117話 無人島サバイバル15
「ちっ…!」
「そのまま蜂の巣になってください!」
力一杯に蹴られたことで横方向へと飛んでいった男性に向けて、私は両手の双銃を片っ端から乱射して男性へと弾丸をお見舞いします。
首元にいるセレネも一緒に魔法を放ってくれてはいましたが、すぐさま空中で姿勢を戻したと思ったら、飛んでくる弾丸と魔法を手に持つ漆黒色の片手剣で全て切り捨てつつ地面に足をつくことで勢いを殺し、次の瞬間に地面を蹴ることで私に向けて一気に迫ってきます。
私は再び自身に〈第一の時〉を撃ち込むことで動きを加速させ、それに対応します。
「速すぎて、サポートが出来ないのです…!?」
「レアは単純なスピードならあのカムイすらも超えているくらいだからな」
「立ち位置もコロコロ変わるせいで、こちらからは手が出せないわね」
思わずといった様子で言葉を漏らすアリスに、ゼロはレアから一切視線を逸さずにそう言葉をかける。
そこにネーヴェも加わるが、それでも二人の戦いには手が出せない様子だ。
レアとその相手である邪悪なる者の眷族の男性は、互いに凄まじい速さをしているせいで周りにいる誰もが手を出せないほどで、ここに安易に踏み込もうものなら命がいくつあって足りないであろうほどの危険地帯となっている。
「〈第七の時〉!からの〈第三の時〉!」
「〈ブラック・エッジ〉!」
自身へと飛んできている全ての攻撃をゆらゆらとした不規則な動きで回避しつつも、分身を呼び出したレアは立て続けにユニークスキルの武技での攻撃も放つが、それに呼応するように邪悪なる者の眷族も闇を纏った剣撃を放ち、それを相殺する。
その相殺されて薄れた力ですら、空気を通してその威力が周りにいるゼロたちにひしひしと伝わってきており、生半可な者では即座にポリゴンとなるであろう力と力のぶつかり合いなのがわかる。
「…レアの才能は、やはり俺以上だな」
「…そうなのか?」
「ああ、今はまだ近接戦闘に関していえば経験のある俺の方が上だとは思うが、それもいつまでもつか…」
カムイがこぼした言葉に、そばにいた【鮮血帝】と呼ばれる吸血鬼のプレイヤー、ルベルが驚愕の感情をその顔に浮かばせている。
それをチラリと見たゼロも、カムイたちの言葉に同意するかのような表情を顔に出していたが、すぐに今も戦っているレアの方へと意識を戻す。
「…レア」
クオンもそんなレアに意識を向けているが、クオンは自身の実力がまだまだ足りないのを実感しているようで、その顔に真剣さを秘めつつもレアの動きを自身の力に変えるべく、じっくりと集中して見続けている。
「ちっ、切りがないな…!なら、〈ブラック・ノヴァ〉!」
「…っ!」
そしてしばらくの間私とセレネの相手をしていた男性でしたが、その攻防の中で徐々にダメージを受けている状況にほんのわずかな苛立ちを表情に浮かばせ、武技の影響で真っ黒に染まった片手剣を全身の力を込めて私目掛けて振り下ろしてきます。
「キュゥ!」
私はまたもやそれをギリギリで躱そうとしましたが、セレネの警戒を促すかのような声を聞いた後に即座に動きを変え、後方へと大きく跳ぶことで攻撃を躱します。
私が避けた真っ黒に染まった剣が男性によって地面へと振り下ろされたその瞬間、そのぶつかった場所から真っ黒な闇のような力が溢れることで広範囲を破壊し尽くされてしまいました。
「ちっ、避けられたか…!」
「危ないですね…!助かりました、セレネ!」
「キュッ!」
セレネの警告が功をなして、私は特に傷を負うこともなく回避が出来ましたが、やはりセレネのスキルはこうしたギリギリの戦いではかなりありがたいです。
セレナのそのスキルの名前は【因果律予測】と言って、前にも見た通りほんの少しだけ未来を見れるといった効果のおかげで不意打ちのような攻撃にはかなりの力を発揮します。
しかし、強力なスキルなだけあって力の消耗が激しいようで、今も動き続けている私よりもかなり魔力と体力を消耗しているらしく、少しだけ苦しそうにしているのでここからは使えないとみてよいですね。
「…セレネ、もう無理はしなくていいですからね」
「キュゥ…」
「大丈夫です、あとは私に任せてください」
私は互いに距離が空いたことで膠着状態になった今の隙に、セレネにそう声をかけてから片手で優しく撫でておきます。セレネもすでに自身の限界が近いのをわかっているようで、私の言葉に頷いています。
ここからはセレネに頼ってないで、自分の力でなんとか頑張りましょうか…!
