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104話 無人島サバイバル2

「…あら、レアはもう降りてきていたのね?」

「あ、ネーヴェさん。おはようございます」


 一階に存在する椅子に座りながら、両手でコップを持ちつつちびちびとお茶を飲んでいると、そのような声と共に階段の方からネーヴェさんが降りてきました。


 私が起きたのは六時で早かったですが、ネーヴェさんはそこから少し経った六時半前に降りてきましたし、意外と早いですね?


「朝ごはんは簡潔に果物でもいいですか?」

「構わないわ」


 ネーヴェさんにも特に不満はないようですし、とりあえず確保してきた果物を何個か渡して、私も起きてから口にしたのはお茶だけなので、ついでに食べておきましょうか。満腹度の回復もしないといけないですからね。


「…お茶なんてあったのかしら?」

「…昨日森の散策をしていた時に少しだけ採取しておいたのですよ。ネーヴェさんも飲みますか?」

「…そうね、ならいただこうかしら」


 ネーヴェさんの分のお茶もパパッと作って手渡すと、ネーヴェさんはお茶の入っているコップを片手で掴み、そのまま私と同じように少しずつ口にして飲んでいきます。


「…意外と悪くないわね」

「それならよかったです」


 ネーヴェさんも朝から温かいお茶を飲んでホッとしているようで、感想も素直ではありませんが、悪くなさそうな表情をしています。


 そこから特に会話はしてませんが、私が渡した果物も互いに食べつつもほのぼのとした空気が流れており、なんとなく落ち着く雰囲気ですね。


「お、レアちゃんとネーヴェはもう降りてきてたんだね!おはよー!」

「ソフィアさんもおはようございます」

「…朝っぱらから元気ね」

「ふっふっふ、それが私の取り柄だしねー!」


 ソフィアさんの元気溌剌とした声で先程まで漂っていた落ち着く空気はぶち壊されましたが、それでもソフィアさんの元気さがこちらまで伝わってくるので、こちらも悪くはありません。


 私はソフィアさんにもお茶と朝ごはんである数個の果物を渡すと、ソフィアさんはそれを受け取ってパパッと飲食を済ませます。


 粗雑というわけではありませんけど、もう少し落ち着いた行動をした方が良いとは思いますが……まあソフィアさんはその元気さが売りですし、別に食べ方とか所作が汚いわけでないので気にしなくても大丈夫ですね。


「ご馳走様でしたっと。さて、レアちゃんとネーヴェは今日は何をする予定なの?」


 そして手早に食事を済ませたソフィアさんは私たちへとそのように聞いてきたので、私たちはそれに対して素直に答えます。


「私はとりあえず、ソフィアさんが見たという海まで行って塩でも取ってこようかなと思ってました」

「私はこのイベントエリア内の散策でもしてこようかしら?」

「あ、なら私の作ったマップを二人にも分けておくね!」


 そう言ってソフィアさんはマップ情報を共有してくれたので、私の分も合わせてマップを更新しました。


 すると、私たちのいる場所はどうやら南方面のようで、ここから結構南に行くとソフィアさんが言っていた通り海が広がっており、私が歩いた森は北東辺りのようでした。


 なので今のマップは南の海までの道中と北東から東、南東辺りがわかっている範囲らしいですね。


「マップを見るに北と西はまだのようだし、私は北にでも行ってこようかしら」

「じゃあ私は西にでも行こうかな〜」


 ネーヴェさんたちはまだ行っていない場所に行きたそうにしてますし、そちらは任せるとしましょうか。


「…あ、皆さんもう起きていたのですね」

「アリスさん、おはようございます」

「アリスちゃんもおはよー」

「おはようアリス」


 そう話し合っているとアリスさんも一階まで降りてきたので、ソフィアさんたちと同様に私は朝ごはんである果物とお茶をすぐさま用意して手渡します。


「アリスさんは今日はどうしますか?」

「…んむ、そうですね、私もレアさんたちと同じようにこのイベントエリアの散策をしたいのです!」


 朝ごはんを飲み込んだアリスさんは私の言葉にそう返してくれました。


 アリスさんも散策をしたいようですし、それならソフィアさんかネーヴェさんと一緒に行くのが良いですかね?


