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135話 呼び寄せよ、天為の災厄6

『ふん、やはりそのスキルは厄介だな!』

「さあ、そのまま倒れてください!」


 無数の幻影に混じる形で分身と共にフェイントを入れつつ攻撃を繰り返し、天災のHPをどんどん削っていっていた私でしたが、次々と飛んでくる攻撃に危険視したのか遅延効果がついたまま私に対して青い炎と黒い雷を纏った両腕で攻撃をしてきます。


 風の刃と氷塊のによる攻撃は無駄だと悟って飛ばしてこなくなっているので、兄様たちもここからは接近出来ますね!


 ですが、EXスキルも効果時間は残り少しなのでこの辺で決めさせてもらいますか…!


『…貴様は、強い。ならば、我が力の全力を持って今ここで倒させてもらおう!』


 その言葉と共に激しい暴風を放つことで無数の幻影と分身を消すのと同時に私たちから距離を取った天災は、次の瞬間には翼を大きく広げて空からの風と雨を全身で受けるようにしながら、その口元に凄まじいほどの力を込め始めます。


 …明らかに邪魔をした方が良いのでしょうけど、天災からは凄まじい力をひしひしと感じるためやめた方が良いとは思うので、私も切り札を切ることで対抗しますか。


「私も、この辺で終わりとさせてもらいますよ!」


 そう言って私も両手の銃を構え、最後の切り札の使用を意識します。


 兄様たちもそんな私たちを見て、手を出すのはやめた方がいいとわかっているらしく遠巻きでこちらを見つめています。


『さあ、我が天災の証を受けるがいい!〈天災消滅波〉ッ!』

「時の調べは今、極点へと至る!〈心解・時空を穿つ者(クロノス・エンド)〉!」


 そうしてお互いの全力を込め、同時に最後であろう攻撃を放ちます。


「はあああぁ!」

『ガァアアッ!』


 私の放った巨大な光線は、天災の放った全ての災害の能力が混じっているかの如きブレスと正面からぶつかり合い、互いに一歩も譲らぬ勢いで全力を込めて相手の攻撃を打ち砕こうと全力を尽くしています。


 ですが、私の放った必殺技の効果である触れた者の耐久や防御を無視して魔法ダメージを与えるというもののおかげで、そんな拮抗も少しだけでした。


 勝利の女神は私へと微笑んだようで、徐々に天災の放ったブレスを私の巨大な光線が押していき、そのブレスを掻き消していきます。


「貫けええええっ!」

『なにっ……ぐぁっ!?』


 そして互いの全力を込めたその攻防の結果は、私の攻撃が勝ったようでそのまま天災の身体を撃ち抜くことで決着がつきました。


『カハッ……まさか、我が奥義が破られるとは…』

「はぁ、はぁ…」


 私も持てる力を全て込めて切り札のEXスキルを使ったので息も絶え絶えな状態ではありますが、なんとか無事に勝つことが出来ました。


「レア!」

「レアちゃーん!」

「ふぅ…皆さんも、援護ありがとうございました」


 そんな声と共に皆さんが寄ってきたので、私はここまでの戦闘の感謝を伝えます。


 もしここにいるメンバーが誰か一人でも欠けてたとしたら負けてた可能性が極めて高かったでしょうし、本当に皆さんの力添えには感謝しかありません。


「それくらいは当然なのですよ!それで、これで勝ちですか?」

「…多分、これで終わりのはずですが…」

『そこの少女の言う通り、我はすでに死を待つ身だ』


 アリスさんの発した言葉に不安げに言葉を返した私に……というか周りにいる皆に伝えるかのように、徐々にポリゴンとなっていっている状態のまま天災がそう言葉をかけてきます。


『ククッ、我の全力を持ってしても負けてしまうなんて、最初の時からは予想も出来なかったが……ここまでの力を見てハッキリとわかったな』

「何がですか?」


 何やら不思議なことを呟いてたら天災へとそう問いかけてみると、別に隠すことでもないからか素直に教えてくれます。


『そこにいる白髪の少女だけではなく、ここにいる全員が神の加護を受けているのがわかるのでな。それに白髪の少女、貴様は加護の上である祝福持ちなうえ、我以外の他の奴らにも気に入られているみたいだしな』


