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143話 夏祭り 悠斗視点

「じゃあ、行ってくるな」

「いってらっしゃい!気をつけるのよ!」


 俺はその言葉と共に家の扉を開けて外に出る。今日は待ちに待っていた美幸との夏祭りだ。


 すでに夏祭りの時間割は把握しているので何もないとよいが、美幸のことだから何かあったりする可能性もあるのでわその時はその時だな。


「それにしても、夜に近くなるとこの季節でも意外と過ごしやすいな」


 俺の姿は普段着である白色の半袖シャツに黒色のショートパンツの見た目なので、それのおかげかもしれないがな。


 まあそれはいいとして、さっさと美幸を迎えに行かないと。


 そんな考えをしつつも美幸の家までの道のりを歩いていると、すぐに一人の少女の姿がこちらへと歩いてくるのを発見する。


「…お、美幸か」

「あ、悠斗!」


 俺のかけた声に美幸は嬉しそうな様子でこちらへと向かってきているが、俺はその姿に少しだけ驚いてしまう。何故なら…


「…美幸は浴衣なんだな」

「そうなんですよ。どうです、似合ってますか?」

「ああ、凄く似合っているぞ」


 美幸は、黒をメインに白色の百合があしらわれた可愛らしい浴衣を着ていたのだ。美幸はいい意味で日本人離れした真っ白な髪に黄金の瞳をしているが、それでもその浴衣は美幸と相性が抜群のようでとても似合っている。


 しかも薄くではあるがメイクまでしているようで、ほんのりと色のついた唇に頬など、それらのおかげでいつもよりも色っぽく感じてしまう。


 いつもは腰まである長さの髪までキチンと纏めるようにセットしているらしく、チラリと見えている首筋にも視線が吸い寄せられてしまっている。


 続けて美幸からの感想も聞かれたが、流石の俺もその姿に見惚れてしまって思わずぶっきらぼうな様子で褒めてしまった。


 …やはり、美幸はとても可愛らしいな。


 美幸は気づいていないようだが、学校内ですら同級生だけではなく上級生にすら惚れられているようで、俺はいつもそれを見てひやひやしていたのだ。


「ふふ、悠斗に褒められちゃいました!」


 美幸は俺の感想を聞き、そのように言葉を発しながらこちらへとニコニコとした表情を浮かべている。


 俺はそれを見て、美幸は過去を乗り越えられたのだろうと感じる。


 アレが解決するまでは、ここまで自然な笑みを浮かべることはなかったのだ。なら、これはいい調子だ。


 今までは美幸の過去があったせいであまり意識をしない様にしていたが、ここから先なら問題はなさそうだろうか。この状態なら俺の気持ちも伝えても良いだろうが、今すぐに伝えるのはダメだ。伝えるなら、この夏祭りの最中で、だな。


「…それじゃ、行くか」

「ですね!」


 とりあえず、ここで口しゃべってないでさっさと夏祭り会場に行くとするか。まずは、お祭りを楽しまなくてはな。




「おお、結構賑わっているのですね!」

「人が多いようだな」


 そうして夏祭り会場へと向かった俺たちだったが、会場にはたくさんの人がいるようでなかなか賑わっているのが確認出来た。


 こんなに人がいたら、身長の小さな美幸は逸れてしまいそうだな?


「…ゆ、悠斗、もしよければ手を…繋ぎませんか?」

「ん?構わないぞ、ほら」

「あ…」


 そのような思考をしていると、美幸から手を繋ぎたいとの申し出をされたので、俺は躊躇なく美幸の手を取った。


 …手を繋ぐなんて少しだけ恥ずかしいが、俺からもしたいという考えもあったのでな。


 それに美幸は普段とは違って浴衣姿だからかいつもよりも可愛く感じてしまっており、流石に恥ずかしさが顔に出てしまいそうなので、俺は一度美幸のことを意識しないようにしてそのまま声をかけることにした。


「じゃあ、まずは屋台でも巡るか?」

「…そうですね」


 俺のその言葉を聞いて美幸も賛成のようだし、早速お祭りを楽しむとするか。




「おじさん、アメリカンドッグ一つくれ」

「あいよ!」


 そこからは美幸がりんご飴を買って食べ、俺はその後すぐに見かけたアメリカンドッグを売っている屋台に手を繋ぎながら一緒に行き、そのまま買って食べる。


 うむ、やはりお祭りといえばこれだよな。ケチャップとマスタードの味がいい塩梅でかなり美味い。


 俺がパクパクとアメリカンドッグを食べ進めていると、ふと美幸からの視線を感じ、アメリカンドッグを少しだけ揺らしてみると視線がそれに釣られているため、美幸も食べたそうらしいな。


 なら、口をつけたもので申し訳ないが一口いるかを聞いてみるか。


「美幸も一口いるか?」


 俺の言葉を聞いた美幸はその顔に僅かな驚きと好奇心の混じったような表情を浮かべ、言葉を返してくる。


「い、いいんですか?」

「ああ、構わないぞ」


 まあ口のつけたものだがな。それに美幸くらいなら一口で全部食べることはまずないだろうし、このくらいは問題もないしな。


 その言葉に美幸は少しだけ頬を赤く染めつつ、俺の差し出したアメリカンドッグに口をつけて一口分食べたが、このタイミングで俺は気づいた。


 …これ、間接キスじゃね?


