131話 呼び寄せよ、天為の災厄2
『…む?』
貫かれたと思ったでしょう?私も思いましたもん。動くのには明らかに間に合いはしませんでしたが、咄嗟に使った〈舞い散る華〉は発動が本当にギリギリで間に合い、なんとか爪による攻撃は避けることが出来たのです。
それに今使用して初めて気づいたのですが、テイムモンスターであるセレネとクリアも一緒に花びらになっていたようで振り落とされたりしてなかったのは助かりましたね。
今の攻撃はかなりギリギリの綱渡り状態でしたが、このスキルはまだ見せたことがなかったのでその後は特に対処されることもなく後方へと距離を取ることが出来たので、私はセレネとクリアと共に先程よりも強く天災に対して警戒を向けます。
『確かに、我の爪は貴様を捉えた。だが、回避されただと?』
天災は不思議そうにしてますが、それを考える隙を与えませんよ!
「〈第七の時〉!」
『む、今度は分身か?』
自身に対して分身を生み出す武技を使用した後、続けて青い炎を纏っている天災へと分身が〈第二の時〉を、本体である私が〈第三の時〉を連続で放ちますが、それは青い炎を纏った爪によって容易に消し去られて無効化されてしまいます。
「くっ、先程の攻撃でもそうでしたが、HPが徐々に削れているだけはあって凄まじい強化系のEXスキルみたいですね…!」
「しかも、これのせいで攻撃をしにくいな…!」
この状態では兄様たちによる物理攻撃も当てにくそうですし、ネーヴェさんやアリスさん、セレネとクリアによる魔法などによる攻撃も炎に相殺されて無効化されてしまいます…!
天災もそれを余裕げに見ていますし、これはどうしたものでしょうか。このままだといずれ私たちが全滅させられそうですが…
『ふん、この力があれば貴様らも無力みたいだな』
「それはどうかしら?」
「ネーヴェさん?」
有効打に欠けているせいで悔しげにしつつも攻撃を加えていた私たちでしたが、そんな天災の言葉に後方にいたネーヴェさんがいきなり言葉を返します。
私も天災と同様にネーヴェさんへとチラリと視線を向けましたが、ネーヴェさんは何やら手に持っていた白い杖を頭上に掲げているのがわかります。
一体、何をするつもりでしょうか?ネーヴェさんの表情を見るに、何か秘策があるみたいには感じますけど…
『一体なんの真似だ?』
「それを使えるのは貴方だけではないってことよ」
その言葉を合図に、ネーヴェさんは詠唱を開始します。
「氷河は奔り、凍てつく波は万象を飲み干す」
『まさか…』
ネーヴェさんの詠唱を聞いて天災はそれを阻止しようとすぐさま動き出しましたが、それを予測していた私は即座に足を縫い止める効果を持つ〈第十一の時〉を比較的炎が薄かった場所へと撃ち込むと、それはギリギリ体に命中したようでしっかりと足を縫い止めることに成功します。
「氷魔を受け継ぎし血脈よ、吹雪より顕現するは氷結の女王」
『やはりか。ならば…!』
「させないぞ!〈秘剣・風断〉!」
「我も続く!〈波打つ鮮血〉!」
「これならば、〈落ちる霹靂〉!」
「人形さんたち、〈魔壁の人形〉です!」
それでもネーヴェさんの行動を止めるために口から連続して、先程とは違って青白く染まった火球を飛ばしますが、それらは一気に飛び出してきた兄様たちの全力の武技によってなんとか相殺ができ、それを防ぐことが出来ました。
「凍てつく世界は今、白銀に染まる!〈心力解放・氷河の大地は白銀へ〉!」
そうしてネーヴェさんによるEXスキルが発動された次の瞬間、一気にネーヴェさんのいた辺りの地面から氷のようなものが走り、そのまま天災の元まで向かって炎すらも凍らせる勢いで氷が侵食していきます。
『な、これは…!』
「私の切り札よ!そのまま凍りつきなさい!」
その言葉と共に天災の足元から一気に氷が侵食していき、最終的には纏っていた青い炎すらも凍らせて一つの彫刻のようになりました。
それにしても、天災が使ってきたのはワールドモンスターなので納得は出来ましたが、まさかネーヴェさんも同様にEXスキルを獲得しているとは思いませんでした。
