124話 砂漠へ
「…よし、森を抜けましたね」
「ここからは森よりは警戒を弱めても良さそうだな」
「ふむ、やはり先程の連中が大元だったのだろうか」
そうして激戦を繰り広げていた広場からジーノくんと護衛の男性、ジェイドさんを連れて私を含めた三人で森の中を警戒しつつ歩くこと少し。
モンスターを避けながらだったので少しだけ時間はかかりましたが、無事に森を抜けることが出来ました。
それと、その道中で護衛の男性が自己紹介をしてきてくれたので、今は名前で呼んでいます。まだ少しだけツンツンしてますが、最初に出会った時よりも明らかに柔らかい対応になっているため仲良くはなれた……のかもしれません。
「もう見えてはいますが、あの街まで向かいましょうか」
「了解した」
私の言葉を聞いてジーノくんはそう返事をくれたので、早速街まで歩いていきます。
今いる草原は初期の街のすぐそばだからか、初心者と思しきプレイヤーと結構すれ違います。まあそれらのプレイヤーは視線をこちらへと向けてきているだけなのでいいですけど、少しだけ視線が煩わしいです。
かろうじて周りから聞こえる会話からは、何やら可愛いだの特殊な住人なのか、とかが聞こえてきています。私は偽装しているのでアレですが、この二人は貴族関係の人物なのでその推測は間違ってはなさそうですけど。
それと私のつけている黒蝶の涙のおかげでプレイヤーのレアとは思われていないようですし、やはり偽装は大事ですね!
「…それにしても、お前は何故暗殺者ギルドに入ったのだ?」
街まで向かう道中でふとそのようにジーノくんから聞かれたので、私は特に隠すことでもないので素直に答えます。
「たまたまですね。暗殺者の人から弟子にどうだと誘われて、成り行きで暗殺者ギルドにも所属したことになったのですよ」
「成り行きって……普通はそんな簡単に暗殺者にはならないと思うが?」
「あはは……まあ普通はそうですね。私からしてみても、この流れで入ったのは特殊だとは思いますし」
本当に、たまたま出会った暗殺者の人がナンテさんで、その人が偶然弟子を作ろうと思っていたおかげで入ることになりましたし、客観的に聞くと自分でもおかしいとは思いますもん。
まあそこに入ったおかげでこうして色々と特殊なイベントや装備、人間関係が出来たりで私的にはとても充実してますけどね!
「あ、それと聞きたいことがあったのですけど…」
「なんだ?」
私のふと思い出した疑問に対して、聞く姿勢に動いたジーノくんに向けて私は言葉を続けます。
「今回の依頼は女はダメ、と伺っていましたが、それは何故なのですか?」
「それについては、私の方から説明しよう」
私の問いかけた疑問に、ジーノくんではなくジェイドさんが代わりに答えてくれるみたいで、口を開きます。
「実は貴族としてそう易々と女性と会うことは許されておらず、女性以外と依頼を頼んでいたのだ」
ふむふむ、貴族としてのルールみたいなのがあるのですね。ナンテさんからは女性が苦手と聞いていましたが、それとは少しだけ違っていたみたいです。
あ、なら私が女性とバレてしまってはちょっとだけ面倒なことになってしまいますかね…?
「ああ、貴様が女性なのはあの時にわかったが、別に今は男の姿だし大丈夫だろう」
「そうだな。それにレアのおかげで無事に街まで着けそうだからそのくらいは問題ないうえ、ジェイドも言っているが今の見た目は男と同じに見えるからな」
二人はそう言ってくれるので、私は少しだけホッとしました。
やはり男装の装備をしていればバレることもなさそうですし、ナンテさんからの装備で助かりましたね!暗殺者衣装から戻しておいて正解でした…!
そんな会話をしつつも草原をテクテクと歩いていると、ついに目的地である初期の街の東門辺りまで到着しました。
「やっと着いたな」
「これで依頼は完了でしょうか?」
「ああ、今回の依頼ご苦労だった」
よし、これで依頼は完了みたいですし、私の出番は終わりですね!
「ジェイド」
「かしこまりました。これが今回の報酬だ」
ジーノくんの言葉を聞いたジェイドさんは即座に手元に小袋のようなものを取り出し、私に向けて差し出してきました。
「中身は金とジーノ様からの勲章だ」
なんと、お金だけではなく勲章というものまで貰えるようです。前にイザベラさんからも似たようなものを貰ったりはしてましたが、これで貰えるのは二つ目なので貴族である人物との関係が多くなりますね!
