133話 呼び寄せよ、天為の災厄4
『ふん!』
「ぐっ…!」
「キュゥ!?」
「……!」
躱すのが間に合わずに右半身が切り裂かれた私は、続けて振るわれた尻尾による攻撃も当然避けることが出来ずに直撃し、そのまま吹き飛ばされてしまいます。
「レア!?」
「レアちゃん!?」
皆さんからの悲鳴が聞こえますが、それに反応するほどの力がどうしても湧き出ません。しかも、そんな死にかけの私は放っておいて兄様たちの方へと天災が行っているので、こちらを心配する暇がありません。
私のHPは弱点を攻撃されたわけではないのでギリギリ一割くらいが残っていますが、それでも重度の出血の状態異常があるせいで自動回復があるとはいえ、このまま放置していればそのまま死んでしまいそうです。
吹き飛ばされて倒れ込んでいる私のすぐそばに心配そうにしているセレネとクリアがおり、二人には傷がないようでそれについては少しだけ安心しました。
「ぐ、〈第十の時〉!」
私はなんとか残っていた左手に手放さずに持っていた短銃で自身に武技を撃ち込むと、私の時間が一気に戻ることでHPや身体などがすべて元通りになります。
ふぅ、今のはかなりやばかったですけど、生き残ることは出来ているのでなんとかなりましたね。
「セレネにクリア、ありがとうございます」
「キュゥ!」
「……!」
セレネとクリアが引っ張ってくれなかったら今頃は間違いなく死んでいましたし、助かりました…!
とりあえず危機を乗り越えることは出来たので、再び戦闘に戻るとしましょうか!
「〈第一の時〉!」
私は動きを加速させる武技を自身に撃ち込み、そのままセレネとクリアを連れながら兄様たちへと襲いかかっている天災に向けて銃弾を乱射しながら近づきます。
「レア!無事だったか!」
「はい!セレネたちのおかげでなんとかなりました!私も入ります!」
「頼む、レア!」
『貴様、さっきので死んだと思っていたが生きていたのか』
クオンの言葉にそう返しながら私は天災へと攻撃を開始し、天災はそれに少しだけ驚きつつも再び風による攻撃をしてきますが、それはもう見たので対応策はわかります…!
「〈第零・第十一の時〉…!」
効果を発揮している〈第一の時〉と同時にさらなる加速を付与をして、そのまま地面を蹴ることでもつけた勢いのまま、超加速した動きで風による妨害と攻撃を背後へと置き去りにしつつその勢いを乗せて天災のすぐそばまで接近します。
『ほう…貴様、まだ速くなれたのか』
「まだまだ行きますよ!〈第三の時〉!」
そして天災のすぐそばの足元から頭目掛けて攻撃系の武技を放ちますが、それは咄嗟に首を逸らすことで避けられます。ですが、その動きはすでに予測済みです!
「〈第二の時〉!」
『ちっ、これが狙いか』
咄嗟の動きで姿勢がほんのわずかに崩れた一瞬をついて私は遅延効果の武技を放つと、それはキチンと命中させることが出来てその効果を発揮します。
「今が好機…!〈瞬く雷剣〉!」
「いくぞ!〈秘剣・霞突き〉!」
「〈星命の想剣〉!」
「我もいくぞ!〈鮮血の魔剣〉!」
「私もです!〈霧裂〉!」
「立て続けに!〈切り裂く爪〉!」
「私たちもいくわよ、アリス!〈落ちる氷河〉!」
「はいなのです!人形さんたち、〈マナランス〉です!」
私が与えた遅延効果で生まれたほんの少しの隙に対して、皆さんは自身の持てる全力を込めて攻撃を放ち、天災のHPをさらに削り取ります。
『ふん。ならば、さらなる力を!〈悪魔解放・憤怒の大罪〉!』
それらの攻撃によってやっと天災のHPゲージの三本目が残り三割を超えたタイミングで、天災はそう咆哮をあげて何かスキルを使ったと思ったら、とある能力を発動しました。
すると、先程までも感じていた威圧感がさらに膨れ上がり、その溢れ出る力に圧倒されてしまいます。
能力の名前からして七大罪の一つのようで、ワールドモンスターである天災は憤怒の大罪を備わっているみたいですね。
「明らかにさっきまでとは違うように感じるな…!」
「間違いなく強さが膨れ上がっているだろうし、ここからはさらに警戒をしないとな」
兄様とカムイさん、言葉にはしていない他の皆さんも私と同様に凄まじい威圧感を感じているみたいで、少しだけ警戒心を出しつつもここからが本番と感じているみたいです。
『さあ、この力で貴様らを屠ってくれる!』
「くるぞ!」
そんな声と共に天災は再び先程よりも強力になっているらしく、大きくなっている無数の火球や風の刃、雷に氷柱などによる魔法を私たちへと放ってきたので、兄様のあげた声を聞いた皆で即座に回避に動きます。
「〈第一の時〉!」
その中で私は動きを加速させる武技を自身に撃ち込み、加速した動きを活かしてセレネやクリアのサポートを受けることで無数の魔法を掻い潜りながら天災へと接近していきます。
『やはり、貴様は来ると思ったぞ!喰らうがいい!〈天雷領域〉!』