「炎すら凍らせるなんて、どんな威力をしているのですか…!」
「だが、そのおかげで炎は消えたぞ!」
近くにいたカムイさんの言葉を聞きつつ、私がそれを見てネーヴェさんの方への視線を向けようとすると、突如爆発音のようなものがなったので振り返ると、そこには全身に凍傷のようなものを負いつつも残火のように青い炎をわずかに纏った状態で氷を弾き飛ばしている天災がいました。
「ちっ、やっぱりそのまま倒すのは無理なようね!」
「ですがネーヴェさん、今の攻撃のおかげでHPは結構削れていますし、青い炎も少なくなっているのです!」
そう言葉を発しているアリスさんに私も同意します。流石に倒すまでいってないみたいではありますが、それでもEXスキルなだけあって結構な負担は負わせることが出来てますし、ここからなら攻撃もしっかりと当てれそうなのでかなり助かりました!
『…これに対処されたのは初めてだ。貴様、ただのエルフではないな?』
「ふん、貴方の炎が弱いだけじゃなくて?」
『…どうやら、よほど死にたいらしいとみた。ならば、我が憤怒の炎で貴様を焼き払ってくれる!』
その言葉を発した直後に再び青い炎を活性化させて纏い始めた天災でしたが、やはりネーヴェさんの攻撃もあってか使用したばかりの時よりも炎の勢いは強くないので、こここらなら攻撃も通りそうですね!
なら、明らかにロックオンされているネーヴェに攻撃が飛んでいかないよう、またもや回避タンクの役割にいきましょう!
「〈第七の時〉!」
私は自身に武技を撃ち込み、効果時間が切れていなくなっていた分身を再び呼び出した後、天災に向かって合計四丁による銃を乱射して攻撃を加えていきます。
それに対して天災は、災害系の能力であろう土石流や津波などを起こして反撃を繰り返してきます。
「ちっ、やはりワールドモンスターというだけあってかなり手強いな…!」
「範囲攻撃も強いし、厄介だな」
私たちはそれらをなんとか対処しながら、私に続くように兄様たち前衛組も天災へと接近して攻撃を与えていきますが、なんだか様子がおかしいです。何故なら…
『ガァッ!』
「くっ…!」
「うおっ!」
「ちっ…!」
天災の放つ強力な攻撃に、たまらず声を漏らしながらダメージを受けている兄様たち。
ネーヴェさんのおかげで最初よりも攻撃は入っているはずなのですが、それでも与えている傷が浅くなってきており、さらには相手である天災による攻撃も強くなっているように感じます。
「おかしいです…」
「おや、何がおかしいのですか?」
一度観察のため、兄様たちへタンクの代わりをお願いしてから後退した私の元に突然現れたジェーンさんに声をかけられましたが、それは特に気にせずにおかしい点をジェーンさんに伝えます。
ちなみに先程からジェーンさんも転移と隠蔽を活かして攻撃をしていましたが、やはり暗殺者タイプのプレイヤーだからか兄様たちと比べると弱いようなので、それを気にして私に声をかけてきたのでしょう。
言ってはあれですが、今ここにいるプレイヤーの中では正面からの戦闘ならば一番弱めな人物でありますしね。
っと、それはいいとしておかしい点を言ってみますか。
「明らかにさっきよりも防御力が下がっているはずなのに与える傷が徐々に浅くなっているのと、放ってくる攻撃も重くなっています」
「ふむ…」
なんというか、時間が経過するごとにステータスが上がっているのかと感じてしまうのですよね。
もしかして、そのような効果を持つ能力でも持っているのでしょうか?だとすると、戦闘が間違いなく長引くので手早く倒さないと手が付けれなくなりそうですが…
「それならば二本目のゲージも後少しですし、とりあえずそれは気にしておくとして攻撃を加えていきましょうか」
「…そうですね」
ジェーンさんの言う通り気にしておく必要はありますが、まずは倒すのが倒すのが目標ですし、今みたいに観察に回っていないで攻撃を続けていきますか。
「セレネとクリアも、お願いしますね」
「キュゥ!」
「……!」
二人も力一杯頷いてくれますし、今も戦っている兄様たちの元へいきましょう!ひとまずは二本目のゲージ、ですね!
