123話 PKプレイヤー
「…大丈夫ですか!」
「…貴様か」
私は暗殺者らしきプレイヤーのいた地点からすぐさまジーノくんの元まで戻って来ましたが、そこでは何やら争った後のようなものが残っており、多数の傷が付いた護衛の男性のみそこにいました。
ジーノくんが見当たりませんが、もしかして何かあったのでしょうか?
「何があったのですか?」
「…貴様が私たちの元を離れてから少しした後に突然黒いローブを纏った者が複数現れ、襲われたのだ。私はなんとか応戦して何名かは倒したのだが、実力が足りずにジーノ様を攫われてしまったのだ」
ふむ、攫われた、ですか。だとするとまだ大丈夫かもしれませんが、それでもすぐに救出に動かないとジーノくんの命が危ないと思うので、さっさと行動に移るとしますか。
「護衛さん、ただちに救出にいきましょう」
「だが、逃げた奴らがどこに行ったかは把握出来ていないぞ?」
「それなら大丈夫です。私に任せてください」
私の履いている靴についているスキルである陰流認識。これは足に触れた対象の居場所を把握出来ると言う効果で、どうやら地面にも効果があるらしく今も私たちの元から離れていく人物を感知出来たのです。
ですので、私は一度護衛の男性にインベントリから取り出したポーションをぶっかけて傷を治した後、男性を連れて反応がある場所へと向かって行きます。
「しかし貴様はなんでも出来るな」
「なんでもは出来ませんよ。出来ることをやっているだけです」
反応を追いかけているタイミングでふとそのように聞かれたので、私は素直にそれに答えます。
別に装備の性能や今までの経験が活かされているだけでなんでも出来るわけではないですしね。
そこからも相手にバレないように追いかけていると、追いかけていた反応がとある地点で止まりました。
逃げていた人たちが目的地の場所に着いたようですね。なら、出来る範囲でコソコソと近づいていきますか。
「……だよな?」
「……はずだ」
そうしてバレないようにある程度近づくと、そこは森の中にしては開けている広場らしき場所になっていました。そしてそれを確認した私たちの視線の先には、気絶されられているジーノくんと二人の男性がいます。
見たところジーノくんはまだ無事みたいですけど、ジーノくんを連れていった人物であろう男性たちは何かを待っているのか、そのまま世間話みたいなのをしているのがわかります。
「ここは、一度隙を見つけてから…」
「貴様たち!ジーノ様を返してもらおう!」
「ちょっ…!?」
私がそう言葉を発したと思ったら、いきなり護衛の男性が飛び出してジーノくんの元へと駆け抜けて行ってしまいます。
ちょっと!?少しは警戒が解けるのや隙を見つけるまで待っていて欲しいのですけど…!?そのまま行っても危ないだけですし…!
「ちっ、おいお前、つけられてたんじゃないだろうな?」
「そんなはずはなかったはずだが…」
「まあいい。お前でそいつを対処しろよ」
「へいへい、わかりやしたよ」
バレたのは声をあげた護衛の男性のみで私には気づかれていないようですし、私はこのまま隠れつつ先にジーノくんの救助に動きますか。護衛の男性ですか?別にあっちは大丈夫でしょう。まあ何かあったらいけないので注意は向けておきますが。
「おらっ!」
「ふん!」
護衛の男性は片手剣と盾を使ってジーノくんを攫っていった人物と戦っていますが、実力的にはほぼ同じくらいか護衛の男性の方が少し上くらいのようなのであちらは問題なさそうです。
「…では、私も動きますか」
そうして私は戦っている男性に意識が向いている隙に、念の為として着ている装備を暗殺者用のものに変えた後にバレないようにしながらジーノくんなら元へと近づきます。
「ジーノくん、目を覚ましてください」
「んっ…」
私のかけた声にジーノくんはゆっくりと目を開けて意識が戻ります。
見た限りでは傷も負ってませんし、気絶させられていただけでみたいなので無事でよかったです。
「お前は……レアか?」
「はい、そうですよ」
「お前、女だったのか?」
…流石にこの装備をつけていてはバレてしまいますか。ですが、あちらの装備では隠蔽効果がないのでこの装備で隠れつつでないとバレてしまいそうでしたし、これは仕方ありませんね。
「そうです、騙していてすみません」
「いや、大丈夫だ。それに僕を助けるために来てくれたし、文句はないさ」
その言葉に少しだけホッとしました。ジーノくんは幼なげなく見た目ではありますが、しっかりとした性格で大人っぽいので私に対して不満はないみたいです。
