148話 占い師
そうしてクオンと別れてからは特にこれといったこともなく時間が過ぎていき、今はその次の日である木曜日です。
現在の時刻は起きたばかりである六時半くらいなので、先にストレッチなどの諸々を済ませてきましょうか。
「…よし、では再びゲームと洒落込みましょう!」
私はいつものやるべきことを全て終わらせたので、降りてきていない兄様に書き置きをしてから再び自分の部屋へと戻り、置いてあったヘッドギアを頭に着けて朝っぱらからゲーム世界へとログインしていきます。
「…まずは、未だに確認をしていない本を読むとしましょう」
現実世界からゲーム世界へとログインした私は、まず初めにやることを決めます。今までは時間がなかったので、特に予定がなく空いている今がちょうどいいですからね。
それに、この本はワールドモンスターである天災のゾムファレーズを討伐した時に報酬としてもらった物なので、クロノスさんから教えてもらった邪神にも関係していそうではあるので早いところ読んでおきたい気持ちもあるので!
「…ここで読むのは流石にアレなので、ソロさんの図書館に寄ってそこで読むとしますか」
私は一度周りを確認した後、足を動かし始めます。
朝早い時間なのに私のいる職人都市には多数のプレイヤーがいるみたいで、ワールドモンスター関係の情報でも聞きたいのかこちらへとチラチラと視線を送ってきています。
なのでここで読むには煩わしすぎますし、こんな重要そうなものを人の目が多いところで読む気にはなりませんしね。
そんなことを考えつつも私は第二の街へと転移で移動して、早速図書館へと足を運びます。
「ソロさんは、いないみたいですね」
そこから第二の街を歩いていき、何事もなく図書館の前に着いたのでそのまま扉を開けて中に入ると、そこは人っ子一人いないシーンと静まり返っている空間でした。
私の呟いている通りソロさんはいないようですが、早速ここを使わせてもらいましょうか。ここでないとプレイヤーが多いので目立ってしまいますし、今から読むのはとても大切な本でもありますので!
加えてワールドモンスターを討伐したことについても伝えたいのですが、それは今度で良さそうですね。
「では…」
そう勝手知ったる様子で図書館内を歩いていき、そこに置いてある一つのテーブル席の前で止まった私は早速インベントリから例の本を取り出します。
取り出したその本は、どうやらメインが黒色をしてそんな本の全体がほんのりと赤くなっているような見た目をしています。
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天焦がす憤怒の魔本 ランク S レア度 固有品
天災に秘められていた邪神の怒りと悲哀の記憶について書かれた魔法の本。とある言語で書かれているらしいが、今の人類には読み取ることは出来ないだろう。
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鑑定結果ではそう出ましたが、やはりこの本はクロノスさんから聞いた邪神に深く関わっているみたいです。だって、説明文を見るに邪神の過去とハッキリわかりますもん!
そのうえ説明には今の人類には読み取れないとも書いてあるので、私以外に渡っていた場合にはとても困る物と判断が出来ますね。まあそれがあったから、私への報酬としてこれが送られたのかもしれませんが。
「…それにしても、天災にはこんな記憶が宿っていたのですか」
邪神の使徒というだけはあって、その記憶が引き継がれていたみたいです。
なら、まだ倒すことは出来ていませんが、他のワールドモンスターに対してもこのように邪神の記憶を宿している可能性がありますね?
そうだとすると、倒すごとに本を獲得出来ればさらに深く邪神について知れそうですね…!これは、記憶に残して置いたほうがよさそうです…!
