115話 無人島サバイバル13
私は手元に戻ってきた本をインベントリに仕舞い、それと交換するように取り出した黒い鍵を鍵穴に差し込むと、一箇所と同様にガチャリと軽快な音を立てて扉の鍵が開きました。
「では、行きますよ」
そう皆に聞こえるように声を出した私に向けて、各々が返事をしてくれたのを背に私は扉を開けて中に入っていきます。
中に入るとわかりましたが、ここは一箇所目とは違ってなんらかの部屋というわけではなく、大きめな図書館のような入り口となっており、ここからはたくさんの本などが存在しているのが見て取れます。
「ここは、図書館か?」
「たくさんの本があるのです」
私の後に入ってきたクオンとアリスさんもそう口にしていますが、ここの隠されたエリアは図書館みたいですね。
…流石にここにある本を全て読め、というわけではないですよね?もしそうだとしたら、本がありすぎて時間がいくらあっても足りませんが…
「…とりあえず、奥に進んでみますか」
「そうね。じゃあさっさと行くわよ、レア、アリス、それと他の四名」
そう言って私を追い越してスタスタと奥に行くネーヴェさんに慌てて私たちは着いていきますが、ネーヴェさんは私とアリスさん以外のメンバーとは特に仲良くするつもりもないようで、名前すら呼んでいないのには思わず苦笑してしまいます。
まあ私たちに対しても初めはツンツンとした態度でしたし、これがフレンドとそうではない人との差なのでしょうね。仲良くなったらそれはもう優しくしてくれますが、やはりソフィアさんの言っていた通りツンデレというやつですね!
「…何か変なことを考えていないかしら?」
「そ、そんなことはないですよ?」
な、何故バレたのです…!?
私の視線を受けてネーヴェさんはジト目でそう問いかけてきたので、思わず視線を逸らしつつ返事をしてしまいました。
ネーヴェさんはハァっと軽くため息を吐きつつも、別に怒っているわけではないようでそこまで気にしているわけではなさそうです。
怒らせてしまったかと不安そうな表情をしてしまっていた私に向けて、ネーヴェさんは別にそのくらいで怒りはしないわよ、と言葉をかけてくれたので、少しだけホッとしてしまったのは内緒です!
そんな茶番をしつつも図書館内を歩いていると、やっと本棚以外のものと人影らしきものが見えてきました。
「やっと来た?遅かったね!」
そこはソロさんの図書館と同様にテーブルと椅子が無数に置かれており、そこに存在している椅子に座った銀髪の男の子がそんな言葉と共に椅子から立ち上がり、こちらに視線を向けてきます。
その男の子は私と同じくらいであろう身長140cmで髪と同じ銀色の瞳をした、まさに美少年と呼べる子供でした。
「貴方は誰なのですか?」
私は皆を代表してその銀髪の少年にそのように問いかけてみると、少年は楽しげな様子で言葉を返してきます。
「僕は十二星座の一人、サジタリウスっていうんだ。よろしくね、お姉さんたち?」
この少年、サジタリウスくんはどうやら十二星座の一人らしく、リブラさんやカプリコーンさんと似たような存在のようですね。
というか、何故そんな特殊そうな住人であるサジタリウスくんがここにいるのでしょうか?ここはおそらくこの島に封じられている存在に関係する場所だとは思っていましたが…
「僕はこの島に封じられている存在と異邦人の把握をするため、ここにいるんだよ」
私の表情に疑問が浮かんでいたからか、サジタリウスくんは何故いるのかを答えてくれました。
なるほど……ここに封じられているという存在はファンタジアさんが監視をしていると言っていましたが、それと一緒にサジタリウスくんも関わっているみたいです。
なら、その存在についてサジタリウスくんが知っているであろうことを聞いてみますか。このイベントエリアにあった遺跡や石碑などである程度の情報は知っていますが、その者についての詳しい情報はまだですしね。
「サジタリウスくん、その封じられている者について聞いてもいいですか?」
「もちろん!そのために僕がいるんだし、聞かれないと逆に期待外れと思っちゃうよ」
…なんというか、この少年は少しだけ腹黒そうですね…?
サジタリウスくんとは初めて会ったばかりなのでまだ性格などを把握はしていませんが、それでもお腹の中は真っ黒そうと感じます。
ま、まあ封じられている者の情報はキチンと教えてくれるみたいですし、そこは気にしないでおきますか。
「えっとね、まずは封じられている者についてだけど、その存在はそこのお姉さんも知っている神様によって時空に封じられているんだ」
「私の知っている……もしかして」
「そう、その思考通りの神様だよ?」
私の言葉にサジタリウスくんはその顔に笑みを浮かべつつそう返してきました。
私の頭に浮かんだのは、私に対して加護を与えてくれ唯一の神様、クロノスさんです。サジタリウスくんもその通りと言っていますが、クロノスさんはこのイベントエリアにも関係していたのですね?