「兄様!」
「レアか!悪い、俺たちだけでは持ち堪えるのが精一杯だった!」
「すみません!ここからは私がやります!」
そう言ってすぐさま兄様たちと立ち位置を変わるかのように両手の銃を乱射しながら、天災に向けて攻撃をしながら近づいていきます。
兄様たちは持ち堪えるので精一杯とは言ってましたが、後衛であるネーヴェさんとアリスさんの元へはなんとか行かせていなかったので、流石の腕前とは思いますけどね。
「ソフィアさん、いますか!」
「はいはーい、いるよー!」
「私がメインのヘイトを取るので、ソフィアさんは空中から遊撃を頼んでもいいですか!」
「任せて!じゃあ早速いくよー!」
私を信頼してくれているからか、私の言葉にソフィアさんは直ちに行動に移ってくれて空中から無数の羽根の弾丸などを飛ばしており、それに天災は少しだけ不快そうな表情を浮かべているので、遊撃としてはかなりいい動きなのがわかります。
よし、私も早速行動に移りますか!
「〈第七の時〉!」
私は再度武技を自身に撃ち込むことで分身を生み出し、そこから遅延効果を持つ弾丸の〈第二の時〉を分身が、本体である私が攻撃である〈第三の時〉を放ちます。
『ふん、貴様はやはり邪魔だな』
それらはソフィアさんによる働きのおかげで出来た一瞬の隙に放ったので、見事に命中してその効果を発揮します。
「今がチャンスだな!〈水の流剣〉!」
「俺も続くぞ!〈秘剣・燕撃ち〉!」
『ふん、こんなもの!』
さらに、私の撃ち込んだ武技の影響で動きが鈍くなったのを見たクオンたちによる攻撃もガラ空きの身体へと放たれ、さらHPを削っていきます。
『ならば……ガァアアッ!』
それを危険と思ったのか、そのような声と共に私たち目掛けて薙ぎ払うかのように一気に青白い炎を吐いてきたので、私は即座に〈第一の時〉を分身と共に自らへ撃ち込むことで加速した動きで逆に天災へと踏み込み、そのまま足元まで滑り込みます。
「「からの、〈第三の時〉!」」
『ガフッ!?』
「うわっ、アレは痛そー…」
そして炎のブレス中に口の下目掛け、分身と一緒に同時に跳び上がって銃による刺突と一緒に武技も放つと、それのせいで口が無理やり閉じられたようで口の中でブレスが爆発したのを確認しました。
ソフィアさんがその光景を見て何やら呟いていますが気にしません!だって、敵ですからね!
