159話 PV
「迫害されていた種族、ですか…」
「まあすでにかなり昔のことになりますし、今はそのようなことは一切ないみたいですがね」
やっぱりそうですよね?今まで見てきた街や国ではそのような場面は一切見ていませんし、少しだけ不思議に思ってしまいましたけど、それは昔のことだったからみたいです。
それに今はこの世界の住人ではないプレイヤーがたくさんいますし、それでわざわざ差別することがなくなったのでしょう。
プレイヤーはどこにでも現れますし、種族もバラバラなので手間がかかるからな感じもしますけど。
「私も今の世界を色々と見てきましたが、そのようなことはすでにないので、少しは警戒を弱めてほしいのですが…」
「差別された過去がある人たちにとっては、それは難しそうですね…」
「そうなんですよね。この世界ならそのようなことはないので警戒はないのですが、外に対しては、ね…」
この街には人間の種族が一人も見つけられていませんし、それの影響もあるとは思いますが、それでもおじさまは少しは外にも興味を持ってほしいという思っているようで、強化されている私の感覚がそれをハッキリと感じとります。
うーん、流石にその問題については私では何も出来なさそうですし、見守るしかないのでしょうか…?
「っと、お嬢さんに愚痴をぶつけてしまいましたね。すみません」
「いえ、私もこの問題については少しだけ心配に感じてたので、大丈夫ですよ。それよりも、私にも何か手伝えることはありますか?」
少しだけすまなそうにしているおじさまに向けて、私はそう言葉を発します。
今のところ良い策は思いつきませんが、それでもこの裏世界の問題については私も心配になってしまっています。
なら、私に出来ることならそのお手伝いはさせてほしいです!まあ出来ることがあれば、ですけどね…
「……なら、この裏世界での問題解決に手を貸していただけないでしょうか?これ以上は、私の手では解決出来そうになさそうなので」
「任せてください!それで、どうしましょうか?」
この裏世界は差別された過去がある人たちにとっての楽園。ですが、それはつまり外との交流がない、いわゆる鎖国状態と言っても過言ではありません。
ならば、それを解決するには種族が人間の人を複数招き、今の世界にはすでに差別などは存在しないと伝えるのが良さそうと私は思います。
その考えをおじさまへと伝えてみると、おじさまは少し考えた後にそれが良さそうですね、と返してきました。
しかし、もうすでに時間も遅いのでまた明日にしましょうとも言われたので腰元の懐中時計を確認すると、いつのまにか九時を超えているところでした。
ちょっと散策が長かったようで、もう遅い時間になっていたみたいですね?明日のお昼には悠斗と兄様を加えた三人でPVを見る予定でしたし、その後の午後に再びここに来させてもらうことにしますか。
「では、また明日の……そうですね、午後くらいに来ます!」
「わかりました。では、待っていますね」
私は一度おじさまに許可をもらい、このお店の中でログアウトすることで世界から一時的に消えます。次にログインするときはここに来れますし、これならすぐに行動に移れるでしょう!
そうしてあの後は現実世界に戻り次第ストレッチを済ませて就寝としましたが、そこから時間は経って今は土曜日の朝七時です。
「んー…よし、起きますか」
寝るのは少し遅かったですけど、起きるのが遅れずにいつも通りの時間に起きましたね。では、まずは朝の支度を済ませるとしましょうか。
私はいつものストレッチを手早く終わらせた後に服を着替えてリビングに降りていき、その他諸々も全て終わらせましたが、その間にも兄様は降りてきませんでした。
「…やっぱり、兄様はゲームに夢中なのでしょうね」
別にゲームをするのはいいですけど、休みとはいえ起きる時間くらいは早くしてほしいですね。
まあそれはいいとして、悠斗が来るまでは部屋で勉強でもして時間を潰すとしましょうか。宿題はもうほとんど残ってませんし、今日中には終わるでしょう。
それから宿題をテキパキと進めていた私でしたが、ちょうど宿題が片付いたタイミングで家のチャイムの音が聞こえてきました。
どうやら、ちょうど悠斗が来たようです。勉強も終わらすことが出来たので、タイミングがバッチリですね!
「…では、玄関に向かいますか」
使っていた勉強道具をパパッと片付け、私はすぐに二階にある自分の部屋から降り、玄関まで向かいます。
「悠斗、暑い中お疲れ様です」
「美幸か。まあ家も近いからこれくらいは平気さ」
「そうですか。では立ち話もなんですし、どうぞ?」
玄関を開けると、そこには当然のことの如く悠斗がいたので、早速家の中に招き入れます。
悠斗は平気とは言ってますが、玄関を開けただけでも外の暑さが感じれたのでやはりまだ暑いみたいですね。なら、お茶でも出しますか。PVはまだ出てないはずなので、その間はお茶を飲みつつのんびりと…!