そばにいたアリスさんやクオンたちはなんのことかわからなそうな顔をしていたので、私はその神様について簡潔に説明します。
「…その前提を話したところで次にいくね?」
そして皆に向けた説明を手早く済ませた私を見て、サジタリウスくんはさらに続けて言葉を発します。
「その封じられている存在はとある神の眷属でね。その神様と一緒にこの世界、ステファルドを破壊しようとしてきたんだ」
…神様が関係していそうとは思ってましたが、改めて関係者からその情報を聞くとやはり驚きを隠せませんね。
そこからさらにサジタリウスくんが語ってくれた説明を聞く限り、思った通りこのイベントエリアだけではなく元の世界にもその神様が関わっているようで、今までにも出会った邪悪なる欠片や断片などについても関係していたようです。
ですが、続けて教えてくれたサジタリウスくんからの情報からすると、なんとその大元である神様は魂を砕かれることで倒されているようなのですでに問題はないようですけど。
…もしかしてではありますが、この神様って前にソロさんの図書館で見た絵本に書いたあった邪神と同じ人物なのでしょうか?だとするなら、今サジタリウスくんから聞いた情報や前にクロノスさんの言っていたことからして、絵本とも辻褄は合いそうではありますが…
…まあそちらに関してはこのイベントには関係してこなさそうですし、ひとまず置いておきましょう。
「それで、この島に封じられているあれについても封印がそろそろ解けると思うから、力をつける前に異邦人のみんなで対処してもらいたいんだ」
「わかりました。私たちも元よりそのつもりでしたし、任せてください!」
「それなら、是非とも任せるね」
サジタリウスくんは私の言葉に、そう言ってニコッとこちらに笑みを浮かべつつ言葉を返してくれます。
今ここで一緒に情報を聞いているアリスさんやクオンたちも、表情を見るに私と同じ意見のようですし、今更聞く必要もないですね!
「あ、それと聞きたいことがあるのですけど…」
「ん、なーに、お姉さん?」
私は話が一区切りしたタイミングでサジタリウスくんに聞きたいことがあったのを思い出し、そのことについて聞くために口を開きます。
「ワールドモンスターについて知っていることがあれば聞きたいのですけど…」
「…ワールドモンスターかぁ。…いいよ、僕が知っている範囲でなら教えてあげる」
「ありがとうございます!」
「ふふ……じゃあ僕が知っている範囲でのワールドモンスターについてだけど…」
そう前置きをしてから、サジタリウスくんは自身が知っている範囲のみではありますが、私に向けて説明をしてくれます。
「ワールドモンスターはさっきも説明した神様の魂を砕いたその拍子に、その神様の悪心……とでも言うのかな?まあとにかく、そんな感じのものがこの世界中に散らばってしまい、その力が宿った者、それがおそらくはワールドモンスターと呼ばれる存在なんだよね」
「神様の悪心が宿った存在、ですか…」
なるほど、ワールドモンスターはどういう存在であるのかについては詳しく知りませんでしたが、そのようにしてこの世界に生まれたのですね。
私がこの目で見て遭遇したのは、深森のアビシルヴァ、人業のメラスクーナ、世喰のエルドムンドの三体です。それとソロさんからは天災のゾムファレーズという名前のワールドモンスターの名前も聞いているので、知っている範囲では四体になりますね。
それらのモンスターは皆凄まじい強さを誇っていますし、唯一話すことの出来た人業のメラスクーナは自身のことを愛と審判の使徒と言ってたので、出会った時に思った通り、サジタリウスくんが教えてくれた神様の使いであるのは間違いないようです。
それにサジタリウスくんは神様の一部であろう悪心が宿った者とも言ってますし、もしかしたらワールドモンスターたちにはそれぞれ元になった神様に関係する何かを秘めているのかもしれませんね?
まあそうだとしても、ワールドモンスターの討伐を目標にするのには変わりはありませんが。
「僕が知っている情報はこのくらいだね」
っと、少しだけ考えごとに意識が向いていました。サジタリウスくんはワールドモンスターについての詳しい情報は知っていないようで少しだけ申し訳なさそうにしていますが、新たな情報を知ることが出来たので全然このくらいでもありがたいですよ!
