150話 海
「婆やか、妾の説明を奪うでない!」
「貴方は、あの時の…」
このお婆様は、間違いなく商店街で私の占いをしてくれたあのお婆様ですね。やはり、ただの占い師ではなかったようです。
まあアーシャさんはお婆様から私のことを聞いていたとも言ってたので、それについてはあまり驚きはありませんが。
「坊ちゃん、さっきぶりだね」
「お婆様は、やはりただの占い師ではなかったのですね」
「隠しててすまなかったね。その通り、あたしはこの国の相談役をしている宮廷魔術師なのさ」
ふむふむ、道理ですごい実力を持っていると感じたわけです。
相談役をしているとも言ってますし、かなり重要なポジションに着いているのがハッキリと伝わります。
まあそれは特に気にすることでもありませんし、先程の話に戻りますか。
「さっき言っていた、この都市に結界が貼ってあるとはどういうものなのですか?」
「ああ、それについてあたしが説明するね。あんたは少しだけ待っていてね」
「わかった」
アーシャさんに一声かけてから、お婆様は説明を開始してくれます。
「この都市には暑さを凌ぐために結界を貼ってあり、それのおかげでこの街中では植物も育てることが出来るのさ」
なるほど、それが紅茶の葉を作ったりすることが出来る要因ですか。それに植物を育てられるというみたいですし、だからこの砂漠の中でもこんなに立派な街となっているのでしょうね。
「そしてそれがあるおかげで、あたしたちはここで生活をしていけるというわけだ」
「ついでにこの都市には大きなオアシスもあるのでな」
「そうだね。オアシスと畑、この二つがあって初めてあたしたちはこの過酷な環境でも生きているってことさね」
確かにオアシスがなければ、結界がなければ、植物を育てることが出来なければ、ここまでこの国が発展することはなかったとは思えますね。
だからこそ、この街の住人たちも女王様などに感謝を込めているのだろうとは感じます。
「それにしても、その結界は誰が作ったのですか?」
結界があるおかげでここまで発展しているのですし、それがもしなくなってしまえば大変なことになります。
そんなすごいことが出来るものには興味も湧いてくるのでそう聞いてみましたが、それにはお婆様が簡単そうな様子で答えてくれました。
「それは、この国を作り出したアーシャのご先祖様である初代女王様だよ」
「初代女王様、ですか?」
「そこからは妾が変わろう」
お婆様の発した言葉に疑問符を浮かべていた私でしたが、それの説明にはアーシャさんがお婆様と交代して説明を開始してくれます。
「妾のご先祖様でもあるその女王は、凄まじいほどの魔法の使い手だったらしいのだ」
魔法の使い手、ですか。アーシャさんもその血を引いているとは思いますが、その腕前は見ていないのでどれほどのものかは詳しくは分かってはいないですけど、そう伝わっているということはかなりの実力はあったのでしょうね。
「そしてその腕前を活かし、この砂漠のど真ん中にオアシスを生み出し、さらにはこの都市を囲むように結界まで貼ったらしいのだ」
ほうほう、まさかオアシスまで作り出したとは思いませんでした。自然に生まれたそれの周りに国を作ったのだと思ってましたが、どうやら違ったようですね?
「とまあ、妾の王家に伝わっている歴史にはそう書いてあったのだ」
「そうだったのですね。説明ありがとうございます」
いやぁ、この国の歴史を少しだけではありますが知ることが出来ましたし、なかなか新鮮で面白かったです!
やっぱり、この世界での国は魔法などで生まれたりしたものもあるみたいですね。しかもこの都市の場合はオアシスまで自作ときたわけです。
これはとても興味が惹かれますよね!私は魔法をメインにしているタイプではないのでもし技術を教えてもらっても意味はないですけど、これはこれで楽しいからオッケーですね!
「さて、坊ちゃんと嬢ちゃんにも会えたし、あたしゃそろそろ仕事に戻るとするよ」
「なら、私もこの辺でお暇させてもらいますね」
「む、レアももう行くのか?もっとゆっくりすれば良いのに…」
私がそう言葉にすると、アーシャさんは少しだけ寂しそうな様子でそう言葉を発します。
うーん、今の時刻は腰元の時計を確認するにもう少しで十時になるというところなので、そろそろログアウトをして現実世界でご飯の用意をしたいですが、そんな表情を見てしまうとちょっとだけ躊躇ってしまいますね…
「…あんた、そんな気持ちは微塵も思ってないだろ?」
「ちっ!」
「…え、今のって演技だったんですか!?」
お婆様の言葉にアーシャさん先程まで浮かべていた寂しそうな表情を一瞬で消し、舌打ちをしています。
だ、騙されました…!まさか演技だなんて、思いませんよ…!?
