168話 新たな図書館
「…おや、いらっしゃい」
クリアとセレネを連れて図書館と思しき建物の中に入るなり、正面にあったカウンターの奥側に座っている深い青色の髪と瞳が特徴的な大人の女性がそのように声をかけてきました。
ここは精霊都市なんですし、この女性も精霊だとは思うのですけど……精霊王であるルルリシアさん以外に大人の姿をしている人と会うのは初めてですね?ここに来るまでの道中でも大人の姿の人は見かけることもなかったですし。
「貴方は……確かニーナが連れてきていた異邦人、でしたっけ?」
「あれ、知っているのですか?」
「もちろんですよ。なんせワールドモンスターの一角を倒した人なんですし、この都市ではおそらく皆が知ってますよ」
なんと、すでにそこまで有名なのですか…!?…確かに、ここに来るまでにはたくさんの精霊の人たちから声をかけられましたし、納得です。
それに称号のおかげもあるかもしれませんが、ここまで噂話が広まっているのならこの女性を筆頭に皆が知っているのも無理はありませんね。
「それで、今話題沸騰中の貴方は何しにきたのですか?」
おっと、何をしにきたかを聞かれましたが、特に用事があってきたわけではないのですよね…?ここにきたのはルルリシアさんから勧められたからなので、それを素直に言うのが良さそうですね。
何となくこの女性からは敵意というほどではないですけど、警戒心のようなものを持たれている気もするので!
「私はルルリシアさんからここを勧められたので寄らせてもらったのです」
「……!」
「キュッ!」
私の言葉に合わせるようにそばにいる二人もそのように女性に対して反応を見せますが、女性はそれを聞いたからなのか僅かに警戒心のようなものが収まります。
多分、ルルリシアさんからの紹介とわかったからでしょうね。やはり素直に言っておくのが正解でした!
「そうでしたか。では、私が案内させてもらいますね」
「いいんですか?」
「はい。精霊王様からの紹介とあれば、ここを知り尽くしている私の出番ですからね」
「…なら、お願いします!」
この女性はここを知り尽くしているとのことですし、これはありがたいですね…!私とクリア、セレネの三人だけではどこに何があるかなども一切知りませんし、案内をしてくれればしっかりと見て回れることでしょう!
「それでは早速行きましょうか」
「わかりました!」
「……!」
「キュッ!」
私たちは女性の掛け声にそう反応を返した後、カウンターから出てきて歩き出した女性に着いていきます。さて、ここの図書館にはどんなものが置いてあるのでしょうか…!
「ここが、この図書館内の本が置いてある場所です」
案内をしてくれている青髪の女性、ニクスさんはそのように無数の本が置かれている場所へと案内してくれました。
外装を見た時にも感じましたが、大きさはそこまでではないようで置かれている本はソロさんの図書館などと比べれば少なめではあります。
ですが、大きさが違うだけで本の重要さなどはお互いにしっかりとありますし、どっちが優れているとかではないですけどね。
それはさておき、私はニクスさんに一度声をかけた後、試しにそこに置いてあった一冊の本を手に取って中を見てみると、そこに書かれていた文字は【言語学】スキルを持っている私でも読むことが出来ませんでした。
うーむ、この本に書かれている文字はそれとはまた別の言語、ということなのでしょうね。前にソロさんから聞いたことのある神代言語では流石にないと思いますが、この言語は何なのでしょうか…?
「レアさんは、【精霊言語学】スキルを持っていないのですか?」
私が浮かべていた微妙な表情を見てニクスさんはそのように問いかけてきましたが、その言葉に意識が持っていかれます。
【精霊言語学】……つまり、精霊たちの使う言語ということですか。それなら私が知らないのも無理はありませんね。
「この本に書かれている文字は【精霊言語学】というものなんですね。確かに、私はそれを持っていません」
「それなら、私がお教えしましょうか?」
おや、精霊の言語を教えてくれるのですか?もしニクスさんが良いのなら、教えてもらいたいですね…!
その言語学スキルがなければここに置いてある本は一切読めなさそうですし、これはいい機会なので推しててもらうことにしましょう!
「ぜひお願いします!」
「ふふ、わかりました。では、教本となるものを持ってくるので、少しだけ待っていてください」
そう言って一旦本を取りに行ったニクスさんを尻目に、私は近くに置いてあったテーブル席へと座ります。
うーむ、新たな言語である【精霊言語学】スキルを獲得するべく今から教わりますが、どのくらいで獲得出来るでしょうか?