 東の森のしっかりとした散策もまだですが、それでもある程度はすでにわかっているので新しいところの方がアリスさんもいいとは思いますしね。


「ならアリス、今日は私と一緒に北に行かないかしら?」

「あ、よければご一緒してもいいですか?」

「構わないわ。じゃあそうしましょうか」


 なんだか、アリスさんとネーヴェさんが少しだけ仲良くなっているようにみえますね?


 一日目の時に一緒に家でも作っていたので、それででしょうか。


「よし、今日のやることも決まったし、早速行動に移ろうか!」

「ですね!あ、それと今日のお昼ご飯の時にはまたここに戻って来てもらってもいいですか?」


 今の時刻は七時と少しくらいなので、お昼くらいの時間まではに塩の確保も済んでいると思います。


 それならば昨日の夜ご飯とは違って塩なども使って美味しくは出来る思いますし、今のお昼用に果物を渡したりするよりはそちらの方が良いでしょう。


 それに一度進捗情報も聞きたいですしね。


「わかった!じゃあまたお昼にここで会おうね!」

「私も問題ないわ」

「レアさん、その時までにエリアの情報を調べておくのです!」

「はい、では」


 そう言葉を交わした後に、私たちはそれぞれの行動に移ります。




「…よし、海に着きましたね」


 そして私はソフィアさんからもらったマップの情報を頼りに広場から南の森を進んでいき、少し歩くとすぐに森を抜けてその先にも広がっていた草原も超え、海まで到着しました。


 ついでに草原などにソフィアさんが可能に狩ってきたと思われるや兎や豚、鶏などを発見しましたが、今は特に食料に困ってはいないのでスルーします。


 あ、でも森の中を進んでいる時に発見した果物はしっかりと採取しておきましたよ!こちらは、私的にお肉とかよりはたくさん集めておきたいですしね!


 それと今は狩りませんでしたが、森の中には一日目とは違って虫や獣系のモンスターもいたので、それらは気配を殺すことで避けて移動をしてました。


「まあそれはいいとして、早速海水から幸塩を作りますか」


 確か、海水をフィルターで濾過をして煮詰める、でしたっけ。


 フィルターはちょうどよく調理セットにも付いていましたし、これを使えばよいですね。


「では、早速やるとしますか!」


 そうして午前中の時間を余すことなく使い、海水から結構な量の塩をつくりました。


「ふぅ、とりあえずこのくらいあればしばらくは大丈夫でしょう」


 区切りのいいところで腰元の懐中時計で時間を確認すると、すでに十時半近くになっていました。


 意外と塩を作るのに夢中になっていたせいで時間が経ってしまっていましたね。なら、そろそろコテージまで戻ってお昼ご飯の用意をしちゃいますか。


 私はそう決めて使った道具たちを全てインベントリに仕舞い、海辺から離れて少しだけ駆け足でコテージのある広場まで戻ります。


 その道中では草原にいる動物系モンスターなどを狩っているプレイヤーたちを見かけましたが、話しかけられたりもしなかったので特に問題もなく戻ってきました。


「…アリスさんたちはまだのようですし、先に塩を使った調理に取り掛かりますか」


 私は草原を歩き、森にいたモンスターも避けつつ移動して広場まで戻り次第、すぐに調理セットを取り出してお昼ご飯の用意を開始します。


 今日のお昼ご飯は塩が手に入りましたし、とりあえずは豪勢にステーキにでもしましょうかね?それと魚を見た時から作りたかった塩焼きも作ってみますか。


「ふんふーん」


 特にプレイヤーの人影がない広場で私は鼻歌を歌いつつ、調理セットで牛肉のステーキを作っていき、それと同時に周りに落ちていた枯れ枝や葉っぱを集めて焚き火を作り、魚のワタとエラなどをしっかりと処理してから塩をたっぷりと塗り、その焚き火で焼き始めます。