 なるほど、加護の有無でそう考えたのですか。それに私が獲得している他のワールドモンスターの称号も見通しているようですし、加護を見てそう言うということは、それだけ神の力は強いということなのでしょうね。


『しかし、だ。最後が貴様らのような強く強靭な者に負ける結果なのは、これもまた一興、か』


 竜の姿にも関わらずカラカラと軽い調子で笑っている天災でしたが、次の瞬間には再び真面目な顔になり言葉を続けます。


『…貴様らには、伝えても大丈夫であろう。我らは、この世界の楔だ。いずれ我らを全て倒した時、自ずと道は開かれるであろう』

「道、ですか?」


 私は天災の口にした言葉が気になって聞いてみましたが、それには軽く笑みを浮かべることで返されたので、詳しくは教えてくれないのでしょうね。


 …なら、やはりクロノスさんなどの神様と出会った時に聞いてみるのが、一番良さそうですね。


『…そろそろだな。我の命はこれより天へと帰るであろう』

「そうですか…」


 自分たちから倒しにきましたが、こうして最後の言葉を聞くとこれでよかったのかが少しだけ悩んでしまいます。


 だって、ワールドモンスターとはいっても悪いことをしているわけでもないですし、その力が世界へと悪影響を与えているわけでもありません。


 悩むのもわかりますが、それでも私はこのまま倒しに動くのには変わりはありません。悲しく思ってしまうのもわかります。このままでもいいのかと考えてしまうのも当然です。


 ですが、これが私の役目でもありますし、天災も含めて絵本に書いてあった邪神の使徒としての立場にいるワールドモンスターを倒すのは、決まっていた流れだとは思います。


『ふっ、そんな顔をするでない』

「レアちゃん…」


 思い詰めてしまっていると私の表情を見て、天災はポリゴンへと変わっていく腕を動かして私の頭の上へと優しく置き、撫でてきます。


 …この撫で方も、心も、そして感情も、全てが悪とはとても感じませんね。


『我はすでに長く生きており、満足もしている。悲しいと思うのならば、貴様もそんな顔をせずに我を見送ってくれ』

「……はい」


 私は一度顔を腕で拭った後、自然と沸いてきた笑みを浮かべて天災へと視線を返します。


『ふっ、その方が貴様は可愛らしいぞ。…では、また次があるのなら、その時に』

「…天災さんも、お元気で」

『ククッ、死にゆく我へとそのような言葉をかけるとは、やはり貴様は面白いな。だが、悪くない最期だ…!』


 その言葉を合図に天災の全身はポリゴンとなることで消えていき、今まで曇っていた空も一気に晴れることで光が差し込むことで天災を見送る形になります。


『ワールドクエスト【呼び寄せよ、天為の災厄】をクリアしました。報酬として、参加したプレイヤー全員へと報酬が送られます』

『称号〈天災を鎮めし者〉を獲得しました』


 そして両手を合わせて見送っていた私に対してそのようなシステムアナウンスもなり、完全に終わったのがわかりました。


 初めてのワールドモンスターではありましたが、皆さんの力添えがあったおかげで無事に勝つことも出来ましたし、これで世界に七体もいるというワールドモンスターの一人は倒すことが出来ました!


 本当に、今回は皆さんの協力もあってすごく助かりました。私は数体のワールドモンスターとは遭遇してましたが、やはり無数とは言わなくてもある程度の数と質がなければ勝つのは難しかったですね。


 だとすると、私の一番の目的である深森も、私一人ではなく協力してくれる誰かを連れたりした方が良さそうですかね?まあ今すぐに戦うというわけでもないですし、とりあえず心に留めておくくらいでいいですか。


「よし、レア。ワールドモンスターの討伐も済んだし、ここいらでパーっと打ち上げでもしないか?」

「いいですね!では…」


 クオンからかけられた声に返事をして言葉を続けようとしたその瞬間…


『ログインしている全プレイヤーの皆さんにお知らせします』


 そのようなシステムアナウンスが突如空間内に響き、そのような言葉が聞こえてきました。


 突然のことだったので私たちは思わず身構えてしまいましたが、連戦というわけではなくただのアナウンスみたいなので、すぐに警戒は解きましたが。


 というか、全プレイヤーにお知らせということは今ここにいる私たちだけではなく、街中にいるプレイヤーたちにも知らされているみたいですね?


