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119話 無人島サバイバル17

「させませんよっ!〈治癒せぬ呪傷(カースト・ウンデ)〉、〈霧裂(ミスト・スラッシュ)〉!」


 地面に漆黒色の大剣が突き刺されると思ったその瞬間、いつのまにか消えていたジェーンさんが男性の右腕のすぐそばに現れるや否やユニークスキルを連続で使用し、がら空きとなっていた右腕を深く切り付けます。


「ちっ、だが…!?」

「貴方には、麻痺を送りました。これでどうですか?」

「十分だ!〈秘剣・霞突き〉!」

「いい働きだぞ、ジェーン!〈雷光の剣(スパーク・ソード)〉!」


 ほんのわずかな間ではありましたが、ジェーンさんの口にした通り麻痺の効果が与えられたようで一瞬だけ男性の動きが止まります。


 そんな隙を兄様たちが見逃すはずがなく、兄様たちのユニークスキルが漆黒色の大剣に命中することで先程も見せた攻撃を阻止することが出来ました。


「くっ、貴様ぁ!」

「ぐっ…!」


 男性はそのように声を荒げながらジェーンさんに対して瘴気を纏った左手を振るって攻撃をしますが、それに対してジェーンさんは空中にいるのと転移系の武技を使用したばかりでリキャストタイムがあるからかその攻撃を躱すことが出来ず、そのままダメージを受けのと同時に後方へと吹き飛ばされてしまいます。


 ですが、ジェーンさんの動きのおかげで今回はなんとかなりましたし、この機会が絶好のチャンスです!


「〈第一の時(アイン)〉!〈第零(ヌル)第十一の時(エルフ)〉!」


 私は自身の出せる最高速度を出して男性へと駆け抜けていきますが、男性はすぐさま手に持つ漆黒色の大剣を振り回して近づくのを阻止してきます。


 しかし、加速しているのもあってそれを避けつつ攻撃をしていきますが、やはり決定打には欠けてしまっています。私のEXスキルの効果時間はすでに残り二分切っていますし、早めに決着をつけたいところですが…


 私は、EXスキルを発動している時のみに使える切り札がもう一つだけあります。それには詠唱などはありませんが、動ける相手には命中させることが厳しそうでもあるのです。


 なのでそれを使える隙が生まれれば良いのですが、明らかに警戒を強めているせいでそんな隙はありません。


「兄様!ほんの少しだけいいので、アレの動きを止めてもらってもいいですか!」

「何があるのか!」

「はい!これがあれば、あの男性を倒すことが出来るはずです!」

「…わかった。なら、俺たちの出番だな。皆聞いていたな、これが最後だ!全力でアレの動きを止めるぞ!」


 兄様の声を聞き、ファンタジアさんと全プレイヤーが私の策のために男性の動きを止めるのに動き出します。


 しかし、それでも男性は大剣と左手を振るうことで激しい抵抗をみせてなかなか動きを止めるのには至りません。


「くっ、どうしても攻めきれませんね…!」

「なら、私に任せてください!」


 そんな状況で突然私の横から声がしたと思い振り返ると、そこには全身に傷がついてはいますが五体満足であるジェーンさんが立っていました。


「私がユニークスキルの転移で貴方を送るので、貴方は私たちを信用してその切り札を使ってください」

「……わかりました。なら、頼みますよ!」

「はい。では…」


 その言葉を合図に、ジェーンさんのスキルによって私は瞬時に男性の頭上辺りへと転移が行われました。


「貴様っ!」

「させぬ!少女よ、いまだ!」

「いけ、レア!派手に決めてやれ!」


 それを察知した男性は即座にこちらへと大剣を振るってきましたが、ファンタジアさんの攻撃によってそれは軌道を変えられることで命中することはありません。


「頼みますよ、皆さん……すぅ、時の調べは今、極点へと至る!〈心解・時空を穿つ者(クロノス・エンド)〉!」


 私は皆さんを信頼し、私が現段階で放てる最高の一撃であるEXスキルの切り札を男性目掛けて放ちます。


 それの効果は触れた者の耐久や防御を無視して魔法ダメージを与えるというもので、これを命中させることが出来れば未だに残っているHPも削り切ることが出来るはずです!


「こんなもの…!?」


 男性は直ちに回避に動こうとしましたが、皆さんによる攻撃や妨害系のスキルのおかげでほんの一瞬ではありますが足が動けなくなっていたようで、回避が間に合いません。


「だが…!」


 それでも、両手に構え直した瘴気を纏わせている大剣で私の放った巨大な光線を相殺しようと振り下ろし、お互いの全力のぶつかり合いとなります。


 瘴気を纏わされている大剣は徐々にではありますがヒビのようなものが生まれつつも、光線を切り裂かんばかりに力が込められていきます。


 ですが、私も皆さんに任されてここにいるんです!絶対に負けません!


