155話 海の向こうへ
「…よし、午後はどうしましょうか…」
あの後は再びセレネとクリアを連れながらエルフェリンデを散策していき、しばらく森の中を歩いていると運良く転移ポイントを見つけたので、それを解放した後は一度街に戻ってログアウトをしました。
そして今はお昼ご飯も現実世界で済ませ、またもやゲーム世界にログインしてきたというわけです。
ログインしてきた私は、考えます。
今すぐにやらなくてはいけないことはありませんし、何かを目指しているわけでもありません。まあワールドモンスターの情報は集めたいですが、そんなに簡単に手に入る物ではないので今は置いておきます。
なら、やはり新たなエリアに向かうために攻略を進めるのが良いでしょうか?
「では……っと、メッセージですか」
そう考え、どこのエリアに行こうか決めようとしたタイミングで私に向けて何やらメッセージが届いたらしいので、私はすぐさまメニューを開いてそれの確認をしてみます。
「送り主は……アリスさん、ですか」
そのメッセージを送ってきた人は今も口にした通りアリスさんのようで、メッセージには何やら一緒にエリア攻略に行きませんか?といった内容でした。
ちょうどどこに向かうか悩んでいたところですし、これは是非ともご一緒させてもらいますか!それとどこに行くかも書いていないので、同伴の返事と共にそれについても聞いてみましょうか。
「これでよし……っと、すぐに返事が返ってきましたね」
私が返事をした瞬間、即座にアリスさんからのメッセージが再び届き、そこにはなんと、海の攻略なら行くつもりと書いてありました。
「海……ということは、船か何かで向かうのですかね…?」
どうやっていくかは気になりますが、すでに同伴するとは返しているので、待たせてしまってはアレなのですぐに向かいましょうか。
海ということですし、港町からなので転移で行けばすぐでしょう。今いる場所は第二の街なので、まずは広場に行かないとですね。
「相変わらずこの世界の海は綺麗ですねぇ…」
そこからすぐに転移でアリスさんたちの待っているらしい港町へと移動した私は、海を見つめながらそう呟きます。
現実世界の海が汚いというわけではないですが、それでもこの世界の海の輝きには負けるとは思えます。この世界の海には魔物などがいるので危険ではありますけど、見ているだけなら問題もないですしね。
「っと、それはいいとして、待ち合わせ場所に行かないとですね」
アリスさんからのメッセージには、港にある大きめな船のすぐそばで待っていると書いてありました。そのため、今いる場所からは近いはずなのでまずは大きな船とやらを見つけないといけませんが……それらしき船はすぐに見つかりました。
「確かにこれは大きいですね…!」
その船とは、前にも見た全長50mはありそうなくらい大きい船と似たような物で、今も積荷を運びでもするのか複数の船員らしき人に積まれていっているのがわかります。
しかし、アリスさんからはその船のそばにいるとは書いてありましたが、この船で海のエリアに向かうのでしょうか…?
「あ、レアさーん!」
「アリスさん!」
そんな思考をしつつも住人らしき人たちとすれ違いながら歩いていると、ふとアリスさんの声が聞こえてたのでそちらに視線を向けてから小走りで近づいていきます。
「アリスさん、お誘いありがとうございます!」
「このくらいは大丈夫なのです!それよりも、来てくれて助かったのです!」
アリスさんはそう言いながらニコリと笑みを浮かべているので、どうやら海の攻略を楽しみにしているのが伝わってきます。
私もアリスさんと同じです!海の向こうへと向かうためにこの船に乗っていくのでしょうし、これはすでにワクワクが収まりませんよねっ!ですが、一つ疑問が湧いてきます。
「それにしても、よく船なんて確保出来ましたね?」
そう簡単には手に入れることは出来ないでしょうに……と続けて言葉にすると、アリスさんは少しだけ苦笑しつつ言葉を返してきます。
「実は、この船は私の物ではないのです」
「あれ、そうなんですか?」
失礼ですが、強いとはいえアリスさんはただの女の子です。そのためどうやって手に入れたのかは謎でしたが、これが使えるのには何やら理由があるみたいですね?
