109話 無人島サバイバル7
「さて、教えれることはこのくらいだが、これで大丈夫か?」
「はい、詳しいことを教えてくれてありがとうございます」
「それと、邪悪の欠片の相手を頼んでしまってすまないね」
「いえ、私たちにしても放って置けることではないですし、大丈夫ですよ!」
ファンタジアさんは少しだけすまなそうにしていますが、そこまで気にしなくても大丈夫です。
私たちからすれば特殊なイベントみたいに感じれますし、楽しくもありますからね。
それに、このイベントエリア内に封じられているという存在についても知れましたし、邪悪なる欠片に関してもなんとなくは理解が出来た気がするので戦闘に関しても大丈夫でしょう。
さらに続けてファンタジアさんが教えてくれた限りでは、このイベントエリア内にはすでに邪悪なる断片という、いわゆる無限湧きの雑魚敵であるモンスターが少しずつ出現しているようです。なので、ここからはそれらの対象もしないといけないですね。
そしてこれが特に重要なのですが、私の首元に巻き付いているこの子も含めた幻獣たちがこのイベントエリア内に出現もしているみたいで、その子達をスキルがなくてもテイムすることが出来るらしいのです。
なので、ソフィアさんたちやクオン、カムイさんなどの皆さんが目の色を変えているのがわかりますが。私だってすでにクリアがいますけど欲しいですし、気持ちはわかります。
私の場合はこの子がいますけど、この子については私はどうしたら良いのでしょうか?
「それと最後に、そこの白髪の少女よ」
「あ、はい、なんですか?」
そんな思考を巡らせていると、ふとファンタジアさんから声をかけられたので、私はそれに反応します。
なにか私にあるみたいですが、なんでしょうかね?
「君はその子に好かれているみたいだし、よかったらテイムをしてみてはどうだ?」
「私なんかでいいのですか?」
「ああ、その子も気に入っているみたいだしな」
「キュッ!」
この子もファンタジアさんの言葉に同意でもするかのように鳴き声を上げましたが、私が嫌という感情は一切ないらしく私の頬に身体を擦り付けてもきているので、テイムをしても受け入れてくれそうです。
「…なら、月のように白く輝く貴方の名前は、セレネです」
「キュ!」
私の名付けを合図に、この真っ白な月のような見た目のこの子、セレネが前にクリアをテイムした時と同じようにその場から一度消え、白色のクリスタルが私のすぐ目の前に出現しました。
私はそれを、両手をくっつけてお皿のようにすることでその白色のクリスタルを受け止め、すぐにセレネを呼び出します。
「キュゥ!」
セレネは私に向けて空中をぷかぷかとしつつも擦り寄ってきて、その後に最初のように首元に優しく巻き付いてきます。
クリアとはまた別タイプのテイムモンスターではありますが、こちらもクリアと同様にとても可愛いですしどうしても頬が緩んでしまいますね…!
「レアちゃん、いいなぁ」
「こうしてみると、私も可愛い子が欲しくなるのです!」
「まあそんな簡単にテイムはできないでしょうけどね」
「レアちゃんの場合は、朝にはもう一緒でもあったしね」
ソフィアさんたちはそんな私を見てそう呟いていますが、クオンたちもそれに同意するかの如く頷いているので、私は少しだけ苦笑がこぼれます。
まあ目の前で幻獣とのテイムをしてますし、羨ましく感じるのも無理はありません。ですけど、そんな目で見つめないでください…!
「それでは、私は邪悪の欠片の本体が出てくるまでは違うところで封印の確認をしているから、一度お別れだ」
「わかりました。ファンタジアさん、情報ありがとうございました!」
「ふっ、では」
そう言ってファンタジアさんは再び光の球のような状態になり、そのまま地面の中へと染み込むかのように消えていきました。
よし、とりあえずは西の畑についてはこれで完了ですね。情報もしっかりと確認出来ましたし、ファンタジアさんという特殊そうな住人の方から詳しいことも聞きましたしね。
「レアたちは、この後はどうするんだ?」
そしてファンタジアさんを見送っていた私に向けてクオンがそう声をかけてきたので、私は少しだけ考えます。
今はまだ十時なので戻るには少し早いですけど、だからといって散策をするには時間が足りなく感じます。兄様たちにもお昼に戻ってくるように言いましたし、私たちも戻らないといけません。
「…私たちはお昼ご飯の用意をしないといけないので、一度最初の広場に戻ろうと思います」
「そうか、じゃあ今はまた別行動だな」
「そういえば、クオンたちは食事はどうしているのですか?」
私はふと疑問が湧いたのでクオンに対してそう聞いてみますが、クオンはそんな疑問に簡単に言葉を返してくれます。
「俺たちの初期の広場にはムニルがいたから、その人が皆が持ち込んだ食材でたくさん料理を作ってくれるからなんとかなっているんだ」
なるほど、確かにあの人は料理を作るのが好きなようですし、少しだけ大変かもしれませんけどやりがいはあるのかもしれませんね。
というか私のフレンドであるレーナさんやアイザさん、ヴァルトなどの生産プレイヤーとはまだここでは出会っていませんが、キチンとこのイベントエリアにはいるのかもしれませんね?
