116話 無人島サバイバル14
そうしてサジタリウスくんと出会った日から不自然なほどに何もなく時間が経過して、今日はついにイベントの六日目。
そんな六日目の昼である今は、その間に私が燻製機で作ったお昼ご飯であるビーフジャーキーを皆でハムハムしつつ食べているところです。
ちなみに、兄様とそのパーティメンバーの皆さん、ソフィアさんとリンさん、ルミナリアとマキさんにもしっかりとサジタリウスくんから聞いたりした神様や封じられた存在についての情報を伝えているので、詳しいことについては皆が把握しています。
「…昨日までは特になにもなかったが、明らかに今日の朝から邪悪なる断片が増えていたな」
「なら、イベントもすでに六日目に突入してますし、おそらく今日のうちには封じられてる者も出てくるとは思いますね」
「じゃあ、私たちも今日は封じられている場所であるはずの中央の森を警戒した方がいいかな?」
「かもしれないわね。きっと今日が山場ね」
意外と硬めであるビーフジャーキーを噛みちぎりながら、兄様とソフィアさん、ルミナリアにネーヴェさんはそう言葉を交わし、他の皆もその話をビーフジャーキーを食べつつも聞いています。
…私とアリスさんは思いの外硬かったビーフジャーキーに苦戦をしているので、話半分ではありますけどね。まあ話はキチンと聞いてはいるので、要点はしっかりと把握してますが。
というか、自分で作っておきながら出来上がったのが硬すぎるとは、少しだけ失敗しましたね?ですが、兄様たちは特に苦戦もせずに噛みちぎっているので、私とアリスさんの力が足りないだけな可能性もありますけども。
「…じゃあ、お昼ご飯も食べ終わったし、俺たちはもう一度中央の森の調査にでも行ってくるな」
「それなら私たちも一緒に行ってもいい?足は引っ張らないとは思うけど!」
「ああ、大丈夫だ。なら行こうか」
「オッケー!」
変わったことがないか再び中央の森の調査に行く兄様たちに、ルミナリアとマキさんも一緒に着いていくみたいです。
ルミナリアも言ってますが、マキさんも含めた二人の実力は十分ですし、おそらくは人数もいるので特に問題が起きることもないでしょう。
「レアちゃん、私たちはどうしよっか?」
「なら、私たちも兄様たちとは違うルートで森の調査に向かいませんか?」
「確かに、それなら見落としはなくなりそうね」
「私もレアの意見に賛成するわ」
「私もいいと思うのです!」
「それがいいかもね!」
私の意見にネーヴェさん、リンさん、アリスさん、そしてソフィアさんも賛同してくれましたし、私たちも兄様たちとは別れつつも中央の森の調査に向かうことにしましょう。
きっと私たち以外にも、北西と北東の場所にいるプレイヤーの皆さんがこのイベントエリア内に散らばっている情報を見て中央の調査に動いているでしょう。
なので、ソフィアさんの言っていた通り今日のうちに封印されている存在が出てくるとも思いますし、気を引き締めて調査に動きましょう!
「レアたちも来るんだな。なら、ここから東方面から俺たちは行くから、レアたちは西方面からお願いしてもいいか?」
「問題ありません。では、また会いましょう!」
「ああ、またな」
そう言って兄様たちはすぐに行動に移り、森の中へと入っていきます。
「よし、私たちも行きますか!」
「そうだね!」
兄様たちを見送った私たちは、準備を手早く済ませた後に早速兄様たちと同じように森の中へと入っていきます。
広場から森の中に入ると、兄様がお昼ご飯の時に言ってたように無数の邪悪なる断片と遭遇したので倒し続けて森の中を進んでいきますが、それ以外のモンスターである獣や虫、さらには幻獣などを一切見かけなくなっており、なんとなく嫌な雰囲気が森の中を漂っています。
森に入ってすぐに邪悪なる断片が襲いかかってきてますし、まず間違いなく今日のうちに封印が解けるであろう予感を感じますね。
「なんだか、出てきそうな雰囲気があるね」
「そうね、明らかに出てくる量が今までとは違うわ」
森の中の雰囲気にソフィアさんとリンさんも訝しげな様子でそう言葉を漏らしていますが、それに私たちも声には出しませんが同意します。
今はまだ邪悪なる断片と遭遇するくらいではありますが、それでも他のモンスターが出なくなっているのでいつ封印が解けて出てきてもおかしくはない気がします。
それと私の首元に優しく巻き付いているセレネや、アリスさんとネーヴェさん、ソフィアさんのそばにいるテイムモンスターである幻獣たちも少しだけ落ち着かない様子で辺りを警戒しており、この子たちも森に漂う怪しげな雰囲気を感じ取っているみたいですね。
「うーん、やっぱり特に怪しげなものは発見出来ないですね…?」
「まだ封印は解けない、ということでしょうか…?」
そんな風に思考しつつも森の中を散策していた私たちですが、やはり無数の邪悪なる断片と遭遇するくらいでこれといったものは見つけられていません。
アリスさんも口にしていますが、封印はまだ解けるわけではないのでしょうかね?
