130話 呼び寄せよ、天為の災厄1
『貴様らは、何者だ?』
そうしてニーナちゃんの力を借りて移動した山の山頂で天災のゾムファレーズが来るのを待っていると、突然そのような声と共に私たちを覆うかのように影が出来ました。
私たちはすぐさま声のした方へと視線を向けると、そこには銀色の鱗を全身に纏い、鋭い金色の瞳をした巨大な竜が空中でホバリングをしながらこちらを警戒するかのように見つめているところでした。
あの見た目からするに、間違いなくあの竜が目的の天災のゾムファレーズで間違いなさそうですね。
まさに西洋の竜の姿で結構かっこいいですけど、その威圧感は前にも戦った世喰と同等にも感じるので少しだけ気後れしてしまいますが、ニーナちゃんとも約束をしましたし負けてはいられませんっ!
➖➖➖➖➖
??? ランク ?
???
状態:???
➖➖➖➖➖
鑑定結果も一切わかりませんし、情報もある程度は把握しているとはいえ油断は出来ませんね…!
「私たちは異邦人です!貴方を討伐しにきた者たちといえば分かりますか?」
『ふん、異邦人か。しかも我を討伐とは片腹痛い。その傲慢さ、我が憤怒の炎で焼き払ってくれるわ!』
『ワールドクエスト【呼び寄せよ、天為の災厄】が発生しました』
「キュッ!」
「っ、皆さん、散開です!」
そんなシステムメッセージが聞こえた瞬間に首元にいたセレネの警戒を促す声を聞き、私は咄嗟にそう声をあげて一気に横へと駆け抜け、他の皆も同様に回避に動いています。
それと同時に天災の口から吐いた炎が私たちの元いた場所を一気に焼き払い、地面が炎の影響で真っ黒に染まっているので、アレは当たっていたらやばかったのでしょうね…!
「では皆さん、作戦通りに!」
「了解した」
「任せろっ!」
攻撃を回避した後は、先程決めていた作戦を行うために早速皆がそれぞれで動き出します。
「〈走り去る雷光〉!」
「〈秘剣・霞突き〉!」
「〈鮮血の魔剣〉!」
「〈炎の豪剣〉!」
私たちの最初の攻撃はカムイさんと兄様、そしてルベルさんとクオンの放った武技でした。
四人はユニークスキルによる攻撃を未だに空中にいた天災に向けて放ちましたが、それらは翼を大きく振るうことで発生した風のせいで命中させることが出来ず、そのまま弾き飛ばされてしまいます。
くっ、やはり人数はいてもステータスの差が大きいせいで簡単に防がれてしまいますか…!
「まだまだ!〈穿ち滅する尾〉!」
「私もいますよ!〈霧裂〉!」
しかし、そこに天災の頭上にいつのまにか移動していたソフィアさんとジェーンさんによる攻撃が放たれ、今度は躱さられることはなくしっかりと頭部へと命中してわずかにダメージを与えることに成功します。
ナイスです、ソフィアさん、ジェーンさん!なら、私たちもいかなくてはですね!
「私たちも続くわよ!〈吹雪の夜〉!」
「なのです!〈人形の呼び声〉!さあ、行くのです!」
「私も…!〈第三の時〉!」
『ふん、そんなものは効かぬぞ?』
さらに続けて私たち後衛組も攻撃を放ちましたが、今度はその両碗に生えている鋭そうな爪を振るうことでそれらは全て掻き消され、そのうえ空中から一気に地面へと着地をしたその次の瞬間には再び両碗の爪を一番近くにいた兄様たちへと振り下ろします。
「っ、危ないな…!」
ですがそれはなんとか回避出来たようで、兄様たちは振り下ろされた腕に対して反撃をしてますが、やはりワールドモンスターでもあり硬そうな鱗も生えているおかげか、先程ソフィアさんたちが頭へと攻撃した時よりもダメージは入っていません。
やはり、腕などよりかは頭の方がダメージが入るみたいですし、そちらを狙って攻撃をするのご良さそうですね。
それと竜ということは一般的に知られている逆鱗が弱点、といった情報を見たことがありますし、そこを探すのを意識するのも良さそうでしょうか?なら、それに対しては姿を隠せて簡易の転移も使えるジェーンさんにお願いしてみますか。
『貴様らは他の有象無象とは違うみたいだな。ならば、我も貴様らの力に対して我が力の一端を見せてやろう』
「っ、きますっ!」
私は天災の発した声を聞き次第、飛んでくるであろう攻撃に対応するために自身に向けて即座に〈第一の時〉を撃ち込むことで動きを加速させます。
私の声を聞いた皆さんもそれぞれが警戒をしますが、その直後に天災が咆哮をあげたと思ったら、突然先程まで晴れていた空が黒い雲で覆われ、間髪をいれずにそこから暴風と豪雨が撒き散らされます。
しかもどうやらそれは攻撃らしく、雨や風に混じって水の球や風の刃が混じっているようで私たち全員に対して徐々にダメージが入ってしまいます。
やはり二つ名の通り、天災……つまり自然災害系の能力を持っているみたいですね。本で見た通りです。
加えてあの竜はまだ全然本気ではないでしょうし、これ以上にも特殊な能力がありそうなので警戒をしていないとダメなので、これ以上を想像するとキツそうに感じます…!
