156話 魚の群れ
『【釣り】スキルを獲得しました』
「さて、このくらいかな?」
そうしてしばらくの間皆で談笑をしつつ釣りをしていたのですが、釣った魚を入れていたバケツが良い具合に一杯になったようで、ソフィアさんが釣竿を引き上げてそう言葉を発します。
海の魚というだけはあって、まるまると太った美味しそうな魚たちを釣ることが出来ましたね!
しかも、あの後は無心でやったおかげか私の釣り竿にも魚が食いついたので、釣ることが出来たのですよ!…アリスさんたちと比べれば小さめですけどね。
ま、まあそれは気にしないでおきましょう!気にしていては私の心がしょんぼりとしてしまうので…!
「結構釣れたけど、これはどうするの?」
「そうですね……なら、捌いて今食べちゃいますか?」
そりゃあもちろんプロと比べれば杜撰ですが、それでも魚くらいなら捌くのは私にも出来ます。
それを伝えてから今ここで食べるかも皆さんに向けて聞いてみると、皆さんも食べたいようなので、早速調理にかかるとしましょうか!まずは捌くのからですね!
「釣れた魚は……見た感じ鯵、ですかね?」
見た目は現実世界でもいる鯵のようにも感じるので、食べられるとは思いますが念の為鑑定と〈食材の目〉で確認をしてみますか。これで見れば、食べても大丈夫かはっきりとわかるかも知れませんしね。
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黒筋アジ ランク F レア度 一般品 品質 B
海に生息している鯵のモンスター。その身には脂が乗っていて大変美味。モンスターなため、寄生虫などは存在しない。
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やはり鯵なので食べれるようですし、同様に海の魚なため川魚よりかは危険もないようです。それに鑑定結果にも書いてある通り寄生虫もいないようなので、やはり最初に考えた通り刺身にして食べてみますか。
ついでに他の魚たちも鑑定をして見ましたが、どうやらどの魚も危険はなさそうです。では、早速捌いていきましょうか!
「んー!美味しいね!」
「脂が乗っているのです!」
「ふーん、美味しいわね」
「レアは料理上手ね?」
「ふふ、ありがとうございます!」
そこからすぐに様々な魚たちを捌いて刺身へと加工し、ついでにインベントリに入れていた醤油も一緒に出して私たちは刺身を食べているところです。
ちなみに、この船は交易船なためキッチンなどはないので甲板で捌いたり食べたりをやっているので、周りからは少しだけ注目が集まっています。…まあこれくらいなら気にしなくてもいいとは思いますけど。
それと捌くのはちょっとだけ失敗しましたが、それでも無事に食べることは出来たのでよしとしますか。それに加えて皆さんが口にしている通り、この刺身はとても美味しくてつい食べ過ぎてしまいそうです…!
アリスさんたちも美味しいようで頬を緩ませているので、これは成功とみて良いですね!
「お嬢さん方、楽しんでいるところすまない」
皆で刺身を摘みながら他愛ない会話をしていると、なにやら少しだけ焦った様子の船長さんが声をかけてきました。
…何かあったのでしょうか?いま気づいたのですが、なんだか船員さんたちも緊張した様子で武器や設備などを点検しているのがわかりますが……もしかして、モンスターでしょうか?
「実は、この船に付いている索敵用の魔道具がとんでもない反応を見せてな。もしかしたら、お嬢さん方にも手伝ってもらうかもしれないが、その時は頼む」
「任せてください!この船に乗せてもらっている身ですし、このくらいは大丈夫です!」
「すまない!私は指示に回るので、何かあれば頼む!」
そう言って船長さんが足早に去っていくのを見送りながら、私は皆さんに視線を向けます。
アリスさんたちもわずかに心配そうな様子ではありますが、特に気負ったりはしてなさそうですし、大丈夫でしょうね。
それにしても、とんでもない反応ですか…
船に乗るのは今回が初めてなので海で出てくるモンスターには詳しくはないですけど、それでも船長さんたちの反応からしてこれはかなり危うい状態なのはわかります。
船旅に慣れているはずの船長さんたちですらそうですしね。
「…っ、何かが近づいてきます!」
「聞いたからお前ら!警戒しろ!」
そんな中私の察知系スキルに反応が現れたので、私は直ちに声をあげて警戒を促します。反応からして……居場所は船の下です!って、船の下!?これは不味くないですか…!?
