152話 見定めるは深き森1
「…上層ですが、浅層とそこまで違いがあるわけではないみたいですね」
「キュゥ!」
「……!」
そうしてエリアボスであるシャドウスパイダーを無事に倒し、私たちはすでにその奥に続いているエルフェリンデの上層へと足を踏み入れているのです。
あ、シャドウスパイダーとの戦いですか?それについては、特に苦戦することはなかったのですよ。
強いて言うなら、HPが半分を切った頃合いでその巨大に似合わないスピードを発揮して森の中を高速で飛び回り、糸や魔法で攻撃してきたことが特徴的でしたね。
まあ私も同じような動きを出来るため、そこからは逆に動きを読みやすかったので簡単に倒すことが出来たのですが。
ちなみにあの大蜘蛛が落としたドロップアイテムについては、赤色の宝石のような瞳"影蜘蛛の魔眼"、大蜘蛛の身体に生えていた棘である"黒毒の棘"、そして最後に大蜘蛛の皮らしき"影蜘蛛の皮"の三つでした。
これらの素材は今のところ使う機会はありませんが、とりあえずインベントリに仕舞っておきます。いつか使う日がくるかもしれませんしね。
「それにしても、出てくるモンスターも浅層とそこまで変わっているわけではないみたいですかね?」
私は上層の奥へと進んでいますが、浅層とそこまでモンスターの変化はなく狼や蛇、猪にトレントなどのモンスターがよく出てきます。
個体の強さ的には強くなっているようですが、私はそれ以上に成長しているため苦戦らしい苦戦はしていません。
「このくらいなら、まださっきの大蜘蛛の方が強いですね」
そう思ってしまいますが、エリアボスと普通のモンスターを比べてしまうのは酷ですね。強さに差があるだけではなく、ボスはそれに見合った能力も持ち合わせているので、それが強さの大まかな差になっているのでしょう。
「ですが、今までは見たことのないモンスターも出てきてますし、エリアを進んでいるのは間違いなさそうではありますが」
そう、狼や蛇などの一般的なモンスターだけではなく、今歩いている上層からは猫や栗鼠、鼺鼠型のモンスターまで出てきているのです。
猫のモンスターは前にノルワルド黒森で見たことはありますが、他の二匹はこの世界では初めてでした。
しかし、その強さに関してはそこまでではありませんでしたけどね。
猫は魔法を放ってくるタイプのモンスターだったので銃弾を返すとすぐに倒せました。栗鼠はどこからともなく手元に取り出した硬めの木の実を投げつけてくるモンスターで、そちらも猫と同様に銃弾を返しておしまいです。
そして鼺鼠に対しては、鋭利な爪が生えているようで、こちらへと空中を滑空しながらその爪で襲いかかってきたため、半歩ズレることで避けて隙の出来た鼺鼠の心臓へと銃弾を撃ち込むことで無事に倒すことに成功します。
それぞれのドロップアイテムについては特に変わった物もなかったので、割愛します。
「…なんだか、空気が重くなってきましたね」
そうやって遭遇するモンスターを片っ端から倒しながら森の中を歩いていると、いつのまにか辺りからモンスターの気配や音が消えており、私の感覚にも警戒を強めろ、とでもいうような感覚を察知しました。
…モンスターの気配も一切ないですし、異常なまでに静かなのもおかしいです。
「…クリア、セレネ、一応警戒を強めておきますよ」
「キュッ!」
「……!」
そばにいる二人にも警戒を強めるように言った私は、そのまま警戒を強めながら森の中を歩いて行きますが、突如私の感知スキルと【第六感】スキルに反応が出てきたので咄嗟に後方へと大きく跳ぶと、それにほんの少しだけ遅れるように深緑色をした何かが落ちてきました。
「この気配、まさか…!」
私は感じ取った感覚からもそれがなんなのかがわかったので視線を向けると、そこには深緑色をした大蛇……深森が存在していました。
➖➖➖➖➖
??? ランク ?
???
状態:???
➖➖➖➖➖
「シュゥ」
「…久しぶり、ですかね?」
「キュゥ…!」
「……!」
私はその大蛇、深森へと視線を向けながらそう呟きますが、深森も私を覚えているのかその顔にニヤリと笑ったかの様な雰囲気を醸し出しています。
深森とはかなり初期からの因縁がある相手でもあり、集めた情報からこの森の最奥にいるとはわかっていました。
ですが、こんな上層で再び合間見えるとは思いませんでしたよ…!
「今は私たち三人しかいませんが、これもいい機会です。今ここで、貴方を倒させてもらいますよ!」
…感じる威圧感からは、おそらくこの深森も本体ではなく分身だとは思いますし、これを倒したところで本体には毛ほども被害はないでしょう。
だとしても、倒すことには変わりません!今の私の全力、ぶつけさせてもらいますよ!
