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120話 無人島サバイバル18

「ふぅ、とりあえず、兄様たちのところにでも向かいます」


 酔って寝てしまったルミナリアを連れて去っていったマキさんを尻目に、私は残っていたお茶を飲みきった後に兄様たちの元へと向かいます。


 何故か周りにいる頬を赤く染めたプレイヤーたちの視線が集まってしまっていますが、それは気にしません。


「兄様ー!」

「レアか」

「レアちゃーん!おいでー!」


 私の発した声に兄様とマーシャさんからそんな声と共に呼ばれたので、私はテテテッと小走りで兄様たちの元へと向かいます。


 近づくとわかりましたが、兄様たちのそばにはいつもの兄様のパーティメンバーだけではなく、生産プレイヤーであるレーナさんにアイザさん、見慣れない女性のみのパーティと結構な人数が集まっていました。


「レアちゃん、お疲れ様〜」

「俺たちは詳しくは見てなかったが、大活躍だったんだってな?」

「あはは、ありがとうございます。あれは皆さんのおかげでもありましたし、私だけの力ではありませんけどね」


 レーナさんとアイザさんから労いの言葉をかけられましたが、私は軽く笑みを浮かべつつそう返します。


 今回は私のEXスキルが活かせたのでなんとかなりましたが、次がある時はもっとうまく使いこなせるようにはしたいですけどね。


「ゼロさん、もしかしてそちらの美少女はあの【時空姫】ですか!?」

「そうだ。第一回バトルフェス準優勝者のプレイヤーであり、俺の妹だ」


 レーナさんとアイザさんに言葉を返しているタイミングで、近くにいた銀髪の女性プレイヤーがそのように兄様に聞いているのが聞こえました。


 …やはり【時空姫】という名前が結構知られているようで、少しだけ恥ずかしいですけど有名人みたいになっているみたいですね。


「紹介に預かりました、【時空姫】とプレイヤーの皆さんから呼ばれているレアです。よろしくお願いします!」


 私の言葉に女性プレイヤーたちの皆さんも自己紹介をしてくれたので、これで名前は覚えました!


 というか、この人たちは兄様たちの知り合いみたいですが、どこで知り合った人なのでしょうか?


「それはな、前に北の山の洞窟に行った時に出会ったんだ。そこで情報源の場所までも案内してくれた人たちでもある」


 そんな疑問が顔に浮かんでいたのか、兄様が軽く教えてくれました。


 なるほど、北の山に行った時に出会ったのですね。それなら私が知らないのも無理はありません。まあこの人たちは特に兄様に色目を使ったりしているわけでもなく、普通に憧れのような視線を向けているので警戒を強める必要はなさそうです。


「それにしても、あの【時空姫】が【剣聖】であるゼロさんの妹なんて、家族でトップに立ってるなんてすごいね!」


 そうした思考を私がしていると、ナナミさんがそのように声をあげ、それに同意するかのように周りにいた女性プレイヤーだけではなく、なんとレーナさんやアイザさんまで頷いています。


「ほんとね〜、腕前も凄まじいし、血筋なのかもね〜?」

「だな。俺たちではあそこまで動くことは難しいからな」

「しかもレアちゃんはとんでもない機動の動きもするからねー?」

「あれはさすがに真似は無理だしね」


 レーナさんたちもそう続けて言葉にしますが、それには兄様まで頷いています。って、兄様も私と同じ立場なんですよ!?全く、兄様も頷いてないでもう少し反論をしてくださいよっ!




 そうしてそこからもたわいない会話を続け、特に何かが起きることもなく時間は進み、今はすでに最終日である七日目の十時です。


「いやー、ほんと、色々とあったねー!」

「そうですね」


 皆でテーブルを囲み、イベントが終わるのを談笑をしながら待っている最中に改めて声に出したソフィアさんの言葉に私は同意します。


 あ、あの後のルミナリアですか?それはですね、すぐに寝てしまったうえに記憶が残っていないようで、怒るに怒れませんでした。…まあ別にいいですけどっ。


 …それはさておき、今回のイベントではワールドモンスターの存在についても知ることが出来ましたし、神様に関することも同様に知りました。


 元の世界でも神様に関係する何かがある可能性がありますし、ワールドモンスターの討伐を目標とするのと同時に神様関係のことも調べてみましょうか。


 まあすでにあの男性の主であろう神様は倒されているとはサジタリウスくんは言ってましたし、そこまで急いで調べる必要はないとは思うのでゆっくりとではありますが。


 それだけではなく、私以外にもプレイヤーの皆さんは幻獣に気に入られてテイムをした人も複数いるので、スキルのレベル上げ以外にもなかなかの成果を獲得出来ていますし、皆さんは楽しげにしています。


