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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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63話 ルルエルちゃんのお礼

「ふぅ、今日は色々あったな」


 自宅に帰って来てシャワーを浴びて一休みする、夕ご飯は中途半端な時間に皆でたらふく食べたから夕食は入りそうにもない。


「これから色々ありそうだけど、とりあえず気分も良いし配信するかぁ!」


 既に起動してあるパソコンに向かい、灰川は勇んで配信を開始した。


「どーも灰川です! 今日は戦闘機ゲームやりまぁっす!」


 今日の配信内容は戦闘機バトルのゲームにする、画面には美麗な映像とリアリティある描写がふんだんに織り込まれたグラフィックが映される。


「スゲェなこのゲーム! 綺麗でスゲェ!」


 子供みたいな感想を言いながら配信してると、今日は視聴者が現れた。


『マリモー;メビウス今日は配信してるのね』


『コロン;灰川さんの配信久しぶりな気がする』


「お、マリモーさんコロンさん、いらっしゃい」


 マリモーことツバサとコロンこと佳那美に挨拶しながらゲームをしていく、まだ序盤だから集中しなくてもクリア出来るようなステージだ。


『マリモー;聞いたわよ、これから私達のために頑張りなさい』


『コロン;灰川さんが一緒に頑張ってくれるって聞いてうれしかった!』


「その話は今度にね、誰かに聞かれるとマズイかもだしさ」 


 誰も来る気配は無いが念のためだ、ゲームをしながらだが灰川はコメント欄にも気を配りながらプレイしていく。


『マリモー;メビウス、今度ちゃんとお礼をするから、ママ直伝のフルコースをお見舞いしてあげるわよ!』 


『コロン;私もお礼するね、お父さんもお母さんも灰川さんは信用できるって言ってたよ』


「そっかそっか、ありがとな二人とも、でもお礼なんて気にしなくて良いんだからなー」

 

 つい普段のような感じで喋ってしまう、やはりコメントの主が誰か分かってしまうとこんな風になってしまう物だ。


『マリモー;まだメビウスが色々な準備終わるまで時間はあるわよね、その間に皆でお礼をしようって話になってるわ』


「え、そうなの? ありがたいけど無理すんなよ? 怪談音声だけで本当に良いからよ」


『コロン;それだけだとお礼が足りないよ~、ちゃんと灰川さんが喜んでくれることしてあげるからね』


「ははは、じゃあ期待して待ってるよ」


 そんな感じで話は進んで行き、ツバサと佳那美は眠くなり離脱、灰川はしばらく配信をしてたが結局誰も来なかった。




 翌日になり灰川はハッピーリレーに呼び出され、人事部の木島からこれからの予定を大まかに聞き、社長から預かってた書類を渡され目を通す。


 内容は準備は1週間くらいで、掛かる費用の額やその他の様々な内容が大まかな感じで書かれてる。恐らくは本格的に動くから準備はしっかりしておけという事なのだろう。


「灰川さーん、こんにちわっ!」


「おう、ルリュ…! 痛ぇ!舌噛んだ!」


「あははっ! 灰川さんがルルエルって言おうとしたら失敗したっ、あはははっ!」


「ったく本当に笑いのハードルが低い子だなルルエルちゃん」


 応接室から出た所で佳那美ことルルエルちゃんに会った、どうやら学校から一回家に帰ってランドセルなどは置いてきたようだ。


「今日は配信しに事務所に来たの?」


「ううん、灰川さんが来てるって聞いて急いで走って来たんだ」


「そうなの? あ、そういえば新しいマンションはどう?」


「良い所だよっ、前の家より女の人とか子供が多くて楽しい!」


 ルルエルちゃんの前の家はアウトローの溜まり場みたいなマンションだったが、今は引っ越して無事に過ごしてるようだ。


「灰川さんってハッピーリレーとシャイニングゲートのマネージャーさんになるの? そしたら私のマネージャーさんにもなってくれるっ?」


「ん~、ちょっと違うんだけど似たような物かな、もちろんルルエルちゃんが希望するならマネージャーになっちゃうよ」


「やったっ! じゃあ約束だよっ、マネージャーさんになってね灰川さんっ!」


 マネジメント以外にも色んな事を任されるみたいだが、まだ全容は分からないし、実際にやってみないと分からない事の方が多いだろう。


 先行きは安定してるとは言い難いが、それでも全く先が見えない訳ではないから不安感は少ない。


「今日はあの時のお礼をしに来たのっ、こっちに来て灰川さんっ」


「お、ありがとう、ちょ服が伸びるから引っ張んないで」


 そんな話をしてると唐突にルルエルちゃんに服の袖を引っ張られ、灰川は休憩所に連れて行かれた。元気さではどう足掻いたって小学生には勝てない、子供はいつでも全力投球だ。