『ガフッ…貴様!貴様だけは八つ裂きにしてくれる!』
「うわ、激おこじゃん…」
それのせいで明らかに私に激怒しているのがはっきりとわかったので、私は顔を引き攣らせながらそれに対応します。
残り火のようではありますが、青い炎を精一杯活性化させているらしくその状態で立て続けに攻撃を繰り返してくるので、私はネーヴェさんとアリスさんによる魔法のサポートを受けながら、それらの攻撃をゆらゆらと不規則な動きと細かい足捌きによるフェイントを混ぜ、全て紙一重で避け続けながら反撃を放ちます。
ですが、纏っている青い炎が舞い散るせいでほんの少しずつではありますが私のHPが削れていってしまっており、この状態が続いたらちょっと危なそうですね…
それに兄様たちやセレネたちも出来る範囲で攻撃をしてますが、それでも私に対してのヘイトはなくなりません。
『これでもダメか。ならば、更なる力を使うまでだ!〈憤怒する昂り〉!』
「っ、今度は何を…!?」
そうして二本目のHPゲージがもう少しでなくなるといったタイミングで天災は一度攻撃の手を止め、再び能力らしきものを使ったと思った次の瞬間、私の持つ【魔力感知】スキルが天災へと周りの魔力が全て吸収されるのを感じとりました。
「な…!魔法が使えない…!?」
「わ、私もなのです…!?」
「キュゥ…!」
「ちっ、間違いなく今の能力のせいですね…!」
周囲の魔力が天災に全て吸い取られたのを確認しましたし、それ以外には理由を考えられないです。
流石にこの状態がずっと続くというわけではないとは思いますが、それでもこの間はネーヴェさんとアリスさん、そして私の首元にいるセレネによる魔法は期待できないみたいですね。
なら、この効果が続いている間はさっきと同じように私と兄様たちで持ち堪える必要がありますね!
「〈第一の時〉!」
『ふん、これで魔法によるサポートは出来ないが、それでも貴様のユニークスキルと動きに対しては警戒をしたほうがよさそうだな?』
それでも天災はここに揃っている人たちの中で一番私を警戒しているようで、隙を見て〈第二の時〉を放ちましたが、それは軽い調子で避けられて反撃として先程までよりもはるかに多い無数の魔法による攻撃と竜巻、氷の嵐を私たち全員へと飛ばしてきます。
というか、明らかに魔法の数が多すぎませんか…!?多分魔力を吸い寄せているからこの規模なのでしょうけど、流石に魔法によるサポートがないとこれらの弾幕を全て避けるのは厳しそうです…!
「なら、〈第零・第七の時〉!」
『む、増えた…?』
なので、私は一つの武技を自身に撃ち込むことで無数の幻影を生み出し、それに混じるように動きつつも幻影を操作して弾幕をなんとか避けつつ天災へと接近していきます。
それでも天災は無数の魔法を盾にして私たちの接近を阻み、そのせいで私と幻影の動きがほんの一瞬止まったタイミングて尻尾を薙ぎ払ってきたので、私は咄嗟に〈舞い散る華〉を使用しつつ空中へと飛び上がり回避します。
『無駄だ、それはもう見たぞ!』
「…っ!」
が、即座にそれにも反応されて鋭い爪の生えた右腕を振るってきたので、私は咄嗟に〈飛翔する翼〉を使用しつつ後方へと再び跳ぶことでなんとか回避は出来ました。
動きを加速させた状態だったのでギリギリ間に合いましたが、この反応を見るにもう同じ手は通用しないでしょうね…!
まあ魔法による攻撃は止めることが出来たので無駄ではありませんでしたし、私が気を引いている間に兄様たちが出来る限りの攻撃をしてくれてたのでHPはすでに二本目のゲージを超えて三本目までいっているので、戦闘を順調に進めることは出来てますけどね。
『…ここまで傷を与えられたのは初めてだ!ならば、忌々しいとはいえその実力を認め、さらなる力を披露しよう!』
その言葉と共に天災は地面へと付けていた四本の脚に力を込め出し、さらに曇っていた天気までもがそれに影響されるかのように渦を巻くように動き出したので、明らかに何かをしようとしているのがわかります。
なら、それを発動させる前に阻止するに決まってます!
私たちはすぐさまそれを阻止しようと瞬時に動きましたが、天災の周囲に風と炎、氷の粒と石の塊による機雷のようなものが漂っているせいで阻止は出来ず、発動を許してしまいます。
『我が力に震えるがいい!〈領域解放・統べるは天地を揺るがす滅竜域〉!』
そしてその発動を合図に、天災の立っていた地面から一気に青い炎が周囲へと奔り、私たちの視界が真っ白に染まることでそれが効果を発揮します。




