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153話 見定めるは深き森2

「シュゥ」


 深森にいいダメージを与えることには成功しましたが、それでもHPゲージは未だに三割を切ったくらいしか減らせていません。


 分身体だからか、HPゲージは一本しかないのでいい調子ではあるのかもしれませんけど、それでも三人だけではダメージの進みが遅くて仕方ありません。


「ですが、ダメージはキチンと与えられているのです。なら、倒せることには変わりません!」

「キュッ!」


 私は深森からの称賛でもするかのような視線を受けつつも、両手に持っている双銃をしっかりと持ち直し、警戒を強めながら視線を返します。


 分身体にも関わらずかなりの強さを誇るため、結構ヒヤリとした場面が多々あるので、もう少し相手の動きを読んで動かないといけません。


 それに、ここからは植物を操る力も使うようで、今も深森の周囲に生えている無数の植物が生い茂りながらこちらへと狙いを定めているのが確認出来ます。


「…なら、今はスピードを活かして翻弄しつつ戦い、弱点を探るとしますか」

「シャァ!」


 そう呟いて両足へと力を込めていつでも動けるように構えた瞬間、深森も私と同様に声に出しながらこちらへと一気に地面を這うようにして接近してきます。


 しかも、周りに存在していた植物も一緒にこちらへと向かってきているため、油断しているとすぐにやられてしまいますね!


「なら、〈第七の時(ズィーベン)〉!〈第一の時(アイン)〉!そして〈第六の時(ゼクス)〉!」


 なので私はそれらに対応するために連続して武技を自身に撃ち込み、分身と共に加速した状態で両手の銃による反撃をしていきます。


 立て続けに飛んでくる深森による攻撃や蔦のようなものによる拘束、そして鋭い茨のような攻撃などをゆらゆらとフェイントを混ぜた不規則な動きで全て回避していき、攻撃によって生まれたわずかな隙に弾丸をプレゼントします。


「…やはり、体表付近には核はなさそうですね」


 しかし、深森から放たれる無数の攻撃を回避しつつも反撃として弾丸を様々な箇所に撃ち込んでいますが、わずかなダメージを与えるだけで弱点らしき部位は一切発見出来ません。


 クリアにも頼んでいますが、それは簡単ではないようで私の肩に捕まりつつも集中して観察をしているので、そちらは時間がかかりそうです。


 セレネに関しては、時折飛んでくる危ない攻撃に対して【因果律予測】を使って警告の声を出してくれているため、とても助かっています。


 前の時は連発していると消耗が激しかったようでしたが、今はセレネも成長しているうえに連発をしないようにしているため、疲れはそこまでなさそうです。だとしても、長期戦では不利になるのである程度は制限しているみたいですけどね。


「シャアッ!」

「…っ!新たな植物ですか!」


 そうして分身が消えた後も〈第一の時(アイン)〉の効果を維持しつつ、攻撃を回避しながら少しずつダメージを与えていましたが、深森は優越の感情を滲ませながら咆哮をあげると、次の瞬間には深森の足元から赤色の花が無数に咲き誇ります。


 そしてそのタイミングで花びらの中心から、私たち目掛けて大量の棘のようなものが飛んできました。


「っ!〈第零(ヌル)第七の時(ズィーベン)〉!」


 私は咄嗟に無数の幻影を生み出す武技を使い、狙いを惑わすことでなんとかそれらを回避しますが、完全には回避することが出来ずに左足付近に三本だけ棘が刺さってしまいました。


 しかも、その棘には毒でも塗られていたのか、筋力低下と麻痺、AGIの弱体化がかかってしまいました。


 おそらく、動きを止めるための毒だったのでしょうね。だから、前みたいな純粋な毒や呪いなどとは違ったのでしょう。ですが、その状態異常は私にとってかなり最悪の部類です。


 私はこのスピードを活かした戦闘スタイルなので、これは即座に治さないとマズイです…!しかし、私にはこれをすぐさま治す効果のスキルを持っています!


「〈第十の時(ツェーン)〉!」


 状態異常を確認した瞬間、直ちに時間を巻き戻す武技を自身に撃ち込むことで、先程受けた状態異常をなかったことにします。


 巻き戻ったそれの影響で刺さったままであった棘も消滅してくれたので、再度かかることがなかったので助かりました。先に抜いた方が安全でしたね…


「シュゥ」


 それを見た深森は少しだけ驚いた様子を見せていますが、それもほんの一瞬です。


 私が毒を治したのがわかったようで、再び咆哮をあげるのと同時に無数の棘がまたもや私たちへと降り注いできました。


「ふふん、それはもう見ましたよ!」


 なので今度は〈第一の時(アイン)〉だけではなく〈第零(ヌル)第十一の時(エルフ)〉も使い、超加速した動きで木から木へと飛び移りながら移動することでそれらを全て回避します。


 そのうえその状態でも銃弾をお返しとして連続で放ち、ダメージを与えるのも忘れません。それにセレネも攻撃してくれているため、さらにダメージは与えることが出来ています。


 ですが、ダメージの通りはやはり悪いので早めに弱点を見つけたいのですけど、なかなか見つけられませんね…


 ここまで攻撃しているのにも関わらず見つからないということは、もしかして核はないのでしょうか?それとも、そう簡単には見つからない場所にあるのか…


「シャアッ!」

「おっと、棘はもうおしまいですか?なら、今度はこちらからも行かせてもらいますよ!」


 私の動きを見て棘ではもう通用しないとわかったようで、深森は棘を放つのをやめてこちらへと向かってきました。


 なら、こちらからも行かせてもらいますか!私は近接戦闘の訓練もしっかりとしてますし、そう簡単にはやられませんよ!


