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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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85話 女の子同士の恋の生霊 1

 ツバサの友達が来てから数日、ハッピーリレーのマネージャー業務やシャイニングゲートのヘルプ業務などの仕事をしながら金曜日になった。


 明日は休みで何をしようと考える、先週は休み切れず外出も出来なかったから、今週は何処かしらに出掛けたい気分だ。

 

「よしっ、今日の業務は終了! まだ時間あるし今日はどこか行くかぁ」


 時刻は夜の6時で今日は金曜、明日は休みだから何処かに寄ってから帰ろうかと思い立つ。ゲーセンが良いかスロット店が良いか、金曜の夜の楽しみに心を向かわせてる時にスマホにメッセージが届く。

 


飛車原 由奈

メッセージ

 早恵美ちゃんと美緒ちゃんが誠治に相談したいって

 言ってきた。

 明日は時間あるかしら?



「はぁ…仕方ないかぁ…」


 明日の午前から相談したい事があると言われ、困った事になったら連絡してと自身が言った手前、断る事は出来ない。


 せっかくの金曜の夜だが今夜は大人しく家に帰って眠り、明日に備える事にしたのだった。




 翌日の朝10時前、灰川は自宅アパートから100mほどの距離にある飛車原家に来ていた。今日は由奈の家でクラスメイトの相談に乗る事になったのだ。


 インターホンを鳴らして通話口から受け答えするとドアが開いて、由奈が迎えてくれた。


「おはよう誠治! 上がって良いわよ!」


「おじゃましまーす」


 家に上がり最初にリビングへ連れてってもらう、由奈の母の貴子(たかこ)さんに挨拶をするためだ。由奈は少し自室に行って片付けをすると言って行ってしまった。


「こんにちは、お邪魔させて頂きます」


「ごゆっくりどうぞ灰川さん、なんでも由奈のクラスの子のオカルト相談に乗るという事でしたっけ?」


「はい、事情は詳しくは分かりませんが」


 相談内容は多少は分かるが、由奈の母といえども他人の悩みを勝手に話すようなマネはしない。その事は貴子も飲み込み済みだろう。


「そうだ灰川さん、由奈のお友達が来るまで由奈のお部屋に私は行きませんから安心して下さいね?」


「え? は、はあ…そうですか」


「それまでの間は由奈ちゃんとのお楽しみタイムですから♪」


「お楽しみタイムって何です!? 何もしませんっての!」


 そんなやり取りをしてから2階の自室から由奈が降りて来て部屋に迎え入れられた、やはり貴子さんは変わった母親だと灰川はつくづく思ったのだった。



「部屋綺麗にしてるんだな、パソコンも良いの使ってるっぽいし」


「そうよ、お部屋はキレイじゃないと落ち着かないわ、パソコンもVtuberを始めた時に良いのを買ってもらったのよ、パパとママに感謝してるわ!」


 由奈の部屋は灰川のアパートの部屋よりも広く、学習机とパソコン用の机、ベッドや棚などがあり、日当たりの良い割とさっぱりした部屋だった。もちろん破幡木ツバサとしてVtuberをするためのセットも完備されてる。


 灰川としては由奈の性格からして色んな物が置いてありそうとか思ったが、意外にも整理整頓された綺麗な部屋だ。


「早恵美ちゃんと美緒ちゃんはいつ来るんだ? 少し早く来すぎたか」


「ううん、そろそろ来ると思うわよ」


 そうこうしてる内にインターホンが鳴り2人がやってきて、由奈の部屋に通され相談が始まった。



「休みの日にすいません灰川さんっ! どーしても相談に乗って欲しかったんです!」


「来て頂きありがとうございます、実は困ってまして…」


 2人は事務所に来た後の事を最初に話してくれた、実はあの後にも色々とあったそうなのだ。


 女性の霊能者に相談しようと思いネットで検索したりしてみたが、それが本物の霊能力者かどうなのか分からない。これはよくある事だ。


 他にも良さげな相談出来る所を見つけてもネットの口コミを見ると、後から高額な請求をされたとか、勝手に動画サイトに投稿されたとか、それ以外にも様々な悪い事を聞いて知らない人に相談するのは怖くなって止めたらしい。 


「あ~、今は詐欺同然の霊能者もネットにはいっぱい居るし、口コミとかもネットの情報は良いも悪いも信用しきれんしな~」


「そうなんですねっ、止めといてよかったですっ」


 オカルトに限らずネットに溢れる情報は信用できない情報が非常に多くなってしまった。誤った情報が拡散されたり、憶測でしかない事柄を確かな情報のように流したり、酷い例になるとコメントと視聴者稼ぎのために悪意ある虚偽内容の情報動画が流れたりする。