「この船は交易船のようで、そのついでとして私たちを南の大陸へと連れて行ってくれるようなのですよ!」
「なるほど、交易船ですか」
確かに、それならばしっかりとした納得が出来ますね。公益と共に連れていってくれるとは、なんともありがたいことです。
こうした機会でなければ船に乗ることなんてほとんどないでしょうし、これはとても好都合ですね!
それに、おそらくは船の護衛としても期待されていそうとは感じますね?これはアリスさんの友人だったおかげで乗せてもらいますし、キチンと感謝をしなくては…!
「アリスちゃん、そろそろ行くって!」
「あ、ソフィアさん!わかりました!ではレアさん、乗りましょうか!」
「了解です!」
私はそのままアリスさんに連れられてその船へと乗り込みますが、船の中には先程声をかけてきたソフィアさんだけではなく、アリスさんと交友関係があるネーヴェさんとリンさんも乗っていたので、アリスさんに誘われて来たのでしょうね。
「ソフィアさんたちもいたのですね!」
「まあねー!アリスちゃんに誘われてね!」
「レアも久しぶりね。アリスには感謝するのよ?」
「そういうネーヴェも、ツンツンしてないで普通に会えて嬉しいって言ったらどうかしら?」
ソフィアさんにネーヴェさん、リンさんから立て続けに声をかけられましたが、私たちはすでに見知った仲なのでわざわざ挨拶は不要です。
それと、どうやら今回船に乗るのはアリスさんとの関係がある私、ソフィアさん、ネーヴェさん、リンさんの五名だけらしく、他のプレイヤーはいないので意外と落ち着けそうですね!
「そういえばレアちゃん、目の色変わった?」
「あ、それは私も気になっていたのです!」
「流石にわかりますか。実は特殊なスキルを獲得したせいで変わってしまったのですよね」
ふとソフィアさんからかけられた声にそう返した私でしたが、周りにいるアリスさん、ネーヴェさん、リンさんからも不思議そうにしていますが、これはカラコンではないので戻すことも出来ないのですよね。
特に不都合はないのでそこまで気にしてはいませんが、これはちょっと隠しておいたほうが良いかもしれませんね…?嫉妬の紋章みたいなので、わかる人にはわかるとは思いますし……まあ別にこのままでもいいですか。何か問題が起きた時にでもこれの対策について考えましょう。
「お嬢さん方。今から出発するので、少しだけ揺れに気をつけてくだされ」
「わかりました!」
船の上で談笑をしていたそのタイミングで、船長らしき筋肉ムキムキで灰色の髪をした男性からそう声をかけられたので、皆を代表してアリスさんがそれに返事を返しました。
…見たところ、アリスさんと船長さんとは何か交友関係があるように感じましたし、それの縁で今回は乗せてもらったのでしょうかね?
なら、私からも感謝を伝えさせてもらいますか。
「船長さん、今回は乗せてくれてありがとうございます!」
「ふっ、気にするでない。それに感謝はそこのお嬢さんにするとよい。そのお嬢さんの力添えがあったから、今回は乗せることにしたのだからな」
やはり、船長さんとアリスさんは何か関係があったみたいです。もしかして、特殊なクエストとかで出会って、そこで船長さんも言っていた通りアリスさんが何か手助けをした、といったところでしょうか。
そうだとすると、アリスさんには感謝しきれませんね。それに船長さんにもです。
「では、私は行くのでな。ゆっくりとしているとよい」
船長さんはその言葉を最後に私たちの元から去っていき、そこから船員たちに出航だ、と言っているので、動き出すのもすぐのようです。
「さて、海の向こうはどんな場所なのでしょうかね」
アリスさんは南の大陸への交易に行くための船と言ってましたし、そこでは新たなエリアが広がっているのは確実です。
新たなモンスターに素材、そして景色。まだ出航はしてませんが、すでにワクワクが隠しきれずに溢れてしまい、周りにいたアリスさんたちからクスクスと笑われてしまいました。
い、いいじゃないですか、これくらい!皆さんも期待は高まっているのでしょう!?私と同じなんですからねっ!