まあ特に用事もないのでいいですけど、少しだけそちらはどうなっているか気になります…!
「ということで、レアたちとは一緒に居たいが、俺たちも食材を届ける必要もあるからこの辺で行くな」
「あ、わかりました!では、次会う時までにはお互いに情報を探しておきましょうね!」
「ああ、じゃあな、レア」
「またね、レアちゃん!」
「レアさん、またです」
「またなー、レア!」
そう言ってクオンたちは最初の広場に向かうのか、この場から離れていくのを私は見送ります。
うーん、私もクオンとは一緒にいたいですが、お互いにやらないといけないことがあるので仕方ありませんね。まあ別に今生の別れというわけでもないですし、またすぐに会えるとは思いますけども。
「カムイさんと、ルベルさん…でしたっけ。お二人はどうするのですか?」
「俺たちはこのまま食材の確保をしてから、クオンと同じくムニルのところに持ち込むつもりだ」
続いて私からカムイさんたちにそう聞いてみると、そのように返ってきました。
カムイさんとルベルさんもクオンと同じ場所で始まっていたらしいですし、やることはやっぱり変わらないようです。
「では、私たちもそろそろ戻るのでまた会いましょうね!アオイさんも、お元気で!」
「ああ、レアも気をつけろよ」
「レアさん、またね!」
ルベルさんは他に人が多いからかあまり喋りはしませんでしたが、それでもカムイさんとアオイさんと同様に見送ってはくれているので嫌われているわけではないとは思います。…嫌われてませんよね?
ま、まあそれはいいですし、さっさと戻りましょうか!それとその道中でもまた畑の食材も確保しつつ、ですね!
「…よし、戻ってきましたね!」
そうして帰り道は特に何かが起きることもなく、無事に広場まで戻ってきました。
あ、でもその道中の森では、ファンタジアさんが言っていた邪悪なる断片という私の出会った獣型のモンスターと似たものと遭遇をしました。が、やはり断片というだけあって弱かったので簡単に倒せました。
そのモンスターは落とすアイテムも特になかったので、普通にめんどくさいだけの存在だとは感じましたけどね。
「じゃあ、早速手に入れてきた小麦でパンを作りますか!」
「あ、私もお手伝いするのです!」
「なら、私も手伝うわ。人手は多い方が良いでしょ?」
「それなら私も手伝うわね」
「わ、私は…」
「「「「ソフィアさんはそのまま待っていてください」」」」
「…うっす」
ソフィアさんに任せたら何があるか分かったものではないですし、少しだけ可哀想ではありますけど手伝いは断らせてもらいます。
「小麦粉と塩はこうして…」
「あ、混ぜるのは私がやるのです!」
「ならアリスさんとネーヴェさんに混ぜるのは任せますね」
「わかったわ、任せてちょうだい」
「じゃあ私とレアでどんどん焼いていくわね」
「…楽しそうだなぁ」
何やら寂しそうな独り言が聞こえてきましたが、それは置いておきます。
パンは兄様たちの分も作りますし、今たくさん仕込んでおけばしばらくの間は作る必要がなくなるので、時間が確保出来ますしね。
ソフィアさんの視線を受けつつも四人で作り続け、そうこうしているうちにたくさんのパンが焼き上がって完成しました。
「…ちょっと多かったですかね?」
「まあ多くて困ることはないですし、大丈夫ですよ!」
私がそう呟いてしまうくらいには大量に出来ましたが、アリスさんの言う通り多くてもインベントリに仕舞えば腐ることもないので大丈夫でしょう。
それに食べる人も意外と多いですし、少ないよりかは遥かにマシでもありますか。
「戻ったぞ」
「あ、みなさん!おかえりなさいです!」
そんな風な言葉を交わしつつも出来上がった大量のパンをインベントリに仕舞っていると、そのような兄様の声と共に北の山に行っていたメンバーが帰ってきました。
兄様たちの様子を見る限り、特に何か弊害があったりはしていなかったようですね。
「兄様、北の山はどんな感じでしたか?」
「そうだな、昨日に見つけていた洞窟を進んでいたんだが、まだ完全には探索しきれてはいないから午後からも行くつもりだ」
ふむふむ、まだ散策は完了してないみたいですね。北の山が大きいだけあって洞窟の中も大きいのでしょう。
まあ午前よりかは午後の方が時間を取れるとは思いますし、今日の内には探索を済ませられるとは思うので順調ではありそうですかね?