「〈第一の時〉!」
手始めに私は自身へと動きを加速させる武技を撃ち込み、その状態で深森へと両手に取り出した双銃を乱射しながら接近して行きます。
そばにいるクリアとセレネも私と同様に魔法や棘などで攻撃をしてくれているため、これなら前の時のように一人ではないので、いい線はいけるでしょうか?
「シュゥ!」
「…っ!」
深森は飛んでくる攻撃をその身に受けつつも、反撃の如くその巨大な尻尾を薙ぎ払ってきたので、私は咄嗟に空中へと跳び上がることで回避します。
やはり、スピードだけならすでにいい線はいけるようですねっ!なら、このスピードを活かして戦いますよ!
「ここからはさらに行きますよ!〈第七の時〉!」
私は攻撃を回避した次の瞬間には、一つの武技を自身へと撃ち込むことで自身の分身を生み出し、再び〈第一の時〉も撃ち込むことで動きを加速させます。
そこからは分身と共に銃弾を乱射しながら再び接近していきますが、やはり深森は分身体とはいえワールドモンスター。
僅かなダメージを与えつつ接近することが出来ても、その強靭な身体を活かした尻尾による攻撃や丸呑みにでもするかのように口を大きく開けての喰らいつきなどが次々と飛んでくるせいで、結構ヒヤリした場面が出てしまいました。
動きが加速していたおかげでギリギリ回避は出来ましたが、やはり強いです…!そのうえ分身がいたため、深森からの攻撃が分散してくれたのが救いでしたね。
しかし、このタイミングで効果時間は切れてしまったため分身は消えてしまいました。
「…なら、ここからはもっと集中しないとですね」
「キュッ!」
「……!」
そばにいるセレネとクリアも同意するかのように私の言葉へと声を返してきましたし、ここからはさらに全力でいかないとです…!
加えて、前と同じで瞳や頭などの弱点部位と思われる場所に攻撃をしても、ダメージがなかなか通らないのがやはり気になります。
「…そういえば、ソロさんから貰った本に載っていた情報からは、深森は植物系のモンスター…でしたっけ」
ふと本で見た情報を思い出しましたが、なるほど。道理で前に戦った時にも、瞳などに攻撃を加えてもダメージはほとんどなかったのでしょうね。
「…だとするなら、おそらくは核となるものが存在するかしもれませんね」
もしそうならば、この分身にもある可能性は高いですね。それなら、それを探りながら攻撃を与えていき、分身体を倒す、のが今の目標ですね。
「シュゥ!」
「おっと、様子見は終わりですか!」
今の少しの間は深森もこちらに視線を向けながら警戒をしていたようでしたが、それも終わりみたいです。
深森は思いの外素早い動きでこちらへ喰らいつこうと正面から飛び込んできたので、私は即座に横合いになる木の幹へと飛び移り、そこから深森に対して〈第二の時〉を放ちます。
「シャァ!」
「…ちっ、遅くなってるはずなのになかなか速いですね…!」
それは見事に深森へと命中して効果を発揮したはずなのですが、それを感じさせないような俊敏さでこちらへと尻尾を振るってきたので、再度木の幹を蹴ることでそれも避けることに成功します。
素早いとはいっても武技の影響で先程よりかは遅くなっているからか、今度は少しだけですが余裕を持って回避が出来たので、やはりこのスキルは便利ですね。
もしこのスキルがなければ、加速も遅延も出来ないのでここまでしっかりと戦うことは難しかったでしょう。
「ですが、今の私にはこの力がしっかりとあります!分身体とはいえ、今ここで倒させてもらいますよ!」
「シャァ!」
深森も、今もしている互角の戦いによって気分が高揚しているのか、私の声に対して楽しげな様子で返事をしつつ再びこちらへと尻尾を振り下ろしてきます。
「それは効きませんよ…!」
私は〈第一の時〉を自身へと撃ち込み、加速した動きを活かして尻尾の振り下ろしを紙一重で回避し、地面を蹴ることで一気に肉薄します。
「喰らうといいです!〈第三の時〉!」
「キュゥ!」
「……!」
そしてある程度近づいたそのタイミングで唯一の攻撃系の武技である〈第三の時〉を深森のガラ空きの頭へと放ち、クリアとセレネによる攻撃まで深森へと迫りますが、それは咄嗟に首を傾げることで回避され、私たちの攻撃は全て後方の森の中へと消えていきます。
ですが、その姿勢では次の攻撃には対応出来ないですよね?今がチャンスです!
「まだまだ!〈スプリットバレット〉!〈バーストバレット〉!」
そこに私はさらに武技を立て続けに放つと、それらは流石の深森でも完全には回避が出来なかったようで、その頭へと見事に命中し、赤いポリゴンを辺りへと撒き散らします。
よし!今度はしっかりと命中させることが出来ましたね!ですが、相手はワールドモンスターです。一切の油断は出来ないので、さらなる攻撃を加えていきます!
