146話 クロノス
「よし、じゃあ火山地帯を目指して行くか」
「よーし、頑張りますよー!」
私はかけられたクオンの言葉を聞き、頑張ります!とでもいうように改めて気合いを入れます。
ここの荒地は特に何かあることはなさそうですけど、油断はしません!それに、今日はクオンとのペアでの攻略ですし、尚更邪魔をされないように徹底的に攻略しなくては…!
「あ、そうだ。いい機会だし、俺のテイムモンスターをレアに紹介しておくな」
「そういえば、クオンもテイムをしていましたね」
そんなことを考えていると、ふと思い出したかのようにクオンは荒地を歩いている最中に自身のテイムモンスターを呼び出します。イベントの時にテイムをしていたのだとは思いますが、確かに見せてもらうのは初めてですね。
クオンの呼び出したそのテイムモンスターは前にもチラリと見たことのある、銀色の毛並みに氷のような冷たさを感じさせる青い瞳をした狼でした。
大きさについては、クオン一人くらいなら乗ることが出来そうなくらいには大きく、その四肢には溢れんばかりの力強さを感じさせるので、これは私のテイムしたクリアやセレネとはまた別のタイプに見えます。
「その子はなんて名前なのですか?」
「名前はフェルだ。種族がフェンリルというものらしいから、そこからとった」
ふむふむ、フェンリルですか。確か、現実世界での北欧神話に登場する巨大な狼の怪物、でしたっけ。だとしても、こちらと違う要素もあるでしょうし、参考程度にどんな戦闘スタイルかを聞いてみましょう。
「フェルちゃん?くん?は、どんな感じに戦うのです?」
「くんだな。男みたいだから。っと、それはいいとして、こいつは基本的にレアと似たようにスピードを活かし、氷魔法とその爪や牙などで戦うスタイルだな」
男の子のようですし、これからはくん呼びで良さそうです。
そして戦闘スタイルに関しては、狼に変身したクリアと似たようなものらしいですね。それにスピードタイプなのに氷魔法まで扱うのなら、かなり万能タイプな子と感じれます。
私の子たちの場合はそれぞれの能力が変身と魔法といった具合に別れていますし、一人でなんでもこなせそうなフェルくんは強さ的にはクリアやセレネよりよ上かもしれませんね?
まあ強さだけがテイムモンスターの魅力ではないので、全然気にしてはいませんけどねっ!それとこれからはよく対面するかもしれませんし、ここいらでクリアとセレネにもフェルくんとの顔合わせをしておきますか。
「クリア、セレネ、来てください」
「……!」
「キュゥ!」
私はクオンに続くように荒地を歩きながら二人を呼び出しましたが、二人はすぐさま私の首と肩に移ったので少しだけ苦笑してしまいます。
「クリア、セレネ、この子は私たちの友人の子ですよ!」
「……!」
「キュッ!」
「ウォフ」
そんな二人に向けて放った私の言葉を聞いたクリアとセレネは、私のそばから離れずにそうフェルくんへと挨拶をしており、フェルくんもそれに返事をしてくれました。
二人もどうやら仲間とわかっているらしいですが、それでもそこまで意識は向けていないようで、特にそちらを気にせずに私へと擦り寄ってきています。
あはは……少しは仲良くしてほしいと感じてましたけど、これはどうなんでしょうね…?クオンもその反応を見て苦笑しつつ、フェルくんを撫でていますし。
…まあここから協力しながらの戦闘などを経験すれば、自ずと関係は深まる……といいですね。
「んじゃ、紹介も済んだことだし、ここからは一緒にモンスターを狩りながら火山地帯へと向かおうか」
「そうですね!」
「……!」
「キュゥ!」
「ウォン」
ここまでの道中では街に近いのも相まって特に襲いかかってくるモンスターもいませんでしたが、そうした会話をしているうちにポツポツと襲ってくるモンスターを見かけるようになったので、ここからは気合いを入れないとですね!
クリアとセレネ、そしてクオンのテイムしているフェルくんもここにいますし、この辺りのモンスターなら苦戦はまずしないとは思いますが油断は禁物です。
前にも見かけたことのあるストーンホッパーの群れもいるでしょうし、こちらの数がその時よりも多いとしても面倒くさいことになると感じますしね。
そうして荒地内のモンスターを皆で協力しながら倒しつつ火山地帯を目指して歩いていると、ふと私の感知スキルに何やら反応が現れました。
この感覚からして……隠蔽されている魔力、ですかね…?
