167話 合体魔法と宝石
「…よし、今日は何をしましょうか…」
あれから兄様と一緒に悠斗の作ってくれていたお昼ご飯を食べ、風邪も治ってきたので大丈夫だと思い、午後からは再びゲーム世界へとログインしてきました。
今すぐにやらないといけないことは特にありませんが……前からやろうと思っていた狙撃銃の確認と宝石の売買、そしてセレネとクリアによる合体魔法の確認をまずはしておきますか。
「では、最初は狙撃銃の確認からですね」
今私がいるのは南大陸の港町ルーイであるのでプレイヤーの影は一人も見かけないため、確認をするのにはもってこいだとは思いますし、この街の外で試すとしましょうか。
それと、装備も今着ているシスター服からゴスロリに変えるのも忘れずに。
私はそう決め、着けていた装備を即座に変えて早速今いる港町から外に出るべく歩き出します。
確か、この港町の東にはジャングルが広がっているとはあの呪い人の長である女性から聞いていますし、違うところがよいですよね。
銃ならばある程度は慣れているとはいえ、流石に森の中でいきなり試すのには向きませんし、他のエリアが良いはずです。
「…なら、とりあえず南に行ってみますか」
東以外のエリアに関しては一切知りませんが、南にも森が広がっている事はないはずです。
何故なら、この南大陸は北に海があったのです。だとすると、南に続くように大地が広がっているはずですし、どこもかしこも森とは感じないのもあるので。
「…やはり、南は森ではないみたいですね」
そんな私による予想は見事に当たり、港町の南には森が広がることはなく、広大な荒地が広がっていました。
荒地は前に職人都市の西で見たのとあまり違いはないようで、その中で違いがあるとすればあちらよりも高低差が大きめなくらいでしょうか。
加えて荒地が街のそばまで広がっているとはいえ、まだ街の付近だからかモンスターの影も発見出来ませんし、まずは見つけるのが必要ですね。
「…お、発見しましたね。では、早速試すとしましょうか」
そうして『ローグルド岩石帯』という名前らしき荒地を進んでいると、他よりも少しだけ大きめな丘に登った私の視界の先にモンスターらしき灰色の毛並みをしたハイエナを見つけました。
なので私は早速インベントリから狙撃銃を取り出しますが、やはりかなりの重さのようで私では立ちながら撃つことは難しそうです。
やはり、前に思った通り伏せの姿勢で使うしかありませんね。幸いなことに、私が今いるこの丘のポイントと見つけたモンスターとの距離はかなり離れているためバレていないので、試すのにはもってこいです!
「狙いを定めて……ふっ!」
私はすぐさま伏せの姿勢に入り、そこから狙撃銃を構えてトリガーを引くのと同時に銃声が響き、放った弾丸が狙いのモンスターへと飛んでいき……見事にその頭を撃ち抜きます。
「…よし、やはり狙撃銃自自体は問題ないですね。それに攻撃力もなかなかです」
鑑定でも見たのですけど、私の想像以上に火力が高くて少しだけ驚いてしまいますが、これは逆にありがたいですね。
狙撃銃ということなのでバレないうちに敵を倒すのがとても大事ですし、この武器の火力はなかなかのもののためいい貰い物でしたね!
まあ他のゲームで慣れていなければそう簡単には使えなかったかもしれませんが、私はこういった銃系統の武器には慣れているので問題はありません。
「…もう少しだけ、これを試しておきましょうか」
久しぶりに狙撃銃の撃った感触を受けてちょっとだけ興奮してしまいますが……もう少しだけ続けてましょう!まだ一発分しか試してませんし、もっとこの狙撃銃の確認ももっとしたいですしね!
それにこれは私にとってはかなり嬉しい分類の武器なのもあるので、存分に楽しんでから次に移るとします!