「収まったか」
「ふぃー、かなりやばい攻撃なんだけど!?」
『ふん、これだけでは倒しきれぬか』
そうしてなんとか武器で防いだり回避したりと、全員のHPが削れはしましたが対処をすることが出来たおかげで死んだ者はおらず、皆無事なようです。
私のそばにいたセレネとクリアも特に怪我を負っていないみたいなので少しだけ安心しましたが、それでもこれを続けられるといつかは倒されてしまいそうですね…
「攻撃は止んだ!なら、反撃の時間だっ!」
そう言って兄様を筆頭に前衛組が天災に向けて再び攻撃を始めたので、私たち後衛組も同様に攻撃を放っていきます。
それと暴風雨の収まったタイミングでジェーンさんに弱点を調べるのをお願いしましたし、弱点がわかるまでは地道にHPを削るとしますか。
「なら、〈第二の時〉!」
『む、動きが…』
「皆さん、畳み掛けてください!」
攻撃を放ちつつも、そこに混ぜるかのように撃ち込んだ遅延効果の武技は躱されずにしっかりと天災へと命中し、キチンと効果が発揮されます。
他の皆さんも私の武技の効果を知っているからか、私の声が聞こえた瞬間には即座に自身の持てる全力を繰り出しています。
『ふむ、この中では貴様が一番厄介な存在のようだな』
しかしその結果、天災は私を一番危惧したようで私へとその黄金の瞳を向け、そのまま連続して口から火球を放ってきます。
「〈第一の時〉!」
なので私はすぐさま自身に加速させる武技を撃ち込むことでスピードを上げ、その状態で地面を蹴って駆け抜けることで次々と飛んでくる火球を回避していきます。
流石にこれ以上は隙を見つけて撃たないと、遅延効果の武技は当てることは出来なさそうですね。それに天災は集まっているこのメンバーの中で一番私を警戒していますしね。
なら、タンクの役割のプレイヤーは今回はいませんし、ここからは私がスピードを活かした回避タンクをしましょうか!私のスピードはおそらくプレイヤーの中ではトップだとは思うのと、それがこの状況には合うとは判断出来るので!
そのうえ、私の元にはほんの少しではありますが未来を見れるセレネもいますし、よほどのことはないとは思います。
「皆さん!私がタンクをするので、その隙にお願いします!」
「レアちゃん、大丈夫なの!?」
「今の状況にはあってますし、なんとか頑張ります!」
「…わかった。なら、頼む!」
私はクオンの言葉に任せてくださいと返し、そのタイミングで今度はなかなか当たらない火球ではなく直接攻撃で私を倒すためなのか、思いの外素早い動きで接近してきてその右腕を私に向けて振り下ろしてきます。
私はそれを横に半歩ズレることでギリギリで避け、続けて横薙ぎに振るってきた反対の腕による攻撃も姿勢を地面に深く沈めることでそれも回避します。
そこに反撃として両手の双銃で弾丸をお返ししますが、それは空いていたもう片方の腕で防がれてしまいます。
一応HPは削れてはいますけど、やはり弱点ではないせいでダメージがあまり入らないですね…!