「あ、出航するみたいだよ!」
私が頬を膨らませてムスーっとしている中、ソフィアさんがいち早く動き出したのに気づいたようで、そのように声をあげて船の手すりに手をついて外を眺めに動きます。
私たちもそれに釣られるように船の上から外を見てみると、徐々に港から離れているようで進み出しているのが確認出来ました。
ついに、海の向こうまで行く時が来たようですね…!はてさて、海の先にはなにが待ち受けているかわかりませんが、なにか楽しいものがあれば嬉しいです!
私は期待に胸を膨らませ、機嫌を良くしてドンドン離れていく港町を眺めつつそう考えます。
「見て見て!トビウオ!」
「何やっているのよ、ソフィア…」
そうして港町が私たちの視界から消えた頃合いで、突然ソフィアさんがユニークスキルによって生やした魔力の翼を使って船と並走するかのように飛びながら、一発芸みたいなのを披露します。
うーん、トビウオと言われればそれに見えなくもないですが、トビウオは羽ではなくヒレなうえに飛ぶのではなく滑空ですし、四点ですね。
「それは何点中の四点なのです?」
「もちろん、十点中の四点ですよ?」
「結構厳しいのね」
まあ一発芸みたいな物ですし、私からしたらの点数ではありますけどね。辛口かもしれませんが、別にお笑いなどが好きなわけでもないので。
それとこの状況を見ればわかると思いますが、未だにモンスターなども出てこないため、私たちは各々で遊びながら船の上で待機しているところなのです。
前に住人から聞いた通り、この船にも魔物避けの魔道具もあるため、それのおかげで寄ってくることがないのでしょうね。
「いやぁ、こうして船に乗っているだけだと暇だねぇ」
「そうね。景色も一切変わらないしね」
船の上に戻って来たソフィアさんと、それに続くように声に出したリンさんの言葉に私たちも頷きます。
最初の方はどこまでも広がるかのような綺麗な海を見れて良かったのですが、それもすでに飽きてしまいました。
だって、景色が海から全く変わらないのですよ?一応モンスターの警戒は常にしてますが、それでも出てこないため暇になってしまうのは仕方ありません。
「お嬢さん方、暇なのかい?」
「あ、船長さん」
そんな思考をしていると、ふと背後から船長さんの声がかけられたのでそちらへ振り向くと、そこには無数の釣竿を持った船長さんがいました。
「暇ならば、釣りでもどうかい?」
「釣りかー…やったことないけど大丈夫かな?」
「大丈夫さ。ちょうど釣竿もあるし、この機会にやってみるといいぞ」
船長さんはそう言って釣竿を渡してくれたので、私たちは感謝を返しつつもそれを受け取ります。
ソフィアさんはやったことがないと言ってましたが、私も釣りをするのは初めてです。ですが、今はちょうど暇なため釣りをするのはいい機会でしょうし、魚を釣れるように頑張ってみますか!
「では、私は行くのでな。何かあれば呼んでくれ」
「わかりました!釣竿、貸していただきますね!」
船長さんはそんな言葉を残して去っていったので、私たちは早速貸してくれた釣竿に付いているルアーを船の外へと投げ、釣りを開始します。
この世界での魚料理は食べたことがありますし、生息している魚たちはおそらく現実世界とそう違いはないとは思いますが、それでもどんな魚が釣れるかはすごくワクワクしてしまいます!さあ、たくさん釣りますよー!
「お、また食いついた!」
「これで七匹目なのです!」
「ソフィアもアリスも、なかなか上手ね?」
「それに良く釣れるわね?」
「むぅ…」
皆で揃って釣竿を垂らして釣りを開始したわけなのですが、何故か私のところだけは一切食いつきません!いったい何故ですか!?隣にいるソフィアさんやアリスさんは普通に釣れているのに、私のところにはさっぱりきません…!
「食欲が滲み出てるからじゃないかしら?」
「そ、そんなにわかるものですか…!?」
ネーヴェさんの言葉に私は愕然としますが、それに納得はしてしまいます。釣れたらどんな食べ方をしようか、などと考えていたのが魚さんたちにも伝わってしまっていたのでしょう。
むぅ、やはり釣りというだけあって、余計なことは考えないで没頭した方が良さそうですね…?だとしても、アリスさんたちの釣りの成果には嫉妬してしまいますがね!なんたって、私は【嫉妬】の大罪を宿している身でもあるので!