 美幸の浮かべている表情からも、俺と同じ考えに辿り着いていたのがわかる。だ、だが美幸がどう思っているかもわからないし、表情に浮かばせないようにしないとな…!


「どうだ?」

「…お、美味しいです」

「そうか」


 美幸はそんな言葉を返してきたが、間接キスだとしても美味しいのならそれでいいか。


 とりあえず、これはさっさと食べてしまおう。流石にそのことを意識しては俺の顔まで赤くなるし、気にしないで、だがな。…少しは表情に浮かんでいる可能先もあるが。


 …お、いいものを見つけた。


「美幸、次はあそこに行かないか?」

「あ、どれですか?」


 俺はアメリカンドッグを食べ終わったタイミングで見つけた一つの屋台を示すと、美幸はそれに釣られるように視線を向ける。


「射的ですか!いいですね、いきましょう!」

「ああ!」


 その屋台はお祭りでは鉄板である射的の屋台だし、美幸も得意そうなので早速行くとするか。


 …それにしても、美幸はあの過去があったばかりのころはコルク銃とはいえ銃の形をしているものにも恐怖を感じていたが、今はそれもないうえに楽しげにコルク銃を選んでいるし、やはり俺の行動は間違いではなかったのだろう。


「悠斗!ここは勝負といきましょう!負けた方は勝った方のお願いを一つだけなんでも聞く、っでどうでしょうか!」

「お、いいな、それ。俺も負けないぞ!おじさん、俺の分も頼む」

「あいよ!二人とも頑張りなよ!」


 しかもちょうど美幸から射的での勝負をふっかけられたので、俺はもちろんそれを受けることにした。


 美幸はゲーム内ではよく銃を触っているが、ここは現実だ。なら、それで生じる誤差に慣れる前に決めるとしよう!


 俺は美幸に続くように屋台のおじさんに代金を渡してコルク銃を手に取る。


 うむ、実に普通のタイプだ。なら、これをこうすれば…!


「お、兄ちゃんは上手いな?」

「え、もう倒したのですか!?」


 俺は一発目で早速景品の一つであるお菓子を倒すと、そのまま次々とコルク銃で景品を撃ち抜いて倒していく。


 そんな俺に負けじと美幸はコルク銃を構えて景品へと撃つが、それは見当違いな方向に飛んでいくことで外れてしまっている。


 はは、やっぱり美幸は現実世界で、しかもコルク銃となると扱い切ることは出来ないみたいだな。


 そこからも俺たちは景品に向けてコルク銃を撃ち続けるが、結局美幸は景品を一つしか倒すことが出来ず、勝負は俺の勝ちとなった。


「…さて、結果は俺の勝ちだな」

「うう、何故です…」


 美幸は勝負に負けてしまったせいで少しだけしょんぼりとしているが、それに加えて今回は互いのお願いもあったせいで負けたのは悔しそうだ。


 一体何を頼む気だったのだろうな?


