようとすることもなく、その顔に少しの安堵と僅かな後悔を浮かばせながら返事を返してきます。
「…確かに、団長を倒したのには責めたくもなる。だが、団長はアンデッドになっていたのだし、それを倒したのを責める気にはならんさ。それに、団長は最期まで誇り高い騎士だったのだろう?」
「そうですね。私に願いを託すほどには、立派な騎士の姿でした」
「なら、俺たちからは何も言わないさ」
そう言ってぎこちない様子ではありますが笑みを返してくれたので、私は少しだけ安心してしまいました。
ふぅ、責められるかもと思ってましたが、やはり大人だからなのか怒られることもなかったのでよかったです!
というか、今気づきましたけど、この人ってアルベルトさんの記憶を見た時に出ていた少年ではないですかね?明らかに少年ではありませんが、あの過去があってからすでに数十年は経っているみたいなので、成長して大人になった、ということでしょうか。
「話は済んだか?」
そうした会話をしていると、自然と空気になっていた王様からそのように声をかけてかけられたため、私たちは慌ててそれに反応を返します。
は、話に夢中になっていて王様のことを忘れていました…!流石に放置してしまうのはやばかったですけど、王様はそこまで気にしていない様子なので助かりましたね…!普通なら、怒られても仕方ないことですし…!
「あ、申し訳ありません!それで、この子の腕前の確認でしたっけ?」
「ああ。とりあえず、黒金騎士団の団長が相手になってくれ」
「団長が、ですか…?」
王様の言葉を聞いても、ここにいる騎士団の人たちはそれでは相手にならないのでは?といった表情を浮かべています。
この様子を見るに、その団長さんは結果な実力があるのでしょうね。だから王様の言葉を聞いてもそう簡単にはいそうですと返せないのでしょう。
「メルト、いるな?」
「はっ、ここにいます」
「では、この者の相手をしてもらうぞ。もちろん、全力で構わない」
「……かしこまりました」
その言葉を聞いた騎士団長である魔人の男性、メルトさんは若干不満そうにしつつも私を連れて訓練場の真ん中へと向かいます。
あ、もちろんこの戦闘時にはそばにいるクリアとセレネは一旦イザベラさんに頼んで預かってもらっていますよ。流石に実力を見るためなので二人の力を使ってはダメですしね。
まあそれはいいとして、相手は騎士団長ということですし、どのくらいの強さなのですかね?イザベラさんはアルベルトさんよりかは強くはないと思うと言ってましたけど、油断は禁物ですね。
「…貴様、この私に勝てるとでも思っているのか?」
特に緊張も気を張ってもいない私を見て、やはり不服そうな様子でそう声をかけてきたので、私は首を傾げた後にそれに答えます。
「別に舐めているというわけではありませんよ?ただ、こういった対面には慣れているだけです」
「…ふん、ならば、その余裕そうな表情を驚愕に変えてみせよう」
おっと、なんだかメルトさんに嫌われている感じがしますね?私的には普段通りにしているだけなのですけど、それが余裕げに見えるようで不愉快と思われているみたいです。
加えて、こんな小さなお子様である私に全力を出せ、という王様の指示を聞いたのも関係してそうではありますね。確かに見た目からは弱く見えるのかもしれませんけど、ちょっとだけムカッとしてしまいます。…なら、ここは実力をしっかりと証明するべく初手から全力でいきましょう!
「では……始め!」
お互いに準備が済んだのを確認したタイミングで、王様から指示を受けた騎士団のメンバーの一人が模擬戦の開始の合図を出します。
「〈第一の時〉!」
開始の合図と共に私は左手の短銃で自身のこめかみを撃ち、動きを加速させた後にそのスピードを活かしてメルトさんへと両手の双銃で弾丸を乱射しながら近づいていきます。
「ふん、そんなものは効かぬ!」
メルトさんはその素早い動きを見て僅かに驚いた様子ではありましたが、左手に持っていたカイトシールドと呼べる見た目の盾を掲げることで無数に飛ばしていた弾丸を全て防がれてしまいます。
むう、やはり盾のような硬くて貫通出来ないものではあまりダメージを与えるのは厳しいようですね。
なら、ここは私の自慢であるスピードを活かして戦うとしましょうか!