 すぐに思考を切り上げ、木を蹴ることでつけた勢いのままに私自らも接近していきます。


 そうして互いに近づいていたためすぐにぶつかると思ったその瞬間に、私は再び〈舞い散る華(フロース)〉を使って最初と同じようにすり抜けますが、それは予想出来ていたようでした。


 深森はすぐさま動いていた軌道を変え、空中に跳び上がって移動が出来ない私を喰らおうとその口を開けて迫ってきます。


 ですが、それは私の読み通りです!そう来るように仕掛けましたし、見事に釣られましたね!


「〈飛翔する翼(スカイ・ステップ)〉!」


 私は深森の口が迫る中、深森から見て後方(・・)へと空中を蹴ることで移動して、そのガラ空きの口の中へと〈第三の時(ドライ)〉を放ちます。


「シャッ!?」


 流石の深森も口の中への攻撃は効いたようで、わずかな驚きの声と共に赤いポリゴンが口から溢れることで結構なダメージになりました。


 しかもセレネもその隙を見逃さず、魔法を放っているのがチラリと見えました。セレネも、助かります!


「身体の内側への攻撃は結構効くみたいですね?なら、そこを集中して狙いたいですが…」


 深森は私たちから受けた攻撃に対してかなりの警戒をしてしまっているようで、今のように口の中への攻撃はもう出来なさそうと感じます。


「…とりあえず、クリアが弱点を見つけるまではちまちまとダメージを与えていきますか」


 もしかしたら口の中に核があって弱点だったのかもしれませんが、それでも次からは簡単には狙えそうにありませんしね。


 それにクリアのことは信頼出来ますし、それまではなんとか耐えないとです。


「……!」

「っと、クリア、見つけたのですか?」


 そしてこちらを警戒して攻撃に移っていない深森を見て、私はもう一度接近しようとしたタイミングで、肩にいたクリアが身体を震わすことで気持ちを伝えてきました。


 先程までは攻撃にも入らずにずっと深森を見ていたはずですし、もう核か、それ見合ったものでも確認出来たのですかね?


「……!」

「…なるほど」


 クリアが私へと教えてくれた情報は、テイムしているからなのか具体的に伝わってきたので、深森からは視線を外さずにそれについて思考を巡らせます。


 クリアが教えてくれたその情報とは、なんと深森の身体の中には核があるのは間違いないらしいのですが、その核が身体の中を絶えず動きつづけているようなのです。


 しかし、先程のように私を喰らおうとしたそのタイミングのみ、動き続けている核が喉の奥へと一瞬だけ固定されるらしい、とクリアは伝えてくれました。


「…ふむ、道理でさっきは今までよりも大きなダメージを与えられていたのですね。クリア、情報ありがとうございます」

「……!」


 それなら、やはり隙を見て口の中に核が移動した時に狙うのが一番良さそうですね。まあ警戒をされているのでそう簡単には当てれそうにはないですけど、狙える時は狙う、これでいきますか。


「シャアッ!」

「痺れを切らしてきましたね!なら、いきますよ!」

「キュッ!」

「……!」


 私たちのことを警戒しつつもこちらへと迫ってくる深森を見て、私は二人に声をかけた後に再度切れていた〈第一の時(アイン)〉を撃ち込むことで動きを加速させ、迫ってくる深森へと対応をします。


「シャッ!」

「はぁ!」


 そして私の放った無数の銃弾とセレネとクリアによる魔法と棘、深森の飛ばしてきた鋭そうな葉っぱの刃による攻撃がぶつかり合い、そのまま互いの攻撃は相殺されましたが、私たちはそれを予測出来ていたことです。


 深森は続けて無数の蔦のようなものでの拘束も狙ってきて、それに対して私は加速した動きのままにまたしても木からか木へと飛び移りながら両手の銃による攻撃を雨あられと深森へと浴びせていきます。


 無数の弾丸は防ぎきることが出来ずに徐々に深森へとダメージを与えられていますが、やはり決定打には欠けてしまっていますね…


「それに、弱点じゃないと怯むこともしないですか!」

「シャァ!」


 その言葉通り、深森はそれがどうしたと言わんばかりに植物による攻撃と共に、尻尾による攻撃や喰らいつき、押しつぶしと次々と攻撃を繰り返してきます。


 まあ不意打ち気味だった花による棘以外は特に当たることもなく回避し続けれているので、問題はありません。それに分身体だからなのか、それ以上の攻撃も特にしてこないので負けることはないとは思います。


 だからといって油断は出来ませんけど、この調子なら分身体相手ならば一人でも勝てそうです。しかし、時間は思いの外かかってしまっていますし、この辺で決めに動くとしましょう…!