「そうだ、美幸。今日の午後の予定は決まっているのか?」
悠斗を連れてリビングへと向かった私でしたが、そのタイミングで悠斗からそのように聞かれたので、私は少しだけ考えます。
午後はおじさまと裏世界の問題の解決に動くため、予定は決まっていますね。
そこでは人間の種族を連れてきたいので、悠斗がいいのなら連れて行きたいですけど……あの世界の住人ではないプレイヤーはやめた方が良さそうですかね。プレイヤーでは問題や解決にはならなそうですし。なら、午後は一人でやることになるので予定は決まっていますね。
「すみません、私はちょっとやることがあるので、予定は空いてませんね」
「そうか。じゃあまた今度でいいから、俺とその……デートに行かないか?」
「……!ぜひ行きたいですっ!」
今日はすでに予定が入っているので無理ですけど、悠斗と一緒にデートを出来るのはすごく嬉しいので、ぜひとも行きたいですね!
わ、私たちは恋人なんですし、このくらいは普通ですよね?なら、デートをするのも当然のことです!今回は悠斗から誘われましたし、しっかりと予定を空けとかなくては…!多分、明日なら大丈夫でしょう!
「明日の予定はないと思うので、よければ明日でもいいですかっ!?」
「はは、構わないぞ。じゃあそうしようか」
ふふ、悠斗とのデートなんて恋人になれてからは初めてなので、これは明日が恋しくなってしまいます!今日は暖かくして風邪とかにかからないように気をつけておきましょうっ!
「…お、悠斗、来てたんだな」
「あ、玲二さん。お邪魔してます」
そこからもゲームや現実世界の話題などの他愛無い会話をしていた私たちでしたが、ふとリビングへと降りてきたらしい兄様の声が聞こえてきました。
兄様は先程までゲームをしていたのでしょうけど、公式からPVが出てくる前には降りてこれたみたいです。
なら、ここからは兄様も混ぜて待つことにしますか!
「…美幸、そろそろ出るはずだ」
「もうですか。では、用意するとしましょうか」
それからゲーム内の話や現実世界での話題など、色々と談笑をしていた私たちでしたが、不意にあげた兄様の声を聞き、私は早速パソコンをリビングへと持ってくるために椅子から立ち上がって行動に移ります。
今日のPVは、確か第二回イベントのものらしいですし、どんな感じで作られているのでしょうか。あのイベントでは邪神の眷属らしき敵も出てきてたので、それがメインかもしれませんね。
まあなんにせよ、PVということなのでどう編集されているかはワクワクですね!
っと、思考があっちこっちにいってしまいました。とりあえず、パソコンを持って二人の元へ戻りますか。
「兄様、悠人、パソコン持ってきました!」
そんな思考を一旦止め、私はリビングへとパソコンを持ってきてそのままテーブルの上に置きます。その間では兄様と悠斗は何やら会話をしていたらしいですけど、何を喋っていたのでしょうか?
別にダメというわけではないですが、少しだけ気になってしまいます…!
「よし、じゃあ早速見るとするか」
「あ、そうですね。では…」
おっと、それはいいとして見なくてはですね。
私は悠斗の言葉を聞き、パソコンを操作して公式の出しているMSOの動画を探していきます。
動画は……ありましたね!第二回イベントのやつですし、これで合っているはずです!
「では再生しますよ!」
「わかった」
「頼む」
私はワクワクした気持ちを出しつつも、パソコンを操作して動画の再生を始めます。
動画を再生してまず初めに映ったのは、森の中を歩いて散策しているプレイヤーたちの映像でした。
「ここ、俺たちは食料に困ってたんだよな…」
「俺たちの場合はムニルがいたから困らなかったが、ここは結構難所ですよね」
兄様とは違って悠斗は特に困ったことはなかったようでしたし、やはり生産プレイヤーは大事というのが改めてわかりますよね。
ん、私たちですか?私たちの場合は食材は簡単に集まれていましたし、プロには負けますが私も料理かできたので困ることは一切なかったですよ。
まあこれについてはそれぞれのプレイヤーのスキル構成が大事になってきてましたし、私と似たようなスキルの人ならあまり困ることはなかったとは思いますが。
「む、今度は邪悪なる欠片との戦闘か」
動画を見ていた兄様がそう口にした通り、森の散策よ場面から飛び、今度は私たちも戦った邪悪なる欠片との戦闘シーンが映りました。
あ、私も出ましたね。私の場合は一人のところでしたし、これも当然かもしれませんね?
それに兄様も巨大なスケルトンみたいなのと戦っていますし、悠斗やルベルさんなども混じって戦った植物系のモンスターも映っていますしね。
それと私の調べた南の石碑に関してはモンスターが出てこなかったのでカットされているみたいですが、他の戦闘はこのイベントでの目玉なので映されているのでしょう。
「あ、最後の戦いが映りましたね!」
「あれは強かったよなぁ…」
「美幸がいなければ、あれよりも苦戦は間違いなかっただろうな」
最後の盛り上がりの場面であるからか、私たちプレイヤー全員と邪神の眷属との戦闘シーンがダイジェストの如く映され続けていき、私が止めを差したタイミングで最後の打ち上げの場面に動画が切り替わりました。
いやぁ、あの眷属の男性もそうでしたが、やはり強敵が相手だと皆の力を揃えて戦わないと結構大変でしたよねぇ。ワールドモンスターの天災もそうでしたし、もう少し仲間を集めることも視野に入れた方が良いでしょうか?
