第181話 お尋ね者
謎の侍の襲撃によって地鳳城は崩壊、大半の家臣を失ってしまった契の領頭領ヒラナギを死なせない為に、彼が隠れ家に使っている屋敷で身を潜めることとなった。
鬼の領の海岸で待機しているはずのジーク一行が契の領にいるのは、俺たちを和の大国まで運んでくれた船が直らないと判断したからである。
直せないなら新しく造り直すしかない、そのためジークは契の領の海鳳で、かつての造船仲間達と再開をして話を付けてきたらしい。
造船行為はこの国では御法度では、という疑問もあったが敢えて触れないことにする。
「シャレムとシャルロッテ、この二名だけ消息不明か……」
鬼の領を脱出した後に、契の領で合流する手筈なのだが、ここに彼女達の姿がないということは、逃げ遅れたかもしれないという最悪の事態が頭を過ぎる。
今すぐにでも二人の捜索に回りたい、しかしヒラナギに協力を約束した以上は彼の側から離れることは出来ない。
あの侍、サカツマと名乗った男が死んだとは思えないからだ。
奇跡の連続だったとは言え、古の巨人ベルソルに勝利した現在、黒魔術に対応できる人間は十二強将の面々しか存在しない。
サカツマが我々と匹敵する実力を保有していると言うのなら、死滅槍で死んだとは到底思えない、二度目の襲撃に用心しなければならない。
「鬼の領で二手に分かれてから今に至るまでに起きたこと収集した情報、現状の整理をしよう」
初めにリアムとジェイクは契の領の海鳳で得た情報を報告してくれた。
やはり”武の領”、”墓荒らし”、”死者の目撃”が上げられ、契の領では収集がつかない噂が各地に拡散されて、噂を真に受けて混乱する住民が増えていっているらしい。
まあ、全部本当だったワケなのだが。
「そういえば鬼の領の関所? みたいな所がすごい厳重になっていたけど、それも関係しているのかな?」
「ああ……実はな」
報告をしている途中で、エリーシャが挙手して質問をした。
そうだ、エリーシャ達は別行動をしていたので”怪物”が鬼の領”童王”の城下町で暴れたという事件を知らないのか。
取り敢えず、エリーシャ達に”怪物”の特徴と戦ったこと、それで童王の町が滅茶苦茶になってしまった事を報告する。
「ロベリア様の黒魔術が通用しなかったのですか?」
「いや、ダメージはあったが外傷を確認することが出来なかった。超回復か目に見えない結界魔術で防御していたのか。厄介な相手ではあったが、強力な一撃で仕留めることには成功した」
「なるほど。しかし――裏を返せば十二強将であるロベリア様が本領を発揮するほどの脅威。我々では太刀打ちは難しいでしょうね」
ボロスの言う通りだ。
怪物が俺ではなく、他の理想郷メンバーに襲いかかっていたら……想像したくないな。
だけど、あの怪物は俺に狙いを絞って攻撃していた、まるで初めから対象を決めていたかのように。
俺に恨みを持って排除しようとする誰かが仕向けた刺客、うん、心当たりしかないな。
「そういえば、鬼の領から俺達の人相書が公布されていたぞ? 何が書いてあるかは読めないが大方、罪状は脱獄と町の破壊活動だろうな」
ジェイクが懐から茶色の和紙を数枚取り出して見せてきた。
人相顔って確か、筆でお尋ね者の似顔絵をリアル調に描く指名手配書のことか。
俺達ってこの国の人達からしたら異国の顔だから、ちゃんと再現できているか? と興味津々に人相書を読むと、腰を抜かす。
似顔絵が大昔の江戸っぽい描き方ではなく、俺のいた時代のアニメイラストっぽい描き方だったからだ。
時代がミスマッチすぎる画力に仰天してしまう。
「誰が描いたか知らねぇが、独特な作風だな」
「まったく、その通りだよ……」
俺と同じく同様しているジェイクに、思わず同意してしまう。
誰だよ、絵師は。
何でロベリアだけ無駄にセクシーに描いているんだよ。
「ヒラナギ……」
「お前は……ああ造船所にいた新入りの小僧か。久しいな」
俺たちが情報を整理している間。
部屋の隅で、頭領のヒラナギとジークが静かに睨み合っていた。
いつも笑顔が絶えず、周りに元気を振りまいているジークが険しい表情で誰かを見つめる、その時点でただらぬ何かを感じ取ってしまう。
ジークも和の大国出身だし、過去の因縁というやつだろうか……?