「はい、これっ」


「音声データだね、ありがとう。でも送信するだけで良かったと思うけど」


「まず聞いてみて灰川さんっ、私の学校の怖い噂のお話しなんだよっ」


 ルルエルちゃんに急かされて早速イヤホンを付けて再生してみた。



『こんにちわっ、ハッピーリレーのルルエルちゃんだよっ! 今日は私が通ってる渋谷東南第3小学校の怖い話を灰川さんに聞かせてあげるねっ』


『私は小学4年生なんだけどっ、4年生の教室がある校舎の怖い噂なのっ』


 これは絶対に誰かに聞かせる訳にはいかない、ルルエルちゃんの個人情報がてんこ盛りだ。


 声は明るくて聞きやすく、ルルエルちゃんの元気な子供っぽい可愛い声が心地よく耳に響き、聞いてるこっちまで楽しくなって元気が貰えるような声だ。


 しかし……そこからルルエルちゃんの声のトーンが少し下がり、怖い話を聞かせる声になる。




  第3小学校の4年生教室


 ある日に4年生の男の子のA君が忘れ物を取りに放課後に学校に戻って教室に入ろうとドアを開けると、教室の中に白衣を着た人達が居てA君の方をじっと見ていた。


 先生たちが話し合いをしてたのかと思って怒られると思ったA君は「忘れ物取ったらすぐ出て行きます!」と言い、そそくさと忘れ物のノートを取って出ようとした時に周りを見ると、誰も居なかった。


 さっきまで10人くらいの人達が居たのに、一瞬で音も無しに消えてしまったのだ。A君は怖くなり放課後の学校から抜け出して、次の日に友達にその話をすると。


「第3小学校は昔は病院だったらしいぜ、その人達ってもしかしたら幽霊じゃなかったのか?」


 よく考えると教室に居た人達は医者が着るような白衣を着てたと思い出し、ぞっとしたとのこと。




「こんな噂が前からあるんだよ灰川さんっ、ねぇねぇ怖かった?」


「俺が通ってた小学校にも同じような噂があったよ、怖いってより懐かしくなったな」


 小学校の怖い話は昔から色々とある、大体の話は子供が理解しやすい短い話で、内容は稚拙だったり大味だったりするのだが、そここそが学校怪談の良い所なのだ。むしろ想像力豊かな話が多数あり、プロの怪談作家の作品より好きだという人も多い。


 子供の怪談は実は割と時代が反映されたりする、今の時代の子供の怪談は出会った時点で死が確定とか、見ただけで異界へ連れ去られるとか殺伐とした容赦のない物が多いそうで、これも時代を反映してる内容なのかも知れない。その点ではルルエルちゃんの話は昔から第3小学校で語り継がれて来た古い怪談なのだろう。


 小学校の怪談には『昔は墓場だった』『昔は病院だった』という根も葉もない噂が元になる事が多い、実際には単なる空き地だったとしても噂では昔は怖い場所だったというのが鉄板の一つだ。


「話し方もルルエルちゃんの声だけど普段とは違って良かったよ、やっぱ才能ある子は違うねぇ」


「灰川さんありがとっ! 怖い話聞いたらまた聞かせてあげるねっ」


 灰川が褒めると佳那美は喜んで笑顔になる、やはり子供らしい元気さで可愛らしい子だ。


「あとねっ、もう一つのお礼は~…これだよっ!」


「ん? これは何?」


 ルルエルちゃんは灰川にデフォルメされた動物の描かれた可愛い袋を手渡してきた。


「人気Vtuberルルエルちゃんの、手作りクッキーだよ~。灰川さん、食べて食べてっ」


「おお、ありがとう。どれ頂きます」


 袋を開けてさっそく一つ取り出してみる、星型とかハート型とか色んな形があって可愛い感じだ。


「うん、美味しい、こりゃ将来はお菓子屋さんか?」


「Vtuberを続けたいよ~! でも灰川さんだったら買いに来てくれそーだねっ!」


「行く行く、大量に買って太っちゃいそうだな」


「あははっ! 灰川さんが太ったら可愛いかもっ!」


 そんな感じでルルエルちゃんからのお礼は頂いた、現役女子小学生Vtuberルルエルちゃんの怪談朗読も手に入ったし、その上に手作りクッキーまで貰ってしまった。


 なんだか怪談もクッキーの味も子供の頃を思い出すような懐かしい感覚にさせてくれた、やはり子供と大人の感性は違うが、そこが面白くもあり可愛くもある。


「じゃあね灰川さんっ! また今度だよっ!」


「おうよー、ルルエルちゃんも気を付けて帰るんだぞー」


 ルルエルちゃんからのお礼は終わり、灰川もハッピーリレー事務所から出て帰宅した。




 そのまま自宅のアパートに戻って夕方になり、しばらくゴロゴロしてると部屋のドアがノックされ開けた。


「誠治! この前のお礼をしに来たわよっ! お邪魔するわねっ」


「ツバサ? 配信とかは大丈夫なのか?」


「大丈夫よっ、今日はお休みよっ」


 飛車原(ひしゃはら) 由奈(ゆな)こと破幡木(はばたき)ツバサは、灰川の家から非常に近い場所に自宅があり、徒歩でも行ける距離だ。


「怪談の音声データはUSBに入れて持ってきたわ! ありがたく聞きなさい!」


「おう、ありがとうなツバサ」


「それとお礼は他にも用意してあるわ! 今日は誠治のことをアタシに夢中にさせてあげるんだからねっ」 


 そう言うとツバサは荷物として持ってきたバッグから色んな物を取り出して、ウサギの絵が描かれたエプロンを身に付けた。


「今からアタシがママ直伝の料理を作ってあげる! 出来上がるまで待ってなさい!」 


 そう言いながらツバサは無い胸を張りながらツインテールを得意げに揺らし、自信満々な顔で灰川の部屋の小さいキッチンに向かった。


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