99話 帰省1日目終了
灰川家に居た動物は猫が10数匹とキツネとタヌキ、それらが市乃や空羽たちに向かってくる。
「さて誰にどの猫が懐くか見ものだな」
「あゎゎ…結構な数が来た…!」
市乃はゾロゾロと出てきた猫たちに驚きを隠せず、少し迫力に押されてる。今いる猫たちは全て誠治も知ってる猫か、それらの子孫で人懐っこいのを知ってるため警戒はしない。
「凄いっ! もうみんな私のとこに来て欲しい! みんな、空羽お姉ちゃんの膝の上はがら空きだよ!」
「ふわ~、足元にフカフカの何かが当たってる~、猫ちゃんだね~」
「ふふん! 私が一番に決まってるわ! Vtuberでも猫でも負けないんだから!」
各人が気合を入れて待ち構えると、匂いだったり雰囲気だったり声色だったりで当たりを付けた猫たちが4人に寄って行った。
「にゃ~、にゃ~」
「お、そうかにゃー子、どの猫が誰に特別懐いたか教えてくれるのか」
10数匹が居るが全部が全部、特別に懐く訳じゃない。大体は一人につき1匹から3匹といった感じだ。それを にゃー子が誰とどの猫が相性が良くて懐いたか教えてくれる。
「ひゃ、くすぐったいっ、でも可愛い! この子は何て子なの灰川さん?」
「まず市乃に懐いたのはギドラだな、いつも3匹一緒に居て離れない奴らだ。ギドラに懐かれるのは凄い事だぞ、3匹とも気が弱くて一緒に居るから人間にも大概は怖がって懐かない」
「あははっ、足にすごい抱き着いてる。登って来た!可愛いなぁー」
「「「にゃー、にゃー にゃー」」」
市乃に特別懐いたのはギドラでコイツらは灰川家では3匹で1匹換算してる、もちろん家に来た時はエサは3匹分あげてる。
3匹とも気が弱いが灰川家にはよく来る猫で、以前も誠治が帰省した時に家の中で3匹揃って縁側で寝てた。
「ふふふ~、なんだか肩が少し重くて首が暖かいな~、君は誰~?」
「そいつはマフ子、寒がってると自慢の長い尻尾を首にマフラーみたいに巻いてくれる猫だ。寒がりな人間を嗅ぎ分けて夏でも容赦なく巻いて来るぞ」
「そうなんだ~、フカフカで気持ち良いな~、仲良くしよ~ね~」
「………にゃ」
桜に懐いたのはマフ子だった、どうやら桜は結構な寒がり体質らしく、それをバッチリ見抜いての選出のようだ。
マフ子は大人しい性格だが尻尾に自信タップリな猫だ、自分の尻尾を気に入ってくれる人間には特別懐いてくる性格でもある。
「猫が来ないわ! でもキツネとタヌキが寄って来たわ!」
「そいつは狐のテブクロと狸の福ポンだ。狐と狸としては珍しく仲が良くて人懐っこくてな、噛んだり威嚇したりしない優しい血筋の一組だ」
「きゅー、きゅーっ、きゅーん」
「にゅー、にゅーん」
「2匹とも夏毛でも尻尾がフサフサなのね! 後でブラッシングしてあげるわ!」
由奈に懐いたのは狐と狸で、狐の方はポヨ吉という以前から灰川家に来てる狐の子供である。ツインテールヘアに惹かれたのか髪の毛を目で追いかけながら、テブクロと福ポンがじゃれて甘えてる。
この2匹は近所でも評判の狐と狸で、道端で人間にすれ違うと「きゅー」「にゅーん」と挨拶してくれる。
「お…おい、空羽…大丈夫か? 表情がヤバイくらい崩れたニヤけ顔になってるぞ…」
「うふふ~~、ここは天国あっちも天国! 理想郷はここだったんだねっ!」
「にゃ~、にゃん、にゃん~」
空羽に特別懐いたのは特大の猫のオモチだ、こいつは体長が尻尾を含めず80cmくらいあり体重も10キロ超えの巨大猫だ。色々な種類の猫の血が混ざり、その上で体質やエサの食べ方が作用して大きくなったと思われる猫だ。
かなり人懐っこい性格で、昼寝して起きるとオモチが隣で抱き枕になってたなんて事もある。でも巨体故に本気で人間とじゃれつく事は出来ず、大きいから怖いと思ってる地元民も居たりする。実際には人に危害を加えたりしない。