「なら、早めにご飯にしちゃいますか。今準備しますね」
「頼む。あ、あと道中で取れた食材を渡すな」
「ありがとうございます、兄様」
兄様から食材である鶏肉や卵、鹿肉などをもらいましたが、これは夜にでも使いましょうか。
なので今は主食であるパンはすでに作り終わっていますし、今日のお昼はサンドイッチにしましょう。挟む具材は畑で取れたトマトとレタス、そしてベーコン代わりの薄く切った豚肉ですね。
ついでに兄様が取ってきてくれた卵は、持っている調味料も使って今マヨネーズにしちゃいますか。
「ふんふーん」
機嫌良さそうに鼻歌を歌いつつも手早く工程を進めていき、作るのは簡単なのですぐに出来上がりました。…まあマヨネーズは大変なので少しだけアリスさんに手伝ってもらいましたが。
「皆さん、出来ましたよ!」
「お、出来たか」
そんな思考をしつつも私は出来上がったサンドイッチを皆さんがいるテーブルまで持っていき、その上に置いていきます。
そして準備も終わったので、私たちは皆でいただきますといって食べ始めます。
うんうん、特に失敗もなく普通に美味しく出来てますね。でもパンがイーストなどがなかったせいで膨らんではいないのでちょっと硬めなのが気になりますが、まあ別に不味くはないので大丈夫でしょうかね?
未だに私の首元にいるセレネにも作ったサンドイッチを私の手で食べさせていますが、どうやらセレネも美味しいようでパクパクと食べてくれるのでとても可愛いです!
「レアさんの料理はいつ食べても美味しいのです!」
「そうね、やっぱりいつもしているだけはあるわね」
「このくらいならアリスさんたちでも簡単に作れますよ」
「それでも、作ってもらえるのはありがたいから感謝はさせてもらうわ」
「ほんとほんと、レアちゃんには感謝しきれないよ!」
セレネと一緒にサンドイッチを食べているとアリスさんたちはそう言葉をかけてきたので、それを聞いて私は笑みがこぼれてしまいます。好きで作っているとはいえ、感謝されるのは嬉しく感じますしね!
「ただいまー!あ、もうご飯食べてる!」
「る、ルミナリア、少しは落ち着いて…!」
「あ、ルミナリアにマキさん、おかえりなさいです」
「ただいま、レア!はいこれ、取ってきたお肉たちだよ!」
そんなもぐもぐとサンドイッチを食べている最中にルミナリアたちが帰ってきて、すぐさま私の元へと来たと思ったら、これまた素早くお肉を渡してきました。
ルミナリアが渡してきたお肉は兎や豚、牛などの肉が主で、量についても結構あるのでとてもありがたいですね。
「ありがとうございます、ルミナリア。では二人の分のお昼も今用意しますね」
「お願い!」
「ごめんね、レアちゃん。お願いするね?」
まあ用意といっても、すでに出来上がっているものをインベントリから取り出すだけなので手間はかかりませんけどね。
「はい、今日はサンドイッチです」
「んふー、いただきます!」
そう言って、早速とばかりにサンドイッチにハムッとかぶりつくルミナリアを見て私は少しだけ苦笑してしまいますが、それでも美味しそうに食べてくれるので作り手としては嬉しいですね!
マキさんはルミナリアよりも落ち着いた様子で食べていますし、この食べ方の差ですよ。
…まあそれはいいとして、とりあえず私も自分の分を食べちゃいましょうか。
「いやー、美味しかったよ、レア!」
「うまかったぜ、レアちゃん!」
「ふふっ、お粗末様です」
そこから私も含めた皆はサンドイッチをすぐに食べ終わり、今は食後の休憩中です。
ここはゲーム世界だからか片付けもすぐに終わりますし、【生活魔法】の〈洗浄〉を使えば汚れもすぐになくせるので本当に楽ですね。この魔法、現実世界て欲しくなります…!
「俺たちは午後はもう一度北の洞窟に向かうが、レアはどうするんだ?」
「私ですか?そうですね…」
兄様たちはご飯前に言ってた通りの行動をするみたいですが、私はどうしましょうか。
やらないといけないことは、とりあえずはソフィアさんが見た南の海の底にあるという石碑の確認くらいですね。
まだ三日目なので別にすぐにやらないといけないわけではないですが、早めに情報を知っておいた方が良い気もするのでそちらに向かうことにします。
「…私は南の海にあったという石碑の確認に行こうと思います」
「海に石碑か?」
「あ、言ってませんでしたね。実は…」
そういえば兄様たちにはこのことを教えていなかったので、いいタイミングなのでソフィアさんから聞いたことをそのまま伝えます。
「なるほど、海の底か」
「レアちゃん、大丈夫なの?」
「はい。私は低いとはいえ【水泳】スキルを持っているので、おそらくは見に行くくらいなら問題ないかと」
本格的に海の中で動くというわけでもないとは思いますが、今までに出会ってきたモンスターから考えるに海の場合も出てくる気がするので、少しだけ心配な気持ちが出てきます。
もしモンスターが出てきたとしたら、海の中とはいえしっかりと倒す必要がありますけども……まあその時はその時ですね。
「それじゃあ、俺たちはそろそろ行くな」
「あ、わかりました!気をつけていってらっしゃいです!」
「レアちゃんも、気をつけるんだよ!」
兄様たちはそう言ってこの広場から北の山へと向かっていくので、私はそれを見送ります。