「撃ち抜けえええええっ!」

「なに…っ!?」


 ほんの一瞬なのか、長い時間だったのか。それはわかりませんが、私の放った光線は男性の振り下ろしていた漆黒色の大剣を見事に撃ち抜くことで破壊し、そのまま大剣を貫通して背後にいた男性の胸元を貫きます。


「まさ、か、この俺が…!?」


 胸元を貫かれた男性は巨大化していた身体が徐々に小さくなっていき、そのタイミングで身体の端からポリゴンとなっていきます。


「俺は、あのお方の力になりたかったのに…!」

「それでも、誰かを犠牲にしてそれを成すのはダメなことですよ」


 男性が思わずといった様子でこぼした言葉に、私はその男性の元へと歩み寄り、そのように返事を返します。


「ならば、どうすればよかったのだ!俺には、このやり方しかなかったのに…!」

「それは、誰かと助け合いながらするのがよかったのです。人は皆、一人だけでは何も出来ません。だからこそ、友人や恋人、仲間という存在がいるのですから」

「仲間、か…」


 私のかけた言葉に男性は何やら思考をしている表情をしていますが、それに対して私は言葉を続けます。


「貴方にも、大切な人はいなかったのですか?」

「大切な人……そんなもの、俺にはいない。俺は、あのお方のために生まれた存在だからだ」

「その人のために生まれたのなら、その人は貴方のことを大切に思ってなかったのですか?」


 私の言葉を聞いた男性は何やら驚いた様子で、そんなこと考えたこともなかった、と言葉をこぼします。


 この人はおそらく、今まで頼れる存在もなく、ただ一人であのお方という人のために行動をしていたのだろうとはわかります。


 …私にはこの男性の気持ちの全てがわかるというわけではありませんが、それでも心がとても辛いだろうとは思います。


「貴方も、何か大切な物のために動いていたんですよね?」

「……ああ。だが、俺はすでに引き返せないところまで来てしまっている。だから、俺はこのままここで死ぬ。だが、最後に言わせてくれ」


 男性はそう言って私の手を取り、今までずっと浮かべていた険しい表情を緩め、泣き笑いのように顔で言葉を発します。


「ありがとう。最後に会えたのが、貴様でよかった」


 その言葉を最後に、男性は全身が一気にポリゴンとなることで消えてしまいました。


「…レア、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。大丈夫ですが、少しだけ時間をください…」


 私は目を瞑って男性に向けるかのように手を合わせて祈ります。ああ、もし彼に第二の人生があるとするのなら、その時はきっと笑い合える人生になりますようにーー




「じゃあこれで、このイベント内の目的みたいなものは完了かな?」

「ですね。もう、このイベントエリアには断片も出ないとは思いますしね」


 祈りを済ませた私は兄様と共に皆さんのいた後方へと歩いていき、そのタイミングで皆に聞こえるようにあげたルミナリアの言葉に返事をします。


 これでやることは済みましたし、後の時間はサービスタイムですね!今の時刻はすでに三時くらいとなっていますし、まだ六日目なので時間はたくさんあります。


 それなら、プレイヤーたち皆で打ち上げでもしましょうか!ちょうどこの辺りは森がなくなることで開けてもいますし、場所についても問題はありませんので!


「皆さん、イベントの目的らしきものも無事に済みましたし、ここで打ち上げでもしませんか?」

「そうだな、ここいらでプレイヤーたちで交流を深めるのも良さそうだな」

「それに、皆で一緒の方が楽しいだろうしな」

「俺も、それはいいと思う」


 兄様、クオン、カムイさんと続けて返事をくれたので、私たちは早速とばかりに打ち上げの準備を開始します。あ、もちろん私たち以外にもたくさんいるプレイヤーたちも一緒ですよ!この機会に、ぜひ皆さんで交流を深めましょう!


 それに最初のように小型化してくれたファンタジアさんもいるおかげで幻獣たちも集まっているようで、各々の気に入ったプレイヤーたちの元へと寄ってもいますし、私たちのようにテイムをすることが出来たプレイヤーも増えそうです。今だって、クオンやカムイさんなどの元にも銀色の狼や青色の竜などが寄ってきているみたいですしね。


「フレンドたちに呼ばれて来たが、この状況はなんだ?」

「あ、ムニルさん!えっとですね…」


 そんな中、他のプレイヤーから呼ばれたようでここまでやって来たムニルさんに対して、私は周りで打ち上げの準備をしているプレイヤーに変わって何があったかを簡潔に説明をします。


「なるほど、ボスを倒したからその打ち上げをするのか」

「はい。もしよければ、ムニルさんも一緒にしませんか?」

「それじゃあ、俺も参加させてもらおうかな?それと打ち上げなら人は多い方が楽しいだろうし、ついでに生産プレイヤーのフレンドも誘うか」

「あ、なら俺たちが呼んできますね!」

「お、悪いな。頼む!」


 ムニルさんの言葉に、ちょうど私たちの近くを通りかかった数名のプレイヤーがそのように言って他の人たちも呼んでくるみたいなので、私たちはそれを見送った後に二人でパーティ用の料理を作りに動きます。


 とりあえず、作る料理は手軽に出来るコンロでのバーベキューをメインにしますが、他は何にしましょうか?