その他の特別な懐き方はしなかった猫たちも普通に懐いて市乃たちに頬を摺り寄せてたり、構って欲しくて軽い猫パンチをお見舞いしてる奴もいる。
「さて、猫どもが懐いた所で荷物の整理とかしよう、家の案内とかもしたいし」
「ギドラっ、よろしくね、可愛いなぁ」
「マフ子~、ふふふ~、これが猫の尻尾なんだね、気持ち良いな~」
「テブクロ、福ポン! あなたたちも私のお友達! 初めてキツネとタヌキに触ったわ!」
「まず灰川さんに にゃー子ちゃんとオモチを連れ帰る許可を取ってから動物可のタクシーで東京まで帰る、灰川さんならどうせお金に困ってるからクリアは簡単な筈、もしダメなら他の手段を講じて~~……」
それぞれが懐いて来た猫たちに夢中になって骨抜きにされ灰川の話が全く聞こえてない、やはり女の子は動物好きが多いのだろう。空羽ともなると不穏な事を口走ってる。こりゃダメだと感じた灰川はしばらく彼女たちを放置して、客を迎え入れる準備をしたのだった。
その後はトイレや風呂の場所を教えたり、その他の家の説明をして皆で夕食の準備に取り掛かる。今日は疲れたからある程度簡単に作れるカレーにする事にした。
料理は由奈と桜以外は一人暮らしという事もあり全員が普通に出来た、由奈も料理上手なので普通に手伝ってくれてる。
桜は炊事はまだ練習中だそうで、危険という事もあるから火は任せられない。だが代わりにサラダに使うレタスをちぎってもらったり、比較的簡単なトマトのヘタ取りや櫛切りをやってもらってる。
「誠治の家ってスゴイわね! 動物たちが当たり前みたいに慣れて暮らしてるなんて!」
「父ちゃんが農業エンジニアで色々出来るし、最近は便利なものがいっぱいあるしな」
灰川家には動物がいっぱい来るため、それなりには用意が整えてある。動物のトイレなどは水洗式のペットトイレを父の功が作ったようだし、なんとペット用ウォシュレット機能まで付けてある。功がにゃー子に、どの出力が猫に良いか聞きながら作ったから猫たちにも好評なようだ。
だが動物のフンは体調を見るためにも重要なので、普通のペットトイレもあったりする。基本的には にゃー子が動物の不調などは教えてくれるし、一応は野生動物なので体は丈夫であり、体調を崩しても何もしなくても回復する事が多い。
「自動掃除機もあるんだね、あれもお父さんが作ったの?」
「いや、あれは買って来た物だな、動物の毛に適したアタッチメントを付けてあるから抜け毛もあんまり落ちて無いだろ」
今は便利な世の中だ、掃除ですら自動でやってくれる機械が安く売ってるのだ。
「むふふ~、それにみんな良い匂いがするよね~、お風呂とかも入れてるの~?」
「家に上がる動物は、にゃー子が風呂に入るように言うしな、今日も父ちゃんがお客が来るってんで風呂に入れてくれてたっぽいよ」
「そうなんだ、お父さんに感謝だね」
功は割と動物好きで世話も進んでやるタイプであり、母も動物は嫌いではない。しかしあんまり多く連れて来ると怒るので、にゃー子は気を付けながら連れてくる動物を選んでる。
「夕ご飯食べたらオモチとにゃー子ちゃんと遊ばなきゃ! まだまだやりたい事いっぱいだよー!」
「猫どもも空羽の持って来た高級ペットフードを喜んでるぞ、にゃー子もガツガツ食ってたし」
「私も何か持ってくれば良かったなー、時間なかったもんね」
にゃー子たちは空羽の持って来た高級ペットフードを美味しそうに食べてる、試しに何円なのか聞いてみたら缶詰一缶で1000円と言われた。驚きの値段だが空羽は自由鷹ナツハとして多額の報酬を稼いでる身だ、むしろ猫に喜んでもらえて良かったと語ってる。
「灰川さん、後でにゃー子ちゃんとお話ししてみたいなっ、通訳してくれる?」