 SNSも動画サイトも通販サイトも嘘は多く、情報の取捨選択と裏取りをしないと簡単に騙されてしまうだろう。この子達は運が良かったようだ。


 責任が介在しない情報は信用しない、それは昔から言われてる事だが情報が溢れる今の世では難しい事なのかも知れない。


「あ、あのっ、お金とかは…何円お渡しすれば灰川さんは引き受けてくれますかっ…? それと…他言しないで頂きたいんですがっ…」


 不安そうな面持ちで早恵美が尋ねてくる、これまで見た情報で除霊とかお祓いは高額な報酬を要求されたり、タチの悪い動画投稿者にネタにされたりする可能性があると考えて聞いて来たようだ。


「お金は必要ないよ、中学生から報酬を貰うのは気が引けるし、由奈の友達でしょ? 今回はサービスしとくよ、でも解決できるかどうかは別問題だからね」


「……! ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


 何も解決して無いから礼を言われるのはまだ早い、それでも2人は助かったという顔をしてくれた。


「誠治は信頼できるわよ! 女の子の秘密も守ってくれるし腕前も確かなんだからっ」


「うん、由奈ちゃんが凄い人だって言ってたもんね」


「男の秘密は守らないみたいな言い方止めてくれよ……」


 今の場合は一応は灰川の信用という責任が付いてる状況だ、下手な事をしたら由奈の灰川に対する信用が失われるから、彼女たちにとってもある程度は信用できる状況だろう。


「それで何があったの? とりあえず話せる内容だけで良いから話してくれるかな?」


「はい、実は~~……」


 活発そうな性格の早恵美の方が喋り出す、恐らくは事前に2人で何を話すかは決めておいたのだろう。


「あれからもお互いの部屋に私たちの生霊って言うんですか? 出続けてるんです」


 数日くらいでは収まってないらしく、まだ続いてるそうだ。やはりかと灰川は思う、生霊を飛ばすのは相応に強い念を相手に抱かなければならない、そう簡単に消えるものではない。


 だが思春期にはそういった事はあるものだ、霊感が無い人には生霊が来てるかどうかは判別出来ないかも知れないが、この二人は互いに強く想いあってるらしく、その影響なのか互いの生霊は見えるらしい。


「でも、なんだか変な部分があるんですっ」


「変な部分って?」


「私の部屋に出る美緒はっ、なんだか凄く苦しそうなんですっ!」


「私の所に来てくれる早恵美の生霊は、とても困った表情をしてるんですっ」


 彼女たちは生霊が来てる間は金縛りになって動けず、何故そんな表情なのかを聞く事も出来ず、本人に直接聞いても分からないとの事らしい。


「う~ん…それだけの情報だと何とも言えないけど、お互いに隠し事でもあるとかかね?」


「ちょ! 誠治! 女の子に隠し事を聞くなんてダメなことよ!」


「あ~由奈、それは分かってるんだけどな、ここだけ聞くとそうとしか思えんぞ」


 女性に秘密は付き物だが今は多少は踏み込まなければならない、そうでなくては解決に繋がらない。


 だが秘密とは簡単に話せる内容では無いから秘密なのだ、特に中学生の女の子同士のカップルなんて他人に話して良いと思える事なんて限られるだろう。


 この子達にとっては灰川と由奈に付き合ってる事を打ち明ける事だけでも大変な決断だったに違いない、そこを汲み取ってあげられなければ、この年頃の子の相談には乗れない。


 しかし付き合う事になった経緯や抱いてる想い、考え方などを知らなければアドバイスも対策も出来ないのも現実だ。聞かなければならないが聞けない、話さなければならないが話す心が決まらない、そんな状況である。


「脅す訳じゃないけど、生霊を出すって危険なんだよ、エネルギーを持ってかれるし憑かれた人も影響が出る事も多い」


 灰川は説明する、生霊は生命エネルギーが強い念で相手の所に向かってしまう現象だと考えてる。それが原因で疲れや集中力の欠如といった症状が出て、時には精神的な疾患にさえ繋がる事もある。


 生霊に取り憑かれた人は誰かの気配を感じたり、居る筈の無い場所でその人物を見かけたり、自分はおかしいのでは?という疑念で精神の均衡を崩したりする。他にも不幸が続くなどの影響も出たりする。


 もちろんこれはオカルトの話だ、証拠を出せと言われても出せないから、そういう物だと思って対処するしかない。


「実は生霊の対処は難しいんだ、お祓いしても生きてる人間の念だからほぼ確実に再発するし、生霊の元になる憎悪や執着を捨てろなんて言っても簡単じゃない」


 最も確実な対処は憎しみを晴らす、執念や執着の元になる事象と決着を付けるという方法しかなく、これが難しい。


 生霊の相談に来る人は何故に憎まれてるのか話せない人が多いし、話してくれたとしても謝れとか誤解を解けといったアドバイスしか出来ない。そもそも本当の事を言ってるのかも怪しい者が多い。


