107話 無人島サバイバル5
「んー!こうして皆で食べると一段と美味しく感じるね!」
「そうね、今までキャンプとかもしたことがなかったけど、こんな感じなのかしら」
「確かに美味しいわね。これなら現実でするのも悪くないかもね」
「この焼きとうもろこしも最高ですね!」
「私もキャンプはしたことがありませんでしたが、意外と上手く作れたようでよかったです!…あ、アリスさん、とうもろこしだけではなく他の野菜も食べなきゃダメですよ!」
そうして兄様たちが帰ってくる前に、コンロの上に載せていたお肉や野菜などが焼き上がり、私たちは先に食べています。
どうも、レアです。今の時刻はすでに六時半を少し過ぎたくらいで、夜ご飯として皆でバーベキューをしています。
兄様たちを待った方が良いのかもしれませんが、いつ帰ってくるかもわからないうえに、皆がお腹を空かせてもいるので先に食べているのです。それに今私たちが食べる分しか焼いていないので冷めることもありませんし、別にいいですよね。
それと全員で同時に食べ始めたら、コンロが足りなくなってしまいもするのでこれが一番良いはずです。
それにしても、こうして皆でワイワイとしながらご飯を食べるなんて経験はそこまでないので、すごく楽しいですし嬉しくも感じます!
「あ、皆さん、お腹いっぱいまで食べるのは少しだけ待っていてくださいね。今ローストチキンの仕込みをしているので」
「そういえばそれも作っていたね!なら、食べるのはこのくらいにして私は一度休憩としようかな」
「ソフィアが休憩するなら、私もそうしようかしら」
私の言葉にソフィアさんとリンさんは一旦食べる手を止め、立ち食いスタイルだった状態から椅子に座ってのんびりとし始めます。
それを見た私たちも食べるのを止めてから、ソフィアさんたちと同様に椅子に座ります。
ちなみにコンロはそのままなので、触れると火傷をしてしまいますし少しだけ離れた位置で、ですけどね。
「レアちゃんたちは明日はどうする予定なの?」
そのタイミングでソフィアさんからそう問いかけられたので、私たちはやろうと思っていることをそれぞれ答えます。
「私は、ソフィアさんが言っていた海の底にあるという石碑でも確認してこようかな、と思ってました」
「私とネーヴェさんは、また二人でソフィアさんたちの言っていた西の畑の確認でもしてこようかなと思っていました!」
「あ、ならまた私たちも確認にいくし、ついでに一緒にいかない?」
「いいですね、ぜひお願いするのです!」
アリスさんとネーヴェさんはこのイベントの内に本当に仲良くなっているみたいですね。
それにそこにソフィアさんとリンさんも一緒に行くみたいですが、対して私は一人なのが少しだけ寂しく感じてしまいます。
「…レアも海の散策は後でにして、明日は私たちと畑を調べにいかないかしら?」
「…じゃあ、一緒にいいですか?」
「もちろん大丈夫よ。ならそうしましょうか」
寂しさが顔に出ていたのか、私を気遣うかのようにネーヴェさんが声をかけてくれたので私がそう返すと、ネーヴェさんは快く了承をしてくれました。私も連れて行ってくれるなんて、なんと嬉しいのでしょう!
そんな私の様子を見てアリスさんたちは微笑ましそうに笑っていますが、仕方ありません。だ、だってひとりぼっちは寂しいですからね!
「着いたぞ」
「へ〜、ここがレアの拠点かぁ」
「な、なんかすごい建物がありますね…?」
そこからも女性五人でたわいない会話をしていると、何やら兄様らしき男性や声と私の知っている女性の声がこちらへ聞こえてきました。
その声のした方に私たちは視線を向けると、そこには兄様とそのパーティメンバーの皆さんに、私のフレンドであるルミナリアとマキさんがこちらに歩いてくるところでした。
「ルミナリア!それにマキさんも!」
「はーい、レア!久しぶりだねー!」
「レアちゃん、お久しぶり!」
兄様は何故かこの二人もここへ連れてきましたが、北の山の攻略中にでも出会ったのでしょうか?
別に連れてくるのがダメというわけではないですし、私もまた二人に会えたのは嬉しいですが、少しだけ疑問が湧きます。
「実は、北の山からの帰り道の時に行き倒れていたこの二人を見つけてな。それで連れてきたんだ」
「なるほど、だからですか」
続けて兄様が教えてくれた感じからすると、ルミナリアとマキさんも最初の兄様たちのように食材を集めるのに苦戦したようだったのです。
それでも、なんとか少しだけ集まった果物や果実をしばらくは食べていたらしいのですが、二日目である今日の夜までにすでに安全な食べ物はなくなっていたようでした。
それで毒を覚悟して食べるとそれは麻痺の効果だったらしく、それで二人して森の中で倒れていたところを兄様たちが偶然出くわした、ということでした。
いや、兄様たちもそうでしたが、二人も毒を覚悟して食べるなんてとんでもないことをしていますね?まあ食べないと死んでしまうという状況ならわからなくもないですが……それでも度胸がありますね…
「ということで、レア、私たちにもご飯を作ってくれないかな?」
「レアちゃん、お願いしてもいいかな?」
「……はぁ、まあいいですよ。どうせ二人くらいならそこまで手間がかかるわけでもないですしね。ですが、明日からはルミナリアたちにもしっかりと食材の調達をしてもらいますよ!」
「だいじょーぶ!それくらいは当然だからね!」
「私も出来る限りは集めるよ!」
今日はもう暗くなって遅い時間なので今から調達は出来ませんけど、全員の夜ご飯分は大丈夫でしょう。
なら、私たちはすでに食べ終わっていますし、いつのまにか消えていた火をもう一度つけて、コンロでバーベキューにさせてもらいましょうか!
