121話 情報
「神代言語…」
「はい。なので、これは私だけでは読むことは出来ないですね」
うむむ、ソロさんですら読めないとなると、かなり特殊な言語ということですね。神代言語ですか……名前からして、かなり昔に使われていた言語なのでしょうか…?
それにソロさんは遺跡に描かれている言語と同じ、とも言ってましたし、この言語を読むことが出来る人はそれらを調べている人に限られそうですね?
まあそれでも、私には記憶を読み取ることが出来るユニークスキルの武技がありますし、サジタリウスくんの本と同様にそれを使って内容の確認といきますか。
「なら、ちょっと私のユニークスキルでこの本の記憶を見てこようと思います」
「わかりました。何もないとは思いますが、気をつけてくださいね」
そんなソロさんの言葉を聞きつつ、私は首元にいたセレネと肩に乗っていたクリアを一度そばのテーブルへと降ろし、インベントリから長銃を右手に取り出した後に本に向けて〈第四の時〉を撃ち込みます。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いー
怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒りー
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だー
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故ー
「ーーああああああっ!」
「…っ!大丈夫ですか、レア!」
「キュッ!」
「……!」
本の記憶を読み取ろうとした私でしたが、本にこもっていた感情があまりにも怒りや悲しみなどの負に染まっており、私は体感していた記憶からすぐさま弾かれるかのように元の世界へと戻ってきました。
悲しみ、苦しみ、憎しみ、恨み、妬み、怒り、不安、恐怖、焦燥感、絶望感。それらによる凄まじいほどの負の感情が私へと流れ込んできたせいで、目には涙を浮かべ、息も荒くなり、私の心が支配されるかのような記憶に恐怖を覚えてしまいます…
「はぁ、はぁ…」
「…どうやら、よほどのことがあったようですね。レア、これでも飲んで一度落ち着いてください」
「キュッ!」
「……!」
ソロさんはその言葉と共に収納の指輪からコップを取り出し、同じく指輪から取り出したアプリの実のジュースを入れたものを私へと差し出してきたので、私は感謝の言葉を返してからそれを受け取り、口をつけて一息つきます。
それにセレネとクリアも私を心配するかのように擦り寄ってきており、少しだけ荒んでいた気持ちが落ち着くのを感じます。
「それで、何を見たのですか?」
ジュースを飲んで一息ついていると私に向けてソロさんがそのように聞いてきたので、私は分かる範囲でそれに答えます。
「実は何も見ることが出来なかったのです。なんだか凄まじい負の感情が一気に私へと押し寄せてきて、強制的に本の記憶から弾かれてしまったのですよね」
「ふむ、負の感情ですか…」
ソロさんは私の言葉に何やら考えごとをしていますが、私はそれを視界に入れつつも、首元に巻き付いてきたセレネと肩へと飛び移ってきたクリアを撫でておきます。
本当にこの子たちには癒されるので、テイムが出来てよかったです!
「…記憶も見れないということですし、文字をなんとかして読むしかありませんね」
「そうですね。ですが、今の段階では神代言語とわかっているだけで解読が出来ないので、これは後回しにするしかなさそうです」
ソロさんも読めないと言ってましたし、この本はインベントリに仕舞っておいて読めるようになるまで保存しておきましょうかね…?
「それなら、私の友人に頼むと良いですよ」
「友人ですか?」
「ええ、彼女は遺跡の調査を専門としている人物なので、もしかしたらそれも読めるかもしれませんしね」
ふむふむ、この本の文字を解読出来そうな人が友人にいるのですね。それならその人に頼むのが良さそうですし、この本を持って会いに行ってみますか。
「その人はどこにいるのですか?」
「今も変わっていなければ、彼女はきっと砂漠に存在する国にいるはずです。今紹介状を書いてきますから、少しだけ待っていてください」
そう言ってソロさんは図書館の奥へと向かっていったので、私はセレネとクリアと共にこのまま椅子に座って待っています。
それにしても、砂漠の国ですか。確か前に兄様が荒地から北が砂漠エリアとなっていると言ってましたし、この本の解読を頼みにも行きたいのでそこを次の目標として目指してみましょうか。
他にもエルフェリンデの攻略なども進めていきたいですし、やりたいことが多いですね!
