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142話 夏祭り

「…では、そろそろ行きますね」

「いってらっしゃい、美幸!頑張るのよ!」

「僕も応援しているからね」

「まあ、なんだ。頑張れよ」

「あはは……出来る限りは頑張るとします…!それじゃあ、行ってきます!」


 私は夏祭りに向けて浴衣の着付けをお母様にしてもらい、髪型についても浴衣に合うようにアップスタイルという頭の高い位置でまとめ、襟足を見せるようにアレンジした形にセットしてもらいました。


 そしてそこに合わせるように、お母様がシンプルな花の髪飾りも着けてくれましたし、メイクもほんのりとしてくれました。これなら悠斗にも少しは意識してもらえるでしょうか…


 心配は尽きないですけど、悩んでいないで行動に移りますか!お母様も当たって砕けろの精神が大事と言ってましたし、出来る限りは頑張ってみます…!


「とりあえず、悠斗と合流しないとですね」


 夏祭りは近所にあるようなので移動に時間はかからないでしょうし、先に合流してから向かいましょうか。


「…お、美幸か」

「あ、悠斗!」


 そう考えた後、私はすぐ近くにある悠斗の家へと向かっていると、悠斗も同じ考えだったのか家までの道中でばったりと出会いました。


 悠斗の格好はどうやら私と違って浴衣ではないようで、カジュアルな半袖シャツにショートパンツを合わせた姿のようですね。


 悠斗の浴衣姿を見れないのは残念ですが、それでも引き締まった身体をしているのでカジュアルな洋服でも結構似合っています!


「…美幸は浴衣なんだな」

「そうなんですよ。どうです、似合ってますか?」

「ああ、凄く似合っているぞ」


 私の言葉に悠斗はぶっきらぼうな様子で褒めてくれますが、その顔を少しだけ赤くしてますし、少しは意識してくれている……かもしれません。


 まあお祭り会場にはまだ行ってませんし、行ってからが本番です…!お父様は、男なんて少し甘えて可愛く見せればすぐに落ちるさ。それに悠斗なら、なおさらね。っとも言ってましたので、この機会に気持ちを伝えることはしたいですね!


「…それじゃ、行くか」

「ですね!」


 おっと、こんなところで喋ってないでそろそろ行きましょうか。確か、夏祭りをやっているのはここから少しだけ離れた神社の近くでしたっけ。それと花火もあるみたいですし、その時間になるまでに行かないと…!




「おお、結構賑わっているのですね!」

「人が多いようだな」


 そうして悠斗と出会った場所から数十分近く歩き続けていると、やっとお祭りの会場へと着きました。


 私や悠斗の口にしている通り、入り口付近からも人が多いのがわかるので、逸れないように気をつけないといけませんね!あ、そうだ!


「…ゆ、悠斗、もしよければ手を…繋ぎませんか?」

「ん?構わないぞ、ほら」

「あ…」


 私の言葉に一切の疑問を持っていないらしく、悠斗はすぐに自身の右手で私の左手を取ってきたので、私は自分から言ったのに恥ずかしくなって頬を赤く染めてしまいます。


 だ、だって躊躇なく手を繋いでくれましたし、そんなの恥ずかしいに決まっているじゃないですかっ!それに悠斗は特に気にしていないようで普段通りでもいますし…!


 …こんな気軽にしてくれるということは、そこまで意識してくれてはいない、のでしょうか…?…だとするなら、攻略難易度は凄く高いですよ、美幸…!


「じゃあ、まずは屋台でも巡るか?」

「…そうですね」


 そのような思考をしていると悠斗からそのように声をかけられたので、私はそれに賛同して一緒に屋台を巡っていきます。


 ひとまずこの思考は置いておくとして、せっかくのお祭りなんですし楽しまないとですね!


「おじさま、りんご飴一つください!」

「あいよ!」


 そこから私と悠斗は手を繋ぎながら、手始めにりんご飴の屋台へと寄って注文をします。


「お、お嬢ちゃんは彼氏を連れているのか!」

「か、彼氏ではないですよ…!…まあ将来的にはなりたいですが」


 屋台のおじさまの茶化すような言葉を聞き、私は思わずそう言い返してしまいます。


 ぼそっと呟いた言葉については聞かれていないようですけど、悠斗もそれを見て苦笑してますし、ちょっとだけ恥ずかしいのですけど…!…悪い気は感じないので、別にいいですけどっ。


「はむはむ……やっぱり甘味は美味しいですね!」

「はは、それならよかった。お、美幸、次はあそこに行ってみないか?」


 そんな気を紛らわすかのようにりんご飴を一生懸命に食べていた私に向けて、悠斗がそう言って一つの屋台を指差します。


 悠斗が指差したその屋台は、見たところ普通よりも少しだけ大きめのアメリカンドッグを売っている屋台のようでした。


 私的にはあまり興味が惹かれませんが、悠斗なら好みではあるようですし、そこに寄っていきますか。


「おじさん、アメリカンドッグ一つくれ」

「あいよ!」


 悠斗が屋台に寄ってそのように注文するやいなや、すぐに出来上がったようで代金と交換するように悠斗は受け取ります。


 普通よりも大きいですけど、味付けはシンプルにケチャップとマスタードだけのようなので意外と美味しそうですね…!うーん、でもこの大きさでは私一人ではこれだけでお腹いっぱいになるでしょうし、私も注文するのはやめておきますか。


「美幸も一口いるか?」


 そんな私に視線に気づいたからか、悠斗はその言葉と共に私の方へとアメリカンドッグを差し出してきました。


 こ、これは間接キスになってしまいますよね…?と、とはいえ味は気になるので一口だけもらってもよいのなら、食べさせてもらいましょうか…!