「ああ良いぞ、猫どもも明らかにゴキゲンだしな」
「にゃー子ちゃんって本当に猫叉妖怪なの~? 声を聞いても普通の猫にしか聞こえなかったよ~」
「まあ普通はそうなるよな、でも本当だ。にゃー子、みんなの座布団を用意してくれ」
「にゃ!」
誠治がそう言うと にゃー子は「わかったにゃ!」と答えて居間に座布団を人数分敷いてくれた、にゃー子は家に居る時は座布団を敷いたり他の事を手伝ってくれたりしてる。
「すごっ! 本当に敷いちゃったよ!」
「これだけで猫叉っていう証拠にはならんけど、普通の猫よりは頭が良いのは分かったろ?」
オカルトの証明は基本的には非常に難しい、にゃー子にしたって目に見える妖術とかが使える訳じゃないから普段は普通の猫と変わらないのだ。
「それとさ、にゃー子を通訳するのは良いんだけど、猫叉と人間だと言葉に表す事が出来ないモノも多いから、人間と思って接する事はしないように」
「そっか、そうだよね」
動物と人間だと例え動物が人間の言葉を話せたとしても多くの場合は会話は成立しない、知能が違うし世界の見え方が違う、それは余りにも大きな壁なのだ。しかし心を通わせる事は出来る、例え種族が違うとも愛情や慈しみは通う物なのだ。
夕食のカレーが出来上がり、皆で一緒に食べた。灰川家が育てた野菜がふんだんに使われた夏野菜のチキンカレーで、サラダも灰川家の野菜である。
灰川はふと思う、彼女たちは皆が人気のVtuberだ、そんな子達が作った料理ならファンだったら高い金出しても食べたい料理なんじゃないか?とか考えたが、よく考えると灰川の手が入ってる時点で価値はぐっと下がりそうだ。
「美味しかったー、野菜の味がスーパーの売り物とは違うねっ」
「トマト美味しかったな~、農家の野菜は違うんだね~」
「私は断然お米がおいしかったわ! 新米の季節じゃないのにこんなに美味しいなんて、誠治の家はやるわね!」
「喜んでもらえて何よりだよ、さて夕飯が終わったのを見計らって猫どもが寄って来たぞ」
灰川家に動物が居る日に泊まりに来た客人は初日は基本的に休ませて貰えない、構って遊んでとにじり寄って来るからだ。
「マフ子~、ぎゅ~ってしてあげるね~」
「にゃあ…にゃあ…」
「テブクロ、福ポン! ナデナデしてあげるわ!」
「きゅー! きゅー!」
「きゅーん、ゆーん!」
「ギドラ、くすぐったいよー、あははっ」
「「「にゃん、にゃん!」」」
それぞれに懐いた猫たちや狐狸が市乃たちに甘えながらじゃれつく、頭を撫でてお腹を撫でて、背中を撫でてアゴを撫でる、されるがままに甘えて構ってもらい、猫たちはとことんまで人間の器用で大きな手を堪能してる。
そんな中でみんなと同じようにオモチと仲良くじゃれ合ってた空羽に灰川が にゃー子を伴って近づいた。
「この大きな体から発せられる程良い温かさとフワフワの抱き心地、猫にあるまじき重量感なのに猫みを確かに感じる手触り、オモチからしか得られない養分が確かに存在するのは紛れもない事実であり~~…」
「にゃー、にゃーん」
「空羽、にゃー子だぞ」
「にゃー子ちゃん! にゃー子ちゃん! にゃー子ちゃんとオモチを並べて間に寝そべりたい!」
どうやら空羽の中でにゃー子とオモチは同率一位のお気に入り猫のようだ、にゃー子は少し引き気味だが別に嫌がってはいない。
「にゃー、にゃ~」
「誠治がお世話になってます、キャットフード美味しかったです、空羽さんありがとうって言ってるぞ」
「どういたしまして、抱き着いて来ても良いんだよ?」
「にゃ~、にゃ~、にゃん」
「誠治、抱き着いても良いって言ってるよって、空羽は俺にじゃなくてお前に言ってるんだよ にゃー子!」
「あははっ、にゃー子ちゃんと灰川さん面白いなっ」