「キュッ!」
そして天災へと近づいてきた私に向けて、先程の乱気流と似ているような能力である無数の雷撃と地面を走る電流による攻撃を雨と風に紛れるように放ってきました。
「このくらいは、余裕ですっ!」
落ちてくる雷はすでに見ているので問題はないですが、地面からも無数の雷が走ってきており、それに対しても加速した動きで避けることでダメージにはなりません。
しかし、次々と雷が飛んでくる中天災へと銃弾をお返ししますが、それらは片腕で防がれることであまりダメージを与えることが難しく、有効打には欠けてしまっています。
「…それなら、〈第七の時〉!」
なので私は分身を作る武技を使用して自身の分身を生み出し、そこから雷を避けつつ攻撃をしながら二手に分かれてさらに接近していきます。
『貴様の分身は厄介だな?』
「分身に惑わされてそのまま倒れてください!」
そう言葉を交わしながら攻撃を繰り返す私と分身ですが、天災は無数の雷は健在のまま雷以外の攻撃である無数の魔法による攻撃も放ってくるので、流石に分身が存在してセレネとクリアのサポートがあるとはいえ、一人では対処が難しくなってきています…!ですが…
「レアのサポートをするわよ!〈飛び回る氷柱〉!」
「ですね!人形さんたち、〈マナアロー〉なのです!」
そこにネーヴェさんとアリスさんの放った無数の氷柱や魔力の矢などによって、天災から飛んでくる攻撃を粗方防いでくれているのでかなりありがたいです!
「お二人とも、ありがとうございます!」
「さあ、いきなさい!レア!」
「サポートは任せてください!〈エアスピード〉!」
さらにアリスさんからはスピードを上げる効果の魔法も使ってくれたので、今も使っている〈第一の時〉を含めてさらなるスピードが出せ、加速を活かして戦うのがやりやすくなりそうですね!
私は改めて感謝の言葉を返した後、その効果時間の間に地面を蹴ることでつけた勢いのまま、一気に雷による攻撃の隙間を駆け抜けて天災の元へと踏み込みます。
『ふはは!なかなかやるようだな!ならば貴様は、この手で確実に屠ってくれよう!』
「こっちこそ、貴方を倒させてもらいますよ!」
互いに近接攻撃の範囲に入った頃合いに天災は雷を落としてきながらも、雷を纏った両腕によって連続して攻撃をしてくるので、それをしっかりと目で確認しながら不規則な動きでギリギリ回避し続け、反撃の弾丸とクリアの吐いた棘にセレネの魔法でダメージを与えていきます。
明らかに先程使用した能力のせいか攻撃力と俊敏性も上がっているようでかなり躱わすのがギリギリですが、後衛であるネーヴェさんとアリスさん、そばにいるセレネとクリアによるサポートもあってかなんとか捌くことが出来ていますね!
それに防御力も間違いなく上がっているようで、最初よりも与えられるダメージが低くなっていますが、それでも間違いなく減らすことは出来ています。
「レアに続くぞ!」
「了解だよ、ゼロさん!」
そこへ、天災の意識が私に向けているからか兄様たちへの雷による攻撃が薄くなったタイミングで一気に近づいてきた兄様たち近接組六人による攻撃も天災の身体へと放っており、さらにHPを削れているのがわかります。
兄様たちも当然のようにトップに立つだけはあり、とても心強いです…!
『ふん、やはり数は力だな。だが、我とて力ある者だ。その力を正面から打ち砕いてみせよう!』
そうして私が天災からのヘイトを集めてタンクの役割をこなしつつ皆で攻撃を加えていると、そのように声をあげた後に再び咆哮を放ちます。
「…っ!」
「今度は何だ!?」
「地面が、揺れてる…!?」
「キュッ…!?」
「……!」
そんなクオンが発した言葉通り地震でも起きているかのように地面が激しく揺れ、立ってることも出来ずにしゃがんでしまいます。
しかし天災も能力を発動させるのに意識を向いているのか、こちらに攻撃はしてきていないのでなんとか問題はありませんけどね。
『〈穿岩大地〉!』
そしてその言葉と共に能力が発動された次の瞬間、私たちのいた足元の地面から突然岩の柱が飛び出てきてそのまま雨と風の激しい上へと運ばれます。
私たちの場所以外にも無数に岩の柱が聳えているらしく、今いる柱によって下の方が影になったりしています。
簡単に確認を済ませた感じでは、足元の地面が全て上へと伸びているわけではないようで、下の方にも柱によって壁のようにはなっていますが、上と同じくらい広めの地面が見えています。
「どうやら、かなりの高低差が生まれてはいるが迷路のような形になっているようだな」
「そうですね。間違いなくあのワールドモンスターの発動した能力のせいだとは思いますが、これは結構面倒くさいですね」
近くにいた兄様の呟いた言葉にクオンがそう返し、周りにいる近接組である皆さんも同様に頷いています。