「クオン、何か隠れているものを見つけました」
「隠れているもの、か?」
「はい。反応からしてモンスターではないとは思いますけど…」
私はクオンたちを案内するかの如く反応のあった方へと向かいますが、その反応があった場所の目の前に着くと、すぐにそれの正体がわかりました。
「これは……空間の狭間、ですか…?」
そう、それの正体は巧妙に隠されていた空中に出来た傷跡のようなものである……つまり、前にアリスさんたちと見たことのある空間の狭間だったのです。
しかし、あの時とは違ってこちらの空間の狭間からは特に嫌な雰囲気を感じないので、もしかすると悪いものではないのかもしれませんけど。
「…とりあえず、入ってみますか?」
「だ、大丈夫なのか?」
「前にアリスさんたちとも入ったこともありますし、これはどうかはわかりませんがおそらくは大丈夫だとは思います」
「そうか……なら、行ってみるか」
私たちはそのままテイムモンスターである三匹を連れながら空間の狭間へと入っていきますが、そこを超えるとすぐに景色が変化して、私たちの視界には奥まで続いているであろう白黒をしたお城のような通路が広がっていました。
見た限りでも感知系のスキルからしても特にモンスターはいないようですけど、ここはどこでしょうか…?
アリスさんたちと行ったあそことはだいぶ違う見た目ですし、嫌な雰囲気も感じないので大丈夫そうではありそうですけど…
「ここはどこなんだ?」
「…わかりません。ですが、モンスターの反応はありませんし、このまま奥へと向かいませんか?」
「…そうだな、このままここで足踏みをしていても意味がないし、行くか」
そう言ってクオンとフェルくんは歩いて行くので、私もセレネとクリアを連れて着いていきます。
「それにしても、なんだか不思議な空間だな」
「そうですね……なんというか、神殿のようにも見えます」
私たちはそんな会話をしながら歩いていますが、通路が奥へ続いているだけで特にこれといったものも発見しないので少しだけ気が緩んでしまいます。
それにクオンと私の呟いた通り、この通路は今までに見てきたものとは違うようにも感じるので、なんだか新鮮味があって慣れません。
それでも、モンスターなどは確認出来ないですし、元の場所に戻ることも出来ないので進むしかありませんけどね。
「お、レア。何か見えてきたぞ」
「…あれは、扉でしょうか?」
そこからもクオンと言葉を交わしながら通路らしき空間を歩いていると、いつのまにか最奥まで着いていたようで一つの扉の前へと辿り着きました。
この扉は真っ黒な見た目に金と銀の装飾をされており、三メートルくらいはありそうなほどの大きさをしています。
なんというか、怪しさがマックスですけど……ここに入るしか道はないのでいきますか…!
「クオン、入ってみましょう!」
「そうだな」
「キュッ!」
「……!」
「ウォン!」
セレネにクリア、フェルくんも賛成のようですし、では…!
そして私はその扉を押し開けようとしましたが、扉は思いの外軽かったようで簡単に開くことができ、私たちはそのまま中へと入っていきます。
すると、中に入ってすぐに目についたのはこの空間の中央にあるの思われる巨大な水晶でした。
巨大な水晶の中には、何やら無数の光のようなものが宿っているようで、ここの入り口からでもその存在感がハッキリと感じ取れます。
ここは、一体どんな場所なのでしょうか?目立っているのはこの水晶だけですけど、周りも白黒をしたお城のような見た目の内装となっていますし、何か特別な場所のようにも感じれますけど…
「待ってましたよ、レアちゃん、それにクオンも」
「誰だ!」
そのタイミングで突如私たちへとかけられた男性の声に、クオンは咄嗟に自身の武器である黒色の片手剣を取り出しますが、私はこの声は聞き覚えがあります。確か…
「クロノスさん、ですか?」
「…知っているのか?」
私のあげた声にクオンがそのように反応を返してきましたが、私はそれに頷きます。
聞いたことがあるのはたった一度だけですけど、それでも特殊エリアでのクエストだったので意外と鮮明に覚えています。
それに、特殊な住人のことなので忘れることはなかったうえにいずれ会いたいとも思っていましたが、この空間の狭間で出会うことが出来たのには少しだけ驚きはしましたけどね。
そんな私の反応を見たその声の主であるクロノスさんは、そうですよ、と返事をしてくれたと思ったら、突然巨大な水晶の目の前に黒色と白色の光が集まった次の瞬間。
その場所に白と黒の混じった肩まである髪に銀色の瞳をした、身長170cm後半くらいであろうイケメンの男性が現れました。
この男性は、おそらくはクロノスさんだとは思いますけど、こうして姿を見ることが出来たのは初めてですね?
しかも神様というだけあってかなりの美形なので、私がクオンと出会っていなければ惚れていた可能性もありそうです。まあクオンよりは魅力的ではないので、そんなことはありませんが!
「こうして対面するのは初めてですね。改めて、私はクロノス。時と空間を司る古神です」
「私は異邦人のレアです!で、こちらが私のこ、恋人でもあるクオンですっ!」
「初めまして、クオンです」
「おや、恋人だったのですか。お幸せに」
そう私たちは互いに挨拶を済ました後、私はクロノスさんに何故ここにいるのかを聞いてみると、隠すことでもないようで簡単に教えてくれました。
「実は、レアちゃんを招くためにあそこに空間の狭間を作ったのですよ」
「クロノスさんは、空間の狭間を作れるのですか!」
「これでも空間を司ってますし、このくらいは余裕ですよ。そしてレアちゃんたちを招いた理由なのですが、それはとても簡単で、神様について教えたいと思っていたからです」
空間の狭間をクロノスさんが作って私たちを招いてきたのには驚きましたが、それだけではなくまさかの神様に関することを教えてくれるとは思いませんでした…!
