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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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66話 シャイニングゲートの配信専用邸宅

 空羽からお礼を貰った後の午後3時頃に配信が終わった史菜に呼ばれ、灰川は渋谷中心街から少し離れた場所にある日本家屋カフェに来ていた。


「こんにちわ灰川さん、先日は同校の生徒の方々がお世話になりました」


「いや、あの時は史菜とは偶然会ったようなもんだから、本当は気にしなくて良かったんだけどな」


 忠善女子高校の件では史菜とは学校内で偶然に会った、本当はお礼の必要も無いのだが本人がしてくれると言ってくれたので、ありがたく受け取る事にしたのだ。


「こちらが約束の怪談音声です、私が選んだ怪談で良かったんですよね?」


「ありがとうな史菜、さっそく聞かせて貰うわ」


 灰川はスマートフォンでイヤホンをして、人気Vtuber北川ミナミの読む怪談を聞かせて貰おうとした時にスマホに着信が入ったのだった。


『ああ、すまない灰川さん、今シャイニングゲートの事務所に来れるかな?』


「え? まあ大丈夫ですけど」  


『じゃあ至急来て欲しい、配信事務所の方で待ってるからね』


 それだけ言うと通話は切れてしまった、急な話で一瞬だけどうしようか考えたが、お世話になる人だし行くのが当然だと思ったので史菜に切り出した。


「悪い史菜、なんかシャイニングゲートの配信事務所に呼ばれちまった、埋め合わせは今度するからよ」


「はい、灰川さんの都合が優先で大丈夫なのですが、シャイニングゲートさんの配信事務所の場所ってお分かりですか?」


「あ…そういや配信事務所だけは案内されてなかったんだった…」


 以前に案内された時にはオーディション専用事務所と本業事務所は案内されたが、配信事務所は時間が足りなくて行かなかった。


 渡辺社長も急いでたようだったから失念してたのだろう、場所の説明はされなかった。


「じゃあ私が場所を知ってますので、灰川さんを案内して差し上げますね」


「え、史菜は知ってるのか?」


「はい、企業系Vtuberでは知らない人の方が少ないと思います」 


 どうやらシャイニングゲートの事務所が複数ある事や、配信者専用の事務所がある事は有名らしく、渋谷を拠点にする配信企業の配信者は場所を知らない者の方が少ないとの事らしい。


 そのまま少し急ぎ気味だが、カフェを出て史菜の案内でシャイニングゲートの配信事務所に向かった。




「なあ、シャイニングゲートの配信者専用事務所って史菜は入った事あるの?」 


「ありません、シャイニングゲートの配信者しか入れませんし、セキュリティもしっかりしてるとお聞きしてます」


 どうやら以前にシャイニングゲートVtuberの厄介なファンが侵入しようとした事があったらしく、その時は未遂に終わったものの警備が強化される事になったらしいのだ。


「私も詳しくは知りませんが、シャイニングゲートさんの配信者専用事務所はとても立派だそうで、出来れば見てみたいなと思ってます」 


「そっか、なら社長に頼んでみるよ、何の用かも分からんけど、すぐ済むだろ」 


 灰川は今度に出す自分の事務所関連の用事だろうと踏んでたし、史菜になら渡辺社長は事務所を見せてくれるだろうと思って軽く請け負った。その後も道中で話を聞きながら歩いていく。


「そう言えば史菜はシャイニングゲートでナツハ以外に知ってるVtuberって居るの?」


「当然ですよ、ナツハ先輩以外にも登録者数300万人のシャイニングゲート2期生の竜胆(りんどう)れもんさん、デビューから1か月で登録者数が100万人を超えて今は250万人になってる私と同期の染谷川(そめやがわ)小路(こみち)ちゃん、他にも~……」


「うおっ、す、すまんっ、覚えきれんっ」


 史菜はライバルであるシャイニングゲートのVtuberにも詳しいみたいで、シャイニングゲートの配信を見る度に自分はまだまだだと思い知らされるらしい。 


 史菜は現在は登録者数は80万人であり、これは充分に凄い数字なのだがシャイニングゲートだったら中堅どころくらいの登録者数だそうだ。


 時に配信者やyour-tuberの界隈では視聴者登録数は戦闘力なんて言葉に言い表されるそうだ、視聴者登録が多い者こそが正義、視聴者登録が多い方が強い、そんな具合のようだ。


 それは間違いでは無いのだろう、登録が多い配信者の方が影響力は強いし、企業案件とかグッズの仕事も多く来るはずだ。何かを宣伝してその商品が次の日には品薄になるなんて事も多々ある。


 つまり、より注目度が高い者が強いとされる世界だ、その強さを得るために面白さやカリスマ性を配信者達は磨いてる。だがちょっと安直だとも感じてしまう気はする、趣味で配信してる人だったら登録者の数は気にしてない人も多いだろう。


「史菜もやっぱそういうの大事だって思うのか?」


「最初は気にしてなかったのですが…やはり続けてると多少は気になってしまう物で」


「そりゃそうだよな、俺だって絶対気にするだろうし、ってか気にしてるし」


 インフルエンサー、情報発信者となる事は今の時代は大きなステータスだ。自分の発言一つで世の中を動かせるなんて面白い事だろう、それは男女問わず憧れる者が多い立ち位置だ。