「お待たせしました。これが紹介状です」
「ありがとうございます、ソロさん!」
そんな思考をしていると、すぐにこちらへと戻ってきたソロさんから一つの手紙らしきものを貰ったので、私はそれをインベントリに仕舞って感謝の言葉を返します。
ソロさんの紹介状も受け取りましたし、次の目標地点は砂漠ですね!砂漠まで続く荒地ではエリアボスもいるでしょうが、そこは私だけではなくセレネとクリアもいますしなんとかなるでしょう。
今の時刻はまだ九時くらいなので時間はありますけど、本格的に攻略に向かうと時間が足りなくなる気もするので砂漠を目指すのは午後にします。
なので午前である今は、久しぶりにナンテさんのところにでも行きましょうかね。
「あ、それと忘れていました」
「ん、何ですか?」
「レアに対して渡そうと思ってた物があったのです。えっと、これですね」
私が次の予定をどうするか決めていると、ふと何かを思い出したようで先程ジュースを取り出したように指輪から一冊の本を取り出します。
「それは…?」
「これは、私の昔馴染みにお願いして書いてもらった本なのです」
そう言って私へと渡してきたので、私はそれを開いて中を確認します。
「こ、これは…!」
「レアなら、これが欲しかったでしょう?」
ソロさんは私の反応に笑みをこぼしつつそう言葉を発しますが、私はそれに反応もせずに本へと意識の大半を向けてしまいます。
だって、この本には私の最終的な目標であるワールドモンスターについてのことが書かれていたのです!
この本は間違いなくとても貴重なものですし、ここまで詳しくワールドモンスターについて書かれているのはかなりありがたいですね!
ーーその内容とは、この世界に存在する全てのワールドモンスターの姿と名前に種族、そして主な出現地域にそれらの戦い方、それらに宿っていると思しき神様の悪心について詳しく載っていました。
ワールドモンスターはこの世界に全てで七体が存在するようで、順に天災のゾムファレーズ、世喰のエルドムンド、深森のアビシルヴァ、霊庭のルルリシア、人業のメラスクーナ、静海のリーブトス、機械神エクスゼロという名前をしているようです。
すでに知っていた存在もいますが、私の知らない者もまだいたみたいですね。
本に書いてあることからして霊庭のルルリシアは精霊、静海のリーブトスは巨大な鮫、機械神エクスゼロはその名の通り機械生命体らしく、それらもまた私の出会ったことのある他のワールドモンスターと同様に凄まじい強さを持っているらしいです。
出現地域の方についても、それぞれの個体でバラバラであり確実というわけではないので参考程度にしかなりませんが、それでもある程度の目安がわかるのはありがたいとは感じます!
私が初めて遭遇したワールドモンスターであり、討伐を誓った深森はその二つ名通り森が生息地らしく、書いてある内容を読む限り基本的にはエルフェリンデの奥深くにいるようなので、おそらくはそこの攻略をしていけば自ずと会うことが出来るでしょう。
それならば、やはりあの森の攻略も進めるのがよいですね。今日の午後からは砂漠に行く予定ですが、これからはあの森の奥へと向かうのも目標にするのが良さそうです。
そして最後に、そんなワールドモンスターたちに宿っていると思しき神様の悪心については、どうやらそれぞれに【大罪】と呼べるものが備わっているらしく、それがその悪心の証みたいですね。元になった神様に関係する何かを秘めているとは思ってましたが、やはりあったようです。
ワールドモンスターは全部で七体存在してますし、これは明らかに七つの大罪がモチーフであると感じますね?
私が出会ったメラスクーナさんはまず色欲で、世喰は多分暴食ですかね?深森はわかりませんが、本から分かる範囲ではそちらもなんらかの大罪は持っているみたいなので、どれかには当てはまるのでしょう。
とまあ、この本にはそう言ったとても貴重な情報が載っていましたし、これは大事にとっておいてその都度読んだり見せたりするとしますか。
「…昔馴染みとは言ってましたが、これを書いた方はどこでこれらの情報を得ることが出来たのでしょうか?」
「確か、昔から世界を旅していたのと神様との関係もあるおかげで色々と知っていた、とは言ってましたね」
ふむ、神様との関係がその人にはあるのですね。私もクロノスさんだけではありますが対話をしたことがありますし、前にリンネさんも昔は神様の声が聞こえていたと述べていたので、やはり私以外にも神様に関係する何かをしてたりもするみたいです。
その人に直接お礼を言いたいですが、ソロさんも言っていた通り世界を旅しているみたいなので簡単に会うことは出来なさそうですね…
それでもその人の名前は聞きましたし、これから私も世界の攻略を進めていれば出会うこともあるでしょう。
ちなみに、その人はアルトゥールという名前で人間の男性のようなので、これは覚えておくとしましょうか。
「今会うことが出来ないの残念ですが、その人からの本は大事にとっておきますね!ありがとうございます!」
「はい、ぜひ活かしてあげてください」
そう言って笑みを浮かべながら感謝をする私へ、ソロさんはそのように返してきました。
これがあれば、これから先のワールドモンスターの攻略ではかなりのアドバンテージになりますし、とても助かります!
