118話 無人島サバイバル16
「くっ、変化前よりもかなり強くなっていますね…!」
「なら、近接戦闘は俺たちに任せてくれ。レアたちは援護を頼む」
「わかりました!兄様、お願いします…!」
「ああ。いくぞ、カムイ!」
「ふっ、了解した!」
その言葉を合図に、巨大化した男性に向けて一気に駆け抜けていく兄様たちでしたが、男性はそれに対して手に持っている大剣をまるで小枝のように振り回すことで接近を許しません。
ですが、そちらに意識が向いているということはこちらが疎かとなっているわけです。それなら、まだやりようはいくらでもあります!
「〈第二の時〉!」
「〈飛び回る氷柱〉!」
「人形さんたち、〈マナアロー〉です!」
「むっ、動きが…!」
私の放った遅延効果を持つ武技は見事に男性へと命中し、その効果を発揮します。そこにネーヴェさんとアリスさん、後衛である多数のプレイヤーによる武技や魔法も続けて放たれることで、男性のHPを削っていきます。
「ナイスだ、レア!〈秘剣・焦土〉!」
「これならば… 〈瞬く雷剣〉!」
「俺もいるぞ!〈鮮血の魔剣〉!」
「私もですよ。〈霧裂〉」
「俺も!〈炎の豪剣〉!」
「ちっ、たかが人間ごときに…!」
私のユニークスキルで遅くなった動きの隙間を縫うかのように接近した兄様たちの攻撃も受け、男性はその顔にこれでもかと嫌悪感を露わにし、手当たり次第に大剣と瘴気を纏った左手を振るうことで兄様たちを引き剥がそうとします。
ですが、そんなのに当たる兄様たちではないようで、相手からの攻撃を回避しつつ反撃の一撃を加えてじわじわとHPを削っていってます。
兄様たちも頑張っていますし、私も負けてられません!
「〈第七の時〉!〈第一の時〉!」
武技を自身に撃ち込むことで現れた分身と共に、動きを加速させる武技を同様にそれぞれ自身に撃ち込みます。
「アリスさん、兄様たちの援護は任せてもいいですか?」
「大丈夫なのです!でも、レアさんはどうするのです?」
「私はこのまま接近して兄様たちの近くからサポートに動きます」
ここで攻撃していてもある程度の援護にはなると思いますが、それでも咄嗟に助けに動くのには遅くなりそうですし、私なら近接戦闘についても支障はないですしね。
そのような言葉をアリスさんとそばにいたネーヴェさんに伝えた後、私は二人に見送られる形で分身と共に加速した動きを活かして一気に巨大化した男性へと接近していきます。
援護はアリスさんとネーヴェさんでも大丈夫ですし、そちらは任せます!死に戻りをしたプレイヤーたちが生き返ったのか徐々にプレイヤーたちも集まって来てますし、あちらは問題ないはずです。
「〈第二の時〉!」
「〈第六の時〉!」
「キュッ!」
そしていつのまにか切れていた遅延効果持ちの弾丸とバフデバフの時間を伸ばす効果の弾丸を続けて放ちつつ、私と分身は男性に向けて近づいていき、そこに本体の首元にいるセレネも魔法による攻撃をしてくれています。
「レアか!」
「私もお手伝いに加わります!」
「なら、ここで二手に分かれるとしようか」
「それじゃあ俺たちは右からいくから、貴様たちは左を頼む!」
「わかりました!」
ルベルさんの言葉を聞き、頭上から振り下ろされた大剣を横に移動することで避けた後にすぐさま私たちは行動に移ります。
私は兄様とクオンのパーティメンバーと一緒ですが、兄様とクオンの動きに対してはある程度は把握しているのでサポートも問題ないはずです!
反対側にはルベルさんとカムイさんがいますし、他のプレイヤーの皆さんの方も多数いるのであちらも問題はないと思います!