「はは、お嬢ちゃんも元気を出せよ?」

「むう、すでに結果は出てしまいましたし、仕方ないですね」


 屋台のおじさんからの言葉を聞き、美幸はすぐに立ち直っているみたいだ。なら、そこに水を差すようで悪いが早速勝者に与えられた権利を使わせてもらうとしよう。


「じゃあ美幸、早速お願いをさせてもらおうかな」

「…いいですよ、どんとこいです…!」


 今からするお願いについて少しだけ不安そうにしつつも、聞く姿勢には移っているので俺は早速言うことにする。


 だが、俺のお願いは至極単純だ。


「俺のお願いは、美幸、お前ともっと夏祭りを楽しみたいことだ」

「…それが、お願いなのですか?」


 俺のお願いを聞いて目をパチクリさせている様子の美幸。まあこのくらいならお願いするほどでもないかもしれないが、それでも俺は美幸ともっと一緒にいたいからな。


「…そのくらいなら、こちらからもお願いしたいくらいですよ!そんなお願いでいいのですか?」

「ああ、これといった要求もないしな」


 美幸も当然の如く受けてくれたので、俺はちょっとだけ安心してしまった。


 俺の今叶えたい願いは、美幸ともっと仲良くなってあわよくば恋人になりたいというものなので、これ以外の願いはなかったんだよな。


 それに、美幸に対しても俺に向けて悪い感情を抱いているようには見えないし、この機会に進展があるといいが…


 っと、それはいいとして、お祭りの散策を続けるとしようか。まだ時間はあるしな。


「じゃあ、そろそろ他のところにも行くか」

「そうですね。おじさまも、楽しかったです!」

「おう!まだまだ祭りは続くから、楽しんでこいよ!」


 俺たちは屋台のおじさんの声を聞きつつ、屋台から離れていき再びお祭りを楽しむことにした。




「…そろそろ花火の時間になるな」


 そうして美幸と共に色々な屋台を巡って楽しんでいると、いつのまにか花火の始まる時間に近くなっていたので俺はそう呟いた。


「あ、もうそんな時間ですか!」


 美幸もそれを聞いてすぐに行きたそうな様子を出しているので、俺はフッと軽い笑みを浮かべながら美幸に言葉を返す。


 花火会場の場所はすでに把握はしているので、早速向かうとするか。


「じゃあそろそろ花火会場まで行こうか」

「わかりました!」


 俺の言葉に美幸も頷いてくれたので、俺たちはそのまま今いる夏祭り会場かや花火会場へと向かう。


 が、花火会場には大勢の人が集まっているらしく、かなり見づらいうえに今も手を繋いでいないと美幸と逸れてしまいそうだ。


 …これは、ちょっと窮屈だな。…花火会場はここだし、もしかしたらあそこなら良さそうか?


「人が多いですね…」

「そうだな……なら、あそこが良さそうだろうか。美幸、着いてきてくれ」

「ん、どこに行くのですか?」


 俺は一度美幸に声をかけてからその手を引きつつ花火会場から出ていくが、流石に不思議に思ったようでそのように聞いてきた。なので俺は少しだけ考えた後に、いいところだ、と返した。


 俺の言葉に美幸は首を傾げているが、今から行くところは絶好のポイントだからきっと美幸も納得してくれるはずだ。


「美幸、大丈夫か?」

「ふぅ…一体どこに行く気なのですか?流石にそろそろ教えてほしいのですけど…」


 そんな言葉を交わしたところから夏祭り会場にある神社への階段を登っている今の状況を見て、流石の美幸も疲れた様子でそのように問いかけてきた。


 なので俺は申し訳なさそうにしつつも、それに素直に答えることにした。


「悪い、美幸。今向かっているところは、多分花火が良く見えるポイントなうえに人もいないだろう場所なんだ」

「…なるほど、道理でここまで来たのですか」


 美幸は俺の言葉を聞いて納得したようで、疲れた様子を見せてはいるが気合を入れ直しているのがわかる。


 ….しかし、美幸みたいな女の子に暑い中階段を登らせるなんて、ちょっと悪いことをしてしまったな?


「後もう少しだから、大丈夫そうか?」

「大丈夫です!それなら、すぐに行きましょうか!」

「ふっ、そうだな」


 美幸も大丈夫そうだし、心配はしてしまうがさっさと向かうことにするか。花火まで時間はあるとはいえ、余裕を持って行動をしたいしな。


 そこからも俺たちは階段を登っていき、途中で神社からも逸れるように美幸の手を引きながら歩き続け、目的地である開けた広場へと辿り着いた。


「着いたぞ、ここだ」

「確かに、ここならよく見えそうですね!」


 美幸もこの広場を見て良いポイントだとわかったらしく、そのように声をあげている。喜んでくれているようなので、よかったよかった。


 とりあえず、花火はまだのようだしここで待つとするか。


「悠斗、よくこんな良い場所を知っていましたね?」


 広場にあったベンチに座って花火が始まるのを待っていると、ふとそのように美幸から声をかけられた。なので俺は、軽く苦笑しつうもそれに答える。


「たまたまだがな。昔、一人でここの神社まできた時に偶然ここを見つけてな、それをちょうど思い出したんだ」

「それで助かっていますし、ありがとうございます」

「そのくらいは気にするな」


 偶然この場所を思い出したからここに寄ったが、本当によく思い出したよな。ここに来てなければあの人混みの中で花火を見ることになっていただろうし、ナイス判断だとは自分でも思う。


 そうした言葉を交わしていると、ふと大きな音が聞こえたので二人揃ってそちらに視線を向けると、そこには夜空を彩るかのように多数の花火が打ち上がっているところだった。


「綺麗ですね…」

「ああ…」


 俺たちは二人で手を繋ぎながら花火を見ていたが、その中で俺はチラリと美幸の横顔を盗み見る。


 美幸はほんのりと頬を赤くしながらも、花火が咲き誇る夜空を眺めている。


 …やっぱり、俺は美幸が好きなようだ。


 盗み見ている美幸の表情に視線が移ってしまい、そのような思考が俺の頭に過ぎる。なら、俺たち以外に人もいなく、良い雰囲気が出て絶好な機会である今に、俺の方から告白をさせてもらおう…!


「美幸」


 俺は一度花火から視線をずらして美幸へと意識を向けて声をかけると、美幸も何やら顔を赤くしながらもこちらへと視線を送ってきたので、俺は顔を赤くしつつも一気に言葉を発する。


「俺は、お前が好きだ」

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