「やっぱりレアの料理は上手くてドンドン食べてしまうな」
「レアちゃんの手料理…!まあバーベキューだけど」
「…上手いな」
「こうして皆で食べると、さらに美味しく感じるわね!」
「それにこのお肉と野菜だよ!味も濃厚だし、焼き加減も絶妙ですごく美味しい!」
兄様たちはそれぞれそう感想をこぼしていますが、それは私たちも同意します。
サレナさんの口にした通りここで取れた野菜はどれも瑞々しくて美味しいですし、お肉についてもどれも油が程よく乗っているおかげで全然飽きがきません。
「うまうま…」
「ほんと、美味しいね…!」
ルミナリアとマキさんもそう呟きつつ黙々と食べていますが、ルミナリアは声を出すのすらやめて遠慮せずにドンドン食べていっているので、私は思わず顔に苦笑の表情を浮かべてしまいます。
まあルミナリアも美味しいからバクバク食べているのでしょうが、少しは遠慮というものを覚えてほしいです。
ですが、こうして美味しそうに食べてくれると嬉しくも感じますし、今日くらいは見逃すとしましょう。
それと今更ですが、実はコンロで焼いているのは私だけではありません。なんとルミナリアたちもこのイベントエリア内にいるモンスターからコンロを一つ確保していたようで、それを私に渡してきたのです。
ですので、一台を私とリンさんが、もう一台をネーヴェさんとアリスさんに手伝ってもらってたくさん焼いています。
…ソフィアさんですか?ソフィアさんは焼くのを任せると危ない様子だったので、今はそばで寂しそうにして待機しています。
だってソフィアさんったら、火をつけて焼こうとしたらそのままお肉を一瞬で炭にしたのです。そんなのを見たら危なさ過ぎて任せられませんよ。
「あ、そういえばローストチキンも焼いていましたね。リンさん、少しこちらは任せてもいいですか?」
「大丈夫よ。いってらっしゃい」
その言葉を聞き、私は一度コンロの前から離れて丸鶏を焼いている焚き火のそばへと向かいます。
すでに時刻は七時より少し前くらいですし、そろそろ良さそうとは思うので、まずは私は落ちていた木の枝でダッチオーブンの上に乗せていた炭となっている木々を避けます。
そしてダッチオーブンとセットになっていた、リフターと呼ばれる熱くなったダッチオーブンのフタを安全に持ち上げたり、動かしたりするための道具を使って先に火元から離して安全な場所に移動させ、ワクワクを隠さずにそのまま蓋も開けて中を確認します。
「おおー!すごく美味しそうに焼けましたねっ!」
中はこんがりといい色に焼き上がり、とても美味しそうな匂いを辺りに漂わせる丸鶏と、鶏肉のうまみなどを吸い込んだのかこちらも同様に美味しそうな野菜たちがありました。
アリスさんからもらっていた串で軽く刺してみた感じ、透明な汁が出てきたので焼き加減も問題ないはずです。
「凄く美味しそうな匂いがする!」
「本当ですね!」
私が出来たと皆に知らせようとしたタイミングで、背後からルミナリアとアリスさんの声が聞こえたのですぐに振り向くと、そこにはアリスさんとルミナリアだけではなく皆さんが食べたそうに近くに立っていました。
「…出来ましたし、皆さん食べますか?」
『食べる!』
皆さんからの視線を受け、私は少しだけ苦笑しつつもそう言葉をかけると、皆さんそう返してきました。なら、出来上がったばかりですし、早速食べちゃいましょうか。
「ハフハフ、おいしー!」
「本当なのです!熱々ですが、ジューシーなのです!」
「…外はパリパリ、中はふっくらで絶品ね」
「こんなものも作れるなんて、やっぱりレアは凄いな」
皆が思い思いにそう言葉にしていますが、表情からしても上手く出来ているようで美味しそうに食べてくれています。
皆で分けたので一人当たりの量は少なくなってしまっていますが、それでも丸鶏は大きめだったので十分な量はありますね。
っと、そんな思考をしてないで私も食べちゃいましょうか。冷めてしまっては勿体無いですしね。
「…うんうん、肉の油もしっかりとあり、パリパリの食感も合わさってかなり美味しいですね…!」
ダッチオーブンで作ったのは初めてでしたが、これは皆の反応通りかなりの出来栄えです!それに野菜もしっかりと油を吸っていてとても美味です!