現在の時刻はまだ二時くらいなので時間には余裕がありますが、出来るだけ早く手に入れることが出来るとよいですね。
「クリアとセレネも、つまらないかもしれませんが、ごめんなさいね?」
「……!」
「キュゥ!」
しかし、二人は特に気にしていない様子で大丈夫!とでもいいたげに気持ちを伝えてくるので、少しだけ安心しました。
せっかく一緒にいるのに構えませんが、二人からすればこのように一緒にいるだけでも楽しみみたいです。
「レアさん、お待たせしました」
そうして待つこと数分で、すぐにニクスさんが多数の本を手にこちらへと戻ってきました。
あの本たちが教本の代わりのようですし、しっかりとスキルとして獲得出来るように頑張りますか!
『【精霊言語学】スキルを獲得しました』
「ん、スキルを獲得出来ました!」
あれから数十分近くかけてニクスさんから精霊言語を教わっていたのですが、そのようなシステムメッセージが届くのと同時に、先程までは詳しくわからなかった本の文字がある程度読めるようになりました!
「おや、もう獲得出来たのですね?」
流石のニクスさんもその早さに驚いたようで、その顔に驚きを浮かばせています。
多分、この世界の住人とは違って異邦人、つまりプレイヤーということなので簡単にスキルを獲得出来るのでしょう。
これがこのゲームの特徴でもありますし、私たちからしてみれば普通に感じますけど、やはり住人の方々からすればかなり早熟のように見えるのですかね?
まあ何はともあれ、無事に言語スキルを獲得が出来たのでこれで教わるのは終わりですね!
「ニクスさん、教えていただきありがとうございました!」
「いえいえ、このくらいは気にしないでください」
ニクスさんもこの少しの間で私に対して気を許してくれたようで、最初に出会った時と比べるととても柔らかな雰囲気を醸し出しています。
やっぱり、仲良くなるには会話などをするのが一番です!
「では、これで私の役目なくなったので、カウンターに戻ってますね」
「わかりました。私もちょうどいいので、この辺で行くことにしますね!」
ニクスさんはその言葉と共にこのテーブル席から離れていくので、私もそれに続くように歩いていき、そのままニクスさんに別れを告げた後に図書館をで出ていきます。
「ひとまず精霊都市の散策はしましたし、今日はこの辺で戻るとしますか」
「……!」
「キュッ!」
クリアとセレネもいいみたいですし、そろそろ元の場所に戻るとします。戻り方は聞いてませんけど、多分ここに来た時と同じように手鏡を使えば戻れますよね?
「…お、戻れましたね」
インベントリから取り出した手鏡を使い、問題なく元の場所である南大陸の港町へと戻ってこれた私たちでしたが、戻ってきた私は考えます。
うーん、ワールドモンスターの討伐をしたいですけど、情報も集まっていないのでそう簡単に会うことは出来ないですよね。
であれば、とりあえずクリアとセレネの二人を連れて新たなエリア攻略でもしましょうか。行き先は、クオンや兄様の手が進んでいないはずのノルワルド黒森です!
「…よし、では行きますよ、クリア、セレネ!」
「……!」
「キュゥ!」
そう目的を決めた私は二人を連れて迷宮都市まで転移で向かい、早速ノルワルド黒森の攻略を目指して歩いていきます。
あの森はまだ攻略されているとは聞いてませんし、この機会に攻略を完了出来るとよいですね!そうしたら、初めての攻略者が私になるので少しだけ興奮します!
「よーし、張り切っていきますよ!二人ともっ!」
「……!!」
「キュッ!」
そしてノルワルド黒森の入り口付近まで何事もなく到着した私たちは、そのまま森の中へと足を踏み入れていきます。
確か出てくるモンスターは、前に兄様たちと来た時にも見た黒色をした複数の獣や虫、そしてコボルトの群れでしたっけ。
他にも出るのかもしれませんが、今のところ把握しているのはそのくらいですし、今の私たちなら苦戦することはないとは思うので、多分三人だけでも問題はないはずですね。
そのような思考をしつつも森の中を進んでいき、出てくるモンスターたちを危なげな様子もなく片っ端から倒しながら薬草等も採取しつつ進んでいた私たちでしたが、ふと私の鼻が腐った肉のような不快な匂いを感じとりました。
「…この匂い、何でしょうか?」
「……?」
「キュゥ…?」
ここまで不快な匂いがしては流石にクリアとセレネも不快なようで、その顔?に嫌ような表情を浮かべています。…クリアに関しては顔などがないので何となく伝わってくる気持ちではありますが。
まあそれはさておき、その匂いは徐々にこちらへと近づいてきてますし、反応からしてもモンスターではあるはずです。なら、ここで待つことにしますか。
「…まさかの、ゾンビでしたか」
「……!」
「キュゥ…!」
そうして近づいてくる匂いの元であるモンスターが見えてきたのですが、そのモンスターの正体は全身が腐り落ちている人間……つまり、ゾンビ型のモンスターたちだったのです。
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ゾンビ ランク F
墓地や不浄が集まる場所に生まれるモンスター。
その身体からは腐った肉のような匂いが漂い、高い生命力を持って生きている者を襲う。
状態:正常
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鑑定結果からもそのようにわかりますが……墓地などは近くにあるはずがないですし、この森には不浄とやらが集まっているのでしょうか?