「っと、思考が逸れてしまいましたね。とりあえず、いつも通り〈第四の時〉で読み取るとしますか」
文字に関しては最初から読めないとわかっているので、確認はしないですぐさまインベントリからいつもの双銃を手元に取り出し、そのまま左手の短銃でその本に向けて〈第四の時〉を撃ち込みます。
「クソがっ!」
俺は感情のままに目の前に置いてあった水槽へと、腕を振るって破壊する。
しかし、それでも気が収まらず手当たり次第に周りに無数にある実験道具へと八つ当たりの如く暴れるが、やはり俺の感情は収まらない。
「はぁ、はぁ…」
そうして力の限り暴れていたが、ある程度破壊し尽くしたところで俺は息をついて動きを止めた。
…俺がここまで感情のままになってしまうのには、理由がある。
これまでに実験と称して恋人を生き返らせるために様々なことをしていたのだが、全くといっていいほどに成果が現れなかったからだ。
なのでこのまま実験をしていても無駄だとも感じてしまうのもあり、俺は焦ってしまっていたのだ。
「ちっ、このまま続けていても無駄だな」
俺は一度暴れたことでひとまず収まった憤怒の感情を引っ込ませ、思考を巡らせていく。
これまでに様々なモンスターの素材などで実験を繰り返していたが、それでは限界がきたようだ。
「…やはり星の核による願いが一番だが、それ以外の方法も見つけるしかないな」
俺は実験をしながらも眷属たちに星の核を探させているが、未だにその結果は現れていない。まあ星の心臓とも呼べるものだからそう簡単に見つけることは出来ないであろうとは思うので、それについては怒りは湧いてくるが仕方ない。
「…なら、やはり魂が必要か」
今までは理性が優っていたが、これだけ失敗が続けば願望のほうが強くなる。
とりあえず人の魂を使う前に、まずはモンスターたちの魂で実験をするとしよう。いきなり人の魂に手を伸ばしてしまえば、アイツらに何をされるかわかったかもんではないしな。
「必ず、この願いは叶えてみせるぞ」
俺はそう決心をして、早速モンスターたちの魂を集めに動き出す。
「…っ!」
その記憶を最後に、私の視点は元の世界へと戻ってきました。
やはりこの記憶は邪神のものみたいですし、今回読み取った記憶はその邪神の願いという恋人の蘇生を目指していた時の場面みたいです。
邪神は昔からそれを目指していたらしく、見た限りでも感じれましたが、恋人の蘇生のために人の魂にまで手を向けてしまっていた様子でしたね。
今読み取った範囲では人の魂の前にモンスターでの実験をしようとしていたみたいではありますが、それも時間の問題だったとは思うのでまず間違いなく人の魂に手を出したのはわかります。
そのうえ世界に存在する星の核まで狙っているのがクロノスさんからも教えられていた通りハッキリと確認も出来たので、一度撃退されていなければ危なかったかもしれませんね。
まあ今も狙っているみたいですけど。
それにクロノスさんも言っていましたが、そこまで急ぐ必要もないみたいではあるので、世界を攻略しながらワールドモンスターを討伐しつつ記憶を読み取っていき、邪神の心を救って世界も守る。これが目標には違いないです。
「ひとまず、これで本の確認は終わりましたね」
とりあえずすぐにでも確認しないといけないことはこれで済みましたし、今の時刻もまだ八時を少し越えたくらいなので時間にも余裕があります。
「なら、今の時間は砂漠の街の散策といきますかね」
あそこには一度本の解読のためにルイーネの元へ行ったくらいで特に散策はしてなかったので、時間もあるしちょうどいいですしね!
あ、それなら着る機会があまりなくて仕舞い込んだままだった男装装備である黒乙女シリーズを装備して向かいましょう!
そこに黒蝶の涙を着ければ私とバレることもなさそうですし、ほとぼりが覚めるまではNPCの振りをして砂漠の街の散策でもするとします。
「では、行きますか!」
そうこうして今いる街の広場から転移を使って砂漠都市サラメダへと移動した私でしたが、そこからは特に目的も決めずに街中を散策していきます。
ちなみに、今はNPCのフリをしているためバレる元であるクリアとセレネは呼んでいませんよ!なので一人なため、少しだけ寂しいです…!
「っと、それはいいとして、今は街の散策ですね」
私は街中を歩きつつもすぐさま意識を街並みへと向けますが、その街並みは前にも見た通り全体的に白っぽい見た目なので、日差しを受けて輝いているためなかなか綺麗と感じます。
加えてオアシスもあるためか水に困った様子もないですし、すれ違う住人たちの表情からもいい雰囲気であるのがわかります。
「…やっぱり、この国の女王様のおかげなのでしょうか」
オアシスは自然のものだとは思いますが、それを顧みても住人たちの笑みからは幸せそうとわかりますし、女王様による行政でここまで発展もしているのでしょう。
それに今気づきましたが、ここの都市は砂漠にあるのにも関わらず、街中はそこまで暑さも感じないのですよね。
だとしても日差しや多少の暑さはあるため、この都市にいる住人たちのほとんどは露出の多い踊り子みたいな服を着ています。
私の場合は流石にそんな服を着るのは恥ずかしいので変わらず男装装備ではありますが、暑さはそこまで強くないのでなんとかなっています。
「…慣れてなければ、そんな服装は出来ませんよ…」
本当に、私みたいなちんちくりんには着る勇気が湧いてきません…!
