137話 精霊王
ニーナちゃんの案内のままに家へと入っていくと、中は思ったよりも綺麗なうえにファムちゃんたちと出会った家と同じ間取りをしてました。なので結構な広さがあり、人数が多くても狭さは特に感じません。
そして内装の方に関しては当然のように違い、外観通り木の見た目を活かした壁や床、そして同様に木製のテーブルや椅子などが置かれた内装となっているみたいで、実に落ち着く雰囲気が醸し出されています。
「とりあえず、狭いかもしれないけど座ってて」
「あ、わかりました」
内装を見渡していた私たちへとニーナちゃんがそう言ってきたので、それに従って部屋の中で各々と座り始めます。
「今更だが、レアの交友関係は広いな」
「確かに!ワールドモンスターと戦う前だって、急にあの子から連れてこられたしね!」
「あの時はすみませんでした…」
そんな中、クオンとソフィアさんからそのように声をかけられたので私は始めに謝罪を述べましたが、皆さんは一切気にしていないらしく軽く笑いながら大丈夫だ、と返してきました。
ニーナちゃんには助かってはいますが、私のように丁寧に運んでくれてはこなかったので少しだけ申し訳なく感じてしまいます。
まあ皆さんは気にしていないみたいですし、いつまでも引きずってないで私もしっかりとしないとですね。
「待たせたわね!はいこれ、ジュースよ!」
そこからも軽い談笑をしつつ待っていると、すぐにニーナちゃんが水差しのようなものと無数のコップを手に持って戻ってきて、私たちへと差し出してきます。
渡されたコップの中に入っている液体は薄めの黄色をしており、匂いも悪くは感じませんね。
「じゃあ、さっきのEXスキルについてだが…」
「そうね、続きを説明するわ」
ニーナちゃんからもらったジュースを飲みつつ、私たちを代表するかのように兄様が先程のことについて再び問いかけます。
…あ、このジュース美味しいですね。味的にはリンゴや葡萄、レモンなど多数の果物が入っているように感じますし、過度すぎず、かといって薄いというわけでもないようでなかなか美味しいです!
っと、それよりも説明に意識を向けないとですね。兄様の言葉にニーナちゃんは皆を……というかEXスキルを持っている私とネーヴェさんへと視線を向けながら口を開きます。
「まずEXスキルには三種類あることは説明したわね?」
ニーナちゃんは先におさらいとしてそう言った後、頷いた私たちを見てから続けて説明を開始します。
「それらはその人の深層心理、つまりは心の強さが表に出てきたのものなのよ」
「心の強さ、ですか…」
私とネーヴェさんが思っていた獲得条件であろう感情の昂りと経験だけではなく、その人自身の心までもが関係していたのですね。
だとするなら、やはり簡単に獲得出来るスキルではなさそうとは思えます。
「だから心の強さがあれば、自ずと皆も獲得出来るとは思うわよ?例えば、強敵に勇気を持って挑むとか、失敗を恐れずにチャレンジしたりとかね」
そう説明を終わらせて自分の分のジュースを飲み始めているニーナちゃんでしたが、私とネーヴェさん以外の皆さんは少しだけ考え事をしているのがわかります。
私たちの使用した場面を見れば、当然皆さんも欲しくなるでしょうし、どうやれば獲得出来るかの説明も受けたのでいずれは獲得する人も増えそうですね。
「ニーナ」
「あら、ファム。どうしたのかしら?」
そんな空気の中、突如部屋の中に響いた声のした方へと視線を向けると、そこにはファムちゃんが立っていました。
ニーナちゃんを呼んでいますし、何かあったのでしょうか?
「精霊王がレアを呼んでいるの」
「精霊王様が?わかったわ、教えることも済んでいるし、連れていって大丈夫よ」
「ん、じゃあおねえちゃん、着いてきて?」
なんとファムちゃんは私を精霊王の元へと連れていくためにここに来たらしいです。精霊王というだけあってこの国で一番偉いと思わられ人に会うなんて、少しだけ緊張してしまいますが……まあ呼ばれているみたいですし、会いに行きますか。
「わかりました。他の皆さんは?」
「呼ばれてないから連れてはいけないの」
「そうね、他の人たちは連れていけないから、あたしが元の場所へ送ってくるわ」
ファムちゃんとニーナちゃんはそう言っているので、会いに行くのは私だけみたいです。
ファムちゃんが一緒みたいですけど、どうしても不安が出てきてしまいますね…
「じゃあレア、またな」
「またね、レアちゃん!」
「はい、皆さんもお元気で!」
私は皆さんからの別れの挨拶を受けながら、ファムちゃんに連れられてニーナちゃんの家から出て、案内のままに着いていきます。当然セレネとクリアもいますが、今は大人しくしているので問題はないでしょうね。
「…ファムちゃん、精霊王はどんな人なのですか?」
その道中で私は気になっていたことを聞いてみますが、ファムちゃんは少しだけ考えつつも答えてくれます。
「うーん、どんなって言われたら難しいけど……まあ直接会えばわかるの」
「それもそうですね」
ファムちゃんは詳しくは説明をしてくれませんでしたが、すぐに会いにいきますし、その時にわかりますか。
それにワールドモンスターとも同じ名前らしいですが、それに関しても聞いてみるのがよさそうに感じますね?