そうして私も含めた皆さんはすぐに食べ終わったので、私はもう何個か用意していた仕込みを済ませているローストチキンを再び最初と同様にじっくり一時間ほど火をつけた焚き火の上に置き、蓋の上にも火のついた木々を置くことで焼いておきます。
それと兄様たちが二つ目のダッチオーブンを持ってきたので、そちらも使って同時に二個焼いていますよ。
今日はもう食べませんが、何個か用意しておけばまた明日にでも食べれるので仕込んでいたお肉を焼いているのです。まあそれでも仕込んだのは時間もあるのでこれ含めて二つだけなので、たくさんは作りませんけどね。
「そういえば兄様、北の山はどんな感じだったのですか?」
作った料理もあらかた食べ終わり、ローストチキンの仕込みも済ませた私はふと気になったことを兄様へと聞いてみました。
「そうだな、北の山は結構な大きさがあるようで、かなり探索甲斐があった感じだな。それと帰る少し前くらいの時に山の中腹で洞窟らしきものを見つけたから、明日はそこの探索に行くつもりだ」
洞窟、ですか。そんないかにもな場所があるのなら、そこに間違いなく私が見つけてきたのと同じ情報の手がかりがありそうですね。
明日にまたそこに行くみたいですし、ちょうどいいのでこのことについても皆さんに説明しておきましょう。
「……なるほど、封じられた存在の情報か」
「東西南北にあるのなら、確かにレアちゃんの予想通そこにありそうだな!」
「レアの思考通りだとしたら、情報の手がかりは洞窟の奥だろうな」
「それなら、散策するつもりだったしちょうどいいわね」
「だね!なら北の山はあたしたちに任せておいて!」
兄様とそのパーティメンバーの皆さんも私からの情報を聞いき、少しだけ探索意欲が高まっているの感じれます。
兄様たちもこう言っていますし、北の山については全部お任せしちゃいますか。
「そんな情報があるなんて、よく知れたね?」
「東の森の散策をしてたら運良く発見しただけですし、たまたまですよ」
「それでも、レアちゃんなら何かを引き寄せは力があるのかもね!」
うーん、マキさんの言った通りそれらしきものは持っていますが、それだからといって何でもかんでも出会うというわけではないでしょうし、本当に運がいいだけな気もしますけどね…?
「…あ、兄様たちは北の山に行きますが、ルミナリアとマキさんは明日はどうする予定なのですか?」
「明日の予定?んー、それなら私たちは今日食べた食材の確保にでも動こうかな?マキもそれでいいでしょ?」
「そうだね、森の中の果物や木の実はともかく、お肉くらいなら私たちでも集めれそうだし、それがいいかも!」
「なら、ここから南にある草原に兎や豚などを発見しましたし、そこで狩ってくるとよいですよ」
「わかった!なら明日はそこにでも行ってくるね!」
ルミナリアとマキさんも二人でお肉の確保に動いてくれるみたいですし、これなら人数が多くても少しはなんとかなりそう……でしょうか?
まあそれだけだと間違いなく足りなくなるとは思いますし、山の道中にでも兄様にもお肉を取ってきてもらいますか。それと私たちは西の畑に行きますし、ついでにそこで食材の確保もですね。
「…そろそろいい時間だし、この辺で私はもう寝てくるわ」
「あ、もうそんな時間でしたか」
そうこうして皆で談笑を続けていると、ネーヴェさんの発した言葉に腰元の懐中時計を私は確認します。すると、すでに今の時刻は八時になるところでした。
やはり皆で会話をしたりとしていると時間が早く感じてしまいますね。それともうそのくらいの時間なら、私も作っていたローストチキンを回収してから寝ちゃいましょうかね。
「…そういえばアリスちゃん、ゼロさんたちの後に二人も増えたけど、寝る部屋は大丈夫なの?」
「ふっふっふ、こんなこともあろうかと思って部屋を多く作っていたのです!」
ソフィアさんの心配そうな声にアリスさんは自信満々な表情でそう答えます。それなら特に問題はなさそうですし、皆でゆっくりと寝られそうですね?
「俺とセント、ジンの三人で一応夜番をしておくから、レアたち女性陣はゆっくりと寝てていいからな」
「別に見張りはなくても大丈夫じゃないですか?」
「モンスターは入ってこれないが、プレイヤーはいるからな」
「それにレアちゃんも含めてみんな可愛くて魅力的だから、これは必要だと思うぞ!」
「今はもう人数も多いし、念の為な」
兄様たちは私の疑問にそう返してくれましたが、そこまで警戒する程なのでしょうか…?
自分から進んでやってくれるみたいですし、別にダメではないので構いませんけど、少しだけ心配になってしまいます。
まあ兄様たちの意思は固いようですし、素直に感謝をして任せるとしますか。
「…なら、私たちは先に寝ていますね」
「了解、おやすみだ、レア」
私は焼き上がっていたローストチキンを一度インベントリに仕舞ってから、女性陣の皆でそれぞれコテージの部屋に向かい就寝とします。