「こいつは仕事をしたくないから、引き止めようとしてたのさ」
「アーシャさん…」
私のジト目に視線を逸らして口笛を吹いているアーシャさんでしたが、それを横で見ていたお婆様はハァっと大きなため息をついてから私へと声をかけてきます。
「坊ちゃん、こいつはあたしが連れていくから、行っていいよ」
「わかりました。では、行きますね。お茶ありがとうございました」
私はそう言いながら別れの挨拶を済ませ、そのまま今いる部屋から外に向かって歩いて行きます。
道順ですか?それについては多分大丈夫です。ここまでに歩いてきましたし、道は覚えているので!
「海、ですか?」
「ああ」
そうして宮殿から無事に出ることが出来たので、そのまま街中でログアウトをしてお昼ご飯を兄様と共に食べている最中に、兄様からふとそのように聞かれました。
「最近はゆっくりと楽しむことも少なかったし、仲のいいフレンドの皆で海で遊ばないかと思ってな」
どうやら兄様は午前中のうちにフレンドの皆さんと相談していたようで、後は私の参加をどうするかのみらしいです。
それなら、もちろん参加させてもらいましょうか!こういう時でないと皆さんと会うことは少ないですし、クオンともまた会いたいですしね!
「ぜひ私も参加させてください!」
「もちろん大丈夫だ。時間はこの後の一時くらいに港町の転移広場に集合だから、忘れないようにな」
「はいっ!」
今の時刻はまだ十二時前くらいなので、一時近くになるまでは宿題を片付けておいて、ログインするのを楽しみにしてましょう!
「確か、港町に集合でしたっけ」
それからは勉強を黙々と進めていると、気づいたら予定の時刻が迫ってきていたので、私は道具を片付けた後に再びゲーム世界へとログインしました。
今いる場所は砂漠の街ですし、とりあえず港町に移動をしないとですね。水着もすでにあり、準備は万端なのでさっそく向かいますか!
「兄様たちは……あ、いましたね」
装備をいつものゴスロリドレスに変えてから転移をし、港町に着いてから辺りを見渡すと、すでに兄様とそのパーティメンバーとカムイさんが固まって何やら談笑をしているのが見えました。
兄様たちはすでに待っていたようなので、そちらに行くとしますかね。
「兄様、もう来てたのですね」
「お、レアか。いや、俺たちもさっき来たばかりだから大丈夫だ」
「レアちゃん、久しぶり!元気だった?」
「はい、それはもう元気でしたよ!そういうサレナさんたちも元気そうですね?」
「まあねー!」
兄様のパーティメンバーであるサレナさんから声をかけられたので返事を返しましたが、私の口にした通り皆さんも変わらず元気な様子です。
「カムイさんも、改めてあの時はありがとうございました」
「ふっ、あのくらいならいつでも大丈夫だ。また何かあったら呼んでくれて構わないからな」
「その時はまたお願いします」
カムイさんと最後に会ったのはワールドモンスターの討伐の手伝いをお願いした時以来でしたが、カムイさんも元気そうで何よりです。
それに他のワールドモンスターの討伐もしてみたいようなので、また戦うことがあれば頼むものいいかもしれませんね。
「あ、もう集まってる!」
「すみません、お待たせしたのです!」
「来たわよ、ゼロ」
「待たせてしまったかしら?」
私がここに来てすぐのタイミングで、ソフィアさん、アリスさん、ネーヴェさん、リンさんたちもちょうど来たらしく、それぞれが言葉を発しながらこちらへと近づいてきました。
「アリスさんたちも来たのですね!」
「あ、レアさん!今日は一緒に楽しみましょう!」
「ですねー!」
私は近づいてきたアリスさんと一緒に手を握ってキャッキャとしてましたが、ふと皆さんの視線が向いていることに気がついて少しだけ恥ずかしくなってしまいます。
ち、ちょっとだけはしゃぎすぎてしまいました…!でも仕方ないじゃないですか!こうして狩りを一緒にする以外で遊ぶのなんて初めてですし、楽しみにしてますもん!
「悪い、遅れた!」
アリスさんと一緒に頬を赤くしていた私たちの元へと、そのような声と共にクオンとそのパーティメンバーの人たちが来たのが見えました。
クオンも当然参加みたいでしたし、一緒に遊べるのは嬉しいですね!クオンとはこの前にも会ったばかりですが、それはそれ、これはこれです!
「大丈夫だ、全員今来たところだからな」
すまなそうにしているクオンたちへとそう言葉を返す兄様でしたが、それには私も同意します。
私たちが早かっただけで全然待ってませんしね。それにクオンたちも遅刻しているわけでもないので大丈夫ですよ!