そのうえ、わざわざ招くということさそれだけ重要な情報なのでしょう。なら、しっかりと話を聞かなくてはですね…!
「…それ、俺が聞いても大丈夫なんですか?」
「レアの恋人なのでしょう?それなら無関係の人でもありませんし、問題はないですよ」
クオンの疑問ももっともですが、クロノスさんはそれに関しては特に気にしていないようなので、このまま二人でしっかりと聞くとしましょうか。
「では、手始めにこの世界の過去について教えるとしましょうか」
世界の過去、これはクロノスさんと初めて会話をした時に聞いていた情報ですね。あの時はまだ話せない様子ではありましたが、今の段階なら話しても良いみたいなのでしっかりと聞いておきましょう!
「この世界の過去は、まず四個の時代に分かれており、一つ目が我々の神が直接見守り、人が暮らしていた神代期。二つ目が邪神が暴れて傷跡の残って無数の神々が眠りについた世界の暗黒期、三つ目が邪神による傷跡がある程度消えて世界が癒えたのが黎明期、そして最後の四つ目が、再び出た邪神を神の加護を受けた四英雄が対峙してからの今である最盛期となっているのです」
ふむふむ、話が長くてちょっとだけわかりづらいですけど、とりあえずはこの世界には四つの時代があったみたいですね。
話を聞く限りでは今は最盛期という時代のようですけど、それよりももっと気になることがあります。
「…その邪神は、やはりまだ生きているのですか?」
話を聞いた後にそうクロノスさんへと聞いてみると、クロノスさんはその表情に真剣さを浴びさせつつ答えてくれます。
「そうです。レアちゃんも知っての通り、その神……邪神は今もこの世界を狙っているのですよ」
あれ、何故私がそれを知っているとわかっているのでしょうか?私はクロノスさんと会話をするのはこれが二度目ですけど、それまでに本などで見てきたのは知らないはずですが…
「ああ、それはですね、私はここ神域からちょくちょくレアちゃんを見させてもらっていたのです」
表情に疑問が浮かんでいたのか、クロノスさんはそう言葉を続けてきました。
道理でそのことなどを知られているのですね…!というか、プライバシーがないのですけど…!?…まあ神様なんですし、そのことは一切気にしていないのでしょうね。
…ということは、私がこれまでに集めてきた情報の中で聞いておきたいと思っていることも知られていそうですね?
「そしてその邪神は、神代期の時に一度神々と生み出された全人類で協力してなんとか封印に成功はしていたのです」
「ですが、今もいるんですよね?」
クオンの発した疑問にクロノスさんは重々しく頷いた後、さらに言葉を続けます。
「そうです。邪神はその神代期の後の最盛期に封印が解けて再び現れ、そこでは四英雄であるアーサー、ソロモン、カタリナ、アリババの四人に倒され、一度撃退に成功しています。が、倒し切ることが出来ず、その影響でワールドモンスターも生まれてしまいました。ここまではいいですよね?」
「はい」
ワールドモンスターが生まれた原因については、精霊王のルルリシアさんからの情報や読んできた本などで知っているので、それは聞かなくてもすでに既存の情報であるため大丈夫です。
しかしその語ってくれた内容からして、前にも思った通り絵本の邪神と同一人物なうえ、四英雄という人たちも実際に存在する人たちだったみたいですね?これに関しては初耳でしたが、それでも納得は出来ます。
…まあそれは一度おいといて、今はクロノスさんから邪神とやらの詳しい情報を聞くのが先決です…!
「そして今から話す邪神についてですが……未だに生き延びているその神は、元は私たちの仲間であった存在だったのです」
…まさか、邪神の正体がクロノスさんたちの仲間だったとは思いませんでした。
私の予測では、別の世界から侵略しにきた邪悪なる神様だとは思ってましたが、予測が外れてしまいましたね。
しかもこの世界での神様だったのにこうして世界を狙っているなんて、一体何が目的なのでしょうか…?
「…クロノスさん、その神様は何が目的でこの世界を狙っているのですか?」
それを聞いたクオンもその顔に驚きを表しつつもクロノスさんへとそう問いかけていますが、それは私も気になります!
明らかに何か目的があって世界を狙っているのでしょうし、その邪神が生み出したとされる邪悪なる断片や欠片など、未だにわかっていないことが多いのでキチンと情報として知りたくもあるので!
「そうですね……それを語る前に、まずはその邪神の過去を話したほうが良さそうですね」
「邪神の過去、ですか…?」
私とクオンはそのような疑問を浮かべながら口にしますが、それに対してクロノスさんは悲しさか後悔か、はたまた怒りか懺悔の気持ちなのかはわかりませんが、そのような気持ちをぐちゃぐちゃに混ぜたような表情をしつつ教えてくれます。
「その邪神は私と同じ古神の一人で、私と一緒に世界を見守っていたのです」