にゃー子と灰川の漫才じみたやり取りを見て空羽は笑う、やはり空羽は にゃー子がお気に入りのようで今も抱きしめたくてうずうずしてる様子だ。
「にゃー子ちゃんの言葉を灰川さんは分かるんだよね、だったら猫と人間の通訳になれるんじゃないかな?」
「まず詐欺師にしか思われないし、実は凄く難しい。動物と人間だと基本的に言葉を交わす事が出来ないんだ」
人間と動物だと物事に対する概念や感じ方が全く違うようで、互いの状況や考え方などを互いの言葉に表す事が出来ず会話の土俵に立てなかった。
楽しいとか嫌だとかは伝える事が出来ても、なぜ楽しいのか、なぜ嫌なのかという事を動物は言語化が出来ないし理解が出来ない、何より覚えてられないのだ。それはにゃー子という通訳を介しても無理だった、
生きるという事や死ぬという事の意味も動物たちは本能的な部分では感じられるようだが、それらを現象としてどういう事なのかを考える事や理解する事は出来ない。
思考の個体差も大きいようで、人間を大きな猫ととらえる猫が居る一方で、人間は自分たちとは違うと感じる猫も居る。人間のように教育という物を受けないから、思考も感覚も個体によって大幅に違う。
それらの考え方や感じ方は人間の言語に直すのは難しく、また人間の考えや感じた事を猫が理解できる言葉にするのは不可能だと にゃー子は以前に誠治に語った。
にゃー子も猫叉で人間の言葉を解するがあまりに複雑な事は理解できない、にゃー子の知能は人間の子供レベルであり、そして人間では無いから人間の全てを理解出来る訳ではないのだ。
「でも動物は人間が理解できないモノを理解したり、時には霊能者でも見えない何かを見る事がある。知能指数とかの数字や理屈では語れない、何かの理があるんだよ」
「そうなんだね、簡単には語れない事なんだね」
「にゃー、にゃん」
「だから猫と会話するのは諦めるにゃ、よっぽど強い感情や念じゃなきゃ言語化は出来ないにゃって言ってる」
「なるほど、難しいなぁ、それと灰川さん猫ちゃん語になってるよ?」
「あっ! にゃー子って人間と喋る時に語尾が`にゃ`になるからよ、無意識で言っちまってたわ」
「私もにゃー子ちゃんの声聞きたい! 灰川さんズルイ!」
人間とは違う、それを前提に考えなければ動物とは共存は難しい、言っても分からないし教えても出来ない事なんていっぱいある。だからこそ人は動物と共に生きることで寛容さという物を育む事が出来たのかもしれない。
「でもな、人間とは違うからこそ見えてはいけないモノが見えたりする、こんな話があったりするぞ」
灰川が語ったのは、にゃー子が他の動物から聞いた話を人間が分かる形に直したものだった。
廃屋の野良犬
ある朽ちた廃屋に野良犬が住み着いた、その廃屋はもう何年も人は住んでなく、もう人間は住めそうにないくらいの一軒家だった。
野良犬は家を散策して寝床を決めて何日か近所でエサを確保しながら生きてたが、どうにも夜になると息苦しいと感じる。なぜ夜だけ息苦しいのか不思議に思い、真っ暗になった後に家の中を歩いてみた。
居間だった場所は床に穴が開いてる、トイレはドアが壊れて風で揺れてる、ソファーが置きっぱなしの部屋は天井に穴が開いてる。犬から見たら悪くない住み心地の環境だ。
そんな時に野良犬は廊下の奥に掛けっぱなしになってる鏡を視界に入れた、その鏡には髪の長い人間の女が中に居る。吠えたりしても逃げないから不思議だと思うが変だとは思わない、ジッと野良犬を見てるだけだ。
居間に行くと床に空いた穴から真っ赤な体の髪の短い人間が這い出してきてる、人間はドアから出入りする生き物だと思ってたけど、そうじゃない奴も居るんだなと感じた。
トイレの中には顔を下に向けた人間の子供が立ってるし、ソファーの部屋の天井の穴には何度も誰かが入っていく、野良犬には彼らが何をしてるのか分からない。なぜ夜にしか見えないのかも分からない。