 本当に、こうして皆でワイワイしながらゲームが出来てとても楽しかったです。ですが、もう一度このような機会があるのなら、今度はクオンと一緒に行動をしたいですね。


『第二回イベント、無人島サバイバルが終了します。参加していただいたプレイヤーの皆さん方は残り一時間で元の場所に転送されますので、転移の準備をしておいてください』

「っと、そろそろ終わるみたいですね」

「だな。俺たちはすでに片付けも済ませているし、とりあえずは待ちだな」


 そのようなシステムアナウンスが流れ、周りにいた私たち以外のプレイヤーの皆さんも軽く確認をしているようですが、私たちは兄様の口にした通りすでに支度は済ませているので問題ありません。


 そしてインベントリに仕舞っているアイテムも、最初にわかっていた通り調味料セットは持ち帰れないようではありますが、他の道具やアイテムなどはすべて持ち帰れるみたいです。


 まあ大事そうなサジタリウスくんから貰った本くらいで他はなくても問題ないですが、それでもこうして獲得した成果を見ると、なかなか頑張ってたのがわかります。


 とりあえず、元の場所に帰ったらクリアとセレネの顔合わせをして、その後はサジタリウスくんの本を読みましょう。あ、それと前に湊町で買ってから読んでいなかった本もソロさんに見せないとですね。


『第二回イベント無人島サバイバルを終了します。ただいまより転移を行いますので、プレイヤーの皆さんはその場で待機していてください。イベントのご参加、ありがとうございました』


 そうして待つこと数十分。そのようなシステムアナウンスが流れるのと同時にイベントに参加する時と同様に私たちに向けて光が集まり、転移が行われます。




「…戻ってきましたね」

「そうだね!んー、結構疲れたねぇ」

「今の時刻は生放送でも言っていた通り、三時間しか経ってないのでまだ夜までは時間があるのですね?」

「そうね。でも、私は疲れたから今日はもう落ちようかしら?」


 アリスさんの言葉を聞いて腰元にある懐中時計を手に取って今の時刻を確認すると、まだ二時になったばかりくらいで時間はたくさんあるみたいです。


 時間加速があると制作会社の社長さんは言ってましたが、こうして改めて見ると凄まじい技術ですね?それとネーヴェさんは疲れたと言っていますが、それも当然ですね。私だって結構疲れましたもん。


 なら、私も今日はもうゲームをやめて家でゆっくりと過ごすのも良さそうではありますね。


「私はネーヴェと一緒でもうログアウトするけど、レアちゃんとアリスちゃんはどうするの?」

「そうですね、私も今日はもうログアウトしようかと思ってます」

「私も同じなのです!」

「そっか。じゃあ今日はこれで解散にしようか!」

「そうね。楽しかったわ、レア、アリス、ソフィア。また遊びましょう」


 そう言ってメニューを開きネーヴェさんはログアウトをして消えていったので、私たちも別れの挨拶をした後にログアウトをしてこの世界から一度いなくなります。




 そしてログアウトした後はゲームもやめていたので特に何かが起きることもなく時間は進み、今はすでにイベントがあった日の次の日にちである日曜日です。


 朝に目が覚めたのはいつもと同じ七時でしたが、夏休みはまだまだあるので時間はたくさんあります。まあそれでもいつも通りさっさと朝の支度を全て終わらせて、早速ゲームと洒落込みますか!




「ここは……迷宮都市の広場ですね」


 昨日ログアウトした場所はイベントに参加するために集まっていた広場から移動をしていないので、ここなのですね。


「ひとまず、ソロさんの図書館の場所を借りてサジタリウスくんからもらった本の確認を先にしますか」


 私はそう決めて今いる場所から第二の街へと転移をし、そのままソロさんの図書館まで向かいます。


 それまでの道中では、イベントが長かったとはいえ現実世界では三時間しか経っていないので、街を歩いている住人やプレイヤーたちは特に変わったところはありませんね。


 あ、でもイベントに参加した少数のプレイヤーたちはその期間で幻獣などをテイムしているようで、たまに幻獣と歩いているのを見かけます。


 私もセレネをテイムしたので、これからはクリアと一緒に連れて歩くかもしれませんが、そこまで目立つことはなさそうでもありますね。


 そんなことを考えつつも歩き続けていると、やっとソロさんの図書館前まで到着しました。私はそこから扉を開けて図書館の奥へと進んでいきますが、今はソロさんはいないようで物音一つしないシーンと静まり返った空間になっていました。


「…ソロさんはいないみたいですが、まずはサジタリウスくんの本でも読むとしますか」


 セレネとクリアの顔合わせもしたいですが、それよりも知識欲が湧いてくるので先に本なら手をつけます。


「…ふむ、これまた他の本と同様に読めませんね…」


 やっぱり、私の持っている【言語学】スキルでは手に入れた本を読むのは出来ないのがほとんどですね。港町で買った本も詳しくは調べてませんが、鑑定結果から見るに読めないとは書いてありましたし、ソロさんから言語などを教わったりするのも良いかもしれませんね。


