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166話 不運

「こ、こんな良い物をもらってもよいのですか…?」


 私は思わず悠斗にそう返してしまいましたが、それも無理はありません。何故なら、そのネックレスはとても高そうに見えるうえに悠斗からの突然のプレゼントだったからなのです。


 誕生日でもないのにこのようなすごいアクセサリーを貰うなんて、流石に遠慮してしまいますよ…!


「ああ、これは俺からのプレゼントなんだ。是非受け取ってくれないか?」


 …女性にネックレスを贈る意味を悠斗は知らないのでしょうね。悠斗はただ私への贈り物として、このアクセサリーが相応しいと思ったのだとは思います。


 …なら、是非とも受け取らせてもらいたいです…!私はアクセサリーなどはつけたことが一切ないですが、悠斗からの贈り物なんです。だとすれば、これからは使わせて貰いますか!


「本当にいいのですか?」

「ああ」

「…では、是非ともいただかせてもらいます!」


 私はネックレスの入ったケースをそのまま受け取り、早速そのケースを開けてネックレスを着けようとしてみます。


「あ、着けるな」

「お願いしてもいいですか?」


 すると悠斗が私の代わりとしてネックレスを着けてくれるみたいなので、私は髪を一旦あげて首を差し出します。


 うーん、一人では着けるのは難しそうなので慣れないとですね。


「うん、やはり似合うな」

「そうですか?ありがとうございます!」


 どうやらこのネックレスは悠斗の目には私によく似合ってるいるように見えるらしく、そのように褒めてくれました。


 今までアクセサリーを着けることは一切ありませんでしたが、悠斗からのプレゼントとしてネックレスをいただいたのです。なら、これからは使わせてもらいますか!


 私自身とても見た目がオシャレなため気に入りましたしね!あ、ついでにショッピングモールで買ったお財布も悠斗へのお返し兼誕生日プレゼントとして今渡しちゃいましょうか!この機会を逃しはしませんよ…!


「私からも、お返し兼誕生日プレゼントとしてこれを送らせてください!」

「これは……財布か?」


 悠斗は私が差し出した黒色の財布を受け取ってマジマジと見ていますが、気に入ってくれるでしょうか…?


「うん、色も好きな色だし、シンプルでかっこいいな!美幸、ありがとう!」


 そんな悠斗の様子を見てちょっとだけ不安になっていた私でしたが、悠斗はどうや気に入ったようで丁寧に自身の鞄へと財布を仕舞い、私へと言葉を返してきました。


 ふぅ、いらないと言われる事はないとは思っていましたが、きちんと返してくれたその言葉を聞いてホッとしました…!


 頑張って選んだんですし、気に入ってくれているののらこちらとしても嬉しいです!


 …やっぱり、私は悠斗の喜ぶ顔が一番大好きみたいですね。私のイタズラに思わず苦笑している時も、真剣そうに戦っている時も、そして楽しげにゲームをしている時も、全部全部、私は大好きです。


「…悠斗」

「ん、なんだ?」

「少しでいいので、目を閉じて屈んでもらえませんか?」

「…?まあいいが…」


 私が発した真剣そうな声に、悠斗はわずかに不思議そうにしつつも私の言葉に従って目を閉じて屈んでくれます。


 …よし、美幸、今ですよ!恋人になれたとはいえ、まだまだなんです!今こそ、私のこの思いをぶつけるんです!


「…ん」


 私は悠斗に顔を近づけて、そのまま自身の口を悠斗の口へとそっと重ねる、いわゆる口付けというものをしてしまいます。


 私は熱に浮かされるかのようにフラフラとしつつも、顔を赤くしつつ悠斗から離れます。…なんだか、いつもの私よりも欲望に忠実になっている気がしますが、それもすぐに消えてしまいます。


「み、美幸…!?」


 目を閉じていた悠斗も、流石にキスをされたのには激しく動揺しているらしく、思わずといった様子で私へと視線と言葉を返してきました。


 が、理由は定かではありませんが、今の私にはそれを気にする余裕が湧いてきません。なんとなく、熱っぽくも感じてしまって目がトロンとしてしまいます…?


