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128話 森の先へ

「さて、今日は何をしましょうか」


 そして今日はラクダ狩りをした日から一日が経ち、月曜日です。朝のやることを全て済ませた私は早速ゲーム世界へとログインしてきました。


 とりあえず目的であった神代言語の解読は済んでいますし、今すぐにやらないといけないことはありません。


「うーむ……それなら、兄様から聞いたゴルブレン森林の東の攻略にでも行きましょうか!」


 私はやることを決めた後は早速今いる砂漠の街から迷宮都市へと転移を行い、すぐさまゴルブレン森林に向かって歩き始めます。


 森まではしばらく歩いていると少しの時間が経過した頃合いに着いたので、ちょうどいいのでクリアとセレネを呼び、三人で出てくるモンスターを狩りながら森の中を東方面を目指しながら歩いていきます。


「やっぱりこのくらいのモンスターではクリアたちも苦戦することはないうえに素材的にも嬉しくはないので、スキルのレベル上げくらいにしかなりませんね」


 別に素材がいらないわけではないですけど、それでも今の段階ではすでに型落ちが否めませんからね。


「っと、ここがエリアボスの手前ですかね?」

「キュッ?」

「……!」


 そんなことを考えつつも森の中を歩き続け、数時間が経つ頃には目的の場所であろうエリアボスの手前付近まで到着しました。


 入り口に到着したらわかりましたが、数名のプレイヤーたちがパーティでも組んでいるのかボスエリアの手前で待機していたようで、近づいてくるこちらに気づかれました。


「その姿、もしかして【時空姫】か!?」

「え、あの有名な!?」

「うそ、むっちゃ可愛いじゃんか!」


 私を確認するや否やそのように声をかけてきたので、私は簡潔に挨拶を返し、今は待っているのかを聞いてみます。


 すると、別に待っているわけではないようで、全然先に行っても大丈夫と返してくれました。


 それなら、遠慮せずにいかせてもらうとしますか。確かここのエリアボスは前に兄様から聞いた限りでは大きめの熊、でしたっけ。


 熊の相手は普通の個体とはいえしたことがありますし、エリア的にもそこまで強くはなさそうなので問題はないかもしれませんが、油断はしないでおきましょう。


 私はボスエリアの手前で待機していたプレイヤーパーティに一声かけた後、クリアとセレネを連れてボスエリアへと足を踏み入れます。


 そしてボスエリアを少しだけ進むと、突然森の奥の頭上から黒色をした普通の個体よりも一回りは大きめの熊が現れました。


 ➖➖➖➖➖

 ブラックベアー ランク F

 森の中に生息している黒色をした大熊。

 その身には強靭な力と硬さがあり、その力で敵を薙ぎ払う。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 鑑定結果からも力だけではなく耐久も高いようですし、最初から全力で行きますか!


「行きますよ、セレネ、クリア!」

「キュゥ!」

「……!」


 私は即座に手元に取り出した左手の短銃で自身に〈第一の時(アイン)〉を撃ち込み、続けて〈第零(ヌル)第十一の時(エルフ)〉も撃ち込むことで私の出せる最高速度をだし、そのまま黒熊の頭へと飛び蹴りを放ちます。


「グォ!?」


 私の繰り出したその攻撃は動きが加速していたからか特に回避もされず、見事にその鼻先に飛び蹴りが命中してそのまま黒熊を怯ませます。


 しかし、それで終わりではありませんよ!


 私は続けて黒熊の顔を蹴ることで一旦距離を取り、そこから両手の双銃で黒熊目掛けて銃弾を乱射してさらに攻撃を加えていきます。しかもセレネとクリアも同じように攻撃をしてくれているので、黒熊のHPはすごい勢いで減っていきます。


「グルゥ、ガアアアァ!!」

「っと、すごい怒ってますね!」


 立て続けに攻撃を加えられた黒熊はすでにHPが半分も削られており、他のエリアボスと同様に赤いオーラを身にまとい、明らかに先程よりも強くなっているのがわかります。


 ですが、怒りに身を任せ過ぎで攻撃が単調になっているので、連続して振るってくる攻撃はゆらゆらと不規則な動きで全て回避し、反撃の攻撃を与えていきます。


「ガァアッ!」

「おっと、危ないですね!」


 そんな状況に黒熊も焦ったのか、私に向かって抱きつくかのように全身を使って飛びかかってきたので、私はすぐに〈第一の時(アイン)〉を自身に撃つことで加速した動きでそれを横にステップを踏んで軽々と回避します。


 同じエリアボスではありますが、砂漠で戦った巨大ワームとは比べ物にならないくらい弱めなので、このくらいなら苦戦はしなさそうですね!