「レアさーん!それに皆さんも無事ですかー!?」
「アリスさん!はい、上に運ばれただけなので特に怪我はありません!」
下の方からそのような声が聞こえたので返事をしましたが、ユニコーンのハクに乗っていたアリスさんとネーヴェさんは私たちから離れていたからか下の方の地面にいるらしく、私たちのいる場所からは高さによって離れています。
まあ距離的にはそこまでですが、伸びてきた岩のせいで分断されてしまいましたね。
「レア!ヤツが現れたぞ!」
そんな中、唐突にあげたルベルさんの声を聞き、私たちはすぐさまそちらに視線を向けます。
すると、私たちから少しだけ離れた雨と風の酷い空中あたりに翼をはためかせてホバリングをしている天災がこちらへと視線を返しながら浮かんでいました。
『ここからがさらなる舞台だ。簡単には死んでくれるなよ?』
「レアちゃん、今のフィールドがこれだから、私は空中から援護するね!」
「レアさん、私とルベル、そしてクオンさんの三人は私の転移スキルでアリスさんとネーヴェさんのいる地上に移動して警戒に移ります」
「わかりました。またタンクの代わりは私がするので、皆さんも気をつけてください!」
その作戦を立てていた間に天災は先程も見た氷の鎧と同じのような、しかしあそこまでガチガチではなく岩石らしきものを爪と尻尾に纏っているので、こちらは攻撃に偏っているようですね。
それに今もそうですが、このフィールドは天災が飛ぶことを前提としているようにも見えるので天気が悪いのでわかりづらいですし、空からの攻撃にも注意しないとです。
「では、行きましょう!」
『おう!』
『我が力で押し潰されるがいい!』
私たちは曇っている空から降ってくる巨大な岩の塊を散開して避け、そのまま作戦通りに動き始めます。
私はヘイトを集めるタンクをするので、まずは〈第一の時〉を撃ち込んで加速させ、そのまま岩の柱を飛び移りながら天災へと連続して〈第二の時〉、〈第三の時〉、〈クイックバレット〉、〈ムーブバレット〉と次々と放ちます。
『ふん、そのようなもは効かぬぞ?』
「ちっ、やはり空中を飛ばれるのは厄介ですね…!」
それでも天災は翼をはためかせることで空中を素早い動きで飛び、それらを全て回避されてしまいます。
私のような人は空中を飛ぶことが出来ないので、常に空中にずっといられると倒すのは遥かに難しくなってしまいますが、天災はどうやら時々飛ぶことはあっても飛び続けるということはしないようです。
なぜなら、私のいる岩の柱を空中で一周したタイミングでこちらへと一気に迫ってきて、その手に纏わせている岩の爪を勢いを乗せて振り下ろしてきます。
「下にいるとはいえ、見えているわ!〈落ちる氷河〉!」
「私も!人形さんたち、〈マナランス〉です!」
「キュッ!」
「……!」
『ふん、やはり魔法による援護は鬱陶しいな』
しかしそこへ下から飛んできた無数の氷塊と無属性の魔法による矢の嵐、私のそばにいるセレネとクリアによる魔法や棘なども天災の身体に命中してほんの少しだけダメージを与えるついでに気を引くことに成功し、攻撃がわずかに逸れることで問題ない回避出来ました。
ふふん、つい意識が向いてしまうのもわかりますが、隙だらけですよ!
「〈第二の時〉!」
『ちっ、だが貴様は無視だ。先にこちらを始末させてもらおう!』
そこへ放った私の武技はしっかり命中しましたが、ネーヴェさんとアリスさんによる邪魔に苛立ったのか、私を無視して遅延効果が発揮したままで二人の元へと迫っていってしまいます。
「ちっ、こっちに来てしまったわね…!〈吹雪の夜〉!」
「〈魔壁の人形〉です!」
ネーヴェさんたちから飛んでくる攻撃を動きが鈍くなっているのがわかっているからか避けることもせず、岩の柱の隙間を縫うかのようにユニコーンのハクに乗って逃げているネーヴェさんたちへと向かって天災が高速で飛んでいくので、私は〈第一の時〉と〈第零・第十一の時〉を同時に使い、さらに風による抵抗をなくすために〈舞い散る華〉も使用して今出せる私の最高速度を出して天災を追いかけます。
「行かせないよ!〈狂獣の叫砲〉!」
「足止め、協力しますよ!〈霧裂〉」
「止めて見せよう!〈串刺し鮮血〉!」
「俺も…!〈土の護剣〉!」
『ほう…』
そこにソフィアさんと、転移で後衛である二人のそばに移動していジェーンさん、ルベルさん、そしてクオンの四人からの攻撃が放たれ、流石にそれらを身一つで受けるのは危険と思ったようで一度距離を取ることで避け、止まります。
そしてそれと同時に遅延効果も切れてしまいますが、動きが止まりましたね?なら、ここで追いつけますし、攻撃のチャンスです…!
「〈第三の時〉!」
私は超加速した動きのおかげですぐさま天災の背中に着地し、そのガラ空きの背中へと武技を混ぜた攻撃を連続で叩き込みます!