「やはり、お前がこの中で一番危険な存在のようだな」
そう言って下ろしていた漆黒色の片手剣を再びこちらに構えながらそう口にした男性ですが、私はただちに行動には移さないで警戒に回ります。
すでにセレネの【因果律予測】に頼ることは出来ないですし、このまま攻撃をしても有効打に欠けてしまっていますしね。
それに、私が時間稼ぎをしていたおかげで皆も万全の様子のようなので、ここからは私だけではなく全員でこの男性を倒させてもらいますよ…!
「…ちっ、俺が遊んでいたせいで周りの奴らも回復しているか。なら、ここからは本気で貴様たちを始末させてもらおうか」
その言葉と共に男性は突然右手に持っていた漆黒色の片手剣を逆手に持ち、そのまま自身の心臓のあるであろう場所に突き刺しました。
「いきなり何を…!?」
私だけではなく、周りにいた生き残りのプレイヤーたちも同様に驚愕の表情を顔に浮かばせていますが、それも無理はありません。
しかも、自身に片手剣を突き刺したそれをすぐに引き抜くと、その片手剣は前に戦ったことのある邪悪なる欠片が纏っていたものと同様の黒いオーラ、瘴気を纏っていました。
それと同時に片手剣が先程までよりも二回りくらいも大きくなっており、武器の性能が上がっているのも見て取れます。しかも空いている左手全体にも瘴気が纏われているので、先程よりも遥かに強くなっているようです。
あれは、明らかにヤバい代物ですね…!もし触れてしまったら、瘴気があるのも相まって一瞬で殺されてしまいそうです…!
「さあ、第二ラウンドといこうか」
「…っ!」
大きくなった片手剣を手にこちらへと踏み込んできた男性ですが、私は自身へ〈第一の時〉を撃ち込んで動きを加速させることでそれに対応します。
「〈第零・第七の時〉」!」
「むっ…」
相手からの攻撃が飛んでくる前に、今度は無数の幻影を生み出す武技を自身に撃ち込むことで男性を惑わし、本体である私自身も生み出された無数の幻影に紛れるように動くことで男性からの注意を逸らします。
これなら直ちにこちらへ向かうのは出来ないでしょうし、とりあえずはこれでよいですが、これだけではただの時間稼ぎにしかなりません。なので…
「〈秘剣・千重波〉!」
「〈切り裂く爪〉!」
「〈雷光の剣〉!」
「〈星命の想剣〉!」
そんな幻影に紛れる形で、周りにいた兄様たちやソフィアさんたち、さらにカムイさんたちにクオンたちと、それぞれが自身の放てる攻撃を一気に男性へ向けて放ちます。
「ちっ、数が多いな…!」
それらの攻撃の大半は、大きくなった片手剣や空いているもう片方の左手に纏わせた瘴気などで対応をしましたが、それでも全てに対処することは出来ずに少しだけ身体中に赤いポリゴンが走ることでHPが削れています。
「ならば……いでよ!我が軍勢!」
そうした一瞬の攻防の中、すぐさま大きくなった片手剣を一振りすることで無数の幻影を消し去るのと同時に、一度私たちから強引に距離を取ったそのタイミングで瘴気を纏った左手を地面へと付けると、地面が左手の触れた位置から一気に漆黒色に染まっていきます。
するとその瞬間、漆黒色に染まった地面から最初に男性を見た時と同様に、大量の邪悪なる断片が這い出るかのように現れます。
「また雑魚召喚か…!」
「なら、ここは私たちの出番ね。いくわよ、アリス!」
「はいなのです!」
そんな大量に生み出された邪悪なる断片に対して特に臆することもなく、ネーヴェさんとアリスさんが筆頭として、先程の攻撃を受けても生き残っていた周りのプレイヤーたちなどがそれぞれのユニークスキルなどの武技や魔法を連続して放ち、大量の邪悪なる断片たちをポリゴンへと変えていきます。
やはり、ネーヴェさんたちのような魔法系のユニークスキル持ちはこうした多数相手にめっぽう強いみたいですね。私のユニークスキルは攻撃手段に乏しいので、こんな派手な武技には少しだけ憧れてしまいます…!
「ふん、雑魚ではすでに相手にならぬか。であれば、これはどうだ?」
雑魚敵である邪悪のなる断片が次々とポリゴンとなって消えていくのを見た男性は、そう呟きつつ再び左手を地面に触れると、今度は先程よりも巨大な狼のような姿の邪悪なる断片を生み出しました。
これは見た目だけではなく威圧感も少しだけ感じるので、確実に今までの雑魚とは格が違うでしょうね。ですが、大きくなって力などのステータスが強くなっているのでしょうけど、それだけ的が大きいということでもあります。
「〈秘剣・風断〉!」
「〈瞬く雷剣〉!」
「〈踊り狂う鮮血〉!」
今までは的が小さかったせいで出番がなかった兄様たちや他のプレイヤーなどの近接組による激しい攻撃がその大きい身に一斉に受け、瞬く間にHPが削れることですぐさまポリゴンとなって消えていきました。
「ちっ、これでもダメか。では次は…」
ポリゴンとなって消えていった狼のモンスターを眺めつつ、男性が次の行動に移ろうとしたその瞬間。
「… 〈霧裂〉」
「…っ!」
突如背後に現れた一人の男性による攻撃を受け、瞬時に振り返るのと同時に手に持っていた巨大な片手剣を振いますが、それは当然のように躱されて距離を取られます。
突然現れたので驚きましたが、アレは誰でしょうか?