「…おい、貴様ら、あやつが救出されているではないか!」
ジーノくんの救出が無事に済んだのですぐに逃げようと考えたタイミングで、突然そのような声が広場全体に響きます。
私は背後にジーノを隠しつつもそちらに視線を向けると、そこにはでっぷりと太っている豚のような男性が数名の暗殺者らしき者を連れて立っていました。
どうやら、新たな暗殺者メンバーがここに来たみたいですね。まあ豚みたいな人は絶対に暗殺者としての実力はなさそうですけど。
「お前たち、あやつをやるのだ!」
「了解しました」
その豚の言葉を合図にそばにいた二名の暗殺者と護衛の男性が戦っているのを見ていた一人の暗殺者らしき男性の合計三人がジーノくんの殺害に動き出したので、私はそれに対抗するためにインベントリから無数のゴーレムを呼び出して暗殺者たちに対して差し向けます。
「貴様、女だったのだな」
そして先程まで戦っていたはずの護衛の男性も、無事に対峙していた者を倒したらしくこちらへといつのまにか移動していたようで、そのように声をかけてきました。
「騙していてすみません。ですが、それが依頼でしたので」
「…まあいい、貴様がいなければ私たちは無事でなかったかもしれないのでな」
あら、意外と素直に返してきましたね。まあ性別を偽っていたとはいえ、別に悪いことをしているわけではないうえに少しは信頼をしてくれているのでしょうね。
「ちっ、お前たち、何をしている!さっさと倒すのだ!」
「いちいちうるせぇんだよ、豚!手前から殺してやろうか!?」
ジーノくんの殺害に思いの外苦戦しているからか何やら言い争っていますが、唯一残っていた最初に見かけた男性が突如踵を返したと思ったら、そのまま豚の首を掻き切ってポリゴンに変えることで殺してしまいます。
「な、貴様っ!」
「裏切るのか!」
「はっ、最初から手前らの駒な訳ねえだろ!俺はただ殺すのを楽しんでいるだけなんでね!」
突如仲間割れをした人たちですが、豚の連れていた二名の暗殺者みたいな人物がゴーレムを無視してその男性へと襲いかかりますが、それでも実力差があるらしく、容易く攻撃を躱された次の瞬間には先程の豚と同様に首を切り裂かれてポリゴンとなってしまいます。
いきなり暗殺者同士で争い出しましたが、あの男性は発している言葉からしてあの豚たちの仲間ではないのですかね?
それにしても、殺すのを楽しんでいると言ってますし、やばい人物なのがわかります。まあそれはともかく、残っているのはあの男性だけですしなんとか対処をしないとですね。
「さて、これで邪魔な奴らは全ていなくなったし、これで心置きなくお前たちを殺せるなぁ?」
「貴様は何者だ!ただの暗殺者ではないだろう!」
「俺か?俺はPKクラン凶手の死徒のボスだ。抵抗しなければ楽に殺してやるぜ?」
なんと、この男性はPKクランという者のボスのようでした。その言葉から察するに最初に森の中で出会った時にも思いましたが、やはり今回の依頼にはプレイヤーが関与していたみたいです。
道理でプレイヤーらしき人物がいたわけですね。というか、PKクランと言ってるうえにマーカーを見ても真っ赤に染まっているので、間違いなくこの人物は危険なので今のうちに倒すのが良い気がします。
それにこのまま放置していれば逃げている最中に後ろから襲われそうでもありますしね。
「…なら、私がこの人の相手をするので護衛さんはジーノくんの方を頼みます」
「ふん、言われなくても!」
私の言葉にそう返してくる男性ですが、それを聞き流しつつも手始めに出したままだったゴーレムをPKプレイヤーに向けて差し向けます。
しかし、PKプレイヤーは押し寄せるゴーレムたちの攻撃を容易く回避しながらも手に持っていた純黒の短剣を軽い調子で振るうと、ゴーレムたちは無数の切り傷をつけられてそのまま破壊されてしまいます。
えっ、岩や獣のゴーレムならまだしも、鉄製のゴーレムや前にダンジョンで手に入れたパーツで作った機械ゴーレムすらも容易く破壊されているのですけど…!?
私が驚いていると、その隙をつくかのようにPKプレイヤーが投げナイフを連続して投げつけてきたので、インベントリから即座に細剣と短剣に変化させた武器を取り出し、それらを全て弾き飛ばします。
「ひゅー、やるねぇ?」
PKプレイヤーはそう言いながらもゴーレムがいなくなってひらけた道を駆け抜けてこちらへと迫ってきます。
このPKプレイヤーはかなりの実力みたいですし、背後には行かせないように気をつけて倒しましょうか!
