140話 屋台
「味噌串餅一つくれ!」
「俺は醤油を一つ、いや二ついいか!」
「大丈夫ですよ!」
そうして色々と街で買い揃えてきた私はさっそく屋台をやっているのですが、今も注文を受けている通りなかなか賑わっています。
そばにいるセレネとクリアを可愛いと思い寄ってくれた女性プレイヤーも多めにいるため、そういう人たちには甘い系であるみたらしやきなこがよく売れていて、かなり儲かっていますよ!
「【時空姫】の手料理なんて、これは売れるだろうな!」
「そう言ってもらえるとこちらも嬉しいです!はい、これが味噌味の串餅と醤油味の串餅です!」
「お、待ってました!」
「きたきた!ありがとな、【時空姫】!」
今回の屋台では串餅という、現実世界の青森県南部地方を中心に食べられている郷土料理を作っていますが、味噌や醤油はもちろんのこと、みたらしやきなこも用意しているのでプレイヤーからの人気はとても高いみたいなのですよね。
まあ日本人からしたら馴染みのある味ではありますし、売っていたら食べたくなりそうなのは私もわかりますが。
「あれ、レアさん?」
「あ、アリスさん!」
そうして串餅を作っては売り作っては売りを繰り返していると、ふと聞き慣れた声が聞こえてきたのでそちらに視線を向けてみると、そこにはアリスさんが歩いているところでした。
「レアさん、料理を売っているのですか?」
「そうなんですよ!よければアリスさんもどうですか?もちろん、お代はいただきますけどね!」
私はその間にも買いに来ている他のプレイヤーにも売りつつそう声をかけてみますが、アリスさんは少しだけ考えた後に、なら買わせてもらうのです!と返してきました。
味もみたらしにするみたいなので、早速用意しちゃいましょうか!
「はい、出来ましたよ!」
「ありがとうございます!では、いただきます!」
特に時間もかからずにみたらしの串餅ができ、それを受け取ったアリスさんはそのまますぐそこで食べ始めているので、私はそちらは気にしないで次々と来るお客さんへと串餅を売り続けます。
「んー!美味しいのです!」
「ふふ、それならよかったです!」
アリスさんはみたらしの串餅を食べてそのように喜んでくれているみたいなので、作り手としてもとても嬉しくなっちゃいますね!
こんだけ幸せそうに食べてくれれば、作った甲斐があるというもんですよ!
「いやー、美味しかったのです!もしよければ他にも買ってもいいですか?」
「もちろん構いませんよ!何にしますか?」
「そうですね……なら、味噌と醤油を一つずつお願いします!」
「わかりました!ちょっとだけ待っていてくださいね!」
アリスさんから受けた注文を手早く作り、お金と交換するように渡します。
串餅はすぐに作れますし、味付けも難しくなく時間はかからずに出来るのでそこまで待たせてはいないはずです…!
「ありがとうございます!」
そして味噌の醤油の二つを受け取ったアリスさんは今ここで食べるわけではないようで、インベントリに仕舞っています。
こうしてインベントリに仕舞っていても腐ることはないので、相変わらず便利ですよね。この世界の住人がこれを真似るのも無理はありません。
「じゃあレアさん、私はそろそろ行くのです!」
「あ、わかりました!また会いましょう!」
そんな言葉と共にアリスさんは私のいる屋台から去っていくので、私はそれを見送りつつもちまちまと寄ってきてくれるプレイヤーたちへとまたもや串餅を売り続けます。
初めは売れるか不安でしたが、意外にもプレイヤーたちが寄ってきてくれているおかげでなかなか繁盛していて良い感じですね!
ですが、こうして売れ過ぎていけば私の用意した材料も底をつきそうではありますし、ずっと売っているのは厳しそうではありますが。
「あ、本当にやってる!」
「まあレアの料理は美味しいからね」
「ソフィアさんにネーヴェさん!」
そうして串餅を売り続けていると、再び私のフレンドであるソフィアさんとネーヴェさんの二人組が屋台をやっている私の元へと歩いてきました。
「お二人はどうしてここに?」
「さっきアリスから聞いてね。それで寄らせてもらったわ」
「それに美味しいからとおすすめもされたからね!」
ふむふむ、アリスさんから聞いてここにやってきた、というわけでしたか。それなら、二人からも注文を受けて作るとしましょうか。
「では、二人は何味にしますか?」
「そうね、なら私は味噌でお願いするわ」
「私は醤油で!」
「わかりました、少しだけ待っていてくださいね!」
そう言った後に私はすぐさま作り始め、すぐに出来上がったそれにそれぞれ味噌と醤油を塗って完成したそれを二人へと手渡します。
それと同時に代金もしっかりと受け取ったので、私は二人の他にもいるプレイヤーからの注文も作っていきます。
「あら、なかなか美味しいわね?」
「うまうまだよー!」
どうやらお二人の口にもあったらしく美味しそうに食べてくれているので、やはり作り手としてとても嬉しくなりますね!