「何かないでしょうか…」
そう呟きつつも私を含めた五人揃って森の中を散策し続けていると、突如地面がグラグラと揺れることで地震のようなものを感じとります。
私たちは突然のことに驚き、地面が揺れているのもあって立っていることが出来ずに地面に倒れ込みます。
私の首元にいたセレネとネーヴェさんの肩から飛び上がったアズールは特に支障はないようですが、アリスさんのそばにいたハクと、同じくソフィアさんのそばにいた灰色の犬であるヘルの二匹は地面を歩いていたせいで私たちと一緒に地面に倒れ込んでしまっています。
「一体なにが…!?」
「レアさん!あれを見てください!」
そうした状況でアリスさんのあげた声を聞いてそちらに視線を向けると、そこにはかなり奥の方からではありますが、木々が徐々に腐り落ちるかのように干からびて枯れていくところでした。
しかも木々がなくなっているところからは邪悪なる欠片と同様の瘴気のようなものが出てきているので、私はそれを見た瞬間に一旦逃げましょう!と声をあげ、一目散に踵を返して森の出口まで全速力で駆け抜けていきます。
しかしアリスさんとネーヴェさんの魔法使いタイプである二人は走るのが遅いので、私は〈第零・第二の時〉を自身に撃ち込んでから〈第一の時〉を再び撃つことで私たち全員の動きを加速させることでサポートをします。
そのサポートもあり、動きが早くなったことでなんとかアリスさんとネーヴェさんも逃げ切ることが出来たようで、皆が無事に最初の広場まで戻ってきました。
「今のはもしかして、封印が解けた証拠、ですかね…?」
「かもしれないね。急に木々が枯れるとは思わなかったけど…」
「それに明らかに怪しげな様子だったし、間違いなくくるわね」
私とソフィアさん、リンさんはそのように言葉を交わしていますが、アリスさんとネーヴェさんは走ったことによって少しだけ疲れているようで呼吸を整えています。
まあ二人の戦闘スタイル的にこんな走ることはないでしょうし、慣れてないのも仕方なくは感じますけどね。
「レア!無事だったか!」
「あ、兄様!それに皆さんも!」
アリスさんのネーヴェさんを除いた三人で話し合っていた状況で、突如私に向けてかけられた声に振り向くと、そこには私たちと同じように森の調査に行っていた兄様たちが戻ってくるところでした。
兄様たちの身体などを見た限りでは特に怪我などを負っているわけではないようなので、無事でよかったです!