『ただいまワールドモンスターである天災のゾムファレーズが討伐されました。よって現時点をもって全プレイヤーを対象にクロニクルストーリー『過去を見るは正義(グッド・アン)、未来を進むは邪悪(ド・イヴィル)』が開始されます』

「クロニクル、ストーリー…?」


 ワールドモンスターの討伐が知らされるのも驚きですが、それよりももっと重要そうな情報が聞こえてきました。


 なんですか、クロニクルストーリーって…!?


 プレイヤーの中でワールドモンスターに一番詳しいであろう私でも知らないことですが、アナウンスからしてワールドモンスターの討伐をトリガーとして開始されたみたいとは思います。


 そうすると、ここから先のワールドモンスターの討伐を進めていけば自ずとクロニクルストーリーとやらに詳しくなれるとは思いますね。


 なら、次のワールドモンスターの討伐も目標としつつ、それについての情報収集をしていくのも良さそうです。


「…とりあえず、情報について整理するのはーー」


 システムアナウンスを聞き、私はここにいる皆さんに向けて言葉を続けようとしたタイミングで、再び話を遮るかのように空間内がいきなり光に包まれることで転移が行われます。


 ちょっと!絶対に狙ってますよね…!?


 そう思いつつも、私たちは転移の光に飲み込まれることで今までいた天災の固有世界から弾き飛ばされます。




「…ふむ、やはりあの少女が勝ちましたか」


 私は自分の城にある図書館で本を読んでいましたが、観察を任せていた微精霊からの情報を聞き、一度本を閉じて〈連なる精霊の瞳〉を発動させます。


 すると、今まで観察していた白髪金眼をした狼人族の少女が微精霊を通して見えてきたので、その状態で視線を向けます。


「…先程はゾムファレーズの領域に行ってしまって最後まで見ることは出来ませんでしたが、誰一人と欠けていないみたいですね」


 白髪の少女はともかくとして、周りにいる他のメンバーたちも軽い怪我は負っていても深傷となるものはないですし、なかなかの実力を持っているとわかります。


「なら、やはり彼女には直接会って伝えてみますか」


 そういえばあの少女はファムと知り合いでしたね。なら、あの子を通して時間が空いている時にでもここに連れてくるようにお願いしましょう。


 それに彼女だけではなく、周りにいるメンバーも皆が加護持ちなのがわかるので、それらのメンバーに対しても微精霊を通して観察をするのも楽しいかもしれませんね。


「…まあ、あの子たちとの会話からしてここに戻ってくるでしょうし、その時にでも頼むとしますかね」


 この世界にも無数にいる微精霊を操り、私は一人の精霊をここへと呼び出します。


 すると、すぐに私の元へと転移で来た一人の精霊の子に言伝を伝えると、再びの転移でここからいなくなったので、私は先程の少女へと微精霊を通して意識を向けます。


「…この子なら、私の願いも叶えてくれそうですね」


 私の……いいえ、私たち(・・・)の秘めた魂の奥底に眠っているこの願い。これは、間違いなくあの子の活躍で叶えることが出来るはずです。


「…ふふっ、これは期待してもよいですね」


 私はクスッと笑みを浮かべ、そのまま微精霊を通して見ていた状態を解除してここに彼女が来てくれるのを待つことにします。




「ついにやったみたいですね…!」


 今までの戦闘を観察していた私は、転移の光に包まれながら元いた山頂へと現れたレアちゃんを見て思わずそう声を上げてしまいます。


 ですが、そうなるのも仕方ありません。レアちゃんが戦っていた相手は長い時を生きて凄まじい強さを誇っていたワールドモンスターなのですからね。


 今のレアちゃんたちの段階では私の知人でもあるアーサーにソロモン、カタリナにアリババよりかは少しだけ強さでは劣っていますが、それでもその才能がずば抜けているからか、それとも異邦人の中ではトップの強さを持っているからか。