「お待たせー!」
「すみません、待たせてしまいましたか?」
「大丈夫ですよ、まだ全員は集まっていませんしね」
そして立て続けにルミナリアとマキさんもやってきました。いつのまにか兄様ともフレンドになっていたようで、それで誘われたのでしょうか。
まあ人が多いのは楽しいですし、構わないですけどね!
「後はルベルとジェーンだが…」
そういえばその二人だけはまだ来てませんね。兄様の様子を見るに二人も誘っていたみたいですが、まだ来ていないので待った方が良いでしょうか?
「なら、俺が二人を待っているから、皆は先に行っていていいぞ」
「いや、流石にそれは大丈夫ですよ!」
カムイさんは先に遊んでいてもいいと言ってますが、流石にそれにわかりましたと返すことは出来ませんよ…!
一人だけポツンと待たせるなんて、それは酷すぎますしね…!
「そんなに遠慮しなくで大丈夫だぞ?それに俺はあの二人ともよく知った関係だし、待つのには適任だと思うしな」
う、うーん、そこまで言われても気が引かれてしまいますが……カムイさんはすでにここから動く気もないようですし、申し訳ないですけど頼んでいいか聞いてみますか。
「本当にいいんですか?」
「ああ、だからレアたちは先に行ってるといい。俺も二人を連れて後から向かうからな」
「…では、申し訳ないですけどお願いさせてもらいますね」
「任せておけ」
ルベルさんとジェーンさんを連れてくるのをカムイさんに頼むことにしたので、私たちは先に港町の外にある海岸へと向かうために歩いていきます。
「そういえば、皆さんは水着などは持っているのですか?」
その道中でふとそのことが気になったので聞いてみると、それにはそばにいたアリスさんが答えてくれました。
「私たちはすでに用意はしているのです!」
「だから少し遅れちゃったんだよねぇ」
「まあオーダーメイドではないけどね」
「そういうレアは、持っているのかしら?」
リンさんからそのように聞かれたので、私は自信満々な表情を浮かべつつもちろん用意しています!と返しました。
そこからもアリスさんたちから聞いた限りでは、どうやら水着はレーナさんのところで買いに行っていたらしいです。
ということは、私のように専用の物として作ってもらったわけではないようですね。アリスさんたちの水着はどんな感じのものなのでしょうね?私、気になります!
「よし、着いたな」
「相変わらず、この世界の海は綺麗だねぇ」
そんな風に会話をしながらも歩いていると、ようやく海岸が見えてきました。
この海岸も街中の範囲のようなのでモンスターなどが出てこないため、十分遊ぶことは出来るとは思います。
まあプレイヤーたちは時折来るのでそれについてはどうかと思ってましたけど、今はいないようなので注目も浴びずに自由に遊べそうですね!
「では、早速海へ行きましょうか!」
「なのですー!」
私とアリスさんは待ちきれないとばかりに装備を水着へとすぐさま変えた後、そのまま海へと走って行きます。
んー!ゲーム世界は現実とは違ってそこまで暑くはないですけど、海は程よく冷たくてとても気持ちいいです!
「はは、楽しそうだな」
「そりゃあ楽しいですよ!皆さんと遊べるんですしねっ!」
そんな中、背後からクオンに話しかけられたので振り向きながらそう答えます。
クオンもアリスさんと同様に水着のようで、シンプルな黒色のハーフパンツのような物を着ているようです。…クオンの引き締まった身体が丸見えなため、私はちょっとだけ恥ずかしくなってしまいますが。
ちなみに、アリスさんは水色のワンピース型の水着ですよ。アリスさんにはキュートなその水着がとても似合っているので、周りに人がいれば視線が集まること間違いなしです!
「レアにはその水着、似合っているぞ」
「あ、ありがとうございます。そういうクオンこそ、よく似合ってますよ」
クオンは恥ずかしげもなく褒めてくれたので、私の顔はさらに赤くなってしまいます。まあ私もクオンに対しても感想は述べましたが、それでもずっと見ているのは恥ずかしくて出来ません…!
「えいっ!」
「キャッ!?」
そのタイミングで横合いから突如水をかけられたので、そちらに視線を向けると、そこにはニヤニヤとした表情を浮かべたソフィアさんとルミナリア、呆れた様子のリンさんとマキさんがいました。
ソフィアさんはタンキニと呼ばれる紺色の水着で、リンさんはそのスタイルの良さが際立つ白色のクロスデザインのビキニを。
ルミナリアは赤色のビキニでマキさんは落ち着いた雰囲気のある薄紫色のビスチェを着ているようで、四人にはとてもよく似合っています。
というか、今水をかけてきましたよねっ!?もう、ならこちらからも仕返しをさせてもらいますよ!クオンも、手伝ってください!