「い、いいんですか?」

「ああ、構わないぞ」


 悠斗もそう言ってますし、私は少しだけ遠慮気味にそれに口をつけて一口分もらいます。


 …しかし、間接キスのことに意識が向いていたせいで味については全然わかりませんでした…!


「どうだ?」

「…お、美味しいです」

「そうか」


 私の反応を聞いた悠斗はそう言ってアメリカンドッグをパクパクと食べ進めている様子を見て、私は少し……そう、ほんの少しだけではありますが悠斗に対してジトーっとした視線を送ってしまいます。


 むう、やはり悠斗との恋の道は険しいようです…!このお祭りの間にもっと私のことを意識してもらえるようにはなりたいですし、どうしましょうか。このままでは、私だけが恥ずかしくなってしまいます…!


 それでも、悠斗の顔を横からチラリと見つめてみると、なんだか頬を赤くしている様子が確認出来ましたが…


「美幸、次はあそこに行かないか?」

「あ、どれですか?」


 そんなタイミングで悠斗がふと声をあげて一つの屋台を指で示したので、そちらへと視線を向けると、そこはどうや射的を出来るもののようでした。


 なるほど、お祭りでは鉄板の屋台ですか。これなら、私の出番ですね!


「射的ですか!いいですね、いきましょう!」

「ああ!」


 私は悠斗の手を引っ張りながら射的の屋台へと向かい、そこでお金を払ってコルク銃を受け取った後に悠斗へと自信満々な表情で言葉を発します。


「悠斗!ここは勝負といきましょう!負けた方は勝った方のお願いを一つだけなんでも聞く、っでどうでしょうか!」

「お、いいな、それ。俺も負けないぞ!おじさん、俺の分も頼む」

「あいよ!二人とも頑張りなよ!」


 私のふっかけた勝負に悠斗も乗ってきてくれたようで、お金を払って私と同様にコルク銃を受け取っています。


 ふっふっふ、私はゲーム内とはいえ銃はたくさん触ってきているのです!この勝負、もらいましたよっ!




「…さて、結果は俺の勝ちだな」

「うう、何故です…」


 そうして射的での勝負をした私と悠斗でしたが、結果は悠斗の口にしている通りの結果でした。


 な、何故ですか…!私は今までに銃を触ってきていたのにー!悠斗も銃なんて触ったことは少ないはずなのに、私よりも上手いなんて…!


「はは、お嬢ちゃんも元気を出せよ?」

「むう、すでに結果は出てしまいましたし、仕方ないですね」


 屋台のおじさまからの言葉を聞き、私はしゅんとしていた気持ちを立ち直らせます。まあ悠斗なら私の嫌なことは頼んではこないと思いますし、勝負に負けた敗者はそれに従います…!


「じゃあ美幸、早速お願いをさせてもらおうかな」

「…いいですよ、どんとこいです…!」


 さて、いきなりお願いをしてくるみたいですが、どんなお願いでしょうか。出来ることなら、私の嫌なことではないといいのですが…


「それじゃあ、俺のお願いは…」


 悠斗はそう言って少しだけ溜めた後、口を開きます。


「美幸、お前ともっと夏祭りを楽しみたいことだ」

「…それが、お願いなのですか?」


 別にお願いされなくても、このくらいなら全然一緒に居させてもらいますけど……それに私自身も悠斗と一緒にいたいですし、わざわざお願いされなくても、逆にこちらから頼みたいくらいですよ!


 …悠斗らしいといえばらしいですが、もっと自分の要求を言ってもいいのですけどね。ま、まあ要求に素直になられて変なことをされたりとかは、流石に遠慮したいですが…!


「…そのくらいなら、こちらからもお願いしたいくらいですよ!そんなお願いでいいのですか?」

「ああ、これといった要求もないしな」


 本当に、悠斗は欲がありませんねぇ……それで満足しているのなら、私からは何も言いません。ですけど、流石にそれだけでは申し訳ありませんし、何か一つ屋台のご飯を奢るとしますか!