「ぐ、グガァ…」


 そこから黒熊は、途中で発狂状態のようなものになった以外は特に目立った行動もせず、私たちは黒熊へと攻撃を加えることでどんどんHPを削っていき、最終的に問題なく黒熊を倒すことが出来ました。


『ゴルブレン森林荒のエリアボス〈ブラックベアー〉を討伐しました』

『ゴルブレン森林のボスを討伐した事により、次のエリアが開放されました』


「…やっぱり、このくらいの敵では少しだけ物足りなく感じてしまいますね」


 私はポリゴンとなっていく黒熊とシステムメッセージを眺めつつ、そう呟きます。


 この世界で一番心が躍ったのは、前に戦った世喰のエルドムンドとサバイバルイベントの邪神の眷属らしきあの男性くらいでした。


 別にずっと戦っていたいというわけではないですが、それでもこの力を思い切り振るうことでなんとか勝てたくらいの激戦を望んでしまっています。


「…それなら、ソロさんのくれた本のおかげでワールドモンスターの主な出現地域は把握してますし、それらを探しにいくのも悪くはないかもしれませんね」


 まあ確実に出会えるというわけではないでしょうけど、それでもそれらを倒すのが私の一番の目標でもあるので探しに動くのに決めてもよいですね。


「まあそれは今は一度置いておくとして、とりあえずこのまま先に広がっているという草原に向かいますか」

「キュゥ!」

「……!」


 私は未だに手に持っていた双銃をインベントリに仕舞った後、クリアとセレネを連れてボスエリアの先へと向かっていきます。


 ボスエリアの先も出てくるモンスターはその前のエリアとほとんど同じらしく特に言及することはありませんが、薬草系は結構生えているので一応採取をしながら歩いています。


「最近は錬金もしてませんでしたし、薬草なども集まっているのでまた作ったりするのも良いかもしれませんね」

「キュッキュッ!」

「……!」


 セレネとクリアも楽しげな様子で周りを観察してますし、そんな二人をみて少しだけ退屈に感じてしまっていた私の心がちょっぴり温かく感じます。


 相変わらず、この子たちをテイム出来たのは本当に幸運でしたね。他にもテイムをしている人は多めですが、それでもうちの子が一番可愛いですからね!


「あ、出口が見えてきましたね」

「キュッ!」

「……!」


 二人を優しげに撫でつつも歩き続けていると、やっと森の出口らしき場所が見えてきました。


 それでも私は特に急がず、歩きながらそこへ向かって森を抜けると、そこは兄様が言っていた通り見事な草原が広がっていました。


 風景については草原であるので特に目立ったポイントはありませんが、見えているモンスターはやはり違うみたいで、その中で一番気になるのはこの世界では初めて見る焦茶色の馬です。


 あ、アリスさんのテイムしていたユニコーンは馬に似てはいますが別カウントですよ。あれは似ているだけで全く別の種族ですしね。


 っと、それはいいとして、草原の入り口には兄様が言ってた通り転移ポイントがありますし、早速登録を済ませちゃいますか。




 その後は時間もすでにいいくらいになっていたので、『リリムラ草原』という名前のあの草原から街に帰った後に現実世界へと戻ってきた私ですが、今はお昼ご飯の用意をしているところです。


「ふんふーん」


 私はお昼ご飯を作りながらもお気に入りの歌を鼻歌で歌っていると、ふと扉の開く音が聞こえたのでそちらに視線を向けると、そこには兄様がリビングへと入ってくるところでした。


「兄様、もう少しでご飯は出来るので少しだけ待っていてください!」

「わかった」


 料理はすでに出来上がる直前だったのですぐに調理が終わり、兄様に声をかけてから食事の用意も手早く済ませます。


「では、いただきましょうか」

「ああ、いただきます」


 そう言って私たちはご飯を食べ始めます。


「美幸は最近はどうなんだ?」

「んむ、そうですね……最近は砂漠の街に行ったり、兄様が前に言っていたゴルブレン森林の東に行ってきたくらいです!」


 私は問いかけてきた兄様の質問に対して、口の中にあったご飯を飲み込んだ後にそう答えます。


 まあ他にも暗殺者として護衛のクエストもしましたが、これについては教えないほうが良いとは思うので言ってませんけどね。


「そうか、俺たちは皆でノルワルド黒森の攻略をしていたが、美幸も色々とやっていたのか」

「私はテイムモンスターもいるので一人ではありませんしね」


 もしクリアとセレネをテイムしていなければ、おそらく今の私と同じ状況にはなっていなかったとは思いますし、ここまで色々とやることは出来なかったとは感じます。


「ご馳走様でしたっと。さて、俺たちはまたゲームにログインするが、美幸もやるのか?」

「はい、また私も行こうと思ってました!」

「なら、気をつけて楽しむんだぞ」


 そんな言葉と共に兄様は食器洗いに向かったので、私も同じように食べ終わった皿を兄様に任せて自分の部屋へと戻っていきます。


 よし、ではまたたくさん楽しむとしましょう!