「…特に怪我とかをしている人はいないみたいだし、とりあえずはオッケーかな?」
「そうだね。それとあれはなんだったのかな…?」
「おそらく、封印が解けた証だとは私たちは思いましたが…」
ルミナリアとマキさんの言葉に私はそう返しましたが、周りにいる皆さんもそれだとは思っているようで特に疑問はなさそうです。
「あ、レアちゃん!アレ…!」
そんな中、ソフィアさんが思わずといった様子で声を漏らしつつも森のあった方へと視線を向けているので、それに釣られて私たちもそちらに視線を向けます。
私たちの視線の先には、先程まで生い茂っていた森の木々がほとんどなくなっており、その森のあった場所に一人の人間らしき姿の黒髪の男性が立っていたのです。
ここは男性のいる場所から結構離れているので詳しくはわかりませんが、まず間違いなくあの男性がこの島に封じられていたという存在でしょう。
「レア、それに皆も、いくぞ!」
『はい!』
兄様の言葉を合図に、私たちは腐り落ちたせいで開けている森の跡地を一気に駆け抜けていき、そのまま視線の先で立っている男性へと向かいます。
私たちは走っている最中ではありますが、その男性は誰に向けるでもなく左手を頭上に掲げたと思ったら、唐突に男性の立っている周囲から数えきれないほどたくさんの邪悪なる断片らしきモンスターが次々と地面から這い出すかのように出現します。
やはり、あの男性がこのイベントの要なのでしょうね…!なら、アレを倒すのがサジタリウスくんの言っていた頼みですし、このまま倒すために動きましょう!
「〈第一の時〉!そして〈第三の時〉!」
「〈人形の呼び声〉!さあ、行くのです!」
「〈飛び回る氷柱〉!」
「〈飛び回る翼〉!」
皆がそれぞれの武技を放ち、次から次に溢れてくる邪悪なる断片を倒しつつ足を進めます。
今出現している邪悪なる断片はこれまでに戦ってきた個体とは違い、結構弱いようなので簡単に倒せてはいますが、それでも数が多いので少しだけ面倒ですね…
ですが、こちらも数に対しては多めにいるので意外にもどんどん奥へと進むことが出来ています。それに私たち以外にも広場にいた他のプレイヤーの皆さんも一緒に戦ってくれているので、やはり数は力になります。
「…っ!見えました!皆さん、先に行かせてもらいます!〈第零・第十一の時〉!」
邪悪なる断片を倒しつつ進んでいると、粗方倒し終わったタイミングで私の視界についにこの断片たちの大元である男性が見えたので、私は一度皆に声をかけてから武技を使用することで〈第一の時〉だけの時よりもさらに加速した動きで一気にモンスターたちの隙間を縫って走り抜け、その勢いのままに男性へと飛び蹴りを放ちます。
「はぁ!」
「む、貴様は…」
まあそれは当然のように片腕で防がれたので、その腕を蹴ることで一度距離を取り、〈第一の時〉を再び自身に撃つことで加速し、次々と弾丸を乱射します。
しかもそれに加え、私の首元にいるセレネからの水や風の魔法の攻撃も飛んできているので、男性はその手にいつのまにか出していた髪と同色の漆黒色の片手剣を持って全ての攻撃を切り捨てます。
やはり本で見た情報通り、カムイさんや兄様にも劣らないくらいの剣の技量もあるみたいなので、私とセレネや一人と一匹だけでは有効打には欠けてしまっています。
しかし、ここはプレイヤーたちが攻略しているイベントエリア。この世界にいるのは私とセレネだけではありません。
「〈秘剣・燕撃ち〉!」
「〈切り裂く爪〉!」
「…っ!」
横から飛び出してきた兄様とソフィアさんの武技が男性目掛けて飛んでいき、男性はそれに即座に対処をします。
が、そこに向けて私が弾丸を、首元にあるセレネが風魔法の矢を飛ばした攻撃はほんのわずかに対処が間に合わなかったようで肌をかすかに掠めることで微量のダメージを与えることに成功します。
「貴様たちは、何者だ?」
「私たちは、この世界に招かれた異邦人です」
「異邦人……か。貴様たちも我らが神の目的を邪魔するのなら、今ここでその命を貰い受ける!」
その言葉と共に、右手に持つ漆黒色の片手剣を構えてこちらに一気に踏み込んでくるその男性に対して、タンクであるジンさんが前に出ることで次々と放たれる鋭い剣撃をその大盾で防ぎ、後方には進ませません。
