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最も嫌われている最凶の悪役に転生《コミカライズ連載》  作者: 灰色の鼠


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第113話 第一試合 アルスvs魔官ホド 上




 魔王軍との試合当日。

 試合会場となる闘技場の前は人族、魔族によりごった返しになっていた。


 戦いを観戦するために魔王国からやってきた魔族達に白い目を向けながら理想郷の国民たちは魔王を筆頭に進軍する魔王軍に道を開けた。


「なぁメフィス、わざわざ余が出向いて来てやったのに歓声の一つも上がっておらんぞ? 失礼だとは思わんか?」


 怖がられているのを、まるで分かっていない女魔王ユニは不服そうな表情を浮かべながら言った。


「我々と人族軍の引き起こした戦争によって故郷を失った者が人口の八割以上を占めると聞きます。我々に対する態度に文句は言えませんよ」


 不服な魔王とは打って変わって配下のメフィスは冷静に淡々と説明した。

 魔王ユニは「ほーん」と適当に返す。


「それに、この試合は魔王様が強引に話を進めたから、こうなったのですよ。あまり我儘を言わないでください」


「なにをぉ! 余を子供扱いするとは良い度胸だなメフィス! 減給だぞッ!」


「経理も担当している私が魔王様に減給する権限を与えるとでも?」


 子供扱いされることが一番嫌いな魔王ユニを適当にあしらいながら、試合に出場する魔王側の出場者リストに目を通す。


 理想郷には初代竜王の血筋がいた。

 本名はノトス。


 この男もかつて試合を観ていた可能性がある。

 魔王側の戦略を知っているかもしれない。


 竜族の魔王軍の幹部クラスの能力を一通り把握されては不利も良いところだ。


「ほぉ、ここが試合会場か。この前来た時に、こんな闘技場なかったぞ?」


 国の外から見えていた白い建造物の正体が、これから行われる試合の闘技場だった。


 会場を用意しろとは言ったが、短い期間でここまで完璧な仕上がりになるとは予想もしていなかったため魔王もメフィスも面食らっていた。


 瞬間、魔王側の魔族たちから歓喜が湧き上がった。


「ふっははっ! 期待以上ではないか! 嬉しいぞ! なあ、みんな!!」


「「「おおおおおおおおお!!!」」」


 謎に盛り上がる魔王側に、理想郷の国民たちは訳の分からない顔を浮かべた。

 魔王ユニの姿を初めて見る者もこの場に大勢いる。


 人族を根絶やしにしようとした初代魔王の後継者が、こんな幼い見た目をした少女だったとは。初見なら口揃えて驚愕するだろう。


 ところが彼女を昔から知っている者なら、その愛々しい容姿に騙されたりはしない。魔王ユニこそ後継者に相応しい、生粋の悪魔だ。



「おお、これは、これは。随分と待たせてしまったようじゃな、諸君」


 闘技場へと上がる階段の上で待ち受ける理想郷陣営、筆頭のロベリアを見上げる。


「待っていない。むしろ来なければ良かったものを……」


 鋭い眼光に睨まれた魔王ユニは、嬉しそうにニヤけていた。


(期待以上なのは、ロベリアも一緒じゃな……ああ、ゾクゾクするのお)


「魔王様、ヨダレを拭いてください」


「おっと、いかんいかん」


 魔王ユニはメフィスに差し出されたハンカチで口元を拭く。


「初めに言っておく、俺は貴様の眷属になる気は微塵もない。帰るのなら今のうちだぞ」


「余は魔王。戦いを前にして何もせずに負けを認めるなど……死に等しい行為じゃ。口を慎めよ傲慢の魔術師。余は本気で、お主を獲りに行くつもりじゃ」


 息苦しくなるほどの圧に一切、顔を歪めずにロベリアは闘技場の方に向いた。


「闘技場の中を案内してやろう。付いてこい」


 背中を向けて歩き出すロベリアの後を追い、魔王ユニたちは闘技場へと入っていくのだった。

 試合まで、あと一時間。


 魔王は最前の席に案内され、配下に囲まれるようにして座った。

 そしてその反対側で向かい合うようにロベリアも座っていた。


 出場者は互いに不明。

 くじで決められた順番で試合を行うことになっているが、ロベリアの隣で妙にソワソワしているボロスがいた。


 まるで神にも祈るような姿勢だ。


「これより皆様お待ちかねの第二回ディアボリクリークが開催されます! 世界で最も恐れられた魔王様、傲慢の魔術師によるガチンコ対決! 勝敗は如何なるものになるのか!」


 進行者を雇った覚えのないロベリア達は困惑していた。

 魔王側が用意したのだから無理もない。


「それでは初めに第一試合! 選手の入場でございます!」


 実況者の声と共に、扉から開かれる。


 魔王側の扉から現れたのは、ヒョロイ体をした男だった。装備もつけず、武器も持っていない。


 魔王軍幹部、魔官ホド。

 初代魔王の忠順な配下で、強さは本物。

 ゲーム知識をフルで働かせるロベリアだったが、彼も同様に困惑していた。


 これから自分が戦うことを自覚していないか、それともそれがホドのスタイルなのか、どっちみち観客席にいる誰もが唖然としていた。


「うおいいいいっ! ホドっ! お主、装備を何故つけておらんのじゃ!?」


 魔王が慌てふためいているので、どうやらホドは自主的に装備をつけずに入場したらしい。


 さらには舐め腐った表情でロベリアを見上げていた。


(あれは完全に……舐めているな)


 明らかすぎる態度に若干苛つきつつ、ロベリアは理想郷側の扉から現れた出場者を確認する。


 半身に包帯を巻いた青年。

 ロベリアの愛弟子アルスだった。


 試合が開始されようとした、その瞬間———





「ヒヒヒッ! 何だよなんだよ! どんな大物が出てくるかと思いきや、ただの餓鬼じゃねぇか! 子供を出場させるとは流石は傲慢の魔術師様だな! それとも只のバカなのか!?」


 真剣に戦いに挑もうとしていたアルスをホドは嘲笑ったのだ。


 それだけでは飽き足らず、魔王ユニが眷属にしようとしているロベリアをも侮辱したのだ。


「お前……今なんつった?」


「テメェのような餓鬼に武器も装備も必要ねぇってことだよ。捻り潰されたくねぇなら、早く帰ってママの乳でも吸ってな!」


 アルスの問いに、ホドは同じ調子で答えた。

 対戦相手への敬意は疎か、自分の勝利を最初から確信している様子だ。


 それは誇り高い魔王軍の幹部『魔官』としてあるまじき行為だった。


「なーんだよ? もしかして図星かぁ?」


 舌を突き出しながらホドは挑発を続けた。

 それに対してアルスはいつもより落ち着いた声で言い返した。


「次、また師匠を侮辱してみろ。絶対に許さねぇから……」


 自分への暴言、挑発などアルスにはどうでも良かった。


 尊敬して止まないロベリアに対しての侮辱を聞こえないフリだけは彼にはできなかった。


「だったら、どうするんってんだよ餓鬼が」


 アルスは拳を握りしめた。


「……一発で仕留めてやるよ」


 魔官を相手に普通はできない宣言をするアルスの声には、静かな怒りが込められていた。

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