 そして再びゲーム世界へとログインした私ですが、最後にログアウトした場所は初期の街にある広場のようで、周りにはたくさんのプレイヤーが溢れていました。


「第二陣がログインしてきてすでに日数が経過していますが、それでも街中は未だに賑わっているみたいですね」


 私と同じ第一陣も第二陣らしきプレイヤーとパーティを組んでいるのを結構見かけますし、やはり大人気なゲームなだけあって人が多いみたいです。


 それに第三陣もいつかは来るでしょうし、そしたら人はさらに増えそうですね。


「おっと、見てないで私も行動に移りますか」


 とりあえず初期の街にいることですし、最初はムニルさんのところにレアモンスターらしこラクダの肉でも持ち込んでみますか。


 なら、まずはフレンドメッセージですね。ちょうどムニルさんはログインしているので今行ってもいいか聞いてみるとしましょう。


 そうしてそのようなことをメッセージで送り、待っている間は街の散策でもしようと思った瞬間、すぐにメッセージが返ってきました。


 それを見ると、今の時間ならいつでもいいようで待ってると書いてありました。大丈夫みたいですし、さっさと向かうとしますか!


「ムニルさーん、来ましたよー!」

「お、レアか。待ってたぜ」


 裏口の扉を開けて中に入ると、そこにはすでにムニルさんが待っていました。


「すみません、待たせてしまいましたか?」

「いや、大丈夫だ。それよりもレアモンスターの肉だって?」

「あ、はい、これなんですけど…」


 そう言って私は取引メニューを開いてたくさんのラクダの肉をムニルさんへと渡します。


「ほう、これは見たことがないな。これはどこで?」

「夜の砂漠に現れるというラクダのモンスターからドロップしました」

「砂漠か、しかも夜とは面倒な条件だな」


 まあそうですよね。私もたまたまアムナさんに誘われて狩りに行きましたし、それがなければ出会うこともなかったとは思いますしね。


 ですが、面倒な条件だけあってかなり美味しいお肉なので、その分の見返りはありますけどね!


「これのお礼はまた料理でいいか?」

「んー…いえ、今日は大丈夫です。すでに私は食べましたし、ムニルさんにプレゼントってことで!」

「いいのか?なら遠慮なくもらうな。それと、何も返さないのはアレだからこれを渡すな」


 その言葉と共にムニルさんが渡してきたのは、包み紙らしきものに包まれた手のひらサイズくらいの何かでした。


「これは…?」

「それは試作品ではあるが、色々な果物や木の実を合わせて作った大きめの飴だ。味は問題ないのだが、使っている物のせいで店で出すのには高すぎてな」


 なんと、飴でしたか!ムニルさんは試作品と言ってますが、甘いものが好きな私からするととても嬉しいです!


 それにお店では出せないみたいですし、こんな貴重そうなものをくれるなんて太っ腹ですね!


「ありがとうございます!」

「はは、それは俺のセリフさ。また何か見つけたら教えてくれると助かるから、先行投資ってやつだな」

「ふふ、はい!その時はまた持ってきますね!」


 私はお肉と交換するように手に入れた飴を急い外インベントリに仕舞った後、ムニルさんに別れは挨拶を告げてお店を後にします。


「いやー、飴をもらえるなんて思ってませんでしたし、これは幸運でした!」


 もらった飴は現実世界でもよく見るのと同じくらいの大きさのようだったので早速口の中に入れて味わっているのですが、これがまたとっても美味しいのです!


 おそらくアプリの実やベリー、ブドウなどと色々な果物が使われているとは思いますが、私の味覚ではハッキリと特定は出来ません。


 それでも甘くて美味しいのは感じれますし、試作品みたいですけど普通に売っていたら買いそうなほどではありますけどね!


「とりあえず、この後はどうしましょうか」


 ひとまずムニルさんにお肉を渡すのは終わらせましたし、また森とかの攻略にでも向かいますかね?それにワールドモンスターを探すのもしたいので、そちらを優先してもいいですけど…


「見つけた!」

「んむ?」


 そんな思考をしつつも街中をぶらぶらと適当に歩いていると、突然そのような声が聞こえたのと同時に私の視界がいきなり変化します。


 突如変化した景色は、なんと辺りに無数に生えている巨大な木々が家みたいになっており、なんとなく森の中の街、といった印象に見えますね。


 私の視界に映っている景色からして明らかに先程までいた初期の街とは違うように感じますが、ここはどこでしょうか?


「貴方、レアよね?」

「…はい、私はレアですけど、貴方は誰ですか?」


 辺りを観察していた私に向け、背後からそのような声をかけられたので振り返りながらそう返すと、そこには身長110cm後半くらいであろう灰色の髪をした女の子が立っていました。


 いまかけられた声からして、この人がここに私を連れてきた人物だとは思いますが、一体なんの目的でここに連れ込んできたのでしょうか?

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