そして攻撃を放った瞬間に出来たわずかな隙に私たちは攻撃を放ちますが、それらにも余裕で対応をされてなかなかダメージを与えることは出来ていません。
そんな中、私たちのいる場所の西の方角からクオンパーティとカムイさんにルベルさんが、東の方角からは私のフレンドの人は特にいませんが、たくさんのプレイヤーたちが続々とこちらに向かってくるので、邪悪なる断片はすでに倒し尽くしているのでしょう。
「ふん、数が多いな。ならば!」
その言葉と共に後方へ跳ぶことで私たちを含めたプレイヤー全員から離れたと思ったら、最初の時とは反対の腕である右手の片手剣を天に掲げます。
「キュッ!」
「っ、セレネ…!?」
すると、そのタイミングで首元にいたセレネが私のことを強く引っ張って強引に姿勢を倒したと思ったら、次の瞬間には天に掲げていたはずの片手剣を男性が横薙ぎに振るうと、その軌道にいた全てのプレイヤーの身体を両断されてしまっています。
「あ、危なかったですね…!」
私はセレネのおかげで傷は一切ついていませんが、他のプレイヤーたちは男性の放った攻撃のせいですでに半壊の状態になっています。
それでも、ユニークスキルを持っていたりするトップ層のプレイヤーであるカムイさんや兄様、アリスさんたちとクオンにルミナリアなどは結構なダメージは入っているようではありますが、なんとか生き残ってはいるみたいです。
しかし、皆を庇うように動いたジンさんはそのHPを一気に削り取られたようでなんとか生きてはいますが、今は気絶の状態異常になってしまっています。ですが、そのおかげで背後にいた皆のHPは結構削られてはいても生き残ることが出来ているので、かなりのファインプレーです!
「ふむ、生き残っているのは少しだけだな。ならば、この中で一番動けそうであろう貴様から始末することにしよう」
先程の剣撃はリキャストタイムでもあるのか、再び使用をする様子はなく、そのまま右手の剣をこちらに構えて私へと地面を強く蹴ることで迫ってきます。
なら、ここは皆が戻れるまでに時間稼ぎをしないとですね…!
迫ってくる男性を見た私は、最初のように自身へと〈第一の時〉を撃ち込み、加速した動きの中で自分から男性に近づき、そのまま両手の双銃から弾丸を無数に放ちます。
「はぁ!」
「ふっ!」
私の放った無数の弾丸を剣で弾いたり躱したりしつつも、男性はすぐさま踏み込んできて袈裟斬りを放ってきました。
私はそれは横に半歩ズレることで避け、その次の瞬間に左手の短銃から弾丸をその頭部へと放ちますが、それは頭を傾げることで躱されます。
そこからも連続して斬撃などを放ってくる男性ですが、私はそれをセレネにヒットしないように気をつけつつもゆらゆらとした不規則な動きで全て紙一重で避けて弾丸をお返ししますが、やはり全て切り捨てられることでダメージにはなりません。
「くっ、本などの情報で知ってはいましたが、やはりかなりの実力者ですね….!」
「キュッ!」
セレネも私の首元に巻きつきつつも魔法を撃ちますが、それに対しても当てることが出来てないので、知っていた通りかなりの腕前のようですね。
私たちはそこからもしばらくの間攻防をしていましたが、一瞬の隙を見て放たれた左からの横薙ぎは即座に右手の長銃で頭上に逸らすことで軌道を変え、そのまま姿勢を深く沈めてから反撃として足払いを放ちましたが、それも空中に軽く跳ぶことで避けられます。
が、それは悪手です!
私はそのほんのわずかな瞬間に〈第二の時〉を男性へと放ちますが、それは狙い通りに切り捨てられました。
「動きが…?」
「〈第零・第三の時〉!」
ですが、武技の効果はしっかりと発動することで男性の動きが明らかに遅くなり、隙の出来たその瞬間にノックバック効果のある武技を放ちますが、それは見事に男性のお腹辺りへと命中して後方へと弾き飛ばします。
それを見た私は、再び自身に〈第一の時〉と〈第零・第十一の時〉の二種の加速系の武技をを撃つことで、今出せる最高の加速状態を引き出します。
「さあ、このまま吹き飛んでくださいっ!」
そして吹き飛ばされている最中である男性の背後に回り込み、そこから力一杯右足を横から薙ぎ払うかのように蹴りを放ちます。
男性はそれをなんとか左手で防御をしましたが、勢いは殺せなかったようでその勢いのままに向こう側へと飛ばされます。