何にせよ、このまま放置してもあれなのでサクッと倒しちゃいますか。生命力が高いとは書いてありますけど、ホラーゲームと同じように頭を撃ち抜けば倒せますよね?
「うーむ、この世界では初めて見ましたが、別に強くはないのですね…」
私は先程まで対面していたゾンビの群れをすべて倒し尽くした後、思わずそのように声を漏らします。
動きも遅かったのでユニークスキルを使うほどでもなく、その場からクリアとセレネと共に頭狙いで攻撃を繰り返しているだけで、全てが片付いてしまいました。
いえ、別に倒すのがダメというわけではありませんが、それでも弱すぎたため少しだけ拍子抜けだったのですよね。苦戦がしたいわけでもないですけど、もう少し歯応えがあるモンスターがよかったです。
「…まあ先に進めばもっと歯ごたえのあるモンスターは出てくるでしょうし、それを期待しますか」
「……!」
「キュゥ!」
気を取り直し、私はクリアとセレネを連れて再びこの森の中を進んでいきます。今のようにゾンビの群れが出てくるということは、ここからはアンデッド系のモンスターも増えてくる感じもするので、一応警戒はしておきますか。
「…何だか、モンスターの気配が感じなくなりましたね」
「……?」
「キュゥ?」
そしてそこからも遭遇した人型だけではなく獣や虫などの見た目をした無数のゾンビやスケルトンを倒しつつ、時折出てくるアンデッド以外のモンスターも倒しながら先程と同様に薬草や木の実などを確保しながら進むこと、数時間。
その道中ではセーフティーゾーンを見つけたくらいで何かが起きることもなかったのですが、ふと気がついた時にはすでに森の中が静まり返っているところでした。
ゲームの中とはいえ、普通なら何らかの音がするはずなのにそれも一切なく、明らかに不自然な雰囲気です。
「…これは、間違いなく何かがおきますね」
私の今での経験がそう囁いています。加えて【第六感】スキルにも反応が表れているので、この静まり返った森に何かがあるのは間違いないはずですね。
そんな静寂に包まれた森の中をクリアとセレネと共に警戒しながら歩いていた私でしたが、突如殺気のようなものが私に向けて放たれることで意識が先頭に移ります。
殺気感じた方向へと視線を向けると、そこにはこの森の中に相応しいくらいの漆黒色をした身長180cmはありそうなほどに大きいフルプレートアーマーを着けた人物が立っていました。
その人物の着けている鎧はまさに暗黒騎士とでも呼べそうな漆黒色でゴツメの見た目をしており、少しだけカッコよく見えてしまいます。
しかし、何故そんな騎士様である人が私に向けて殺気を放ってくるのでしょうか?
「騎士様、どうしたのですか?」
疑問に思ったので私がそのように問いかけてみたのですが、その騎士様は何も言葉を発することもなく、突如腰に吊るしていた同じく漆黒色をした片手剣を抜き放ち、そのまま私へと切り掛かってきました。
「ちょっ…!?」
いきなり切り掛かってくるとは思ってもいなかったので、少しだけ回避が遅れてしまい騎士様の片手剣が私の身体を僅かに掠めてしまい、ほんの少しではありますがダメージを受けてしまいました。
…この騎士様、もしかして本当の騎士ではなく何らかのモンスターなのでしょうか?だとするなら、一切言葉を発しないのも、殺気を向けてくるのも、こんなところにいるのも納得ではありますが……とりあえず、鑑定ですね。
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無想の騎士アルベルト ランク D
とある騎士の無念の思いが鎧に宿ることで生まれたリビングアーマー型のモンスター。
その願いを胸に秘め、彼は動き続ける。
状態:不浄
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