「ですが、私にはそんな状況に噛み合うスキルがあります!」


 これを見越して、クロノスさんはサジタリウスくんを通して私に本を渡してきたのでしょう。そうでなければ今の段階では一切読むことが出来てませんし、宝の持ち腐れですしね。


 私はテーブルの上に手に取っていた本を置き、その本目掛けてインベントリから取り出した長銃で〈第四の時(フィーア)〉を撃ち込みます。




「これも、ダメか」


 この実験も失敗か。材料は無限にあるというわけでもないし、このままではダメだな。


「なら次は、こうだな」


 俺は何やら蠢いている肉塊が入れられている水槽を前に、異空間から取り出した怪しげに赤く光る宝石を水槽の上から投げ入れて経過を観察する。


 これはとある実験のためにやっているのだが、それでもこうしてやってしまうの躊躇いそうになってしまう。


 だが、俺はそれでもこれを続けていく。なぜならそれが俺の出来る唯一のことだからだ。


「この目的を邪魔するものはたとえ相手が神だろうと、絶対に排除してやる」


 俺はそれだけの覚悟を持ってこの実験をしているのだ。それに、この段階まで進んでしまっては今更引き返すことも出来ない。ならば、俺は自分に出来る最大のことをするまでだ。


「だから、待っていてくれ、ーー」


 俺はそばに置いてあったテーブルの上にある、自身と白髪の少女が一緒に映っている一枚の写真へと視線を向けてそう呟き、再び実験工程である水槽へと意識を戻した。




「…っ!」


 何者かの記憶を体験していた状況から、初めて使った時と同じように突然視点が元に戻りました。


「また……誰かの記憶、ですか…?」


 前に記憶を見た人と同じ人物のようには感じましたが……相変わらずこの記憶はなんなのでしょうか。


 今の記憶を感じた限りだとなんらかの実験をしていたらしいですし、どこかの科学者の人だったり…?いやでも、そうだとしたらクロノスさんがわざわざ私に向けて渡しに来た意味がわからないです。


「ということは、神であるクロノスさんからしてもかなり重要そうな情報……なのですかね?」


 それなら、今はすでに倒されているらしいですけど、邪悪なる欠片などに関わっていた神様関係の可能性もあるかもしれませんね?


 だとすると、今すぐに詳しく調べることは難しそうなのでこれについても記憶の隅に置いておくのがよさそうですね。


「まあこれについてはいつかクロノスさんに直接聞いてみるとして、これで本の情報はわかりましたね」


 私のユニークスキルのおかげで本の内容は記憶として知ることが出来ましたし、本は一度インベントリに仕舞っておきましょう。


「おや、レアではないですか」

「あ、ソロさん!お邪魔させてもらってます」


 やることを済ませたので、今度はセレネとクリアの顔合わせをしようと思ったそのタイミングでふと声をかけられたのでそちらに振り向くと、そこにはソロさんがこちらに歩いてきているところでした。


 あ、ソロさんもちょうど目の前にいますし、前々から見せようと思っていた本を見せてソロさんなら読めるかどうか確認してもらいますか!


「ソロさん、もしよければこの本が読めるかどうか確認してもらってもいいですか?」

「本ですか、いいですよ」


 了承を返してくれたので、私はインベントリから例の本を取り出してソロさんへと渡します。

 ソロさんはすぐにその本を読み始めましたが、流石に本であるので読むのには時間がかかるとは思いますし、その間はセレネとクリアを呼んで顔合わせをしておきますか。


「…レア、これはどこで?」

「前に港町にあるお店で買ったのです」


 そうしてソロさんが本を読んでいる間に二人を呼び、一人と二匹で仲良く待っているとふとそのようにソロさんから聞かれたので、特に隠すことでもないですし素直にそう答えます。


 チラリと見てみると、ソロさんは何やら難しそうな表情をしながらも本のページをめくっていたのです。なんだかあそこまで険しい表情をしているのは初めて見ましたが、何かあったのでしょうか?


 あ、ちなみにセレネとクリアは、どうやら息ぴったりらしく仲良く出来そうでしたので、こちらは特に問題はありませんでした。私のテイムモンスターでありますし、仲良くしてくれるならそれでよかったです!


「…この本は私も読むことが出来ませんが、これにとある言語が使われているのだけはわかります」

「とある言語、ですか?」


 っと、そんな思考をしてないでソロさんの話に戻りましょうか。ソロさんは私のこぼした疑問に一度本を閉じ、表情を硬くしつつも言葉を返してくれます。


「この本はおそらく、この世界にも僅かに存在する遺跡に描かれている言語と同じである、"神代言語"で書かれているはずです」

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