154話 大罪
『称号〈深森の興味〉が〈深森の好敵手〉に進化しました』
『プレイヤー名レアの経験を確認しました。ユニークスキルが強化され、新たな武技を獲得しました』
立て続けにシステムアナウンスが流れてきましたが、今はそれよりも深森が吐き出してきたものについてです。
「…いきなり吐き出してきましたが、これはなんでしょうか?」
私の目の前に深森は何かを吐き出してから消えてしまったので、これを調べろということでしょうけど…
「…まあ考えてもわからないですし、確認しますか」
その吐き出された物の形は、見たところ焦茶色の樹木で作られたと思しき宝箱のようには見えます。
所々に金や銀、宝石などで彩られているため、この宝箱だけでも相応の価値があるのがわかりますが、それを台無しにするかの如く何らかの液体で濡れているため、少しだけ触るのが躊躇ってしまいます。
「ですが、確認しないといけませんよね…」
わざわざこれを吐き出したということは、しっかりと中身を見ろ、っと伝わってきますし、ちょっとだけ嫌な感じはしますが、開けますか。
「ん、なんだか甘い匂いがしますね…?」
その吐き出された宝箱へと近づくと、何やらそれから甘い匂いが私の鼻口をくすぐります。…もしかして、あの謎の液体でしょうか?なら、先に鑑定をしてみますか。
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深血樹液・劣 ランク S レア度 伝説級 品質C
深森の身体を流れている魔力を浴びた甘い樹液。これはその劣化品だが、一口舐めるだけで活力が漲るであろう。
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「樹液、ですか」
それに加えて、深森の身体を流れているとも書いてありますし、これは人間の身体で言うところの血液のようなものですかね?それなら、植物系のモンスターであふ深森にはピッタリとも感じるので、間違ってはいないはずです。
「しかも甘いということは、食べることも出来るのでしょうか…?」
…流石に、深森が直接吐き出した宝箱に付着しているものは舐めたくはありませんが、まあ食べなければいいでしょうし、これはスルーでいいですね。
蜂蜜よりもはるかに強い甘い匂いが漂っているのですごく、本当にすごく気になりますが、スルーです。スルーなんですからね!…一応、インベントリにでも仕舞っておきますか。べ、別に食べたくて確保しているわけではありませんよ!
「…まあそれはいいとして、今は確認をしないとですね。さてさて、中身はっと…」
「キュッ、キュッ!」
「……!……!」
そうしてそばにいるセレネとクリアの興奮した声を聞きながら、私は宝箱に付着していた深血樹液というものを全てインベントリに仕舞った後、ワクワクを隠さずに宝箱を開けるために蓋に手をかけ……たのですが、何故か空きません。
…え、空かないのですけど?何か鍵でも必要ということですか?そうだとしたら、今確認することが出来ないのですけど…
「うーむ、これはどうすれば…」
「キュゥ?」
「……?」
セレネとクリアも私と一緒に悩んでいるのですが、当然これの答えはわかりません。…見たところ鍵穴のようなものはありませんし、鍵が必要とは思えません。
なら、開け方が違う……とかですかね?
「…普通に空きましたね」
「キュッ!」
「……!」
開け方を色々と試してみたところ、何故か横にスライドする形で開けることが出来たのです。…怒らないですから、これを作った人は手をあげてください。
なんですか、宝箱の形をしているのに棺桶のような開け方って…!?普通はわかりませんよ!?私たちの場合は、たまたま私が体重をかけたらその拍子にズレたのでわかりましたが、普通に考えてわかるはずがありませんよ!
「…はぁ、まあそれはひとまず置いておきましょうか。それで、中身は…」
一度ため息をついた後、私は先に中を除いていたセレネとクリアに続くように確認してみると、その中には何やら栓のされて宝石などで装飾されている壺のようなものと大量の宝石が入っていました。
宝石はそのまんまなのでわかりますが、この壺はなんでしょうか?明らかに宝箱よりも価値がありそうなものに見えますし、栓がされているので中身も見ることが出来ませんが…
「…とりあえず、まずは鑑定をしてみますか」
ここは、これまでもお世話になっている【鑑定士】スキルの出番ですね!ソロで出来るようにとこのスキルを選びましたが、あれはナイス判断だと自分でも思います。
このスキルがなければ少しだけ面倒くさいことになってたかもしれないので、なかなか便利で助かります!