「シャアァ!」
「…っ!」
しかし、深森はそのような声を上げると、深森のすぐそばから無数の植物が一気に生えてきて、私へと迫ってきました。
この植物は、おそらく初めて会った時にも見たものと同等なものでしょうね。なら、捕まっては危険です…!
私は即座にそう決め、後退しつつ両手の銃でこちらへと飛んでくる無数の植物たちを撃ち抜くことで、それらを無効化します。しかもそばにいるセレネとクリアによる攻撃でも破壊出来ているため、こちらへと向かってくる植物は全て打ち消すことが出来ました。
「ふふん、前とは違いますよっ!」
前は破壊することすら出来ませんでしたが、私もやはり成長しているようで無効化することが出来ましたね。これなら、飛んでくる植物に警戒はしつつも攻撃に移っても良さそうですね?
「シュゥ…」
深森もそれを見てなんとなく感心しているかのような雰囲気を出しているため、少しは認めてくれている……のでしょうか?
今相手にしている分身体は本体よりは実力が落ちているのは確実でしょうけど、それでも善戦は出来ているので、深森の琴線にでも触れたのでしょう。
「なら、私の力を認めさせるために倒させてもらいますっ!」
「キュッ!」
「……!」
私は自身へと〈第零・第七の時〉を撃ち込むことで無数の幻影を一時的に生み出し、同時に〈第一の時〉も使用することで幻影に紛れながら深森へと銃弾を乱射しながら接近していきます。
そこにセレネとクリアによる攻撃も混じり、深森へとダメージを与えていきます。が、深森はそんな幻影たちを一瞥した後に雄叫びをあげたと思ったら、無数の植物が深森の周囲から幻影たちを喰らい尽くすかの如く溢れ、そのまま幻影たちを飲み込んでしまいます。
「…っ、危ないですね…!」
私はそれを見た瞬間には後方へと下がっていたのでそれに当たることはありませんでしたが、もし判断が遅ければ飲み込まれていたかもしれませんね。
「やっぱり、植物が厄介ですか…!」
植物系のモンスターというだけはあって、こういった植物に関する能力が深森のメインである力なのでしょうね。
それに今は拘束や攻撃としてしか使われていませんが、まず間違いなくそれだけしか出来ないはずがありません。植物というのなら、毒や罠、寄生など多種多様な能力があるはずです。
だとすると、この分身体よりも強い本体は、間違いなく普通に戦っては厳しそうとわかります。が、今は目の前のことに集中です。
「…とりあえず、植物の破壊は出来ますし、このまま攻めていくしかありませんね」
今の私には妨害行動に移れる力はないですし、正面から挑むしかありません。それでも、私には戦闘に活かせるユニークスキルがあるのですから、これをガンガン使って攻めるのがいいですね。
私の装備している時空の瞳のおかげでユニークスキルの消費MPとリキャストタイムが半減されているため、これらが戦闘の鍵にはなりそうです。
「シュゥ」
「分身体でも、やはり貴方は強いですね。ですが、私も一角である天災のゾムファレーズを討伐しているのです。ならば、倒すために全力で挑ませてもらいます!」
「キュゥ!」
「……!」
私はその言葉を合図に再度〈第一の時〉を自身に撃ち込んだ後、両手の銃から連続して弾丸を放ちながら再び深森へと加速した動きで一気に接近します。
「シャア!」
それを見た深森は、楽しそうな雰囲気を出しつつも私に対してその大きな口を開けて迫ってきます。
ですが、それはすでに見切っています!
「〈舞い散る華〉!」
深森の口が私のすぐ目の前まできたその瞬間、私は一つのスキルを使用し、全身が花びらとなったその状態で深森をすり抜け、頭上をとります。
「ここなら!〈第三の時〉!」
「シュゥ…!」
攻撃を躱されたことでほんの僅かな隙が生まれたのを私が見逃すはずがなく、その頭部へと攻撃系の武技を撃ち込ます。
すると当たった箇所から赤いポリゴンが辺りに飛び散り、意外にもダメージを与えることに成功しました。そして私はそのまま深森の頭も蹴ってほんの僅かなダメージを与えつつ、深森から少しだけ距離をとります。
「うーむ、攻め手に欠けてますね…」
弱点ではないため大ダメージにはなっていないので、おそらくあるであろう核に攻撃を与えたいですけど……一体どこにあるのでしょうか…?
あ、そうだ!前に砂漠に行くために戦ってエリアボスとの戦闘時にも弱点を見つけていましたし、クリアに頼んで深森の核を探れるか試してみましょうか!
「クリア、今戦っている大蛇の弱点を探して欲しいのですけど、出来ますか?」
「……!」
私の言葉にクリアは、任せて!とでもいうように肩で震えて意識を返してくれたので、私は弱点探しはクリアに任せることにしました。
それでも、私自身も戦いながらいろんな箇所に攻撃を加えていき、探してみますけどね。クリアだけに任せるのは、人任せすぎですので!