それに転移を繰り返すかのようにして位置をコロコロと入れ替えながら攻撃を加えているジェーンさんもいますし、サポートは私だけではありませんしね。
「じゃ、いくぞ、レア!」
「はい、私は後ろから動きますね!」
私は男性との距離を一定に保ちつつ、分身と共に遅延効果の〈第二の時〉を男性に、加速効果の〈第一の時〉を自身に撃ち込んだ後、兄様たちのサポートをしながら両手の双銃で乱射した無数の弾丸とセレネによる魔法でダメージを与えていきます。
兄様とクオン、そしてそのパーティメンバーたちによる連続した攻撃で男性の身体に無数の傷を付けているので、なかなか良いペースでダメージを与えられているようで、HPも良い感じに減らせていってます。
反対側にいるカムイさんとルベルさんたちの方も競い合うようにダメージを与えているようですし、ここまでは順調です。順調ですが、それを見ても落ち着いて武器である大剣と左手を振り回している男性は不気味なほどに平静を保っています。
…まさか、何かを狙っているのでしょうか?だとしたら、隙を見せた瞬間に何かをしてきそうではありますが…
「貴様たちは強い。だが、俺は貴様ら如きにやられるほど弱くはないのでな。これにて終わりにさせてもらおう」
そんなことを思考していた次の瞬間、男性がそう呟いて手に持っていた漆黒色の大剣を地面に突き刺します。
「…っ!地面から何かがきます!」
「キュゥ!」
すると、そのタイミングで私の【第六感】が反応してセレネの警戒を秘めた声も聞こえたので、そう皆に聞こえるように声をあげてから即座に後方へと力一杯飛び上がった直後、突如地面からドス黒い色をした魔力のようなものが天へと向かうが如く溢れてきました。
「なっ…!」
「逃げ…!」
「まず…!」
私の言葉を聞いた兄様たちもすぐさまそれに反応をしましたが、私のように全てを躱すことが出来なかったようで、身体の一部を掠めてしまうことで一気にHPを削られてしまいます。
しかも他のプレイヤーたちは逃げることも間に合わずに全身を飲まれ、ポリゴンとなって消えていくので凄まじい火力なのがわかりますね。
私と同様に転移で避けたらしいジェーンさんは無事みたいですが、兄様たちは見事に身体の一部を飲まれてしまっていてすごく痛そうです…!
「兄様っ!」
「ちっ、HP的にはなんとか大丈夫だ!それよりも、部位破損がヤバい…!」
兄様たちは男性の近くにいた他のプレイヤーのように全身を飲み込まれているわけではありませんが、身体の一部は飲み込まれることでポリゴンとなってしまったようで、ここからの戦闘の継続はかなり厳しそうです。
片腕だけだった兄様とカムイさんはまだしも、ルベルさんに兄様とクオンたちのパーティメンバーは足などの重要な部位を飲まれたせいで間違いなくこの戦闘に参加することは出来ないように見えます。
後方にいたアリスさんやネーヴェさん、ルミナリアやこの戦闘に参加するにはまだ実力不足なマキさん、クオンと兄様のパーティメンバーの後衛の人たちなどがいる場所までは攻撃が飛んできてなかったようなので、それだけは少し安心しました。
しかし、前衛として動ける五体満足のプレイヤーは私だけなので、これはかなりやばい状況です。
片腕だけの兄様とカムイさんは無理をすれば少しは戦えそうではありますが、相手からの攻撃に対処するのがかなり厳しそうなので無事な私がどうにかするしかありません。ジェーンさんは暗殺者スタイルなので対面には向いていないでしょうしね。
「…ルミナリア、マキさん、部位破損をして戦闘を続行できない人たちの救助を頼みます」
「それはいいけど、レアはどうするの?」
私の言葉にそう疑問を返してくるルミナリアですが、それも当然です。こんな状況では勝つ可能性も限りなく低そうですし、ルミナリアが不安そうにするのも無理はありません。
それでも、私はこれだけのことをした男性から視線を逸らさずにルミナリアに言葉を返します。
「私は、アレの相手をします」
「だ、大丈夫なの、レアちゃん…!?」
「キュゥ…?」
「誰かがあの男性の相手をしなければ、今ここで全滅してしまいます。それなら、暗殺者であるジェーンさんを除いて唯一五体満足の私が適任ですからね」
…先程の攻撃に使われた魔力に混ざっていたのか、何者かの憎悪のような感情を感じたせいで男性に対して少しだけ恐怖を感じてしまいますが、私が今ここでやらなければ誰がやるというのですか。
それに、単なる無謀さではなくキチンと策はあります。私がいつのまにか獲得をしていたあのスキル。アレなら、この状況をひっくり返すことは出来る可能性があるからです。
ですが、それを使わせてくれる隙があるかどうかが怪しくはあります。なぜなら、先程の攻撃を放った男性はすでに行動を終わらせているようで、警戒するかのように大剣を構えながらこちらに視線を向けてきているからです。
「それならば、私が手を貸そう」
そんな思考をしつつも男性へと視線を返していると、突然私たちの元へと聞いたことのある声が響きます。
声のした方に視線を向けると、そこには小さめな竜の姿である幻獣、ファンタジアさんがいつのまにか近くに浮かんでいました。
アリスさんやルミナリアの表情からして、誰もそこにいるのに気がついていなかったようですね。幻獣の主と言ってましたし、何か特殊なスキルか何かでここに現れたのでしょうか?