やがて野良犬は寝苦しさに負けてその廃屋を出たが、あの家が何だったのかはいまだに分からない。でももし人間が住んだなら嫌な事が起りそうだ、だからあの家は誰も住んでなかったんじゃないかと、そんなニュアンスの話を にゃー子に語ったそうだ。
「怖っ! 今の話かなり怖いよ灰川さん!」
「私も今のは怖かったな~、動物視点の怖い話ってなかなか聞けないね~」
気付いたら市乃と桜もギドラとマフ子を連れて灰川の話を聞きに来ていた、由奈は狐と狸と猫に囲まれて遊んでる。
「こんな風に動物と人間は違うという訳だ、心では通じ合えても言葉では通じ合えない、それは覚えておいて欲しい」
「うん、なんだか分かった気がする。ギドラも懐いてくれたから、一緒に居れる間は大事にしてあげたいよ」
「マフ子と一緒に居たら、別れる時にさみしくなっちゃうな~、今からそれが分かるよ~」
言葉では通じ合えなくても心では通じ合える、だから犬猫を始めとした動物たちと人間は古来から一緒に絆を構築できたのだろう。
「そろそろ布団を用意しないとな、布団を敷いたら猫のフトンって奴が誰かの布団に入ってくるかもだから、追い出さないで一緒に寝てくれると助かる」
「フトンちゃんと一緒に寝たい! にゃー子ちゃんとオモチとも一緒に寝たい! もちろん他の子達とも!」
「欲張りだな空羽…それじゃ窮屈だろ」
その後は風呂に入り、旅の疲れもあるので早めの就寝となる。だが皆は懐いてくれた動物が可愛くて、動物たちと一緒に布団に入ってからも撫でてあげたり頬を摺り寄せたりと、穏やかながらも東京とは違った気持ちで満足しながら眠りについたのだった。
皆が寝静まった後、灰川は縁側の椅子に座ってビールを飲んでいた。田舎の夏の夜の涼しい空気に当たりながら、のんびりと眠くなるまで過ごすつもりだ。
「誠治、お疲れさまにゃ」
「にゃー子もお疲れだな、みんな満足してくれてるようだよ」
にゃー子は今まで猫たちと遊んだり市乃たちと遊んだりして楽しかったようだが、やっぱり兄妹同然の誠治の所に最後は来る。椅子に座る灰川の膝の上に乗って夜のお話しが始まった。
今は鳴き声を抑えつつも誠治には聞こえる程度の声で喋ってる、高い霊能力が無い者が聞いたら普通の猫の鳴き声にしか聞こえないが、誠治には にゃー子が何を言ってるのかは聞こえてる。
「東京はどうにゃ? イジメられてないにゃ?」
「今の所は大丈夫だよ、忙しいけど、そこそこ楽しみながら過ごしてる」
「イジメられたら にゃー子に言うにゃ! 猫叉ノ生霊を飛ばして懲らしめてやるにゃ!」
「ははっ、そん時は頼むぞ」
にゃー子は誠治が大好きだ、誠治が赤ん坊の時から今に至るまで大好きなのだ。小さい時は誠治にとっては姉のような存在で、にゃー子から何かしらを教わった事もある。
誠治の知能が発達してからは自分が兄のような感じになり、それは今も続いてる。小さい頃の誠治は「大人になったら、にゃー子お姉ちゃんと結婚する!」なんて言ってたらしい。
「つがいは出来たかにゃ? 今日来た子たちが誠治のつがいかにゃ?」
「そんなんじゃないっての、市乃たちは仕事の仲間みたいなもんだよ」
「まだだったかにゃ~、安心するにゃ、まだまだ時間はたっぷりあるにゃ!」
「そうだな、どうすっかな~」
そんな他愛のない会話をしながら、にゃー子を撫でたりして夜は過ぎて行く。にゃー子は誠治の膝の上でコロコロしながらリラックスしてる。
「そろそろ寝るか、明日もよろしくな」
「OKにゃ!」
ビールの缶を片付けて誠治は布団に入る、にゃー子は高級ペットフードを持って来てくれたお礼にと、自分をいたく好いてる空羽の布団に入ってあげたのだった。