「皆さん、反応はーー」
私は近づいてくるモンスターの居場所について声に出そうとした次の瞬間、船が大きく揺れることでそれは妨害されてしまいました。
くっ!下から叩き上げられた感じですか…!船は大丈夫でしょうか!?
「レアさん!モンスターが出てきたのです!」
「魚が飛んでるよ!?」
「今度はこっちですか!」
そして船の揺れがある程度収まったタイミングで、今度は船の上にいる私たち目掛けて無数の空飛ぶ魚が襲いかかってきます。
しかも空中を泳ぐかのように移動してますし、この世界のモンスターである魚はみんなこうなんですか…!?
「空中を泳ぐ魚……まさか!」
「何か知っていないのですか、船長さん!?」
何やら思い当たることでもあるのか、わずかに驚きを顔に出しつつも飛んでくる魚たちをその手に持つカトラスのような剣で捌きつつ、私の疑問に答えてくれます。
「おそらくだが、海の中に稀に生まれるジェリークイーンだろう。そのモンスターは無数の魚型モンスターを操り、それで狩りをするらしいのでな」
ジェリークイーン……名前からして、クラゲ系のモンスターですかね?それに魚型モンスターを操る力を持つのなら、道理でここまで統率の取れた魚が私たち目掛けて襲いかかってくるわけですね。
なら、そのモンスターを一番に倒せばこの魚たちは自然と消えそうではありますが、そう簡単にはいかないですよね…
今も襲いかかってくる魚たちを皆で倒し続けていますが、これではジリ貧です。どうにか大元であるジェリークイーンを倒したいですが、どうしましょうか…?
「キィイイイイッ!」
「……!今度はなんですか!?」
そう思考をしつつも、次から次にと湧いて出てくる魚型モンスターを両手の銃で撃ち抜き続けていると、突如空間を震わすかのような叫び声が響きました。
突然のことに皆がそちらへと視線を向けると、そこにはこの船より一回りくらい小さめな、ですが人間換算にするとかなりの大きさを誇る鮫のようなモンスターが、ほんのりとピンク色に染まっているクラゲに喰らいつきながら海面へと飛び出ているところでした。
いきなり出てきて驚きましたが、あのピンクのクラゲがジェリークイーンというモンスターでしょうね。しかし、あの鮫はなんでしょうか?明らかに発せられる威圧感もとんでもないうえ、その身からは凄まじい力を感じさせますが…
「…まさか、ワールドモンスターである静海のリーブトス、ですか…!?」
ソロさんからもらった本に書いてあった内容には、鮫型のモンスターであり、海に生息しているとも書いてあったので、おそらくはそれで合っているとは思えます。
しかし、ジェリークイーンを喰らっているのはこちらとしてはありがたいですが、その強さは間違いないと思うのでこの隙にここを離れたほうが良さそうです!
「船長さん!今のうちに離れましょう!」
「ああ、そうだな!お前ら、全速力だ!早くしろ!」
そうして船長さんの言葉を合図に、今もジェリークイーンを食べている静海のリーブトスから離れていくと、やはりあのクラゲが原因だったようで襲いかかってくる魚たちがいなくなりました。
ふぅ、一時はどうなるかと思いましたが、なんとかなりましたね。それにワールドモンスターであろう静海とも出会えましたし、あれもいつかは倒しに動きたいですね。
まあ戦う場合は海の中だろうとは思うので、いつになるかは今の段階ではわかりそうにもありませんが。
「お嬢さん方のおかげで助かった。感謝する」
「いえいえー、このくらいは任せてください!それよりも、怪我とかは大丈夫ですか?」
「ああ、軽い怪我を負ったくらいだから問題ない」
一息ついて両手の銃をインベントリに仕舞っていると、船長さんとソフィアさんによる会話が耳に届いたので、私もそこに加わることにします。
「船長さん、船の方も大丈夫ですか?」
「そちらも特に問題はなかった。襲ってきた魚たちは小さめだったからだろうな」
ふむ、それなら心配はしなくても良さそうですね。今回遭遇したクラゲのモンスターはおそらくレアモンスターでしょうし、そんなホイホイと出会うものでもないとは思うので、これで危機は去ったと見て良さそうです。
…しかし、あのクラゲを一口で殺して喰らっていた静海ですが……あれはどう見ても本体でしたね。
海な中にもいるのはすでにわかっていましたが、あれは地上で戦えた天災や深森とは違って相手のフィールドで戦うことになるとは判断出来るので、かなり難しそうに感じます。
いずれはあの静海も倒さないといけないですが、それまでには戦うための用意なども出来るといいですね。
「しかし、何故こんな海面に静海のリーブトスがいたのでしょうかね…?」
本には海に生息しているとしか書いてありませんでしたが、それでも疑問が生じます。
あ、でも深森とも前に森の浅いところで出会ったりもしてましたし、今回のもそれと同じ感じかもしれませんね?