「ムニルさんは何を作るのですか?」

「俺か?そうだな……まあ今は簡単に出来るステーキやカレー、串焼き肉にでもするかな。レアは何を作るんだ?」

「私はコンロでのバーベキューをメインにしようと思ってます」

「確かにそれなら手軽に食べれるな。なら、俺のところにも持ち込まれたこれも使うといい」


 私の言葉にムニルさんはそう言って複数のコンロを取り出し、数名のプレイヤーを呼んでそれを用意させています。


 私よりもムニルさんの方が料理は当然美味しいですし、私はサブとしてコンロに集中しますか。


 あ、なんです?…私の手料理を食べたい、ですか?んー…私よりもムニルさんの料理の方が美味しいとは思いますが……え、今度はなんですか、クオン?…ふむふむ、理由についてよくわからないですが、望まれているなら私も何か作ることにしますか。


「まあとりあえずは、材料がなくなってしまいそうなので手の空いている人たちは食材を集めてきてもらってもいいですか?」

「了解、じゃあ俺たちは一度肉系を集めてくるな」

「俺たちも集めてくるぜ!」


 …クオンを筆頭に、ほとんどのプレイヤーたちが我先にと食材集めに動いていったのには少しだけ苦笑してしまいましたが、これなら食材集めは問題なさそうですね。


 では、私も皆に望まれていますし、何が料理を作るとしましょうか!




「いやー、満腹満腹ー!」

「本当だね〜」


 そうして私たち【料理】スキルを持っているプレイヤーたちの作った料理を皆さんは楽しそうにしながら食べ、皆でワイワイと談笑しつつも時間が過ぎていってます。


 それと同時に、この打ち上げの間で複数の幻獣たちは気に入ったプレイヤーに対してテイムをしてもらったり、宴会の如くプレイヤーや幻獣たちと一緒にゲームをしたり、さらには一発芸をしたりなど、なかなか楽しい時間となっていました。


 それにしても、こうして見ると色々なプレイヤーがいるのですね。


 マジシャンのような姿をしたプレイヤーが手品を見せて楽しんでいる人がいれば、露出が多い踊り子のような姿で五人のプレイヤーが踊りを披露したり、何やらヒーローショーのようなものをしている者までいます。


「プレイヤーの人数も増えていってますし、これからも目立つ人は出てきそうですね」


 これを見る限り、私たち以外にもユニークスキルを手に入れるプレイヤーも出てくるのは間違いなさそうです。


「にゃははー、レア、楽しんでるー?」

「っと、ルミナリアですか」


 椅子に座りながらそんな光景を眺めつつも自作のお茶をちびちび飲んでいた中、突如私へと体重をかけて肩に腕を回してきたのはルミナリアです。というか…


「お酒くさいです…!?何を飲んだのですか、ルミナリア!?」

「ご、ごめんね、レアちゃん。ルミナリアがムニルさ

んの作っていたお酒に手を出しちゃって…」


 …なるほど、道理で酒臭いわけです。このイベント最中に作り上げていたムニルさんにも驚きですが、まずはそれよりもお酒を飲んで酔っているルミナリアの対応をしないとですね。


 ルミナリアは酔うとダル絡みしてしまうタイプのようで、今も笑いながら私に抱きついているところです。まあ特に嫌なことをされているわけでもありませんが、少しだけウザいです…


 とりあえず、剥がしますか。


「ルミナリ、ひゃん!?」

「にゃははー、ケモ耳もふもふだねー!」


 そう考えてルミナリアを剥がそうとしたタイミングで、突然私の頭に生えているケモ耳を触られることで変な声が漏れてしまいます。


 な、なんですかこれ…!?耳を触られるとビリッときます…!?


「る、ルミナ、ひゃっ…!?」

「うーん、尻尾ももふもふー!」


 ルミナリアは酔っているせいか、遠慮を一切しないで私の耳と尻尾を触ってきます。


 現実である部位ではないからか、少し触られるだけでもびっくりして変な声が出てしまいます…!?と、というか、触るのをやめてください…!?


「ひん!ま、マキさん、助けてください…!」

「……はっ!る、ルミナリア、それ以上はダメだよ!」


 私の助けを求める声にハッとし、マキさんはすぐさまルミナリアを引き剥がしてくれました。


「はぁ、はぁ……あ、ありがとうございます、マキさん」

「……う、ううん、気にしないで!…レアちゃん、そんな潤んだ瞳で上目遣いなんて、エッチすぎだよ…」

「な、なんですか?」

「な、なんでもないよ!あはは…」


 マキさんは何やら呟いていましたが、私には聞こえないうえになんでもないとも言っていますし、特に気になるわけでもないので放置でいいですね。


 マキさんに引き剥がされたルミナリアはそのまま幸せそうな表情でむにゃむにゃと眠っており、ルミナリアがテイムしていた黄金色の狐がその顔をテシテシと叩かれています。


 …というか、なんだか周りのプレイヤーの皆さんからの視線を無数に感じますが、どうしてでしょうか?皆さん男女関係なく顔を赤くしてますけど…


「れ、レアちゃん、私たちはこれでいくね!」

「あ、わかりました」


 そう言ってルミナリアを連れて去っていくマキさんでしたが、ルミナリアはもう少しだけ遠慮というものを覚えて欲しいですっ!

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