「ご馳走様でした。じゃあレア、また今度狩りにでも行きましょうね?」
「またね、レアちゃん!」
「はい!その時はまた…!」
ソフィアさんとネーヴェさんの二人は食べ終わった後にそう言って去っていくので、私はそれを見送りながらさらに串餅を作っていきます。
フレンドであるアリスさんたち以外にも、意外とプレイヤーが私の屋台へと寄ってきているおかげでなかなか売れてますが、そろそろ店じまいをしたほうが良いかもしれませんね?
材料はまだあるとはいえ、私個人として使いたい分がなくなってしまいそうですからね。
「…よし、この辺で終わりとしましょうか」
「キュッ!」
「……!」
私はお客さんであった女性プレイヤーが去っていき、人が途切れたタイミングで屋台の片付けを始めます。
串餅の一つ一つの値段は低めでしたが、その分たくさん売れたのでなかなかのお金が手に入りましたし、【料理】スキルも進化まで漕ぎ着けることが出来て【料理人】スキルまで上げることが出来ました。
それに食材を冷やしたり凍らせたり出来る〈冷却〉というアーツを【料理】スキルが三十の時に、【料理人】へと進化後に覚えた作った料理にバフをつけることが出来るようになる〈魔法調理〉など、実に使い勝手の良さそうなアーツも獲得したのでなかなかいい成果でしたね!
「…屋台は【料理】系のスキルのレベル上げにはなかなか良さげみたいですし、これからもたまにやるとしますか」
私は屋台の片付けをしながらそう呟きますが、お金にもなるのでたまに屋台を開くのも悪くはなさそうです。
「…すみません、ちょっといいですか?」
「はい、なんですか?」
屋台を畳むことで片付けた私は、その場を離れようとしたタイミングでそのような男性の声が聞こえてきたのでそちらへと振り向くと、そこには黒髪黒目でメガネをかけている男性プレイヤーが立っていました。
私に対して何か用事があるように感じますが、一体なんでしょうか…?
「【時空姫】ですよね?」
「…ちょっとだけ恥ずかしいですけど、そうです。私に何か…?」
「私は検証班クラン梟の瞳のリーダーをしているイブーと申します。それで本題なのですが、もしかして【時空姫】はワールドモンスターについて何か知っていたりしますか?」
…なるほど、検証班というだけあってワールドモンスターについて知りたいのですね。んー…まあ別に秘密にしないといけないわけではないですし、情報として伝えるのは問題ないですか。なら、私の知っている範囲で教えるとしますか。
「…ふむ、七体のワールドモンスターにとある神の使徒、そして神の悪心ですか…」
私は今までの攻略によって知り得た情報を、目の前にいる男性プレイヤーであるイブーさんへと伝えました。
私からの情報を聞いたイブーさんは何やら難しそうな表情を浮かべながら考えている様子ですが、別にそこまで深くは考えなくても良いかもしれませんよ?
だって、今すぐにそのワールドモンスターや神と対面するわけではないですし、いずれ相見えるといってもそれはもっと先でしょうしね。
「…とりあえず、情報ありがとうございます。これは広めても?」
「大丈夫ですよ。それに、検証班というイブーさんたちにも期待してますから!」
「そう言われると、こちらとしても気合いを入れないとですね。まあともかく、ありがとうございました。聞きたいことも済んだので、私はこの辺でいきますね」
「はい、また会いましょう!」
その言葉を最後にイブーさんは歩いて街中へと消えていくので、私はそれを軽く見送った後に一度腰元にある懐中時計を手に取って今の時刻を確認します。
「今の時刻は十時ちょっと前くらいですか。…なら、午前中はこの辺でログアウトして午後に備えるとしましょう」
お祭りは午後の六時からなのでゲームを止めるのは早いかもしれませんが、疲れを残して楽しめないのは損ですしね。
それに、現実世界で悠斗と会うのは少しだけ久しぶりでもあります。であれば、少しくらいは私のことを意識してくれるように準備をしたいのもありますので!
