表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/194

第58話 新たな目的

 傲慢の魔術師、ロベリア・クロウリー。

 英傑の騎士団、エリーシャ・ラルティーユ。

 この二人が消息を絶ってから一年が経った。


 ラケルは新聞の捜索願い欄を読んでいた。

 その隣には、ブレイブギア号の乗員名簿が記載されたリストもあった。

 人魔大陸へ向かった船は、帰港することはなかった。


 理想郷への支援物資を輸送していたと記載されているが、ラケルは疑問を抱く。

 魔族の排斥を掲げる精霊教団も同船していたからだ。


 アズベル大陸の隅々まで調べたが、二人を見たという情報はない。

 人と魔の間にある大陸に飛ばされた可能性がある。


 ならば、そこへ向かうしかない。

 旅の荷物を手に、船に揺られながらラケルは思う。


(船酔いで気持ち悪い……うっぷ)





 ————






 朝の寝室にて。

 目を覚ました俺の視界に、一人の少女がいた。

 腕の上ですやすやと眠るエリーシャ。


 寝ている間にベッドに潜り込んできたから気づかなかったが、どう見ても事後だ。

 可愛い寝息を立てる彼女の頬を撫でる。

 やっぱり柔らかい。


 さらにぷにぷにを堪能してから、彼女を起こさないようそっと起き上がる。

 俺は紳士だからな。無防備で可愛い少女でも、決して手は出さない。


「……おはよう」


 返事はない。

 それでも、彼女がここにいるだけで俺には充分だ。

 もう二度と、誰かに奪わせはしない。


 そっとエリーシャの額にキスをする。

 すると彼女は満足そうに「へへ」とニヤけていた。

 どんな夢を見ているのやら。


 それよりも、さあ、今日も仕事だ。





 ————





 町の周辺を見回る。

 数か月前と比べ、町の面積は驚くほど拡大していた。


 戦争で居場所を失った難民を何千人も受け入れ、仕事を与えたが、予想以上に優秀な人材が多く、理想郷はいつの間にか国と呼べるほどに発展していた。


 国の名前をどうするか。

 町長のユーマがワクワクしながら尋ねてきたが、思いつかない。

「そのうちまた」と謝っておいた。


 国を作るなら、理想郷が首都だな。

 海に面した都になる。


「……?」


 町を歩いていると、鋼を打つ音が聞こえてきた。

 鍛冶屋だ。

 そこには作業服を着た少女がいた。

 こちらに気づくと、手を振ってきた。


「あ、ロベリアの旦那! おはよー!」


 エリーシャの友人、ヤエだ。

 理想郷の襲撃で父親を亡くしてから、工房を継いだらしい。


 辛い過去を背負いながら、今では町一の鍛冶師と呼ばれるまでになった。

 戦士の武器のほとんどが『ヤエ産』だ。

 ヤエさん、すげえよ。


「朝から早いな」


「まあね。シャルロッテさんから同じ装備を二つ注文されたから、早めに仕上げたいんだ」


 シャルロッテといえば、この町に移住してきたばかりの女性だ。

 本人は周りに気付かれていないと思っているが、暗殺者である。


 理想郷の戦士たちと共に魔物狩りに出かけたり、新米を道場で指導したりと忙しい人だ。

 美人なので戦士たち、特に男たちの士気が上がっているので、まあヨシとしよう。


「そういえば、旦那が頼んでたあの装備、剛・魔力結晶を使ったやつがもうすぐ完成するから、もう少し待っててね」


 人魔大陸には、まだ発見されていない鉱山が多い。

 半年前、その一つを掘り当てることに成功。

『魔力結晶』という優れた鉱石を発見した。


 この鉱石には特殊な効果があり、五つの種類が存在する。


『放』装備者の魔力の流れを加速させ、詠唱時間を短縮する。

『剛』装備者の物理防御力と魔法防御力を向上させる。

『疾』装備者の移動速度を上げる。

『命』装備者の生命力を高める。

『撃』装備者の物理攻撃力と魔法攻撃力を強化する。


 俺は『剛』の魔力結晶を選んだ。

 毎回、体に魔力を流して硬質化させたり、魔力障壁を展開したりするのは魔力の無駄遣いだ。

 それを少しでも減らすため、防御力を上げる装備が必要だった。


 作り始めて一週間経つが、それほど難しいのだろう。


「ああ、すまないな」


 急いでいるわけじゃないし、気長に待つさ。

 踵を返し、執務室のある建物へと向かった。







 理想郷に住人が増えたのはいいが、物資が足りない。

 毎週、平等に食料や日用品を配っているが、このままだと、備蓄が来年まで持たない。


 やはりどこかの国と繋がりを持たないと厳しいか。

 だが、できればアズベル大陸とは関わりたくない。また何かされたら堪ったもんじゃない。


 今年中の食糧難を回避しなければ、理想郷は再び壊滅の危機に瀕する。


「ロベリア様、それなら私にアテがあります」


 頭を悩ませていると、魔導書から声がした。

 配下のボロスだ。


「……詳しく聞かせてくれ」


「ここから西南、大陸の反対側に妖精王国があります。名をフィンブル・ヘイム」


 妖精。

 人族と魔族の中立に立つもう一つの種族だ。

 人魔大陸で唯一、自然に溢れる土地、フィンブル・ヘイム王国を妖精王が治めている。

 その自然豊かな理由は、彼らの羽にある。


 羽には生命を与える粉が宿っており、どんな乾いた土地でも、妖精がいれば自然溢れる場所に変わる。


 さらに、数万体の妖精によって死者が生き返ったという伝説もある。


 資源が枯渇しない王国と繋がりを作れば、食糧不足を解決できるかもしれない。

 アズベル大陸に頼らずに済む。


 長寿の年長者だけあって、ボロスの助言には最近助けられまくっている。

 掃除のやり方を知らない馬鹿だが。


「時間がない。今月中には発つぞ」


 大陸の端から端って、大陸横断レースかよ。

 長い遠征になる。一年以上かかるかもしれない。


「はっ! 私はいつでも行けますよ」


「いや……貴様は連れて行かない」


「ガーン! そ、そんな、つまり……配下をクビってことですか?」


 めっちゃショックを受けてやがる。

 別にクビじゃない。

 前回の反省を踏まえ、戦力を平等に分けるだけだ。


 町を守るなら、ボロスが一番の適任だ。強いし。

 ただ、契約通り、周りにバレないよう守ってもらう。

 かなりハードな命令だが、それを説明すると、ボロスの表情がパッと明るくなった。


「お任せください! 必ず理想郷を守ってみせます!」


「くれぐれも町を消し炭にするなよ?」


「……え、ええ。肝に銘じておきます」


 自信満々に言われても、こいつは肝心なところで余計なことをするからな。

 一応、釘を刺しておこう。

 死滅槍すっぞ、とか。


 さて、遠征のメンバーを考えるか。

 大人数での移動はリスクが高いので、少数精鋭に絞ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