「…他に聞きたいことたからあるかな?」
「私は他にはありませんね。…皆さんは何かありますか?」
「俺たちも特に何もないな」
「私たちもないのです!」
ここまでは私とサジタリウスくんしか言葉を発していなかったので少しだけ空気になっていた皆さんですが、私のように何か質問はないようでそのように言葉を返してきました。
「あ、そういえば忘れてた!」
「…何かあったのですか?」
ならこの辺でそろそろお暇しようと思った私でしたが、ふとあげたサジタリウスくんの言葉にそう聞いてみると、サジタリウスくんはちょっと待ってね、と言って奥に行きました。
ですが、数分も経たずに戻ってきたサジタリウスくんはその手に一冊の本を持っており、そのまま私に向けて差し出してきたのです。
「これは…?」
「この本は、時空神様からお姉さんに渡すように伝言を伝えられてたんだ。何が書いてあるかは、僕は読んだらダメと言われてたからわからないけど、何か特別なものなんじゃないかな?」
時空神様、つまりはクロノスさんからの渡し物のようですね?サジタリウスくんには読むなと言ってたようなのでどんな本かはわからないようですが、重要そうな雰囲気をこの本からは感じるので、とりあえず受け取ってインベントリに仕舞っておきましょうか。
今受け取った本を読むのは特に急いでいるわけでもないですし、イベントが終わった後にでもゆっくりと読むことにします。なんとなく重要そうに感じるのもありますが、イベント中はやらないといけないこともありますしね。
「よし、今度こそこれで終わりだね!」
本の受け取りも終わり、やり残したことがなくなったタイミングでサジタリウスくんはそう言葉を発します。
私たちも封じられた存在やワールドモンスターなど、知りたいことを知ることも出来ましたし、なかなか有意義な時間でしたね!
「それじゃあ最後に、ここにいるお姉さんたちにはこのイベント中のみ効果を発揮する加護を与えてあげる!」
その言葉を合図にサジタリウスくんは私たちに向けて右手を出してきたと思ったら、その右手からすぐさま大量の光が溢れ、そのまま私たちの身体に染み込むかのように吸収されていきました。
「これは…?」
「ふふーん、僕ご自慢の狩りの加護だよ!効果はこのイベント中のみ全てのモンスターに与えるダメージを増やす効果だから、頑張ってアレを倒してきてね!」
サジタリウスくんが手をフリフリとしたその瞬間、突然私たちの足元に魔法陣が出現した後に一気に光りだし、私たちの視界が真っ白に染まります。
「…!…元の場所に戻ってきた、のですね?」
「急に転移をさせてくるなんて性格悪いわね、あの子供?」
「ま、まあネーヴェさん、落ち着いてくださいです…!」
元の場所に戻った後、そう口を尖らせて不満をこぼすネーヴェさんにアリスさんは苦笑をしつつも宥めるかのように声をかけています。
クオンたちは今起こった突然の転移に特に不満はないようで……というか、今私たちと一緒に聞いた情報が気になりすぎてそれどころではない、といった様子ですね?
それと、戻ってきた場所のすぐそばにあった扉は一箇所目と同様に霞のようになって消えてしまったので、すでにここには存在していません。
「…レアは、神様が関係していることについて知っていたのか?」
先程のサジタリウスくんからの言葉について知りたいのか、クオンは私に対してそう問いかけてきました。
なので私は、ここ以外のイベントエリアで入手した神様に関する情報も混ぜつつ、クオンたちに向けて要点を噛み砕いて説明をします。
「…なるほど、前にファンタジアさんが言っていたこの島に封じられた者を配下に持つ存在が、今説明された神様か」
「でも、サジタリウスくん?の言ってた感じではもう倒されているみたいだよね?」
「それなら、元の世界はまだしも、このイベント中には特に関わってはこないのでしょうか?」
「まあとりあえず、今は封じられているという者に向けて準備をしないといけない感じじゃないか?」
私の説明を聞いて納得したように頷いてるクオンに、他のメンバーであるメアさん、ライトさん、ヴァンさんが続けてそう言葉を交わしています。
それとヴァンさんも言っている通り、今考えるのはすでに倒されている神様のことではなく封じられている者ですね。
「ですね、封印もそろそろ解かれてしまうとも言ってましたしね」
「それなら、俺たちはその準備も兼ねてそろそろ戻ろうかな」
「レアさん、私たちも最初の広場に戻って皆さんに情報を伝えませんか?」
「それもそうですね。すでに行かないといけない場所は行き終わりましたし、この辺で私たちも戻りますか」
クオンの後に発したアリスさんの言葉に、私は頷きつつ同意を返します。本で見た隠されたエリアは二箇所だけですし、その二つとも確認は済んでいます。
それなら、こんな大事そうな情報も得たので兄様たちやソフィアさんたちにも伝えなくてはいけませんね…!
「じゃあクオンと皆さん、私たちもそろそろ行くので、また会いましょう!」
「ああ、レアを気をつけるんだぞ」
「レアちゃん、またね!」
「またです、レアさん」
「またな、レア!」
私は次々とかけてからクオンたちからの言葉に手を振って別れを告げ、アリスさんとネーヴェさんと一緒に今いる草原から最初の広場に向かいます。
とりあえず、兄様たちにも私たちの成果を伝えないとですね!