「ありがとうございます!でも、そんな重要そうなものを私が貰っても良いのですか?」
「構わないさ。レアには世話になったし、これがあれば何かと役に立つこともあるだろう」
ジーノくんはそう言ってくれますし、これはありがたく受け取っておきますか。今のところこれらを使う機会はあまりありませんが、あって困るものでもないですしね。
「それでは、僕たちは行くな。護衛ご苦労だった」
「はい、気をつけてくださいねー」
『サブクエスト【闇より忍び寄る黒】をクリアしました』
その言葉と共にクエストクリアのメッセージも流れ、ジーノくんとジェイドさんは街中へと消えていったのを見送った私は、貰った報酬の小袋をインベントリに仕舞った後に同様に街中へと向かいます。
「クエストもクリアしましたし、とりあえずナンテさんのところに行って報告としますか」
そう決めた私は早速初期の街の広場まで歩いていき、着いたらすぐに転移で迷宮都市まで向かいます。あ、そういえばまだ男装の装備姿でしたね。まあ別に困ることもないですし、このまま行っちゃいましょう。
そんな思考をしつつも迷宮都市に着いた後はナンテさんの家まで歩き、人影がなくなってきた頃に家の前に到着しました。
「ナンテさーん、依頼を達成してきましたー!」
「おや、レアか」
扉をノックしつつそう声をあげると、すぐさまナンテさんが出てきて家の中へと招いてくれるので、私はそれに従って中に入ります。
「あたしたちの方も無事に終わったが、レアの方はどうだった?」
「なんか、暗殺者のボスみたいな豚のような人と異邦人の暗殺者と遭遇しましたが、つつがなく倒して街まで送ることが出来ました」
「よくやったね、レア。こっちも問題なく終わったから、これで依頼は完了さね」
システムメッセージでも確認はしましたが、これで全てが終わったみたいです。ふぅ、少しだけ疲れはしましたが、無事に護衛を済ませることが出来てよかったですね!
「じゃあ、私はこの辺でまた行きますね」
「どこかに行くのかい?」
「はい、実は神代言語で書かれた本の解読を頼むために砂漠の国にいる人のところへと向かう予定なのです」
私の言葉に、ナンテさんは少しだけ驚いた様子で言葉を返してきます。
「ほう、神代言語に砂漠か。それなら、しっかりと用意をして向かうんだよ。砂漠は過酷な環境だからね」
「やっぱりそうなんですね。ナンテさんは何があったら良いかとかはわかりますか?」
その言葉にナンテさんは指を顎に当てて少しだけ考えた後、答えてくれます。
「砂漠なら、とりあえずは日除けのマントはあった方がいいね。それと水と食料もあった方が遭難した場合にはよさそうだが、レアは異邦人だからねぇ……まあ、それらがあれば良いとは思うよ」
「なるほど、では行く前にはそれらを確保しておくことにします!」
クロークなら暗殺者用のではありますが持ってますけど、それでは日除けにはならないでしょうし暗殺者用なのでこの場合には合いませんし、やはり新たに買うのが良さそうです。
それと食材と水についても、屋台などで買いだめをしておきますか。インベントリの場合は腐ることがないのでたくさん蓄えれますしね。
まあそれは後にするとして、今は一度ログアウトをしないとですね。
今の時刻はすでに十一時を過ぎているので、結構な時間が経っていたみたいなのです。兄様もお腹を空かせて待っているかもしれませんし、砂漠用の用意は後に、です!
「…よし、ひとまずは職人都市まで向かって、そこで砂漠に向けての用意をしますか」
そうしてナンテさんに頼んで家の中で一度ログアウトをさせてもらい、現実世界で待っていた兄様と共にお昼ご飯も済ませてきた私は再びゲーム世界へとログインしてきました。
戻るのが少しだけ遅かったですけど、兄様はそこまで待っていなかったみたいなので少しだけ安心しました。
それにその時にPKと出会ったことを兄様にも伝えたのですけど、どうやら兄様も私が遭遇したPKクラン凶手の死徒とイベントの時に出会っていたみたいなのです。
私は護衛依頼の時に出会ったのが初めてでしたけど、兄様から聞くにその人たちは完全に悪役のポジションみたいですね。まあ殺すのを楽しんでいると言ってましたし、さもありなんと思いますけど。
「っと、そんな思考はいいとして、さっさと向かいますか」
私はそう呟いて早速行動に移ります。まずは男装装備からいつものゴスロリ装備に変えた後、職人都市まで転移で移動してから砂漠に向けてのアイテムなどを確保した後に砂漠へ、ですね。
「…ついでにクリアとセレネも呼んでおきましょうかね」
私は迷宮都市の広場まで向かってとる道中で二人を呼び寄せ、そのまま一人と二匹で歩き続けます。
その道中ではついでに減っていた満腹度回復のために屋台の料理を食べながら行っていたせいで少しだけ時間がかかりましたが、特に何かが起きることもなく広場まで着いたのですぐさま職人都市まで移動します。
「まずは、日除けのマントと水に食料ですね」
水は【生活魔法】で出せるので買わなくても良さそうですけど、日除けのマントはキチンと確保しないとですね。
「では、行きますか!」
「キュッ!」
「……!」
そうして砂漠に向けての用意を完了させた私は、首元にいるセレネと肩にいるクリアを連れて職人都市の西に広がる荒地を歩いていきます。
「確か、砂漠はこのエリアの北でしたね」
荒地には何度かは来たことがありますが、特に特筆すべきこともないので出会うモンスターたちを片っ端から倒しつつ荒地を進んでいきます。
それに荒地にいるモンスター相手ではセレネの魔法が結構効く感じのようで、一人の時よりも遥かに倒しやすくていい感じです!