「じゃあ、そろそろ他のところにも行くか」

「そうですね。おじさまも、楽しかったです!」

「おう!まだまだ祭りは続くから、楽しんでこいよ!」


 そんなおじさまの声を背に聞きつつ、私と悠斗は再び夏祭り会場を散策していきます。



 

「…そろそろ花火の時間になるな」


 そこからも屋台を巡ってたこ焼きや焼きそば、かき氷などを買って食べ、ヨーヨー釣りや輪投げなどの遊びもやっていると、ふと悠斗がそう呟きます。


「あ、もうそんな時間ですか!」


 私は悠人のあげた声を聞き、そのように返します。どうやら悠斗はこのお祭りの予定をすでに把握しているみたいですし、それなら花火を見るための場所を確認しないとですね!


「じゃあそろそろ花火会場まで行こうか」

「わかりました!」


 悠斗の言葉に賛同の意思を示し、私は悠斗と一緒に手を繋ぎながら花火会場まで向かいます。…が、花火会場にはすでに大勢の人が集まっているようでちょっとだけ窮屈ですね…


「人が多いですね…」

「そうだな……なら、あそこが良さそうだろうか。美幸、着いてきてくれ」

「ん、どこに行くのですか?」


 私は何故か花火会場から出ようとしていた悠斗に向けて声をかけましたが、悠斗はそれを聞いてもいいところだ、と言葉を返してきており、目的地については教えてくれませんでした。


 んー、 もうすぐ花火が始まるでしょうし、流石にここまで来て帰るというわけではないと思うので着いていくとしますか。別に何か悪いことをしようとしているわけでもないでしょうしね。


 そんな思考をしつつも私は悠斗にも手を引かれるままに着いていきますが、悠斗は夏祭り会場にある神社への階段を登っていってますし、ちょっとだけ暑くもあるので辛いですね…


「美幸、大丈夫か?」

「ふぅ…一体どこに行く気なのですか?流石にそろそろ教えてほしいのですけど…」


 花火を見るはずなのに階段を登っている今の状況に、少しだけ疲れた様子を見せながら悠斗へと問いかけてみると、そんな私を見て少しだけ申し訳なくなったみたいで軽く謝ってからどこへゆくのかを答えてくれます。


 …しかし、最近はゲームばっかりで運動をあまりしていなかったせいで体力が落ちてますね。買い物や軽いストレッチなどはしてましたが、このままではお腹にもお肉が付きそうなので、運動をしないとです。


 っと、そんなことは置いといて悠斗の目的地を聞かないと。


「悪い、美幸。今向かっているところは、多分花火が良く見えるポイントなうえに人もいないだろう場所なんだ」

「…なるほど、道理でここまで来たのですか」


 悠斗は花火がよく見えるポイントとも言ってますし、これは期待させてもらっても良いのでしょうか?そ、それに人がいないのであれば悠斗と二人っきりにもなれますし、これはかなりのチャンスです…!頑張るんですよ、美幸!今が絶好の機会ですよ!


「後もう少しだから、大丈夫そうか?」

「大丈夫です!それなら、すぐに行きましょうか!」

「ふっ、そうだな」


 そこからも私は悠斗の案内に従って着いていくと、悠斗は階段を登りつつも神社からズレるように歩き続けており、しばらく歩くこと数十分で目的地らしき開けた場所に到着しました。


 人は一切いないですけど、ここが花火がよく見えるポイントなのでしょうか?この広場は神社があるところから近いところにあるおかげで夏祭り会場よりも高い場所となっているらしく、奥へと視線を向けると花火会場がよく見えるので間違いなさそうですね。


「着いたぞ、ここだ」

「確かに、ここならよく見えそうですね!」


 しかもここの広場にはベンチのようなものも置いてありますし、これは絶好のポイントに見えますね!


 花火会場を見る限りではあと少しで始まるというところのようなので、始まるまでは悠斗と待つことにしましょう。


「悠斗、よくこんな良い場所を知っていましたね?」


 私はそのタイミングで悠斗へとそう声をかけると、悠斗はそれに対してほんのりと苦笑した様子で言葉を返してきます。


「たまたまだがな。昔、一人でここの神社まできた時に偶然ここを見つけてな、それをちょうど思い出したんだ」


 ふむふむ、だからこんないい場所を知っていたのですね。もしそれがなければ、私たちは人の多い場所で見ることになっていたようですし、これはありがたいですね!


「それで助かっていますし、ありがとうございます」

「そのくらいは気にするな」


 そうした会話をしていると、突如聞こえてきた音に私たちは揃って視線を空へと向けます。


 すると、そこには夜空に輝く無数の花火が打ち上げられているところでした。


「綺麗ですね…」

「ああ…」


 花火は円や花、動物などの様々な形を表すかのように、夜空に咲き続けています。


 私と悠斗はそれをじっと見つめながらそう呟きましたが、やはり花火はとても綺麗で、見ていて癒されます。


 花火を見るのは結構久しぶりですが、やはりいいものですね!それに、今は私の一番大切な人と言っても過言ではない悠斗がそばにいますし、私は繋いだままだった手をギュッと力を入れてしまいます。


「美幸」


 すると、悠斗が突如声をかけてきたので、私は花火の咲き誇る夜空から一度視線を悠斗へと向けると、悠斗は少しだけ顔を赤くしながらこちらへと顔を向けつつ言葉を発してきます。


「俺は、お前が好きだ」

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