私以外にもワールドモンスターについて知っているプレイヤーもいますが、ここまで詳しいことは知らないはずですしね。
「では、私はそろそろ行こうと思います!」
「わかりました。ワールドモンスターの攻略に夢中になって無理はしないように気をつけてくださいね」
「ふふ、そうですね。それでは、また…!」
私はソロさんにそう声をかけた後、セレネとクリアを連れて今いる図書館から出てナンテさんのところまで向かいます。
「ナンテさーん!」
「おや、レアじゃないか。久しぶりだね?」
そうして図書館のある第二の街から迷宮都市まで転移で移動した後にナンテさんの家まで向かった私は、そんな言葉と共に家の扉をノックします。
すると、すぐさま扉が開くのと同時にそのような声をかけられたので、私はそのままナンテさんに連れられて中へと入っていきます。
「いやー、ナイスタイミングできてくれたよ!」
「ん?何かあったのですか?」
「ああ、実はだね…」
私の呟いた疑問によくぞ聞いてくれました、とでも言うようにそれについて説明をしてくれます。
「昨日あたりにとある依頼が暗殺者ギルドを通して私の元へと来てね。それは私では難しそうだったから、どうしたもんかと悩んでいたのさ」
ふむふむ、とある依頼ですか。ですが、ナンテさん程の実力者に難しい依頼なんて一体どんなものなのでしょうか…?
「ああ、言い忘れてたけど、今回のこれも暗殺や諜報の依頼ではないのさ」
「あ、そうなんですね。では、それはどう言った依頼なのですか?」
暗殺や諜報ではないということですし、私にはさっぱり依頼の推測が出来ません。私が前に達成した依頼は調査の依頼でしたし、思ったよりも暗殺系の依頼は少ないのでしょうか?
ナンテさんはそんな疑問を浮かべている私に向けて、その依頼について教えてくれます。
「その依頼とは、とある貴族の護衛任務なんだ」
「護衛任務、ですか…」
私はそれを聞いてそう呟きましたが、ナンテさんはさらに続けて説明をします。
「その護衛任務なんだが、その護衛対象である貴族の少年は女性が苦手でね。だから、私ではちょっと難しいのさ」
なるほど、女性が苦手な人なのですね。あれ、でも私も思いっきり女性ですが、そこのところはどうするつもりなのですかね?
「だから、レア。お前さんには男装をしてもらうよ」
「男装ですか…?」
別に男装をするくらいは問題ないですけど、それで良いのでしょうか…?護衛対象の少年も私が女性と分かれば、ちょっとめんどくさいことになりそうではありますけど…
「ああ。その衣装も用意出来てるし、受けてくれるかい?」
「んー…まあ特に急ぎの用事もありませんし、いいですよ。それで、その依頼はいつからなのですか?」
「それなら、早速行ってもらおうか。あ、男装の装備をとってくるから待っててくれ」
「わかりました」
そう言って家の奥へと向かうナンテさんを見送った後に私は考えます。
とりあえず、マーカーや髪色などを偽装出来るアクセサリーの黒蝶の涙は付けるとして、後はナンテさんの持ってくる装備次第ですね。
あ、それと今回は暗殺者として動きますし、少しだけ残念ですけどクリアとセレネは送還しておきますか。
「待たせたね」
クリアとセレネを送還したタイミングでそのような声と共にナンテさんが戻ってきました。
その手には何やら黒色の服のようなものを持っていますが、それが男装の装備なのでしょうね。
「それが装備ですか?」
「ああ。ま、見ての通りの洋服さね」
ナンテさんが見せてくれたそれは、黒色をしたブラウスに同じく黒色のホットパンツと靴という見た目で、いわゆる皇子系ロリィタと呼ばれる服装みたいです。
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黒乙女の心 ランク S レア度 固有品
DEF+30
MND+40
AGI+20
耐久度 破壊不可
・純潔の乙女 自身にかかるあらゆる状態異常に耐性を持つ。
・守護の乙女 自身が何かを守る時に全ステータスに補正をかける。
蟲惑の暗殺者がとある依頼のために用意した男装装備。これを着れば貴方も少年に。
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黒乙女の花 ランク S レア度 固有品
DEF+20
MND+30
AGI+40
耐久度 破壊不可
・異次元ポケット 登録したアイテムを素早く手元に取り出せる。
・〈影の手〉 自身にしか見えない黒色の腕を無数に操ることが出来る。 リキャストタイムなし
蟲惑の暗殺者がとある依頼のために用意した男装装備。これを着れば貴方も少年に。
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黒乙女の雫 ランク S レア度 固有品
DEF+20
MND+20
AGI+30
耐久度 破壊不可
・陰流認識 足に触れた対象の居場所を把握出来る。
・〈陰流月下〉 一分間両足に月の刃を顕現させる。 リキャストタイム三分
蟲惑の暗殺者がとある依頼のために用意した男装装備。これを着れば貴方も少年に。
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鑑定結果ではそう出ましたが、この装備もまたユニーク装備なうえにかなりの性能を持っていますね!
それに二つのスキルもありますし、これは護衛任務の後にでも試してみるとしましょうか。