 一昔前は芸能人や有名人しか実質的になれなかった情報発信者だが、今はスマホ一つあれば誰だって大手インフルエンサーになれるチャンスがある。


 史菜は登録者が伸び悩んでVtuberを引退しようとした過去がある、その時は本当に気にしてたそうで誰にも言えず悩んでたらしい。


 今は以前よりは気にしてないそうだが、やはり配信者である以上はある程度は気にしてるらしく、今もどうやって登録者を伸ばすかは課題だそうだ。


「まあでも史菜は既に戦闘力超高いだろ、何処に出しても恥ずかしくないインフルエンサーだと思うぞ」 


「そ、そうですかっ? ありがとうございます灰川さんっ、好きです!」


 そんなこんなで話をしてるとシャイニングゲートの配信者事務所に到着したらしく、史菜がここだと指さしてくれた。


 その場所は渋谷の中心街のメインストリートにあるオーディション専用事務所から歩いて行ける距離にある、高級住宅街の中の一軒の大きな家だった。


「へぇ~、事務所っていうからビルみたいなの想像してたけど違ったわ」


 その場所はいわゆる高級住宅街、金持ちや企業の社長が豪邸を構えるような場所で、渋谷繁華街からも近いが静かであり、住むには凄く良い場所に見える。


 周囲には大きな邸宅がズラリと並び、まるで自分たちの羽振りの良さをアピールしてるかのような佇まいで、地価にして一坪で何百万とか何千万とかしそうな場所だ。金持ち以外はお断り、そんな住宅地である。


 その住宅地の繁華街に近い方の一軒家、庭はそれほど広く無いがレンガが敷かれて清潔感がある庭で、植木やガーデニングも行き届いた綺麗な庭である。


 家はなだらかな曲線と温かみのあるモダン建築の現代風の邸宅で、大きさの割に圧迫感や嫌味さが無い。外から見た感じだと3階建てで一見すると事務所なんて雰囲気は全く無く、正面から見た感じだと全体敷地はこの辺の住宅でも大きめの350坪超くらいだろうか。


 この350坪というのは小学校の体育館が入るような大きさであり、25mプールが3,5個くらい、一般的な家が8つくらい余裕で入るくらいの敷地だ。つまり凄い邸宅という事である。


 周囲をよく見ると『○○弁護士事務所』『○○コンサルティング』とかの事務所と併設された住宅もあり、実際にはオフィスと一緒になってる所も散見される。どうやらどの家も上流階級の家らしい。


「あれ? 来たは良いけど、どうやって入れば良いんだ?」


「さあ…そこまでは私は…」


 勝手に入るのも気が引ける、そこで社長に電話をしたらすぐに迎えに行くと言われ数分後に邸宅の正面に来てくれた。




「凄い豪邸ですね、場所を聞きそびれたんでミナミに案内して貰いましたよ」


「そうか、すまない北川ミナミさん、焦って言いそびれてしまった」


「いえ、それより凄い豪邸ですね、本当に配信事務所なんですか?」


 ここからは本名ではなくミナミと呼んだ方が良さそうだ、何となくそう判断して話を進める。


「それでどうしたんですか? 手続きとかなら判子とかも一応は持ってますけど」


「いや違うんだ、灰川さんの事務所に関しては既にほとんど決まってるんだけど、実はここでちょっとした騒動があってね…」


「配信事務所でですか? そういえば前に配信事務所でオカルト騒ぎがどうとか…」


「えっ? シャイニングゲートさんの配信事務所でも何かあるんですか?」 


 灰川とミナミが驚いたように聞くと、渡辺社長は少し苦い顔をしながら頷いた。


「ここはシャイニングゲートの配信事務所として建てた邸宅なんだけど、Vtuber達からの評判はあまり良くないんだ」


 渡辺社長が語るには、ここは自社のVtuber達が気分よく配信が出来て泊まったり他のVtuberとコミュニケーションを取ったりする目的で作られた邸宅だそうだ。


 中には複数の配信ルームがあり、その他にも広々と料理が出来るキッチンや、大勢が(くつろ)げる大きなリビング、談話室や読書室、書斎に中庭にプールに様々な設備が整ってるらしい。


 Vtuberが宿泊する部屋もホテル顔負けで、各部屋にはシャワールームはもちろん個室サウナなんかまであるとの事。


「最高ですって…入っても無いのに最高って分かりますって」


「凄いです、ハッピーリレーでは考えられないですね…」


 渡辺社長はとにかくVtuber達の配信生活の充実を非常に重視してるらしく、そこはもう採算度外視でもやる覚悟があるそうだ。


 これが業界ナンバー1を誇るシャイニングゲートのポリシーであり、視聴者の人達に最高の配信を届けるにはVtuberの中の人達に一切の不満を持たせない事が目標だとの事だが…。


「この豪邸事務所の何が不満だってんですか、俺だったら多少の怪異だったら目をつぶる自信ありますよ」


 灰川がそう言うのも頷けるほどの豪華さだが、まだ事情は全部は聞いて無いから話を聞く。


「実はね、Vtuberの子達が…ここに居ると嫌な夢、それも皆が同じ夢を見るって言うんだ…」


「夢ですか? なんか要領を得ないっすね」


「どのような事が起こったのですか?」


 これだけの情報では何が何だか分からない、すると渡辺社長に「こちらに来て欲しい」と言われ邸宅の車庫ガレージの中に連れて行かれた。


 社長曰くこの配信事務所に来るVtuberは必ず顔バレしないよう気を付けてるらしく、タクシーなども会社御用達の業者に頼んで車庫まで乗り入れてくれてるらしい。


 車庫には4台分くらいの駐車スペースがあり、車は社長が乗って来たと思われる一台しかなく、その近くに一人の女性が居た。


「こんにちわ、シャイニングゲート所属のVtuberの染谷川(そめやがわ) 小路(こみち)ですよ~」 


 そう明るく挨拶してくれたのはミナミと同じくらいの年齢の女の子であり、目を閉じて白い杖を持った女の子だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 昔働いて居た場所は色んな幽霊が出たな~ 個人的には子供の幽霊が一番ビビる。
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