「〈第零・第七の時〉!」
「む、増えた…?」
私は続けて無数の幻影を生み出す武技を自身に撃ち込み、その幻影たちに紛れる形で両手の双銃で弾丸を次々と放っていきます。
「ちっ!面倒な!」
メルトさんはどうやら範囲攻撃には乏しいようで、無数の幻影をなんとか捌いてはいますが、どうしても手数が足りないらしく幻影に紛れて弾丸を放っている私の攻撃には上手く対処が出来てません。
まあ私がこれまでに相手をしてきたのはワールドモンスターなんですし、ただの騎士団長であるメルトさんには対応するのは難しいのでしょうね。
ですが、油断はしません。ここで畳み掛けさせてもらうため、さらに加速させていきますっ!
「〈第二の時〉!」
「くっ、今度は動きが…!」
私の放った動きを遅くされる武技は幻影に紛れる形で撃ったおかげでしっかりと命中し、その効果を発揮させます。
よし、少しの間とはいえ動きが鈍くなりました!では、ここで決めるべく動きますよ!
「いきますよ!〈第零・第十一の時〉!」
〈第一の時〉に続いて〈第零・第十一の時〉も同時に使用することで超加速した動きで一気にメルトさんの背後へと回り込み、ガラ空きのその頭へと右手の長銃を突きつけます。
これで決着はつきましたよね?ここから私に対して対応なんて出来ないですし、動きも遅くなっているため私の勝ちですよね!
「…降参だ」
「よし、私の勝ちですね!」
メルトさんも無駄な抵抗をせずに降参を申し出てくれたので、これで終わりと見てよさそうです。
…前にも思いましたが、この加速させる武技はとても強力ですね。これはワールドモンスター相手でも通用しましたし、相変わらず強力なユニークスキルなので獲得出来てよかったとしみじみと思います。
「お疲れ様、レアちゃん」
「……!」
「キュッ!」
「イザベラさん、二人を預かっててもらってありがとうございました!」
そして模擬戦が終わり、私は早速イザベラさんの元へと向かって二人を受け取って再び首元と肩に乗せます。
二人もすごいね!とでも言うように興奮した感情を伝えてくれるので、私はありがとうとして優しく二人の頭をなでなでして気持ちを伝えます。ふふ、二人も楽しげにしてますし、ちょっとだけ嬉しくなっちゃいます!
「…イザベラの言う通り、実力は申し分なかったようだな」
「これで、私が引き受けるのを納得してくれましたか?」
「うむ、これだけの腕前を見せられたのだ。否定する事は出来んからな。ならば、申し訳ないが頼ませてもらうとしよう」
よし、王様も二言はないようでしっかりと頷いてくれましたし、これでアルベルトさんから託されたあのユニーククエストは進めても良さそうですね!
ですが、今の時刻はすでに遅いため本格的に始めるのは明日のほうが良いかもしれませんね?
「では、今日はもう遅いので明日にでも早速行ってこようと思います!」
「了解した。すまないが頼むな」
なら、そろそろログアウトをしないといけないのでこの辺で去るとしましょうか。
先程の男性……おそらくはアルトさんである銀竜騎士団の生き残りらしきメンバーたちとも会話をしたいですけど、それはこのクエストが終わってからにします。
「ここに来る時は門番にこれを渡すと良い。そうすれば通らせてもらえるようになるのでな」
「ありがとうございます!では、また会いましょう!」
王様から通行書らしきものを受け取った私は、そのまま皆さんに別れの挨拶を済ませてお城から街へと歩いていきます。道は一応覚えているのだ迷う事はありませんが、結構な広さがあるため時間がかかってしまいました。
まあ七時前ではあるので大丈夫だとは思いますけど、ログアウトしたらすぐにご飯の用意をしないとですね…
「…とりあえず、ユニーククエストは明日にするとして、今の時間はどうしましょうか…」
そうして私はすぐさまログアウトをして現実世界に戻り、手早く作った夜ご飯を兄様と一緒にリビングで食べてお風呂や洗濯なども終わらせてから、再びゲーム世界へとログインしてきました。
何をするかを決めかねていますが、流石にこんな暗い中で森を歩いて悪魔討伐に行くはずがありませんし、この微妙な時間をどうするかを悩んでしまいますが…
「…よし、今の時間は今まで集めてきた素材でポーションでも作りますか」
エリア攻略ではなく生産なら時間も関係ないので、これにしますか!ひとまず、生産をするために職人ギルドへ行って個室を借りないとですね。