『ふん、貴様はこの中で一番素早いな?』
「そういう貴方こそ、頑丈すぎませんか?」
そういった言葉を互いに掛け合いながらも、私は次々と振るってくる両腕の攻撃や火球に風の刃、雷や氷柱などをゆらゆらと不規則な動きで全て回避しつつ反撃を与えていきますが、弱点ではないせいでどうしても与えるダメージが低く、HPをガンガン削ることは出来ていません。
『しかし、先程から羽虫がうるさいな』
「おっと、そちらには行かせませんよ!」
しかも、その状況で背後からかちまちまと攻撃を加えていた兄様たちへと意識を向けようとするので、私は遅延効果持ちの〈第二の時〉を撃ち込み、再び動きを遅くさせます。
その遅延効果の影響で兄様たちに向けて振るわれた攻撃は容易く躱せたようで、そこに兄様たちやネーヴェさんたち、セレネにクリアは私と同じように反撃の攻撃を加えていき、それのおかげである程度のHPは削れているのが確認出来たので、やはり効きづらくても不死身ではありませんね。
『貴様、やはり面倒だな』
「なら、素直に倒れてくれると嬉しいのですけど!」
振り返るのと同時に私に向けて地面を削るかのように高速で尻尾を薙ぎ払ってきたので、それは地面を蹴って空中に跳ぶことで避け、その隙を見て放ってきた無数の風の刃に対しても靴についているスキルである〈飛翔する翼〉を使用しながら、空中でバク転をするかのように身体を捻ることでそれらを全て回避します。
『やはり、貴様は他とは違って厄介だな?』
「これが私の力ですからね!そのまま倒れてください!」
そんな言葉と共に天災が何やら再び咆哮をあげると、今も曇ったままだった空から私目掛けて無数の雷が空から落ちてきました。
ですが、雷による攻撃はカムイさんとの特訓で学習済みです!
『ほう、これも効かぬか』
私は再度自身に撃ち込んだ〈第一の時〉による加速状態を活かして落ちてくるそれらを全て回避し、それにわずかに驚いている隙に天災目掛けて両手の双銃で銃弾を放つと、その攻撃は見事に天災の首元へと命中して普通に攻撃するよりも大きめのダメージを与えることが出来ました。
今の反応からして、逆鱗かどうかは分かりませんが首元は頭部と同じようにダメージが通りやすいみたいですね!
「隙だらけだぞ!」
『ふむ、貴様らに対しても、油断は禁物か』
その時、あちらへの意識が薄れていて隙が出来ていた頃合いに兄様たちが背後から天災に向けて全力の攻撃を放ち、それは見事に背中付近に傷をつけることでさらにHPを削ることに成功します。
しかし、その攻撃を受けたタイミングで天災は再び翼を広げ、空へと舞い上がろうとして次の瞬間。
「おっと、飛ばせはしませんよ!」
私は〈第一の時〉と〈第零・第十一の時〉による二重の加速を活かして即座に天災の背中へと回り込み、背後から銃弾を乱射してその動きを止めます。
『ふん、面倒だな』
「キュッ!」
「…っ!」
しかしその代償として激しく暴れた天災の動きで私は身体から吹き飛ばされましたが、すぐさま空中で姿勢を戻してから私は地面へと着地します。
それでも、その甲斐もあって天災は飛び上がることをやめたようで、私のことを怒り心頭気味に睨んできます。
前に戦ったワールドモンスターと比べても善戦は出来てますし、やはり成長を感じますね!
なら、このまま倒すために頑張りましょうか!
『やはり、貴様らはなかなかやるようだな。ならば、今ここで我が力を解放してみせよう!』
そうしてそこからも私たちと天災による攻防をしばらく続けていると、気づいたら天災のHPの一本目のゲージがやっと削り切れるところで、そんな声を天災があげます。
『〈心力解放・我が憤怒は竜焔の如く〉!』
すると、まさかの私と同じような【心力解放】スキルを発動させ、それと共に青い炎が天災の全身に纏われて辺りに高熱による炎の継続ダメージに加え、その熱さによって近づくのすら難しく感じます。
ですが、なんとその青い炎は天災自身にもダメージを与えているらしく、ほんのわずかずつではありますが継続ダメージが入っているのが確認出来ました。
なら、時間を稼ぐだけでもHPを削るのは出来そうですね?まあそんな陰湿なことはしないで正面からも攻撃をしていきますけども。
『ふぅ、この力を使うのは久しぶりだな。では、まずは一番厄介な貴様から始末させてもらうとしよう』
そのような声が聞こえたと思ったら、巨大なはずなのに一瞬のうちに私の真ん前へと天災が近づいてきたので即座に動こうとしましたが遅く、兄様たちやセレネによる慌てた声が聞こえつつも青い炎を纏った天災の爪が私の胸を貫きます。