「セレネとクリアも、一度送還しますね」
「キュッ!」
「……!」
私は一度二人に声をかけてから送還をした後、そのままメニューを開いてログアウトもします。
「…よし、ひとまずはお昼ごはんの用意を先に済ませてきますか」
ゲーム世界からログアウトして現実世界へと戻ってきた私は、手始めにいつものストレッチをして体をほぐした後に自分の部屋から出てリビングへと向かいます。
「…あれ、何か音がしますね?」
階段を降りている最中でリビングの方から微かに話し声が聞こえてきましたが、私は特に気にせずにそのままリビングへと入ると、そこには私とほとんど同じ背丈で白髪と金目の色をした私似の美少女に、黒髪茶眼の身体180cmはある兄様似のイケオジと呼べる人物が談笑をしているところでした。
「お母様にお父様!」
「あら、美幸!元気だったかしら?」
「具合はどうかな、美幸?」
そんなリビングにいるお二人は、私と兄様の両親です。お母様が月白瑠奈で、お父様が月白賢城という名前をしており、二人は確か外国でエンジニアとして働いていたはずでしたがいつのまにか帰ってきていたのですね!
「私は元気ですよ!そういうお母様とお父様はどうなのですか?」
「私たちも大丈夫よ!それより、お昼ご飯はどこかで食べに行こうかと思ってだけど、美幸はどう?」
外食をしようと思っていたのですね。別に私は家でも外でも特に気にしませんし、問題ないと返しましょうか。
「私は問題ありません!あ、でも兄様がまだですね」
「そういえば玲二はいないね?」
「美幸も降りてくるのが遅かったけど、何かしているの?」
「はい、最近はMemorial Story Onlineというゲームをしているのですよね」
私の言葉を聞いたお母様とお父様は、だからかっといった表情を浮かべているので、納得したみたいです。まあ私もそうですけど、兄様も昔からかなりのゲーマーですし、そう思うのも当然のことでしょうけど。
「そのゲームはどんな感じなんだい?」
「そうですね……基本的にはファンタジー世界が舞台で、そこでありとあらゆることが出来る感じのゲームですね」
「ふーん、楽しい?」
「はい!それはもう…!」
楽しげな様子の私の表情を見て、お母様とお父様は何故か私のことをジッと見つめてきます。な、なんでしょう…?何か私、悪いことをしてしまいましたか…!?
「…なんだか、美幸は前よりも明るくなった感じがするわね?」
「それに、とても楽しそうにも見えるね」
「そうですか?」
…お母様とお父様からそう言われましたが、それの心当たりは思い当たります。前に出会った悪魔と関わったこと、それによって過去の因縁を越えることが出来たので、お母様たちからも少しだけ変わったように感じたのだと思います。
本当に、悠斗のおかげです。私のこの過去は忌まわしいものではありますが、振り返ることはしても後悔はしません。
「詳しくはわからないけど、今がとても楽しそうだからよかったわ」
「そうだね。美幸が幸せだと僕たちも嬉しいよ」
「ふふ、ありがとうございます!」
お母様たちからは微笑ましく見られていますが、私は気にしません!あ、それとついでに今日悠斗からお祭りに誘われていることについても言っておきますか。
「そうそう、実は今日の午後六時から悠斗から夏祭りに誘われているのですよね」
「まあ、お祭りにいくの!」
「二人だけで行くのかい?」
「そうですね、私は悠斗と二人きりで行きたいとは思ってます」
そ、それにこんな機会は滅多にないのです。なら、このタイミングで少しは私の気持ちを悠斗に直接ぶつけたいのもありますしね!
「…なんだか、恋する乙女みたいな表情をしているわね。お幸せに!」
「父親的には美幸の相手にふさわしいかを確認したいが、悠斗なら人柄も知っているし大丈夫だね」
「も、もう!お母様とお父様も揶揄わないでくどさちよっ!」
そ、そんなすぐに恋が実るなんて考えてませんし、私たちはまだ学生です!なのですぐに結果が出るとは思っていません!
ま、まあ最終的には悠斗と付き合って彼女になり、結婚まで漕ぎ着けたなら……って、早過ぎますよ…!私は悠斗に恋をしてますが、悠斗の私に向けての気持ちはわかりませんしね…!




