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最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


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第184話 駄猫


 消息不明だったシャレムと合流をした。

 包帯だらけになった経緯、攻撃をしかけてきた謎の少女の正体、彼女は全て話してくれた。


 どうやら鬼の領牢屋から抜け出した後、怪物の襲撃で逃げ惑う人々に紛れて童王の町から逃げ出そうとしたが、普通に警備に捕まってしまったらしい。


 体がボロボロになったのは拷問を受けたからだと、シャレムは震えながら言った。


「それは、気の毒だな……助けに行かなくてすまない」

「でぇじょうぶ。シャルロッテが戻ってきてくれたんだ。なんとか牢屋から二度目の脱獄に成功したが……」


 暗殺者シャルロッテか。

 シャレムをそこまで気に掛けていないような態度だったのに、わざわざ危険を冒してまで助けに戻るとは。


 シャルロッテの意外な一面に驚く俺だった。

 しかし、シャレムの顔が暗くなっているのが見えて、嫌な予感がした。


「童王の町で、黒衣の集団に追われちまって。ロベリアが戦った鬼哭ノ衆? とはまた違う集団だったんだよ。シャルロッテは僕を守りながら戦ってくれたけど致命者を受けて……そのまま囲まれて、絶体絶命の状況のとき」


 シャレムは、謎の少女に指をさした。


「そいつに助けられたんだヨ」

「なぁに、当然の行いをしたまでだ。本職は寺を守る僧だが、童王に顕れた怪物を屠った者が気になってな。偶然、居合わせただけだ」


 シャレムとシャルロッテを助けてくれたことには感謝だが、なぜ俺たちに攻撃を仕掛けてきたのか。


「申し遅れたな、拙僧は”ミクマリ”と申す。気軽にミクと呼んでくれたまえ。仏法僧、もとい武芸者でな。強者との死合いが大の好物なのだ」


 なるほど、怪物を倒したことで彼女から興味を持たれてしまった訳か。

 この世界は戦闘民族が多すぎる。


「……童王のはずれ座鳴折山ざなきおれやまには昔、封鎖された寺院の噂を聞いたことがる。かつて、そこで呪術の類が研究されているという疑いがかけられ、鬼の領頭領の命で取り壊しになろうとしたが、謎の角なし鬼の僧によって阻まれたという事件……もしや」


 腕を組んだジークは、ミクマリを訝しげに見つめたまま言った。

 それを聞いたミクマリは、胸に手を当てて返す。


「うむ、多分それ拙僧のことだ。十年前の話だが」


 合ってるのかよ。

 ジークは驚いていたが、俺にとって知らない情報なので同じリアクションができない。


「じっちゃんが守り続けた寺を取り壊そうとする不逞者は返り討ちにした、この———」


 ミクマリは手に持っていた槍に頬をスリスリと擦り付ける。


天沼矛あめのぬほこでな」


 ……ん?