「ふんふんふーん」
「キュッキュッ!」
「……!……!」
荒地エリアで鼻歌を歌いつつ出てくるモンスターを倒しながら歩いていますが、やはり結構な広さがあるエリアのようで後どのくらいで砂漠エリアに着くかがわかりません。
しかも砂漠の前にはエリアボスもいるでしょうし、さらに砂漠の国まで向かうのにももっと時間もかかりそうなので今日中には行けますかね…?
そんな思考をしつつも荒地を歩くこと数時間。出てくるモンスターも特に変わりはなく倒し続けながら歩いていると、視界の先に砂漠のようなものが微かに見えて来ました。
お、やっと砂漠の付近まで来ましたかね!なら、砂漠まではあと少しみたいですし、このまま行きましょう!
「…アレは間違いなくエリアボスでしょうね」
砂漠が見えてきたところから気持ちを昂らせつつもクリアとセレネを連れて歩いていると、私の視界の先に一体のモンスターが見えてきました。
そのモンスターはここから見えている範囲ではおよそ八メートルくらいはありそうな程に大きいワーム、つまりミミズのような見た目のモンスターでした。
「アレはかなりの大きさなので人数が必要そうに感じますけど……ここには私たちしかいませんし、私たちだけで頑張らないとですね」
人数も少ないですし、気合いを入れてアレを倒すのを頑張らないとですね!
あ、それならPKクランのボスの人に結構壊されてはいましたがまだ残っているゴーレムもここで使いますか。ゴーレムの頭は少しだけ悪いとはいえタンクとしての役割には向いているでしょうし、この機会に活かすのがよさそうですので。
「では……クリア、セレネ、行きますよ!」
「……!」
「キュッ!」
二人とも気合い十分なようですし、砂漠へと向かうためにここが踏ん張りどころなので張り切って倒しましょう!
そしてエリアボスのいる場所の前へと辿り着いた私は、早速ボスエリアへと足を踏み入れます。
すると、即座にボスであろう巨大ワームが殺気立ちながらこちらへと向かって来たので、私は手始めに自身へと〈第一の時〉を撃ち込むことで動きを加速させ、素早くなった動きでこちらへと噛み付くかの如く迫って来た巨大ワームを横に大きくズレることで回避します。
巨大ワームはそのまま私とすれ違うように背後へと飛んでいったので、そこに私も首元にいるセレネは同時に銃弾と魔法による攻撃を放ち、それは見事に命中して巨大ワームのHPを削ります。しかし…
「うーん、あまり減っていませんね?」
「キュゥ…」
「……?」
私の口にした通り、しっかりと身体に攻撃を当てることは出来ましたが、思いの外巨大ワームのHPは削れていませんでした。
やはり二つ目であるエリアのボスであるからか、それともソロであるからか、はたまた純粋に私が弱いのか。理由はいくつか考えられますが、現段階ではハッキリとこれと決めることは出来ませんね。
それでも少しではありますけどHPを削ることは出来ていますし、このまま攻撃を繰り返して倒すのを目指してみますか。
「…なら、ゴーレム軍団、出陣です!」
巨大ワームが再び攻撃に移る前に私は無数のゴーレムを呼び出し、そのまま巨大ワームに向けて差し向けます。
ゴーレムたちは頭が悪いので一斉に巨大ワームへと攻撃を繰り返していますが、相手が大きめであるおかげでそこまで互いに邪魔にはなっていないみたいです。
…それでもたまに同士討ちをしてしまっていますし、もう少し賢くなってほしいですけど。
まあそれはいいとして、この隙に私たちも攻撃に参加しますか。巨大ワームはゴーレムたちにヘイトがしっかりと向いているため、こちらには意識が向いてないので攻撃し放題です!
「〈第七の時〉!〈第三の時〉に〈スプリットバレット〉!」
「キュッ!」
「……!」
隙だらけの巨大ワームに向けて私たちは自身の出来る全力の攻撃を叩き込みますが、ゴーレムがいるので最初よりも減ってはいるのですけど、それでもHPの減りは遅いです。
「うーむ、何か特殊なギミックでもあるのでしょうか?」
「キュゥ?」
「……!」
そんな状況の中、ふと肩にいるクリアが何やら私に伝えるかのように震えてきました。
「クリア、何かあったのですか?」
「……!」
私の問いかけに、クリアはスライムボディを触手のように伸ばして巨大ワームの口元を示します。
もしかして、あの口当たりが弱点、ということでしょうか?そうだとしたら、おそらくは口から内部への攻撃が有効打になるということですか!確かに、外皮が硬くても中まで硬いなんてことは少ないですし、定番の攻略方法ですね。クリアのおかげで気づけました…!
そういえばクリアは【発見】というスキルを持っていましたし、それでわかったのでしょうね。やはりテイムモンスターであるこの子たちはとても優秀なので助かります!
では、ここからはそこ狙いで攻撃を加えていきますか!