だとしても、いきなり出てくるのはビックリしますし危険すぎるのでもう出会いたくはないですがね。
「む、お嬢さんもアレについて知っているのか?」
私が一人でそう思考していると、何やら船長さんも知っているのかそのように問いかけてきました。
「船長さんも知っているのですか?」
「ああ、船乗りにとっては有名なモンスターだからな」
なるほど、確かに海での仕事を生業としている人にとっては知っているのも不思議ではありませんね。それにあのワールドモンスターは海の中にいるのです。なら、船乗りなどの住人はそれを危険視しているのも納得出来ます。
「まあとにかく、お嬢さん方のおかげでなんとかなりそうだから、あとはゆっくりとしていってくれ」
「わかったわ。また何かあれば言うのよ?」
船長さんの言葉にネーヴェさんがそう返し、私たちは再び船の甲板で暇を潰すことにします。
さて、今の時刻はまだ四時くらいなので余裕がありますが、まだ南の大陸に着くのには時間がかかりそうです。
それなら、今の暇な時間はまた釣りでもしてましょうかね?魚を釣れれば食料にもなりますし、時間を潰すにはうってつけでしょう。
そう決めた私は再び釣竿を船長さんに伝えて貸してもらい、またもや甲板から釣竿を垂らして釣りを開始します。少し前に【釣り】スキルを獲得しましたし、たくさん釣れるとよいですね!
そうして釣りをしていた私でしたが、ふと視線を感じたので釣竿を垂らしたままそちらへと振り向くと、そこにはニコニコとして表情を浮かべたアリスさんがいました。
「アリスさん、どうしましたか?」
「いえ、なんだかこんな風にのんびりするのはイベントの時以来だなと思ったのです」
そう言われれば、今までアリスさんと一緒にプレイした時は基本的に戦闘が主でしたね。改めて考えると、ここまでゆったりとしたのは久しぶりかもしれません。
アリスさんもそんな考えなのか、私の隣へと座ってくるのをチラリと見つつも、釣竿を垂らしたまま私たちは会話を続けます。
「レアさんは、最近はどんな感じだったのです?」
「私ですか?そうですね……色々なエリアの攻略に行ってたくらいですかね?そういうアリスさんは?」
「私はレアさんも知っている通り、この海の向こうに行きたかったので港町でクエストをしていた感じなのです!」
ふむふむ、アリスさんは前々から海の向こうに行きたかったようなのですね。そのおかげで今回は私たちも一緒に連れて行ってくれたので、やはり感謝しきれませんね。
「改めてアリスさん、誘ってくれてありがとうございます」
「いえいえ、このくらいはお安い御用なのです!」
ふふ、アリスさんもニコニコと笑みを浮かべながらそう述べていますし、やっぱりアリスさんは優しい人ですね。私と同じ歳ではあるみたいですが、時々大人っぽくも感じるのでちょっとだけその人となりに憧れてしまいます。
「さて、私はさっきのお魚さんたちから獲得した素材で人形さんでも作ってくるのです!」
「わかりました。私はここで釣りを続けていますから、何かあれば呼んでください」
「なのです!ではレアさん、また後で!」
そう言ってアリスさんは私の元から離れていくので、私はそれを見送った後に再び釣りへと意識を向けます。とりあえず小魚だけではなく大物も釣りたいですし、気配を殺しながら釣りをしますか!