「そこの少女よ、何か策があるのであろう?」
「…はい。ですが、それを使わせてくれるかどうか…」
「であれば、私がそれを使わせる隙を生み出してみせよう。これでも、実力はあるのでな」
うーん……ファンタジアさんはそう言ってますが、ここまで自信満々に言っているので信頼しても大丈夫ですかね?
猫の手も借りたいくらいですし、ファンタジアさんの助太刀がなければこのまま倒されてしまいそうでもあるので、申し訳ないですが頼むとしましょう。
「…よければ、ほんの少しでいいので注意を引くのを頼んでもいいですか?」
「任された。それと、周りに倒れている者に対しての救助もさせてもらうぞ」
そしてファンタジアさんが大きくて響く声をあげたと思ったら、その瞬間にファンタジアさんの身体が一気に大きくなることで巨大な竜の姿になります。
それに続くように地面に無数の魔法陣も出現し、そこからは幻獣であろう色々な獣や鳥などが続々と出てきて、生き残っていたプレイヤーたちの救助へ向かいます。
「では、ゆくぞ!」
「貴様は、あの神の使いか!ならばこの憎悪、貴様にぶつけてくれようっ!」
その言葉を合図に巨大化している男性へと向かっていくファンタジアさんですが、男性と比べてもほぼ同額くらいの大きさになっているおかげでなかなか迫力がある戦闘をしています。
男性はファンタジアさんと何やら因縁のようなものがあるらしく、見事にファンタジアさんへとヘイトが向くことでこちらへの意識が逸れています。
なら、ここで私の持つユニークスキル以外であるもう一つの切り札を使わせてもらいましょうか!
「ふぅ……森羅万象、時は移り変わる」
私はファンタジアさんたちを信頼し、集中するために目を瞑って詠唱を開始します。
「刹那の流れは止まらず、この歩みも阻まれはしない」
「ふん、貴様はやはり危険そうだな。ならば、貴様から屠るとしよう!」
「そうはさせぬぞ!」
意識が逸れていたとはいえ、明らかに危険そうな私に対して邪魔をしようと動いている男性ですが、それはファンタジアさんがなんとかその巨体を活かして阻んでくれているので大丈夫そうです。
しかし、それもいつまで持つかはわからないので素早く使用をしたいのですが、詠唱があるせいで僅かに時間がかかってしまいます。
ですが、詠唱はこれで終わりです…!