「おら、〈ポイズンナイフ〉!」
「ふっ!」
そして短剣の間合いに入ったPKプレイヤーは毒のような紫色の魔力を纏った短剣を振るってきたので、私は落ち着いてそれを左手の短剣で弾き、続けて右手の細剣を操って首狙いで攻撃を放ちます。
ですが、その攻撃も横にステップを踏まれることで軽々と避けられ、攻撃をした直後の私に向けて手に持つ純黒の短剣を連続して振るってきます。
そこからは互いに攻防を繰り返していましたが、PKプレイヤーは兄様にも負けないであろうくらいの実力を持っており、双方共に決定打には欠けてしまっています。
「くく、お前さんはNPCの中でもかなりの腕前と見た。これは狩り甲斐があるぜぇ?」
しばらくの間攻防をしていた私たちでしたが、PKプレイヤーがそのような言葉と共に一度後方へと跳んで距離を取ったので、それを見て私は一度息を整えてから言葉を返します。
「そういう貴方こそ、こんなに実力があるのなら悪いことではなくいいことに力を使えばいいですのに、何故このようなことをするのですか?」
私は睨むように強い視線をPKプレイヤーへと送りますが、それを受けても特に気にしていないようでニヤリと笑みを浮かべながら言葉を発してきます。
「そんなの、殺人が好きだからやってるだけだぜ?」
「…やはり、貴方はここで倒しておかなくてはいけなさそうですね」
「はっ、それが出来るのならやってみるといいさ?お前さんが苦痛に歪む顔を浮かべる前になぁ!」
その言葉を合図に再びこちらへとPKプレイヤーは肉薄してきたので、私もここからは本気で動きますか。
「…〈第一の時〉」
動きを加速させる武技を自身に対してこっそりと使用し、その動きを活かすかのよう今度はこちらからも向かっていきます。
PKプレイヤーは私の動きに少しだけ驚いた様子ではありますが、それもほんの一瞬です。
私は加速した勢いをつけて右手に持つ細剣をその首元へと振るいます。
しかし、それでも相手はギリギリではありましたけどその攻撃を身体を背後に逸らすかのようにして躱し、その状態からバク転でもするかの如く蹴りを放ってきました。
私はそれを咄嗟に左手の短剣で防ぐことには成功しましたが、勢いは殺せずにわずかに背後へと押されてしまいます。
やはり体格差とステータスの差があるようで、力の差が歴然ですね。私の方が軽いので力押しになると簡単に負けてしまいます。一応STR上昇系のスキルは持っているのですけど…
まあそれはともかく、私は戦闘スタイルがスピードタイプなのでいいですけど、真正面からのぶつかり合いは避けた方がよさそうです。
「ほらほらもっと行くぜぇ!」
「…やはり私の場合はスピードを活かした方がいいですね。なら…!」
私はいつのまにか切れていた〈第一の時〉と〈第零・第十一の時〉の二つを左手の短剣で軽く自身を切り付けることで付与し、足に力を込めてバネのようにしたタイミングで一気に力を開放します!
「そのまま、切り裂かれてくださいっ!」
「なっ…!?」
先程よりも遥かに加速した動きのせいか完全には躱しきることが出来なかったようで、ほんの一瞬のうちにすれ違ったタイミングで首元を私の細剣で深く切り付けられ、そのままHPを一気に削り取ります。
ですが、まだHPはわずかに残っています!ならば、止めの一撃を与えるまでは攻撃の手は緩めません!
「〈第五の時〉!そして〈第三の時〉!」
私は超加速した動きの中で再び武技を自身に対して使用し、その武技のおかげで強化された剣の一撃をガラ空きであるPKプレイヤーの背中へと一瞬のうちに接近して突き刺します。
「がっ…!?手前…!」
しかし反撃として私に向けて手に持つ純黒の短剣を振るってきましたが、それは予測出来ていたのですぐさま地面を蹴って離れることで回避します。
これでHPは確実に削り切ることが出来ましたし、これで倒せたはずです…!
「ぐっ……ちっ、ここまでか。手前の顔、覚えたからな?次会った時はその顔を苦痛で歪ませてやるぞ」
その言葉を最後に、PKプレイヤーは全身がポリゴンとなって消えていきました。…どうやら、これで倒し切れたようですね。
ふぅ、少しだけ神経を使ったので疲れましたが、暗殺者崩れのボスみたいな人もあの人が倒していましたし、これでもう邪魔をしてくる人はいなさそうですかね?
「おい、貴様」
「…あ、はい、なんですか?」
武器を軽く振るった後にインベントリへと仕舞っている私に向けて背後からそのように声をかけられたので振り返ると、そこにはジーノくんと護衛の男性がこちらに近付いて来ているところでした。
「貴様がいなければ私たちはどうなっていたか……まあ礼くらいはしておいてやる」
「助かったぞ、レア」
「ふふ、このくらいは問題ありませんよ。私も依頼を受けてここにいますしね」
ツンデレのような言葉を発している護衛の男性はいいとして、ジーノくんからも感謝を伝えられたので少しだけ嬉しく感じちゃいます。
とりあえずこのくらいでもう厄介ごとはなさそうですし、さっさと目的地である初期の街まで向かいましょう。
あ、それと装備も今の暗殺者用から最初に着ていた男装装備に戻しておきますか。暗殺者装備を見せびらかすのはこれからの暗殺者活動に響きそうですしね。