「行きます…!〈第零(ヌル)第七の時(ズィーベン)〉!」


 そう決めた私は、木から木へと飛び移りながら手始めに無数の幻影を生み出すことでほんの一瞬ではありますが、深森からの意識を逸らします。


 ですが、そのほんの一瞬の隙が私の狙いです…!


「〈第五の時(フュンフ)〉!そして〈第零(ヌル)第十一の時(エルフ)〉!」


 効果が付与されていた〈第一の時(アイン)〉に被せるように、さらに動きを加速させるべく〈第五の時(フュンフ)〉で強化した〈第零(ヌル)第十一の時(エルフ)〉も続けて撃ち込み、足全体へと力を込め……一気に足元の樹木を蹴って駆け抜けます!


「シャーー」

「遅いですっ!〈第二の時(ツヴァイ)〉!」


 強化されているおかげで先程までとは比べ物にもならない速度で深森とすれ違い、そのタイミングで深森の動きを鈍くするべく遅延効果の弾丸をしっかりと撃ち込みます。


 流石の深森もこれは回避が出来なかったようで、私の放った武技をその身に受けて遅延効果がしっかりと発揮します。


 それに加えて、どうやら分身体の能力では私の今のスピードには追いつけないようで、必死に目で追っているのがわかりますね。


「ふふ、分身体相手なら通用するみたいですね…!」


 しかし、それも無駄ですよ!ここからがさらなる私の舞台です!今ここで、貴方は倒させてもらいます…!


「〈第十二の時(ツヴォルフ)〉!」


 私は深森の動きを読みつつ無数の弾丸を撃ち込み、その中に紛れる形で私の切り札の一つである三秒間のみ時を止める武技も放ちます。すると、それは躱しきれなかったようで命中して見事に効果を表します。


 よし、今がチャンスです!これが決める最大の機会ですし、ここで倒させてもらいますっ!


「〈第五の時(フュンフ)〉!これで…!〈第九の時(ノイン)〉!」

「キュゥ!」

「……!」


 そしてこちらに視線を向けた直後だったらしく、空いていた口の中へと右手の長銃の銃口を向け、さらに武技によって次に放つ攻撃を強化して、特殊な攻撃系の武技である〈第九の時(ノイン)〉を喉の奥にあるであろう核目掛けて撃ち込みます!


 そこにセレネとクリアによる、おそらくは合体魔法と呼べる感じの激しい竜巻の攻撃も加えられており、私に続いて攻撃をしてくれています。


「シャアァ!?」


 そうして見事に喉の奥の核を撃ち抜くことができ、二人による攻撃も受けたことでそのままド派手な赤いポリゴンを噴水の如く口の中から撒き散らし、凄まじいダメージによって深森は激しく暴れますが、それもすぐに止まります。


 何故なら、この武技と魔法によって深森のHPゲージは全て削ることが出来たからです。


 ➖➖➖➖➖

 〈第九の時(ノイン)〉 消費MP 特大 リキャストタイム三分

 ・武技を当てた対象がこの戦闘中に受けたダメージの全てを与える

 与えた場合それまでのカウントはリセットされる

 ・反転時はこの戦闘中に受けたダメージの全て分回復する

 回復した場合それまでのカウントはリセットされる

 ➖➖➖➖➖


 私が深森へと止めとして放った武技はこのような効果であり、この戦闘中には大量のダメージを与えていました。


 それによって、三人の協力もあって残っていた深森の五割を一気に削ることが出来たのですよ!


 このまま戦闘をしていても勝つことは出来たでしょうが、それではどれだけの時間がかかったかわかりませんし、これで決めることが出来てよかったです。


「二人も、手助けありがとうございました」

「キュッ!」

「……!」


 しかし、あの合体魔法らしきものは初めて見ましたが、そんなことを出来たのですね?今回はチラリとしか見れませんでしたし、今度しっかりと見てみますか。


「シャァ…」

「っと、まだやる気ですか?」


 そんな二人を見つめていたタイミングでふと倒されたはずの深森の声が聞こえてきたため、私たちは警戒を露わにしつつもそちらへと視線を向けます。


 しかしそこには、徐々に身体の端からポリゴンとなっている深森がその力を認めてやる、とでも言わんばかりにこちらを見つめながら姿勢を正しているところだったので、流石に戦闘に移る気はないようですね?


 まあこれで終わりだと思って集中力も切れかかっているので、戦闘にならないのはありがたいですが。


「シュッ」


 そんな思考をしている私に向けて、深森は何やらニヤリと笑うかのような様子で視線を送ってきて何かを私の目の前へと吐き出してきたと思ったら、そのまま一気にポリゴンとなって消えてしまいました。

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