そこからは特に会話をすることもなく森のような街中を歩き続けていると、天まで伸びるかのように巨大な大樹が視界の先に見えてきました。
「見えてきたの。あそこが精霊王の住んでいる場所なの」
「あそこですか。かなりの大きさをしていますね…」
「キュッ…!」
「……!」
普通の木とは比べ物にならないくらい巨大ですし、あれが他の国で言うところのお城の役割をしているのでしょうね。
大樹の見た目はとても立派なので少しだけ圧倒されてしまいますが、私は今からあそこに行くのですね…
まあ特に悪いことをしにいくというわけではないので怯む必要はありませんけど、それでも気分の問題がありますからね。
「おや、ファムじゃないですか。そちらは?」
「この人は精霊王に呼ばれたから、連れてきたの」
「なるほど…」
そうしてやっと城代わりである大樹の入り口付近まで着くと、そこには門番らしき精霊が立っており、ファムちゃんと軽く言葉を交わした後に門番さんは私とそばにいるセレネとクリアへと視線を向けてきます。
多分、怪しい人物かどうかを確認しているのでしょうけど、私たちは特に怪しいものではないですよ!
「…大丈夫ですね。では、通ってどうぞ!」
「ん、ありがと」
「ありがとうございます」
そして問題もなかったようで無事に通してくれたので、私たちはファムちゃんの案内のままに大樹の中を歩いていきます。
この大樹の中はやはりお城と似ているような内装のようで、大きめの通路に無数の部屋、そしてカーペットなども敷かれているためなかなかオシャレで威厳が感じ取れます。
「とりあえず、精霊王の待っている玉座まで行くの」
「わかりました」
お城のような内装を見渡しながら歩いていた私に向けてファムちゃんがそう声をかけてきたので、それに素直に返事を返して遅れないように着いていきます。
「ファムちゃんは、この大樹にはよく来るのですか?」
玉座まで案内されているタイミングでふと気になったことを聞いてみると、特に隠すことでもないようで簡単に教えてくれました。
「わたしはこの国で宮廷魔導士の職についているの。だから、この大樹の中はほとんど知っているの」
なんと、ファムちゃんは宮廷魔導士という職業をしていたみたいでした。なるほど、だからこの大樹の中をスイスイと歩いていけたわけですね。
しかもそんな重要そうな職についているとするなら、ファムちゃんはかなりの実力と知識を持っていそうに感じますね…!
「ファムちゃんはすごい立場の人だったのですね!」
「このくらいは普通なの。それに、わたしよりもすごい人はいっぱいいるの」
少しだけ照れた様子でそう言葉を返してくるファムちゃんでしたが、それでもすごいのには変わりありませんよ!
「っと、着いたの」
「あ、もう着きましたか」
そうして会話をしているといつのまにか玉座の間の入り口まで着いていたようで、目の前には大きめの両開きの扉が存在していました。
この先に、精霊王がいるのですね……緊張はしてしまっていますが、気合を入れない対面するとしましょうか!
「じゃあ、開けるの」
「はい!」
その言葉を合図にファムちゃんが扉を押し開けたので、そのまま一緒に玉座の間へと足を踏み入れます。
中に入ってまず目についたのは、かなりの広さを誇る部屋の壁際に無数に存在する色とりどりの水晶でした。
水晶は一つとして同じ色はないようで、天井についている同じく水晶らしき照明の光に照らされてその見た目を輝かせています。
そんな無数の水晶で彩られた玉座の間の奥、玉座に座っている精霊王と思しき銀髪青目をした男性はこちらに視線を向けながら、優雅な態度のままに座っています。
「来ましたね、レア」
「あれ、私の名前を知っているのですか?」
扉付近から精霊王まで近づくために歩き、声の届く距離に入ったタイミングでそのように声をかけれたため、私は思わず聞き返してしまいました。
ですが、それには特に気分を害していないようで優しげな笑みを浮かべながら返事をしてくれます。
「貴方の周囲に集まっている微精霊を通して見てましたからね。そのくらいはすでに知っているのですよ」
「…そういえば、おねえちゃんはたくさんの微精霊にも好かれているの」
「…そうなのですか?