「ジェーン!」
兄様のあげた声を聞いて、私は思い出しました。確か第一回目のバトルフェスの時にも出ていた暗殺者のような人……でしたっけ?
「この男性が大元の存在ですね?」
「ああ、そうだ」
転移のようなもので私たちのそばへと移動してきたジェーンさんの言葉にそう返して軽く言葉を交わしている兄様ですが、そこから聞いた感じ、ジェーンさんはどうやら今まで隠れて観察をしていたようで、決定打を打ち込めそうなタイミングまで息を潜めていたらしいです。
ジェーンさんは、あのプレイヤーたちを両断した攻撃には肝を冷やされましたけどね、とも続けているので、ボスである男性の戦闘情報についても問題ないようですね。
「ちっ、暗殺者風情が…!」
「そんな暗殺者でも、こうして人の役には立てるのですよ?」
憎々しげに吐いた男性の言葉にそう返すジェーンさんですが、ジェーンさんはやはり暗殺者系のユニークスキル持ちなのでしょうね?
今まで気づかれずに隠れられていたのも、間違いなくそれのおかげですね。
「傷が深いな……なら、最後の手段だ…!」
「キュッ!!」
男性が何やら小声で呟き、空いている左手で突然懐から何かを取り出したのと同時のタイミングで、今までは観察に回りつつも体力と魔力の回復に努めていたセレネの焦ったかのような声が聞こえました。
おそらくは再びの【因果律予測】で何かヤバいものを見たのだとは思いますが、それでも焦ったかのような声に私も強い危機感を覚えてここにいる全員に向けて声をあげます。
「皆さん、あの人の動きを止めてくださいっ!」
「もう遅いっ!」
そう言って懐から取り出した赤黒い宝石のようなものを掲げた男性にすぐさま攻撃を放った私たちでしたが、ほんの少しだけ間に合わずに使用を止められませんでした。
男性な動きを阻止するのが間に合わず、天に向けて掲げた赤黒い宝石が光ると、勢いよく深い闇を凝縮したような黒色の肉塊のようなものが宝石から溢れだし、そのまま男性を飲み込みます。
最後の手段とは言ってましたが、アレがそうなのでしょうか…?それに、アレからは禍々しくて魂にすら響くような憎悪の感情が辺りに放たれているようで、私だけではなく兄様たちやアリスさんたち、クオンたちに他のプレイヤーなども同様に感じているみたいですね。
「アレは、なんだ…?」
思わずといった様子で言葉をこぼしているプレイヤーの方に私も同意見です。
黒色の肉塊らしきものに飲み込まれた男性でしたが、肉塊がその場で暴れるかのように震えた次の瞬間には、肉塊が徐々に固まっていき巨大な人影が現れました。
その人影はドス黒い色をしていて禍々しくはありますが、人間のような姿をしてはいますけど……明らかに今までの男性とは格が違うように感じます。
大きさはおよそ五メートルほどで、その手には先程まで持っていた漆黒色の片手剣の代わりとして巨大な漆黒色の大剣を備えており、空いてある左手には最初と同じ……いえ、それよりもはるかに危険そうなドス黒い瘴気を纏っています。
「はははははっ!素晴らしい!流石は我らが神の力だ!この身体にみなぎる力!ああ神よ、必ずこの者たちを倒し、我らが神の目的を果たしてみせましょう!」
何やら高笑いをしつつそう声をあげている男性でしたが、それを隙とみたのか数名のプレイヤーが男性目掛けて魔法や矢などで攻撃を放ちますが、男性はそれにすぐさま反応して手に持つ大剣を振るい、それらを容易く消し去ります。
「ふん、この力があれば貴様らの相手など容易いものだ。今、ここで始末させてもらおう!」
「皆、散開!」
こちらに向けて大剣を構えた様子をみた兄様が周囲にいる全てのプレイヤーに言うように声をあげたので、皆即座に反応して指示通りに散開します。
指示通りに動いたそのタイミングで、私たちが元いた場所へと大剣を振り下ろされ、その衝撃で地面が派手に爆散します。
兄様の迅速な指示によってその攻撃に当たる者はいませんでしたが、それでも凄まじい破壊力ですね…!衝撃で地面が爆散するなんて、どんな力ですか…!
私は心の中でそう文句を言いつつも、今度こそちゃんと男性を倒すために両手の双銃を構えて弾丸を乱射します。
そんな私に続くように遠距離攻撃を放てるプレイヤーが続々と攻撃を放ちますが、やはりそれらも変化してすぐの時と同様に手に持つ大剣で全て相殺されることでダメージを与えるには至りません。