っと、それは今はいいですね。今はこの怪しげな壺の確認をしないとです。
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眠る悪心 ランク S レア度 固有品
深森が所持している力の一端が封じ込められている封魔の欠片。その封印は深森から離れたことによってすでに解けかかっており、いつ出てくるかもわからない状態になっているため相応の準備をして開けるとよいであろう。
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なんと、怪しげな壺はとんでもない危険物だったみたいです…!深森の所持している力というのも気になりますが、今見ないといけないのは封印が解けかけているというところです。
これは、今すぐに対応した方がいいですね…!幸い、ここにいるのは私とテイムモンスターである二人だけなので、周りに迷惑をかけることはないはずです。
なら、ちょうど開けているここで確認をするべく、その壺の栓をとって確認としましょうか。
私は宝箱の中に入っていた大量の宝石を全てインベントリへと仕舞った後にツボを手に取り、早速とばかりに壺の栓を外してみます。
すると、その直後に黒色の瘴気のようなものが飛び出てきて、そのまま私まで迫ってきます。
ちょ、いきなりですか…!?
私は驚きましたが、すぐさま〈舞い散る華〉を使って迫ってくる瘴気を避けたのですが、どうやらそれを読まれていたらしく急カーブで私へと迫ってきた瘴気にぶつかってしまいました。
「……なんともない、ですね…?」
「キュゥ…?」
「……?」
当たったはずなのに特にこれといった症状が出なかったので、私は首を傾げてしまいます。危険な物だとは書いてありましたが、何もないということはそれほど警戒をしなくても良い物だったのでしょうか…?
しかし、そんな思考をしている中突如私の頭の中へと情報が流れ込んできて、激しい頭痛が襲い掛かります。
「ぐぅ…!?」
「キュッ!?」
「……!?」
そばにいたセレネとクリアも心配するかのように私に声をかけてきますが、私はそれに反応することも出来ず痛みに耐えるため頭を抑えていると、その痛みは私の頭の中にとある情報を残してすぐに消えました。
「…なるほど、これが深森の力なのですね」
「キュッ…?」
「……?」
「ああ、二人とも心配してくれてありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
痛みが治まったので私は一息ついていると、二人から大丈夫?とでもいうように擦り寄ってきたので、安心させるために両手を使って二人の頭を優しくなでなでして感謝の意志を伝えます。
よし、これでもう大丈夫ですし、今も頭の中に残っている情報について整理しましょうか。
私の頭の中に流れてきた情報、システムメッセージにはこのように書かれていたのです。
『プレイヤー名レアの適性を確認しました。それに伴い、EXスキル【???の兆し】が【嫉妬の大罪】へと進化します』
流れてきたシステムメッセージはこのような情報だったため、確認が必要というわけです。
それにしても、謎であった【???の兆し】が大罪系統らしき【嫉妬の大罪】というものに進化するとは思いませんでした。
しかも嫉妬とは、私にお似合いの大罪ですね。まあ過去はすでに克服しているので、もう自分を追い詰め続けて後悔したりはしませんけど。
っと、思考が逸れていましたね。今回の大罪のスキルは今までの経験や先程壺から飛び出してきた瘴気によって獲得したのだとはわかりますが、それでも驚きは隠せません。
「そのうえ、この壺の正体についてもですね」
今はすでに空っぽとなっているこの壺は、流れてきた情報と共に載っていた記憶を見るに、なんと深森が昔に森の中を彷徨っていた時に見つけて確保した物らしく、危険な物だとわかったので分身体の中に保存して封印していたようなのです。
しかし今回私が分身体の討伐に成功したため、私の実力を見込んで渡すことになった、という情報と共に載っていました。
壺の鑑定情報と先程獲得したEXスキルからもわかりますが、深森の大罪は嫉妬のようですし、私にもその力の一端が使えるようになったのでしょう。
「なら、同時に獲得した称号からも、私は深森に認められたようですね」
今回戦った分身体は一人でもなんとかなりましたが、まず間違いなく本体とはそう簡単にはいかないとはわかります。
なので、今はまだ分一人では分身体の討伐が精一杯ですけど、これからも鍛え続けて、いずれは貴方の首をとらせてもらいますよ!