私は精霊王とファムちゃんの言葉を聞いて少しだけ不思議に思いましたが、すぐに原因らしきものを思い出します。
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〈火霊旅騎士の魔印〉
火霊旅騎士が認め、尚且つ気に入られた者に与えられる精霊のみがわかる魔法の印。精霊からの印象を良くし、警戒もされづらくなる。
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おそらくはこの称号のおかげですね。精霊からの印象をよくすると書いてありますし、道理で精霊の皆さんが私の元へと来るわけです。
「まあそれはいいとして、私は霊庭のルルリシアと言います。良く来てくれましたね」
「私に何か用事があったのですか?」
「そうなのです。実は…」
そう言って精霊王もといルルリシアさんは、私を呼び出した目的を話し出します。
「実は、貴方に私の願いを叶えてほしいのです」
「願いですか?」
ルルリシアさんの言葉に私は疑問を浮かべつつも聞き返すと、ルルリシアさんは頷いた後にさらに続けます。
「私は、レアも知っている通りワールドモンスターです。そんな私の願いは一つ、私を含めたこの世界にいる全てのワールドモンスターを倒し、とある存在を眠らせてほしいのです」
「とある存在……もしかして…!」
「ええ、その思考であってます」
とある存在とは、おそらくこれまでに集めてきた情報からして魂を砕かれたと思われていた神様だとは思います。
その存在を眠らせてほしい。つまり、倒すことが願いのようですね。
私はすでに七体いる内の一体は倒してますし、これからの目標であるので倒すのは問題ありませんが、どうしてワールドモンスターの討伐を願うのでしょうか?
それに自分も同じワールドモンスターと言ってましたし、その言葉からすると自身の討伐も願っているとは感じますけど…
「…討伐に動くのは別に構いませんが、何故それを願っているのですか?」
「レアが疑問を抱くのも当然ですね。では、少しだけお教えするとしましょうか」
そう言いながらルルリシアさんは片手をあげて指パッチンをすると、次の瞬間には玉座の間から突然景色が変わって宇宙のような世界へと変化しました。
…息は、出来ますね。なら、本当に宇宙というわけではなさそうですかね?
景色が変化した瞬間はとても驚きましたが、別に何か不都合があるわけではないようですし、気にしないで説明を聞きますか。
「まずこの世界に生まれた七体のワールドモンスターは、レアの知っている通りとある神から生まれました」
そう言ったタイミングで空間内に一つの黒い星が生まれ、それが砕けるとそれぞれの色に分たれた七つの星が生まれます。
黒い星がその神様で、七つの星がきっとワールドモンスターを表しているのでしょうね。
「そしてレアちゃんは見事にワールドモンスターの一角である天災のゾムファレーズを討伐しました」
その言葉に続いて赤く光っていた星が砕かれることで消滅しましたが、砕けて粒子となった赤い星が何もない場所へと集まります。
「しかし、ワールドモンスターはその神様の使徒の立場におり、神へと力を送っているのですよ」
その言葉を聞きつつも赤い星の粒子が一箇所に集まっているのを見てましたが、残っている六つの星からも魔力のラインらしきものが一箇所に集まっている赤い粒子へと繋がっており、何やら力のようなものが送られているのがわかります。
「なので、我々が全て倒された暁にはその力が送られなくなるはずです」
そうして未だに残っていた六つの星も同時に砕けちり、赤い星と同様にその粒子が一つに集まっていきます。
「その神は弱ってはいますが未だに死んではおらず、今もこの世界を狙っているのですよ。ですので、ワールドモンスターを全て倒せば現れるはずです」
その言葉を合図に集まっていた七つの粒子が一つとなり、最初のように黒い星となって元通りになってしまっています。
なんとなくは本を見て知っていましたが、こうして関わっている本人から聞くとやはりとんでもないことが関与しているようですね。
倒した時に天災も言ってましたが、これがこの世界に来ている異邦人である私たちの最終目標みたいですね。ワールドモンスターの討伐は当然目指しますが、ルルリシアさんからの情報からして最後には神様と戦うことになるのは間違いなさそうです。
「とまあ、私の知り得る範囲ではこのくらいですね。なので、レアにはその神様を眠らせるのをお願いしたいのです」
「……わかりました。時間はかなりかかるかもしれませんが、いずれは完済したいと思います!」
「こんな怠惰なる私の願いを受け入れてくれてありがとうございます。申し訳ありませんが、頼みますね。それと急ぎではないので、ゆっくりとでいいですからね。ワールドモンスターである私もいずれは倒してほしいですが、それはこちらの準備が整ったらでいいですか?」
「大丈夫です!」
精霊王の立場におり、こうして会話をしたこの人を倒すことになるのは少しだけ心苦しいですが、これがこの世界での目標でもあるみたいなのでいずれは心に決着をつけないとですね。
まあ準備もあるみたいなので今すぐというわけではないようですし、いずれではありますけど。