「…そろそろ、次にいかないとですね」
あれから荒地内を徘徊していき、丘などの高所から見かけたモンスターたちを片っ端から狙撃銃で撃ち抜いて倒していましたが、そろそろ次に移らないと時間が勿体無いですね。
狙撃銃の確認と楽しむのは存分に堪能しましたし、次はクリアとセレネと合体魔法の確認はしてみるとします。
ここなら周りに一切プレイヤーもいないので落ち着いて確認などを済ませることが出来るので、場所としても絶好のポイントでもありますしね。
「クリア、セレネ、来てください」
早速とばかりに二人に向けて声をかけると、すぐさま私の首元と肩付近へと現れた二人でしたが、今いる場所がモンスターの出てくるエリアとわかっているのか、ほんのりと周りを警戒しています。
二人を呼んだのは久しぶりですけど、そこまで気にしている様子でもないですね?最近はあまり呼ぶことがなかったので、これからは少しでもいいので呼ぶようにしますか。そうでないと、流石に可哀想ですしね。
っと、それはいいとして、今はやるべきことをしないとですね。
「クリア、セレネ、二人に見せてもらいたいものがあるのですけど、いいですか?」
「……!」
「キュゥ!」
どうやら二人も問題はないらしく、いいよ!とでも言うように感情を伝えてきます。なら、早速要件を伝えるとしますか!
私が今確認したいことは二人による合体魔法と思われる魔法についてなので、本人である二人からしっかりと聞かないとです…!
「二人に見せてほしいのは、深森と戦った時に使っていた魔法なんですけど……大丈夫ですか?」
「……!」
「キュッ!」
私の言葉を聞いた二人は早速見せてくれるようで、私の首元と肩から離れて地面へと降り立ちます。…セレネは空中に浮かんでいる状態ですけど、そこは気にしないこととしますが。
そして二人はあの時と同じように何やら魔力を練り始めており、私の【魔力感知】スキルに反応が現れてきますが、その魔力の強さはあの魔法の規模にしては小さめのように感じます…?
私はそう思ってしまっていましたが、二人が同時に放った二つの魔法同士が合わさることで、先程までよりもはるかに魔力の反応が強くなり、激しい風を纏った竜巻が私たちから少しだけ離れた地点に出現し、暴れ出します。
…なるほど、私が仮称として名付けていた合体魔法ですけど、それの名前の通りのようですね。
合体魔法、つまり魔法同士を組み合わせて更なる力を引き出す技術のようで、それのおかげで最初に感じた魔力に比べて高い効果が引き出されていたみたいです。
だとすると、二人はどこでその技術を知ったのでしょうか?私ですら二人が使ったのを見たのが初めてですし、明らかに特殊なものとは感じますけど…
「二人は、その技術をどこで知ったのですか?」
なので、私は思い切って二人へとそのように問いかけてみましたが、二人はお互いに視線を交差させた後、わかる範囲で教えてくれました。
それを聞く限りでは、なんとセレネの持つ【叡智の魔導】によってセレネのみではありますがそれを知っていたらしく、深森との戦闘時でクリアによる魔法に合わせる形でセレネ主体でその現象を発生させていたみたいです。
ふむふむ、【叡智の魔導】の確認は特にしてませんでしたけど、そのような知識をセレネは持っていたのですか。その名前に偽りなく、魔法の極みのようなスキルだったのですね…
だとしたら、この技術は間違いなく貴重なものですし、しっかりと覚えておくことにしますか!私もまだ低いとはいえ【闇魔法】のスキルを持ってますし、活用することはありそうですしね!
…まあそう簡単に出来るものではないらしく、クリアとセレネの相性が抜群に良かったからここまで簡単に出来たようですけど。
「とりあえず、合体魔法の確認はこれで済みましたし、次はたくさん確保した宝石の売買に行きましょうか。クリアとセレネも一緒に行きますか?」
「……!」
「キュッ!」
私のかけた言葉に、二人はもちろん!とでも言うように感情を伝えてきたので、それに少しだけクスッとしつつも二人をいつもの定位置に連れて港町へと戻るべく歩き出します。
最近は触れ合うことが少なかったですし、こうして時々交流をしておかないとですね!私自身も二人のことは大好きなので、楽しくも感じるので!
