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アルドの花嫁  作者: 栗須まり
22/23

22.

遠くから見ても一目で分かる青く丸い屋根。

近付く毎にはっきりと、その大きさや荘厳さを感じる。

細かいタイル張りのアーチの両側には、門を守る衛兵がいて、そこを通ると美しい庭園が広がっていた。

庭園の真ん中に伸びる一本の道は、真っ直ぐに王宮へと繋がっている。

「さあ着きましたよ。これから陛下に謁見となります」

大神官の声に体がビクッと跳ね、これから全くの別世界に足を踏み入れるのかと思うと、緊張の余り体が強張った。


「どうかそう緊張なさいますな。陛下は穏やかで優しいお人柄です。新しい家族を喜んで迎えて下さるでしょう」

緊張するなと言われても、緊張しない訳がない。

それに新しい家族と言っても、アイシャにはアゼル族の血は一滴も流れていないのだ。

歓迎されるとは微塵も考えられなかった。


大神官は柔らかく微笑みながら、アイシャの手を引き王宮の回廊を進んで行く。

回廊とはいえ床には大理石、壁には美しい女性達が踊るモザイク画が続き、天井はアーチ型で細かな彫刻が一面に広がっていた。

交易で得た資金をふんだんに使い、正に富の象徴であるこの王宮を進みながら、やはり自分には相応しくないと、まざまざと見せ付けられている様な気がして、自然と足が重くなる。

そんなアイシャの心情を知ってか、大神官はゆっくりと歩いてくれた。


回廊を抜けて金色の扉を潜ると、壁や天井が全て金色の部屋に入った。

扉から真っ直ぐに敷かれた赤い絨毯、その先には金色に輝く黄金の玉座がある。

大神官がその前に両膝をついたので、アイシャもそれに習って膝をつき、お腹の辺りで両手を結んだ。

これは目上の者に対するアルドの正式な礼の形で、一家の主人や長老などにする事が多い。

王宮での正式な礼は知らないので、ひとまずこの形をとったのだが、大神官が何も言わない所を見ると、どうやらこれで間違っていない様だ。

暫くそのまま待っていると、玉座の奥からゾロゾロと人が入って来る。

玉座の陰になって見えないが、もう一つ扉がある様で、官職らしき服を着た10人程の人々が、玉座の周りに列を作った。

するとその中の1人が声を上げ、国王陛下の入室を告げる。

サラサラという衣擦れの音と共に、威厳たっぷりの男性が顔を出し、その後ろには鮮やかな衣装を身に纏った女性の姿があった。

男性はそのまま玉座に腰掛け、女性はその隣に佇む。

それは男性が国王陛下である事を意味して、その横に立てる身分の女性は、間違いなく王妃様だろう。

アイシャは思わず平伏して、床に額が付く程頭を下げた。


「ああ、頭を上げなさい。其方はもう、家族なのだから」

そう言われてもどれが正解なのか分からず、横目で大神官をチラリと見れば、ゆっくりと頷くのが見えたので、アイシャはおずおずと頭を上げた。

「本当になんと綺麗な銀色の髪。瞳は私の好きなエメラルド色ね」

顔を上げたアイシャに、王妃は感嘆の声を漏らした。

驚いたアイシャは目を大きく見開き狼狽えたが、微笑みかける王妃を見て、慌てて愛想笑いを返した。

「王妃は一目で気に入った様だ。アイシャといったね?新しい家族として歓迎しよう」

すると大神官がアイシャの方へ顔を向け、軽く片目を瞑って合図を送る。

これは返事を返せという意味だろう。

戸惑いながらもなんとか口を開いた。


「も、勿体ないお言葉でございます」

こう返すのが精一杯だ。

国王陛下も王妃様も、終始笑顔で満足そうに頷いている。

「さて、今日は色々あって疲れたであろう?明日改めて家族での顔合わせをしよう。其方の夫となる我が息子には、明日正式に対面の場を設ける故、今日は下がって休みなさい。其方には王妃が居室を用意した。困った事があったら、遠慮なく王妃に相談しなさい」

「は、はい」

国王が言い終わると、王妃がパンパンと手を打ち鳴らした。

すると3人の女官が姿を現し、アイシャに向かって礼の姿勢をとった。


「アイシャ、貴女の世話はこの者達に頼んであります。エリフ、ダフネ、ラビア、アイシャを居室に案内して、疲れを癒してあげなさい」

「「「かしこまりました」」」

3人はアイシャを立ち上がらせ、入口の扉へと向かって行く。

扉を出る前に振り返って、3人は両陛下へ頭を下げた。

アイシャも同じ様に頭を下げ、もう一度両陛下の顔を見る。

そこで初めて国王陛下が混血である事を知り、これにもまた驚いた。

国王陛下は茶色い髪に茶色い瞳の、どこか親しみを感じる顔立ちだった。

読んで頂いてありがとうございます。

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