表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/194

第62話 ロベリアの日記


 平坦とは言えない。

 豊かとは言えない。

 普通の生物が生息しているとは思えない。


 容赦なく降り注ぐ日差しの下、凸凹した大地を四人で歩いていた。


「ロベリア」


「なんだ……?」


「暇だ」


 何百回も繰り返されたであろうやり取りが、ここでまた始まった。


「暇で暇だ」


 溶けそうな顔でシャレムが続ける。

 あまりの暑さで頭がおかしくなったのか?


「暇ぁ~! 暇ぁ!」


 隣で歩くエリーシャが苦笑している。

 ゴエディアはなぜかこの状況を楽しんでいるのか、笑顔を浮かべていた。


「ロベリア、暇だぁ」


「暇なのは分かったから、せめて数秒だけでいい。数秒だけでも喋るのを我慢してくれ。うっとうしい……!」


 ただでさえ暑いのに、頭まで熱くなってきた。


 移動を始めて三日が経つ。

 俺とエリーシャ、ゴエディアは日頃の鍛錬のおかげで体力に問題はないが、理想郷に来てからずっとニート生活を送っていたシャレムは初日からバテていた。


 精神的にも余裕がないのか、しつこく話しかけてくる。

 そのせいでこっちの精神までおかしくなりそうだ。


 できれば静かにしてほしいのだが――


「ぱっぱっぱ」


 今度は唇を鳴らし始めた。


「ぱっ!」


 耳元で盛大に。


「黙れと言ってるだろうが……!」


「え、喋るなって言っただけだろ~?」


 言われてみれば、確かに俺の伝え方が悪かったかもしれない。

 いや、屁理屈だ。


「ぱっ!」


「………」


 あまりにしつこいので、シャレムを睨みつけた。

 魔物を威嚇するときに使う、恐ろしい眼光で。


「し、しょうがないな~」


 ようやく大人しくしてくれた。

 この調子が続けば、大陸の西端にたどり着けるか怪しいものだ。


 だが、現在のルートはシャレムが計算した「安全かつ最短」の道だ。

 安全といえば安全だが、危険な道を進むよりも時間がかかる。


 俺はそれを了承した。

 シャレムの身を保証したのは俺だ。

 仲間たちを危険にさらしてまで、険しい道を選ぶつもりはない。


 俺も、もっと強くならなければ……。





 ————





 夜になり、焚き火を囲んで野営することにした。

 ゴエディア、シャレム、エリーシャの三人を先に寝かせ、俺が見張りをしていた。

 二日連続でゴエディアに見張りを任せていたからだ。


 彼にも睡眠は必要だ。

 嫌な顔ひとつせず、今日も見張りをすると言い出したが、俺はそれを断った。

 今日はしっかり眠ってもらう。


「……」


 皆が寝静まった中、俺はロベリアの日記を何度も読み返していた。

 過去をあまり掘り下げない男だからか、幼少期の記述はほとんどない。

 ただ、これまで行ってきた研究や経験が、まるでプログラミングのコードのように細かく綴られていた。


 黒魔術の研究成果、英傑の騎士団との対決、そして……。


(これは……?)


『エルはどこだ、会いたい』


 力強く書かれていた。

 そう、確かにそうだった。

 この時のロベリアは、妹のエルがラインハルの元にいることをまだ知らなかった。


 物語の終盤。

 ロベリアは宿敵ラインハルを追い詰め、トドメを刺そうとした。

 その瞬間、妹のエルがラインハルを庇ったのだ。


 まさか妹がラインハルの側にいるとは思わず、動揺しながらも、兄として守れなかったことを謝罪し、再会を喜ぼうとした。

 だが、エルはそれを拒んだ。


 悲しい再会だった。


 誰からも嫌われ、妹に拒絶され、魔王軍にも裏切られ、ロベリアは死んだ。

 彼の死を悲しむ者は誰もいなかった。


 むしろ、倒されたことに皆が喜んだのだ。


「……」


 俺はそっと日記を閉じた。

 もしロベリアの妹と会うことがあれば、謝ろう。


 たとえ拒絶されたとしても、家族として――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