「…まさか、風邪でも引いたのか…?なら、早く家に送らなくては…!」


 そのように決めたらしい悠斗は、そのまま私の手を引いて家まで送ってくれたようでしたが、私は手を引かれるままに着いていってたのでそれを考える余裕がありませんでした。




「ん……あたま、痛い…」


 そうして悠斗に連れられて家まで帰ってきた私でしたが、私の様子を見て心配になった悠斗に私の部屋まで連れられて、ベッドに寝かされることでいつのまにか眠ってしまいました。


 そして気づいたら今の時刻は午前の九時であり、すでに次の日である月曜日となっていました。


 起きてすぐに記憶を思い出すことが出来ましたが、おそらくあの帰り道の間で熱が出たせいであのような行動を取ってしまったのでしょう。


「〜〜!私ったら、何をやっているのですか…!っ、頭がガンガンします…」


 今、昨日の帰り道のことを思い返しているところなのですが、あんなことをするなんて何をしているんですか、私…!


 ま、まさかキスまでするとは……それほどまでに、私は悠斗への感情を秘めていたのでしょうね。だとしてもいきなり口を重ねるとは、普通はダメですよ…!?


 私はベッドの上で悶えていましたが、襲いかかってくる頭痛を受け、動きを止めます。…とりあえず、服を着替えるとしますか。今は昨日のデート服のままで寝てしまいましたし、シワが大変なことになっていますしね。


「美幸、具合は…」

「……え?」


 そう考えた私は早速ベッドから降り、着替えをするべく服をに手をかけて脱いでいると、そのタイミングでちょうどよく、私からすれば運悪く部屋の扉が開かれました。


 その扉の先には、悠斗が湯気の出ているお椀を乗せたトレイを持って立ち尽くしており、その顔を赤くしながらも私の身体を頭のてっぺんから足の先にと見つめてきています。


「ーーキャアアア!?」

「わ、悪い…!?」


 私は思わず自分の身体を隠して悲鳴をあげてしまいますが、それも当然のことです。


 悠斗は私の悲鳴を聞いた瞬間、即座に部屋の扉を閉めたので私の視界からすぐに消えましたが、私は顔を真っ赤にしつつ身体を硬直させてしまっています。


 き、着替えているところを見られてしまいました…!?裸ではなく下着姿ではありますけど、それでも恥ずかしすぎて顔が真っ赤になってしまいますよ…!?


「うぅ、ノックくらいしてくださいよぉ…」


 私はそう愚痴をこぼしてしまいますが、仕方ないじゃないですか!


 部屋に入るのならノックをする。これはやってほしいのですから…!そうでないと今みたいなことが起きてしまいますし、少しは気をつけてほしいです…!


「…とりあえず、また来る前に着替えちゃいましょうか」


 未だに顔を真っ赤にしていた私でしたが、私の家に悠斗が来ているようなので、そちらに向かうために途中だった着替えを済ませ、リビングへと降りていきます。


 すると、リビングには悠斗と兄様が向かい合って座っており、何やら怒りのような感情を兄様から感じます。


 …今はどんな状況なのでしょうか?兄様が悠斗に対して怒っているようにも見えますが、これは一体…?


「む、美幸か。もう大丈夫なのか?」

「はい、まだ頭が痛いですけど、他は問題ありません。それよりも、この状況はどういうことですか?」


 兄様から心配するような言葉をかけられた私は素直にそう答えた後、そのように聞いてみると、悠斗が視線を逸らし、兄様がそんな悠斗に厳しい視線を送りながら答えてくれました。


「悠斗が美幸の着替えているところを見たらしいから、それを責めていたところだ」

「わ、悪気はなかったんだ。美幸も、すまん」


 …なるほど、それでこんな状態になっているのですね。確かに着替えを見られた事はとても恥ずかしくて責めたくもなりますが、別にそこまで気にしてはいないのですけどね。


 まあ次からはやめてほしいという気持ちはありますけど、悠斗はわざとやったようにも感じませんし、部屋の鍵を閉めてなかった私にも責任はありそうなのでそのくらいで止めるように言っておきますか!


「兄様、私はそこまで気にしていないので、悠斗をそんなに責めないでください」

「そうか?美幸がいいのなら、俺は何も言わんが」


 私の言葉を聞いた悠斗は明らかにホッとしているみたいですし、やはり見てしまったのは気にしていたのでしょう。


 ひとまず今回は許しますが、次からは気をつけてくださいね!


「そういえば、悠斗は何故ここにいるのですか?」


 そんな中、ふと気になったそのことを悠斗と兄様に向けて聞いてみると、それはな、と言って教えてくれました。


「昨日美幸が悠斗に連れられて帰ってきただろ?それで熱があったから、その間のお世話として俺がお願いしてたんだ」

「加えてご飯とかは美幸しか作れないし、その代わりとして俺が来たというわけだ。それに美幸からも願いをされたんだが……覚えてないか?」


 …私、そんなことを頼んでいたのですか?昨日は帰り道の時から意識が朦朧としてましたし、全く覚えていませんでした…!