でも、すでにトップのプレイヤーの皆さんとはフレンドになっていますし、これについては急ぎでなくても良いですね。
「あ、終わったみたいだな」
私がそのような思考をしていると、いつのまにか打ち上げの場面からタイトル画面へと動画が切り替わっており、終わったのがわかりました。
やはりPVというだけはあって、ゲームの魅力やストーリー性を感じれて面白かったですね!それに改めて見るとクスッとくる場面もありましたし、このような動画は定期的にあげてくれると嬉しいです!
「よし、じゃあ動画も終わったし、俺はそろそろ行くかな」
「あ、それならまたご飯でも食べていきませんか?私たちもまだだったので!」
悠斗は椅子から立ち上がってそう言葉にしたので、私はご飯に誘ってみました。前にも一緒に食べたことがありますし、時間もちょうどいいですしね!
「…そうだな、ならご馳走になってもいいか?」
「もちろん大丈夫ですよ!では、早速作ってきますね!」
悠斗も一緒に食べるようなので、早速調理に移るとしますか!今日は結構暑いですし、何かサッパリしたものがよいですね。なら、冷製パスタというものを作るとしましょうか!それならスルッと食べれるでしょう!
「今の時刻は……二時くらいですか」
あれからはパパッと作ったパスタを三人で食べ、その後はすぐに悠斗が帰ってしまいましたが、私もそのタイミングでなくなりそうだった食材の買い物をするために家を出て、近くのお店まで向かいました。
そして買い物からも無事に帰ってこれたので、食材たちを冷蔵庫に仕舞った後は再びゲーム世界へとログインしてきたというわけです。
「場所は前にログアウトした場所であるおじさまのお店の中ですが、おじさまはいないみたいですね?」
なら、今から街中を歩くのもアレですし、ここで待っていますか。おじさまには午後には来ると言ってたのでそこまで待つことはないでしょう。
「おや、お嬢さん、来てたのですね。待たせてしまって申し訳ありません」
「いえ、私もさっき来たばかりですから大丈夫ですよ」
今の装備はシスター服のままだったため、強化された感覚でおじさまが来るのがわかっていたのですぐにおじさまの言葉に返事を返します。
おじさまがここに来るのは遅れてましたが、それでも数分くらいなので全然待ったとはいいませんし、私が早かっただけなのでそこまで気にしなくても良いのですけどね。
「では、早速問題解決のために動いてもらってもいいですか?」
「もちろんです。とりあえず、元の世界にいる種族が人間の人でも連れてこれば良いですかね?」
「そうですね、それが良いでしょう。連れてくる人数が多くても大変ですし、大体二人から三人くらいでお願いします」
「わかりました!」
私がおじさまの言葉を聞いて早速行動に移ろうとすると、おじさまは少しだけ慌てた様子でそういえばと疑問をぶつけてきました。
「お嬢さんはどうやってこの裏世界に来たのですか?それが偶然の場合は簡単には連れてこれなさそうですが…」
「ああ、それでしたか。それは元の世界の街中に空間の狭間が出来ていて、そこに入ったらここに来たのですよ」
改めて考えると、あそこに空間の狭間があったのは何故なのでしょうね?別に中であるこの裏世界が危険というわけではなかったので問題となることはありませんでしたが、少しだけ疑問が生じますし。
「ふむ、空間の狭間でここに……なら、それを通ってはすぐにこれなさそうですし、これを渡しておきますね」
「これは…?」
おじさまがそう言って渡してきたのは、何やら仄かな青い光を発している銀色のブローチのようなものでした。
これは一体なんでしょうか?今の状況で渡してくるということは、何か特殊な物のように感じますけど…
「それは、私のいるこのお店、その裏に転移でこられるアイテムです。試作段階のアイテムのため一度しか使えませんが、それなら裏世界の人たちにバレずにここへこれるでしょう」
ふむ、転移アイテムですか。今まではそのようなアイテムを見たことがありませんでしたが、これは凄まじく貴重な物ではないでしょうか…?
しかも試作段階のアイテムとも言ってますし、これはおじさまが作ったアイテムだとはわかります。私の武器もそうでしたが、よくこんなすごい物を作れますね…?もしかして、このおじさまも特別な人物だったり…?
っと、今それについて気にしてもわからないですし、さっさと行動に移らないとですね。とりあえず、このアイテムはありがたく受け取るとしましょうか!
「ありがとうございます!」
「いえ、このくらいは大丈夫ですよ。では、元の世界へと繋げるので、その扉を開ければすでに元の世界の街中ですから、その後はそれを使ってここに戻って来てください」
「はい!では行ってきます!」
私はおじさまに見送られながらお店の扉を開き、外に出ていきます。
種族が人間かつこの世界の住人を二人から三人連れてくるということですし、とりあえずソロさんやシスターであるリンネさんとかが良さそうですかね?なら、まずは教会へと向かうとしましょう!
『ユニーククエスト【裏世界との絆】が発生しました』