「あら、いい匂いがするわね?」

「レアさーん!戻ったのです!」

「ネーヴェさんとアリスさん!おかえりなさいです!」


 焼き終わったステーキをインベントリに仕舞い、魚の塩焼きももう少しで焼き終わりそうなタイミングでネーヴェさんとアリスさんの声が聞こえたので、二人が戻ってきたのがわかりました。


「お二人の成果はどんな感じでしたか?」

「そうね、こんなものが手に入ったわ」


 そう言ってネーヴェさんと、それに続くようにアリスさんがインベントリから取り出して私へと見せてきたのは、なんとバーベキュー用らしきコンロとダッチオーブンという分厚い金属製の蓋つき鍋、燻製機などでした。


「ど、どこでこんなものを手に入れたのですか?」

「それはですね、なんか出会ったモンスターたちをたくさん倒していたら、その数体がドロップアイテムとして落としたのですよ!」


 なるほど、モンスターからのドロップアイテムですか。


 普通のモンスターはまず落とさないとは思いますが、このイベントエリアではごく稀にこうした調理道具をドロップするようですね。


 それなら、私のように調理セットを持ち込んでいない【料理】スキルを持ちプレイヤーがいたとしても、こうして道具を手入れることが出来たのなら使えますし、なかなかありがたくは感じますね。


 森の中の植生には殺意しか感じませんでしたが、さすがにプレイヤーたちのことを少しは考えてくれているみたいです。


 まああのような毒物だけだと、鑑定も料理も出来ないプレイヤーだとすぐに死んでしまう可能性が高いので、これくらはしてくれないとですけど。


「なら、今日はもう料理は作り終わりますし、夜にでもそれを使ってみますか」

「わかったわ。それと、夜の時は私も出来る限り手伝うわ」

「了解です、ならその時にやりましょうか」


 ネーヴェさんが口にした通り、今日の夜に料理の手伝いをしてくれるようです。それなら、ぜひお願いするとしましょう。


 ネーヴェさんは料理をしたことがないようですが、まあ私がしっかりと教えれば多分大丈夫ですよね。


「じゃあソフィアさんはまだ来てませんが、先にご飯の用意をしますね」

「わかったわ」

「あ、私も手伝うのです!」

「ありがとうございます。なら、そちらのステーキのお皿をお願いします」


 手伝いをしてくれたアリスさんと共に外に置かれているテーブルの元へと料理を運び、そのままテーブルの上に並べていきます。


「着いたよ!」

「ここか……って、なんだ、あのコテージみたいなの?」

「なんか凄いものが立っているわね…?」


 そうしてご飯の用意も済んだので早速食べようとしたタイミングで、そのような話し声が聞こえてきたのでそちらに3人で視線を向けると、そこにはソフィアさんとその隣にいる女性プレイヤー、そして兄様パーティの五人がここの広場に入ってきているところでした。


「ソフィアさん、戻ってきたのですね」

「あ、レアちゃん!お待たせー!ちょっと知り合いが困っていそうだったから連れてきたのだけど、大丈夫だった?」

「私は特に問題はありませんが……困っていたとは何かあったのですか?」

「それはね…」


 そう言ってソフィアさんが口にして教えてくれた情報を聞いた感じ、どうやらソフィアさんのフレンドらしき女性プレイヤーであるリンさんと、兄様パーティの皆さんが食べ物などに困っていたようで、それならばと私たちの元へと連れてきた、というわけらしいです。


 ふむふむ、食べ物ですか。確かに、このイベントエリアの食べ物はかなり殺意が高いので迂闊に食べられませんしね。


 ソフィアさんが連れてきた六人はどうやらこの広場とは違う場所である北東の平原で開始されたらしく、料理を出来る人もパーティ内にいなかったようで昨日は状態異常覚悟で果物や木の実などを食べていたみたいです。


 うーん、人数が多すぎるわけでもないので今日のお昼と夜分は多分大丈夫ですが、これだけの人数の料理を作るとすぐに食材が枯渇してしまうでしょうし、兄様たちにもきちんと食材の確保をしてきてもらい、その代わりとして私が料理を渡す感じが良いですかね?