 ですが、それを聞いて納得もします。昨日の夜ご飯は作り置きをしていたのでなんとかなったみたいですけど、今日のご飯の支度は未だに頭痛がして難しそうなので、申し訳ないですけど悠斗に頼むことになりそうですね?


「そうだったのですね。では、先程部屋へと持ってきていたものもそれ関係ですか?」

「あ、そういやそれを忘れていたな。そうだ、おかゆを作ったから、食べないかと思ってな。…まあ結局はあんなことになってしまったが」


 そ、それはちょっとだけ申し訳ないことをしましたね…?あの湯気の立っていたお椀はそれだったみたいですし、着替えている場面に遭遇したのはやはり偶然だったみたいです。


 しかし、それを思い出したらお腹が空いてきましたね…!昨日の夜ご飯はすぐに寝てしまったので食べてないので、ぺこぺこです!


「なら、それを食べさせてもらってもよいでしょうか?」

「もちろん構わないぞ。じゃあ美幸の容態も把握出来たし、俺はこの辺で帰るな」

「わかりました!わざわざありがとうございます」

「おう、またな」


 そう言って悠斗は用事も済んだらしくさっさと帰ってしまいましたが、私は玄関でそれを見送った後に悠斗の作ってくれたらしいおかゆをリビングのテーブルに着いてから食べ始めます。


 うんうん、悠斗は簡単なものとはいえ料理がキチンと出来るので、普通に美味しいですね。こうしてわざわざ家までの来て作ってくれるなんて、本当にいい人ですよね!


 改めて、恋人になることが出来てよかったと感じます!もし悠斗が風邪などを引いた場合は、今度はこちらがお世話することとしましょう!助け合いは大事ですしね!


「…悠斗も帰っていったし、俺もこの辺で部屋に戻っているな」

「ん、わかりました!」


 どうやら兄様も私のことが心配でここで待機していたみたいですし、要件が済んだので戻るみたいです。


 まあそこまで心配するほど高熱でもないので兄様の心配は杞憂ですが、それでもその気持ちはありがたくてポカポカします!


「何かあれば遠慮なくせずに呼んでくれていいからな」

「了解です!私はもう少しだけ部屋で寝ていようと思うので、またお昼に会いましょうね!」


 わかった、と言って兄様はリビングから自分の部屋へと向かうのを私は見送り、話しているうちに食べ終わっていたお粥の入っていたお椀を片付け、兄様のように私も自分の部屋へと向かいます。


 熱っぽくはないのである適度は治っているとは思いますが、少しだけ頭痛が残っているので無理はせず休むことにします。


 とりあえず、またお昼に!




「ん……今は…もう十一時ですか」


 そうして部屋でぐっすりと休んでいた私は、ふと目が覚めたことで起きました。


 寝ている間に無事に熱は引いたようで、今はもう頭痛も風邪っぽさもありません。…一応熱は測っておきますけど、結果は平熱だったのでキチンと完治したと思われますね!


「んー…よし、悠斗の用意してくれたお昼ご飯を食べに降りますか!」


 熱が問題なく引いたからかお腹が少しだけ空いており、私は機嫌良さそうに鼻歌を歌いつつリビングへと向かうと、そこにはすでに兄様が作り置きのご飯を温めているところでした。


 おや、今日は珍しく兄様が早めに降りてきていたみたいですね?多分、私のことを未だに心配しているかららでしょうか。そこまで心配しなくても、ただの風邪なんですし大丈夫なのですけどね。


「お、美幸か。調子はどうだ?」

「もうバッチリですよ!」


 現に私が降りてくるまでソワソワしていたみたいですし、この予想は多分正解でしょうね。もう、心配してくれるのはありがたいですけど、少しは妹離れ出来るようにしてはどうですか?


 兄様は誰が見てもイケメンとわかるほどのカッコよさなので恋人なんかは簡単に作れそうですが、今までに作っているところは見たことがないのですよね。


 なので、女性の好みについても私もあまり把握していないのです。今はもう兄様に寄ってくる人も何故か少ないので、何かをしているのだとは思いますが…


「美幸、用意が出来たぞ」

「あ、わかりました!」


 おっと、思考を巡らせているうちに用意が終わっていたみたいです。こんなところで突っ立ってないで、さっさと椅子に座ってご飯を食べないとですね!


 兄様の女性の好みは今考えてもわからないですし、別に私がとやかく言うものでもないですしね!

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