「こ、これはまた見事な宝石ですね…!」
港町ルーイにもあった商業ギルドへと宝石を売るために寄った私たちでしたが、そこで見せた赤色の宝石に鑑定をした職員さんがそのような声をあげて驚いています。
どうも、レアです。今は深森の分身体を倒した時に宝箱に入っていた宝石を売るためにギルドへと寄ったのですけど、手始めに見せた一つの宝石だけでも何やら驚愕の表情を浮かべているのですよね。
…私のインベントリ内には同じくらいなのがおよそ三十個くらいありますが、これはどうしましょうか…?一つだけでここまでの反応をされるのなら、流石に同等のを全部出しては職員さんがひっくり返りそうですよね。
「これは、どこで?」
まるで国宝でも触るかの如き丁寧さで宝石を鑑定していた職員さんでしたが、やはりそれの所在が知りたいようでそのように問いかけてきました。
ですが、それを伝えることは出来ないのですよね。何故なら、これは深森の分身体を倒した時に獲得したものですし、それのありかを知られても私にもわかりませんもん。
「すみません、それは伝えることは出来ませんね」
「…それもそうですね。では、こちらは買取でよろしいのですか?」
職員さんも深くは追求するつもりはないようだったので、助かりました。まあ追求されても答えれることがなくては無駄ではありますが。
それと買取で良いかとも聞かれましたし、これは売っちゃうことにします。別に私自身は宝石を使う機会が一切ありませんし、こういう時に売ってお金にする方がいいのもありますしね。
あと、残りの宝石に関しては今は売らずにインベントリに仕舞っておくことにして、もしもの時にお金に変えることにしておきます。今すぐにお金が必要でもないので。
「それでお願いします」
「わかりました。では、値段ですが……100,000Gでどうでしょうか?」
おおう、かなりの金額になるのですね…?ということは、全てが同じ金額となった場合……ざっと3,000,000Gということですか。まあ今売るのは一つだけですけど、一つだけでもこのくらい高く売れるとするならお金に困ることはなさそうと感じますね。
今のところお金が必要な場面は現れていませんし、今までに貯めてきたお金も十分あるので必要になる時までしっかりと貯めておきましょうか!
「大丈夫です」
「かしこまりました」
そして無事に一つだけとはいえ宝石を売ることが終わり、ついでに魔物素材も買い取ってもらってお金に変えました。
魔物素材の値段はおよそ30,0000Gだったので、やはり宝石の値段の高さが際立ちますね。
「よし、余分なアイテムを売り払うのも済みましたし、次はどうしましょうか」
「……!」
「キュゥ!」
先程までは空気だったクリアとセレネを連れて商業ギルドを出た私でしたが、次の目的をどうするかを悩んでしまいます。
ひとまずやっておきたいことも完了しているので急ぎの要件はありませんし……そうですね、久しぶりにクリアとセレネを呼んだんです。なら、二人とさらに交友を深めるついでに精霊都市の散策でもしてみましょうか!まだあそこの散策はしっかりとしてませんし、ちょうどいいですしね!
精霊都市にはニーナちゃんから貰った手鏡で向かえますし、早速行きましょう!
「…相変わらず、ここは自然豊かで綺麗ですね」
そうして私と二人はすぐさま手鏡を通して精霊都市までやってきましたが、やはり何度見てもこの都市は森のような神秘さを秘めつつも温かみのある街並みで見惚れてしまいますね!
クリアとセレネは二度目ではありますけど、それでも私と同様に周りを楽しげに観察しています。セレネからしてみれば、森の中は見慣れている感じがしますが、クリアも今までに私と森などを攻略してきているので慣れているのでしょう。
「とりあえず、目的地も決めずにぶらぶらしてみましょうか!」
「……!」
「キュゥ!」
クリアとセレネも私の言葉に賛成のようで、そのように反応を返してきました。よーし、あまり見慣れない街並みなんですし、早速探検と行きましょう!
「ここ、ですかね?」
あれから三人で精霊都市を練り歩いていたのですが、その途中で私が来ているのが知られたらしく、わざわざ精霊王であるルルリシアさんが会いにきたのですよね。
そしてそのタイミングで、この都市に来たのならととある施設を勧められたので早速そこに向かい、ちょうど目の前に着いたところなのです。
ちなみに、優しげなお兄さんといった見た目ではありますが、ワールドモンスターであるルルリシアさんともいつかは本気の戦闘をする日が来るとは思います。ですが、今はまだその時ではないのでお互いにその話題には触れてません。
近い将来に対面するとはひしひしと感じますけど、私的にはルルリシアさんは私たちへ優しくしてくれているので戦いたくはないですね。
まあ自身が討伐されることがルルリシアさんの願いらしいので、それは避けることが出来ないとは思いますし、覚悟はしておかないとです。
っと、そんな未来のことは一旦置いといて、今は目の前に存在するこれについてですね。
「見た感じ、図書館……ですかね?」
「……?」
「キュッ…?」
大きさに関してはそこまでではなく、だいたいカフェくらいに見えますが、何となく建物の形からは図書館が連想されるのですよね。
私のそばにいる二人も同じように首を傾げており、その反応に思わず微笑ましくなってしまいますが、とりあえず入ってみることにしますか。
いつまでもここで立ち尽くしていては時間がもったいないですしね。