「だからレア、俺たちの分も頼ませてもらってもいいか?」

「…まあいいですよ。ですが、兄様たちにもしっかりと食材を確保してきたもらいますからね!」

「それは任せてくれ。森の中の果物や木の実などは無理だが、肉くらいなら大丈夫だ。あ、それとこんなものを手に入れたから渡すな」


 続けてそう言ったと思ったら、兄様は何やら粉みたいなものや液体などが色々と入っているケースを渡してきました。


「これはなんですか?」

「確か、調味料セットって書いてあったぞ」


 おー!調味料セットですか!私は兄様の言葉を聞いて即座にそれを鑑定してみた感じ、このケースに入っている調味料は私が時間をかけて手に入れた塩は当然として、さらに砂糖、酢、醤油、味噌などの五大基本調味料や、胡椒やスパイスなどといったかなりの種類の調味料が入っているみたいです。


 しかもそれらはこのイベント内でしか使えないみたいですが、いくら使っても無くならないという性質を持っているようなので、かなり便利ですね!


 これなら調味料の量などを気にせず使えますし、確保するのは食材系のみで良さそうです!


「兄様、ありがとうございます!」

「それは俺たちの方こそだ」

「じゃあ兄様たちの分も早速準備するので、少しだけ待っていてください!」

「ああ、そこまで急がなくても大丈夫だからな」


 私はそのような声を背に受けつつも、兄様からもらった調味料を早速使ってすでに持っている食材であるお肉を焼いたステーキと、作る量をさらに増やした魚の塩焼きを作り始めます。


 ステーキについては、調味料がたくさんありますし醤油をベースとしたソースで仕上げましょう。


 あ、先にソフィアさんたちの分を置いてましたし、それらは先に食べてもらいますか。


 それとネーヴェさんが少しは手伝うわ、と言って一緒にステーキを焼いてくれており、ソフィアさんのフレンドらしいリンさんという女性のプレイヤーの方も手伝ってくれたので、魚の塩焼きも含めて用意はすぐ終わりました。


 そして出来上がったそれらをアリスさんがいつのまにか出してくれていたテーブルの上に置き、皆で食べ始めます。


「んー!魚の塩焼きもちょうどいい塩加減と焼き加減で美味しいねー」

「…これは、美味しいわね」

「そうね、レアの作ったのは前に現実世界のレストランで食べたステーキにも劣らないわ。材料も少ないのにここまで出来るなんて、やっぱりレアは凄いわね?」

「レアさんは料理が上手なのですね!」

「ふふ、ありがとうございます。そういうネーヴェさんの作ったものもとても美味しいですよ!」


 ソフィアさん、リンさん、ネーヴェさん、アリスさんの感想を聞いて私はご機嫌になりつつも、ステーキと魚の塩焼きをパクパクと食べ進めます。


 うんうん、ネーヴェさんの口にした通り材料が少ないので本格的には作れてませんが、意外といけますね!それに魚をシンプルですが上手くできています!


「…こんな美味いものをいつも食べているなんて、ゼロは羨ましいぜ!」

「本当ね。一緒に過ごしてもいるみたいだし、私もレアちゃんみたいな妹が欲しかったわ!」

「あたしも同感ー!」

「確かに、レアは可愛いからそう思うのは無理はないな」

「まあ、兄弟だからな」


 アリスさんが隣に出したテーブルで食べながら何やら話している兄様たちですが、何を話しているのでしょうか?


 それにしても、兄様たちとこんなすぐに出会うとは思いませんでしたね。しかもその原因が食べ物ということですし、やはり【料理】スキルを持っていないとこうしたサバイバルでは大変なのですね。


 兄様たちを見て思いましたが、もしかしたらクオンパーティも食べ物に困ったらしてたりするのでしょうか?だとするなら、早めに会えるように探すのもアリですね。

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