 理由は定かではありませんが、そんな自分よりも強大な相手に挑み、無事に勝利を掴むことが出来ています。なら、私が褒め称えてしまうのも当然のことです。


「やはり、レアちゃんはすごいですね。これなら、私たち神の知り得ることも教えることが出来るでしょう。それに、あれも…」


 私……クロノスは今いる神域でレアちゃんとそのメンバーたちを観察しつつ、そう呟きます。


 まあ伝えることはレアちゃんならば他の神たちも問題ないでしょうし、ここから先は再び相見えた時に、ですね。


 そんな観察対象であるレアちゃんは今も楽しそうに皆と会話をしてますし、そんな純粋な子にこの頼みをお願いするのは忍びないですが、それしか私たち神には方法がありませんしね。


「…まあ、今は楽しげにしているレアちゃんの邪魔はしないでおきますか」


 私はレアちゃんたちに向けていた視線を逸らし、早速行動に移ります。まずは、他の神たちにも伝えてこないとです。




「おい、聞いたか、今のアナウンス!」

「ああ!なんだ、クロニクルストーリーって!?」


 レアたちがワールドモンスターの天災を倒し終わって元いた北の山の山頂に戻ってきた頃、初期の街でワイワイと買い物やおしゃべりを楽しんでいたプレイヤーたちは突如知らされたシステムアナウンスを聞き、地に足がつかない状態で周りのプレイヤー同士でそのような会話を交わしていた。


 レアたちとは違ってワールドモンスターについて知らないプレイヤーも多いため、今上がる話題はワールドモンスター、そしてクロニクルストーリーのみだ。


「ワールドモンスター……聞いたことがあります」


 そんなガヤガヤとしている雰囲気の中、唐突に上げた一人の男性プレイヤーの声に周りのプレイヤーたちは皆視線を向ける。


 その男性プレイヤーはそれを気にする様子もなく、皆に聞こえるように言葉を続けていく。


「私のフレンドが出会ったことがあるらしいのですが、それはエリアボスとは比べものにならない強さを誇っているらしいです」


 男性プレイヤーの説明を聞き、プレイヤーは皆その顔に真剣さを浮かばせる。


 そんな強さを誇る存在は、今倒されたとシステムアナウンスが言っていた。なら、それを倒したプレイヤーはどんなやつだったのか。


 皆の気持ちが一つになるが、それでもすぐに知ることは不可能だ。


 だが、先程ワールドモンスターについて語っていた男性プレイヤーはその顔に確信のようなものを浮かばせながら、周りのプレイヤーたちの意識から消えるように街中へと向かっていく。




「… ラーニョが出会ったという、ワールドモンスターの一人らしい世喰のエルドムンド。それには特殊なNPCが参加してきたと言ってましたし、今回討伐された天災のゾムファレーズにも特殊なNPCはいたのでしょうか?まあもしいなかったとしても、倒したプレイヤーは予想がつきますが」


 凄まじい強さを誇るワールドモンスターの討伐を今の段階でしたのです。であれば、私たち異邦人の中で行われたバトルフェスで有名になり、かつトップでもあるあの八使徒と呼ばれる彼ら。


「きっと、このワールドモンスターに関わっているのはその方たちなのでしょうね」


 なら、そのメンバーの中で一番優しそうでふんわりとした雰囲気を醸し出している【時空姫】に直接聞きに行きましょうか。他のメンバーではちょっと会うのも難しいですし、気難しくも感じますしね。


 対して【時空姫】ならよく街でも見かけられますし、私たち検証班、梟の瞳(インスペクション)のメンバー全員に伝え、一度詳しく聞きに動きますか。

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