 執念が元になる事象でも誰に執念を持たれてるか分からない、何に対して執念を持ってるのか持たれてるのか話せないという例が多く、早恵美と美緒の場合はこれに該当しそうだ。


「恋愛に関する念でも生霊は出来るけど、2人の場合は恋が実ってる訳だし」


「ぅぅ……は、はいぃ」


「そ、そうですねっ……そう言われると何だか恥ずかしいです…」


 灰川が言うと2人は照れて俯いてしまった、恋とかに憧れる年齢では普通の反応だろう。


「一応さっきから霊能力を使って見てるんだけど、かなり体力は持ってかれてるね、疲れも酷くなってないかな?」


「はい、昨日もサッカーでミスを連発しちゃいました…」 


「私は授業中に初めて眠ってしまいました…」


 灰川が霊視したら明らかに気の流れが弱くなっており、このままでは2人は手痛い目に遭ってしまうと予想する。精神的な影響が強まれば破局という結末だってあり得る話だ。


「誠治、どうにか出来ないのっ? 早恵美ちゃんと美緒ちゃんのこと、助けられないのっ?」


「まあ…一応は生霊封じの陽呪術とかもあるけどよ、無理に抑え込むとそれも危ないんだよなぁ」


 灰川家の陽呪術には生霊を出せなくさせる術があるが、それは実質的に執念も執着も抱えたままになるから精神衛生上で良くない。むしろ術が解けた時に蓄積され増加した念が強い生霊になる事もあり、対策としては下策も下策だ。


「かと言って話せない事も多いとなると、俺にはちょっとなぁ…」


「そんな……っ」


 お手上げ状態になりかけてる、2人はどうやら本当に困ってるようで、互いが何故に苦しそうだったり困ったりの表情をした生霊を飛ばしてるのか分からない。


 話が見えてこないし、詳しい事情も知らないから対策も考えられない、こういった事の解決には相談する側と相談される側の信頼関係がきちんと成り立ってないと難しい。


 灰川としても無理に何かを聞き出す事も憚られるが、それでも早い内に対処しないと良い結果は出ないのが見えてるから、どうにかしてあげたいとも思ってる。


「あっ、そうだ、あの人なら何か分かるかもしれないぞ」 


「えっ? 誰か心当たりがあるのっ?」


 灰川はこれまで自分は優れた霊能者だと思って来たし、それは間違いではないだろう。しかしここ最近で様々な人と関り、人生経験や人となりの見方などが未熟に過ぎると感じていた。


 今も早恵美と美緒の仲がどのくらい深いのか、どのように形作られた間柄なのかも測りかねてる。これは生霊という心霊分野を扱うには足りない物が多いという事に他ならない。


 実は霊能者界隈には生霊を専門とした霊能者が居たりするのだが、そういう人は多くが人間的な魅力があり、悩み事や秘密を打ち明けやすい人が多いという。


 そんな性格や性質は1日やそこらで身に付く物ではなく、その人の性格や話し方、考え方などが元からカウンセラーに向いてるという事だ。その性質に近いかも知れない霊能力を持った人が近くに居る。

 

「貴子さんだよ、霊嗅覚を持ってるから何か判断が出来るかも」


「ママが!?」


「由奈ちゃんのお母さんですかぁっ!?」


「さっきご挨拶しましたが…由奈ちゃんのお母さんも霊能力者さんだったんですか」


 まさかの提案だが灰川に対策の判断が付かない以上はアテにさせてもらうべきだ。


「それなら私にも霊嗅覚はあるんでしょ? 私じゃダメなのっ?」


「由奈は貴子さんほど人生経験が豊富じゃないだろ? 恋愛感情が絡む事なら大人の方が感じ取りやすい事もあるかもしれんし」


 自分とは違った霊能力で調べたら何か分かるかも知れないと、灰川は2人に説明した。


「お願いしたいです! 由奈ちゃんもお母さんに協力お願いして良いかなっ?」 


「由奈ちゃん、私からもお願いします」


「分かったわ! ママを呼んでくるわねっ」


 こうして貴子さんに協力をお願いする事になり、由奈が貴子さんを呼びに行ってくれた。


 思春期の恋という繊細な問題には男の灰川だけで向き合うのは無理だ、そう考えて由奈の母の貴子さんに一石を投じて貰える事を期待する。


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[一言] 貴子の部屋きちゃあああ!
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