 どこかで聞いたことのある名前だな、日本神話で。

 どういった内容かは一ミリも覚えていないが。


「そんなことよりも、シャルロッテはどうした?」

「ああ、あの者なら手当てして寺で安静にしてもらっている。命に別状はない」

「そうか、よかった……」


 ミクマリの話を聞いて安心した。

 消息不明だった仲間二人が無事であることを知れて、心が軽くなる。


 とりあえずシャレムとも合流できたし、黒衣の集団については後々聞くことにして、本来の目的に戻ろう。


 俺とジークの目的を説明してから、ミクマリに頼んでシャレムを仲間たちのいる契の領に送ってもらうことにしよう。


「なにを申すか、拙僧もお供するぞ?」

「……何故?」

「実は、其方たちの動向を数日前から観察しておったが、確実に鬼の領も巻き込まれるそうではないか。ならば見て見ぬ振りはできん、拙僧も手をかそう」


 数日前から観察って、まったく気付かなかったぞ。

 近くにいたのなら何故シャレムは合流しなかったのか。


「おいおいロベリア、僕は拷問を受けてたんだぜ? すぐに動けるはずがねぇだろ」

「そこまで酷かったのか。ならば、この薬を使え。即効性の回復薬だ」

「万能薬はないのかよ?」

「怪物と戦ったときに割れた」


 シャレムは渋々ながらも回復薬を受け取った。

 彼女が薬を飲み干したのを確認すると、俺はミクマリに視線を戻した。


「どうしても付いてくるのか?」

「ああ、これだけは譲れん。断固たる意思というやつだ」

「折れて、シャレムを送り届けると言ってくれたら有難いのだが……」


 ミクマリと交渉をしていると、不意に通った道の方から気配を感じて構える。

 しかし、そこにいたのはまたもや見知った顔だった。


「よ、よぉ師匠」

「ついて来ちゃった☆」


「アルス、ジェシカ……お前ら……」


 船に忍び込んだ時と同じように、弟子の二人が付いて来てしまった。

 何故この二人は、いつも居ても立っても居られないのか。


 しかし、先に出陣した俺とジークも人のことが言えないので、叱れる立場ではなかった。


「俺たちも戦わせてくれよ。師匠やジークさんには遠く及ばないが、足手纏いには絶対ならないから……!」


 アルスが頭を下げて、頼み込んできた。

 それに続いて、隣に立っていたジェシカも慌てて頭を下げる。


「……ジェシカ。ドールシリーズの行動できる距離に制限はあるか?」

「別にないよ? どんなに遠くにいても渡した魔力が無くならない限りは自由に動けるんだよ」

「ならば、シャレムを安全に仲間達のもとに送り届けられるよう、一つだけ貸してやってくれ」

「いいけど……”強情ツンデレちゃん”!」


 ジェシカは懐に入っていた小さな人形に魔力を込めると、光に包まれる。

 人形はジェシカと同じ姿とサイズになり(少し異なる)腕を組みながら俺を睨みつけてきた。


「べ、別にアンタの為にやるわけじゃないんだからね!? グランドマスターがどうしてもって言うから、仕方なく手を貸してあげるのよ!」

「あ、ああ」

「こらっ、強情ツンデレちゃん! 師匠ぉに失礼しない!」

「……ふんっ」


 なんか、何度見てもジェシカの魔術ってすごいな。

 自分に似た存在をいくつも作って、命令して動かすとかチートすぎる。

 このまま順調に成長していったら近い将来、数千体ものドールシリーズを率いたりして。


「ほら、はやく来なさいよ駄猫っ。怪我人だがなんだか知らないけどね、私の時間を無駄にしたら承知しないからっ。ほら、早くしなさいよ」


 シャレムにだけ純度100%の”ツン”で対応する強情ツンデレに、唖然とする一同。

 そのグランドマスターであるジェシカに、シャレムは涙目になりながら尋ねた。


「もっと、他に優しい子とかいただロ……?」

「お気に入りだから大事にしてよー」

「おいおい!」

「ほら、さっさと行くわよ駄猫っ!」


 首根っこを掴まれて連れて行かれるシャレム。

 手を振って二人を見届けるジェシカ。

 もっと怪我人を労ってあげようよ。


「あの、師匠。俺たちは?」


 アルスが近づいてきて、緊張した表情で聞いてきた。


 初めて会ったときのアルスは腰辺りぐらいの身長しかなかったのに、色々あって(竜の血とか)身長がほぼ同じくらいまで成長して逞しくなった。


 ジェシカもそうだ。

 身長は相変わらずだが、誰も持っていない独自の魔術を扱えるほどまで成長した。


 魔王軍の幹部を単独で撃破している。

 アルスとジェシカはもうとっくに、十分に強いのだ。


「……頼りにしている」


 二人の肩に手を置いて、真っ直ぐ目を見つめながら、そう告げた。


「行くぞ」

「……っ! おう!」

「私頑張るからね、師匠ぉ!」


 俺、ジーク、アルス、ジェシカ、ミクマリの五名編成で出発ことになった。


 非常に珍しい組み合わせだ。

 一名だけは、知り合ったばかりの少女だけど。

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