「我が意志によって世界に刻め、刻の旋律!〈心力解放・時空より旋律を謳う者〉!」
私の詠唱が終わって【心力解放】スキルが発動したほんの一瞬ではありますが、バグでも起きたかのように世界が白黒の世界になり、さながら時が止まった状態のようになりました。
すぐさま白黒の世界から色が戻りましたが、そのわずかな間のタイミングで私のすぐ背後に私より少し大きいくらいである時計が出現し、私の手に持っている双銃に力が宿るかのように魔力が流れ込んできます。
しかもそれだけではなく、幻獣たちに救助されることで後方へと移動していた兄様たちやクオンたちなどの部位破損が起きていたプレイヤー全員に白黒の光のようなものが集まり、減っていたHPが最大まで回復するのと同時になくなっていた腕や足などが元通りに再生しました。
「それは、なんだ…!?」
「これが、私の切り札です!」
警戒心を最大まで上げつつ声を荒げている男性に向けて私はそう声を出し、首元にいるセレネと共に一気に男性へと駆けていきます。
ーー私が使ったEXスキルの【心力解放】。いつのまにか獲得していたこれの入手条件は、不明です。ですが、私の想像ではありますがそれの条件はなんとなく察せます。
その条件とは、おそらく感情の昂りとこの世界での経験だとは思います。
私の場合は、経験の他に過去の因縁を越えることがありましたし、この条件で間違いないはずです。それに私が獲得していたのはその後の時でしたので、この予想は的外れではないと私は考えています。
「…効果時間は五分しかありませんし、この間に決めに動きましょう…!」
私は【心力解放】スキルで強化されている〈第一の時〉と〈第零・第十一の時〉を自身に撃ち込むことで付与された加速効果を活かし、そのまま巨大化している男性の頭、胴体、足に向けて次々と〈第三の時〉による攻撃を繰り返してダメージを与えていきます。
私の発動した【心力解放】スキルの効果は、自身の使う時属性と空間属性のスキルのMP消費とスキルのリキャストタイムをなくすのと、自身の使う全ての【時空の姫】の効果を2倍にする効果を持ち、さらには周囲にいる仲間が受けている傷を一度だけなくなるまで巻き戻す効果とてんこ盛りなので、凄まじい強さのスキルとなっております。
まあその代わりとして【心力解放】スキル自身はリキャストタイムが二十四時間もあるので連発も出来ないですし、効果時間も五分しかありません。
なので、勝負はこの時間でケリをつけにいきますっ!
「〈第二の時〉!〈第七の時〉!そして〈第零・第七の時〉!」
「キュッ!」
私は自身の持てる力全てを出すかのように、EXスキルのおかげで連発出来るのをいいことに立て続けにユニークスキルを発動させていき、男性に向けて攻撃を加えていきます。
そこに対してセレネも精一杯魔法などで攻撃をしてくれてもいますし、とても助かります!
「皆、レアに続くぞ!」
そんな中、傷が再生したことで戦えるようになった兄様たちもこちらに向かってきており、巨大化している男性へと次々に攻撃を放っています。
兄様たちもこれが最後なのがわかっているようで、私のような【心力解放】スキルはありませんが全力を尽くすかのように武技などを放っていますし、実力もあるのでかなりありがたいです…!しかし…
「くっ、攻めきれません…!」
そんなプレイヤーたち全員と巨大化しているファンタジアさんによる全力を出した攻撃を放っていますが、それでも私の口にした通り、あと一歩が足りなくて攻めきれていません。
男性の手に持つ漆黒色の大剣と瘴気を纏っている左手でこちらからの攻撃は防がれ、反撃まで飛ばしてきています。
それに私の【心力解放】スキルの効果時間もすでに二分が経過しており、後少しがどうしても届かないです…!
「ちっ!ならば、またこの技で…!」
「っ!皆さん、先程の大技がきますっ!」
私の張り上げた声を聞き、周りにいた全てのプレイヤーがその顔に警戒を浮かばせて、緊迫した空気が立ち込めます。
兄様やカムイさん、そして私とファンタジアさんがその動きを阻止しようと即座に動きましたが、私とファンタジアさんに対しては最大限に警戒をしているようで、私たちが放った無数の弾丸や火球などの攻撃は全て左手で消し去られてしまい阻止するには至りません。
このままじゃ、マズイです…!ですが、どうしたら…!
私に続けて兄様たちも阻止するために動きましたが、それも間に合わず先程と同様に漆黒色の大剣が地面に突き刺され…