「…壺の確認は終わりましたし、次は称号と新たな武技、そして【嫉妬の大罪】の確認ですね」
それでは、まずは称号の確認です。クリアとセレネの二人には少しだけ暇かもしれませんが、すみませんが待っていてくださいね。
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〈深森の好敵手〉
深森の関心を引き、好敵手として正式に見定められた者に与えられる称号。採取する植物系の品質を上げ、特定の住人からの好感度を大きく上げる効果を持つ。
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確認する限り、称号に関しては完全上位互換となっているようで、採取する植物系の品質を上げる効果はそのままに特定の住人からの好感度が上げる効果が新たに増えているので、これは意外と嬉しいですね。
好感度が上がるということは、それだけ深い関係になれるということです。それに特殊なクエストなども受けることが出来る可能性が増えそうでもあるので、とてもありがたい効果なのは間違いないです!
「次は、武技ですね」
システムアナウンスからすると、ユニークスキルが強化されて新たな武技を獲得したようですし、今よりも種類が増えるのでとても嬉しいですけど、はてさてどんなものでしょうか…
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〈第十三の時〉 消費MP 小 リキャストタイム五秒
・武技を当てた対象のHPを奪う
・反転時は対象にHPを分け与える
〈第十四の時〉 消費MP 小 リキャストタイム一分
・武技を当てた対象の時間を加速させる
生物には使用不可
・反転時は武技を当てた対象の時間を巻き戻す
生物には使用不可
〈第十五の時〉 消費MP なし リキャストタイム十五秒
・武技を当てた対象のMPを奪う
・反転時は対象にMPを分け与える
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ふむふむ、増えたのは三種類のようですね。一つ目はHPを奪うか与える効果で、二つ目が生物以外の時間を操り、最後の三つ目が一つ目のMPバージョンって感じのようですね。
二つ目以外は戦闘に結構活かせそうではあるので、これからは使ってみるとしましょう。
そして戦闘には見たところ使えそうにない〈第十四の時〉については、おそらくアイテムなどに使えば良いのだとは思います。
私の場合は生産系である料理や錬金をしますし、それに使う機会はありそうなので一応この武技も記憶に留めておくとしますか。
「では最後はお待ちかねの、EXスキルの【嫉妬の大罪】の確認です!」
「キュッ!」
「……!」
EXスキルということですし、【心力解放】スキルと同じで強力なものだとは感じるので、これは期待が高まりますよ…!
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【嫉妬の大罪】
〈大罪を背負う者〉 リキャストタイム二十四時間 効果時間十分
・自身の全ステータスを1.5倍にする
〈嫉妬の眼〉 パッシブ
・自身の視界内に入れた敵対生物の受けているバフを消す
自身の左目に嫉妬の証の蛇を模した紋章が刻まれる
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ステータスを開いて確認をしてみると、EXスキルである【嫉妬の大罪】はこのようなスキルが存在しているみたいでした。
「〈大罪を背負う者〉というのは単純な効果なので確認することもないのでいいですけど、〈嫉妬の眼〉とはなんでしょうか…?」
しかも自身の左目に嫉妬の証の蛇を模した紋章が刻まれるとも書いているので、これは確認したほうが良さそうですね…?鏡は……ニーナちゃんから貰った手鏡でいいですね。別に精霊都市に行くわけではなくても鏡として使えるでしょうし。
「……左目が変化してますね…」
「キュッ?」
「……?」
手鏡をインベントリから取り出して私の目元を確認してみると、前までは両目ともに金色をしていたのですが今は左目のみ銀色へと変化していたのです。
そのうえ、その銀色に変わっている左目には何やら紋章のようなものが浮かんでおり、これがおそらくは嫉妬の証というものだとわかります。
「…特に異常はありませんし、別に気にしなくても良さそうですね」
それにスキル的にもかなり有用そうなので、これからはますます使うことが多くなるでしょう。あの激しい痛みがあったとはいえ、なかなかありがたいスキルなので獲得出来たのは好都合でしたね!
「ひとまず、確認はこれで終わりですね!セレネとクリアも、付き合ってくれてありがとうございます」
「キュゥ!」
「……!」
これで深森との戦闘の後の確認は全て終わったので、そろそろここから移動するとしますか。今はまだ深森の分身体が先程までいたのでモンスターは寄ってきてはいませんが、それも時間の問題でしょうしね。
とりあえず、今いるエルフェリンデの上層にも転移ポイントはあるとは思いますし、まずはそれを探して解放を目指すとしますか。