そんなことを考えつつも街の散策をしていると、いつのまにか商店街のような場所へと着いていたらしく、私は街の散策ついでにそこにある露天を冷やかしながら巡っていると、ふと一つの露天に目が惹かれました。
その露天……というかお店ですね。そのお店はそばに立ててある看板を見るに、どうやら占いをしてくれるところらしく、現実世界の商店街でもたまに見かけるような黒色の大きめな布で囲まれている小さな建物のような姿をしていました。
「…ちょっとだけ気になりますし、入ってみますか!」
私は溢れる好奇心のままにその占い屋へと入り口にあるカーテンらしきものを潜って中へと入ると、そこは外観よりも何故か広く感じるうえ、暗めの照明と落ち着いた色合いの外壁のおかげで神秘的で落ち着いた雰囲気が全身に感じとれます。
「いらっしゃい、坊ちゃん」
私が中に入って内装に見惚れていると、奥に置いてあったテーブルを挟んで一人のダークエルフらしき老婆が椅子に座っていました。
…先程までは一切気配も魔力も感じれませんでしたし、私が気づくよりも先にこちらを認識していたみたいです。
このお婆様は、何者でしょうか…?私の感知系のスキルのレベルが高くないとはいえ、話しかけられる前に気づくことも出来なかったのには少しだけ警戒をしてしまいますが…
「警戒をするのは当然だけど、あたしゃただの占い師だよ。ほら、さっさと座りな?」
「…わかりました」
…まあ敵意や殺意などは微塵も感じないですし、ただの占い師とも思えませんが、今はお客さんとしてここに来たのですからまずはその占いとやらをしてもらいますか。
私はお婆様の指示に素直に従って置いてある椅子を引いてから座りますが、そのタイミングでまたもやいつのまにかテーブルの上には私の頭くらいはありそうなほどに大きい水晶玉が置かれていたので、私は流石にジトーっとした視線をお婆様へと向けてしまいます。
絶対に、ただの占い師ではないですよね…!?
明らかにただの占い師ではここまで出来ないでしょうし、私にまでその腕前がひしひしと伝わってきますけど…
「じゃあ、始めるよ」
私の視線もなんのそので占いを開始するので、私も一度お婆様に向けていた意識を占いへと移します。
そうしてほんの数秒くらいでしょうか?そんな一種ともいえる時間の経った後に、置かれていた水晶玉へと突如様々な風景のようなものが映り出しました。
私の視点から見た感じだと、なんだか森や砂漠、海に草原などと次から次に水晶に映る景色が変わっていき、しばらくの間それを眺めていたのですが、それはすぐに消えて再びただの水晶玉へと戻りました。
「ふむ、坊ちゃんはなかな波乱な人生を送ってきていたんだね。それに、その姿なのに女の子だったのかい」
「それは、今の水晶玉で?」
「そうさ。これはあたしのスキルによって生み出した物で、集中すれば他人の過去や未来などを見通せるのさ」
ほへー、そんなすごいスキルがあるのですね…!しかも過去や未来まで見通せるなんて、明らかに普通ではありませんよね…?なら、間違いなくこのお婆様はただの占い師ではありませんね…!
私の性別まで見抜いたわけでもありますしね…!
「だが、私の力を持ってしても坊ちゃんの未来だけは見通すことが出来なかったのさ」
「…そうなんですか?」
私の未来は見れなかった。んー、理由はわかりませんが、私には他の人とは違う何かがあるのでしょうか?神の加護を受けている……これは他の人もいるので違いますね。
なら、今の段階ではそれについて知るのは無理そうではあるので、心の隅に置いておくくらいで気にしないでいますか。
「坊ちゃんはもう過去との決別も済ませているみたいだし、あたしからは何も言うことはないね。恋人とも幸せになるんだよ」
「はい!それはもう、頑張ります…!」
過去を見られたせいで私とクオンの関係まで知られてしまったみたいですね。
未だに少しだけ恥ずかしくはなりますが、お婆様にも返した通り、頑張っていきますよ!
「それでは、占いも済んだようなので私はこれで行きますね!あ、お代はいくらでしょうな?」
「お代は結構さ。それよりも、この後は気をつけるんだよ」
「…?はい、では!」
お代はいらない言われたので渡してませんが、その後に続けてかけてきた声に私は疑問を顔に浮かばせてしまいます。
気をつけろとは言われましたが、別に街中ですし何もないとは思いますけど……まあそれに関しては頭の片隅にでも置いとくとして、この街の散策に戻るとしましょうか。




