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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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62話 行き先を決める 2

 ブラック企業のクソ社長、同じようなVtuberしか出せないワンパターン野郎、その言葉は社長二人に強い衝撃を与えていた。


「確かにその通りだ、エリス君にも言われたが昔の事が許される事はないだろう」


 花田社長は迷惑を掛けた人達に謝りはしたが、謝られた者達が社長が本当に反省してるかどうかなんて分からないし、謝られた所で許せるはずもない。


 花田社長は彼らの人生と心に消える事の無い傷を付け、貴重な時間を奪い、サービス残業等の形で金銭的な損害を与えた、それは泥棒と変わらない事なのだ。


「社長、今まで迷惑を掛けた人達に一人一人に謝罪して、今まで掛かった病院代や未払い賃金、その他の精神的肉体的苦痛の賠償と慰謝料、その他もろもろを支払って下さい」


 そう言ったのは史菜だった、彼女は優しかった先輩やお世話になった職員が会社のせいで悲惨な目に遭った事を強く恨んでる、それでもハッピーリレーに残ったのは社長や運営幹部にもお世話になったからだ。


「社長、さっきは言い過ぎたかもしれないですけど、ブラック企業は職員の人生を滅茶苦茶にするし恨みを買う、内情は今の時代は簡単に表沙汰になる、もう古い考えは捨てて下さい、労働者は馬鹿じゃないし奴隷でもないんですよ」


 灰川は先程の発言を謝罪しつつも取り消しはしない、ハッピーリレーはブラック化して窮地に立たされた。そうなる事が読めなかった時点で社長としては失格なのだ。


 ブラック企業に入ってしまった者は後で笑い話で済む程度の者も居るが、灰川のようにトラウマになって一生の傷になる人だって居る。そういった事を軽く考えてるようでは、人の上に立つ資格は無い。


「そうだな…誠意が足りなかった、謝れば済む問題じゃないのは重々理解した。ミナミ君の言う通りにしよう…それで許されるかは分からないが」


「許されないでしょうね、むしろ怒りを買うだけになるかも知れません、でもやらなければ社長失格ではなく人間失格です」


「厳しいな灰川君、しかしそれがブラック企業被害者の本心なんだろうな…私は本当に許されない事をしたんだな…」


 花田社長は灰川の怒り狂う姿を見て、ブラック企業被害者の(なま)の声を聞いて少しは心が変わったようだ。元々は真面目な性格という事もあるだろう。


「ところで灰川さん、シャイニングゲートのVtuberは傍から見ると本当にワンパターンになってるのかい…?」


 渡辺社長が少し緊張した面持ちで聞いて来る、灰川の指摘は心当たりが無かったらしいが、空羽も似たような危機感を感じてたことを聞かされて焦りが見える。


「まだワンパターンになりかけてるって程度ですかね、何人かシャイニングゲートのVtuberの配信を見ましたけど、正直言って誰が何の話してたか思い出せないって感じです」


「そうか……それは問題だ」


 全員とも視聴してて面白かったが、どんな話をしてたか思い出せないし、なんならVtuberの特徴なんかもうろ覚え、これが今のシャイニングゲートを初見で見た人間の感想だった。


「社長、自分の中で面白いVtuberはこうだ、って強い理想像みたいな物はありませんか? 例えば自由鷹ナツハとか」 


「そうだな、そうかもしれない…でも実は僕の推しはナツハじゃなくて男性Vtuberでね、その人は~~…」


「私、何気に傷ついたよ社長? まあ社長が自社のVtuberをビジネスパートナーとして見てる事は知ってたけど」


 渡辺社長は実は配信者は男性の方が面白く見れるらしく、シャイニングゲートを興す切っ掛けもそっちだったらしい。しかし商売にするとなると女性の方がウケが良いと分かり、それ以来は女性Vtuber専門の事務所になったらしい。


「まあとにかく、成功体験を積み過ぎて、その道が一番の近道って無意識になってるんでしょうね」


「確かにそうかも知れないね、今はそれが成功の道だとしても近い内に破綻する。ここで気が付けたのは良かった」


 具体的に言うならシャイニングゲートのVtuberは、どんな性格や個性がある者でも、その殆どが


 『最初は丁寧に分かりやすく』『次に緩急を伴いながら笑わせ』『そこから意外性のある話運びやゲームプレイで視聴者を引き付け』『最後に今日の配信を振り返ったりして印象を残す』


 という感じの物だった、それが悪いとは言わない。同じ流れを辿っても個性もあるし面白い配信である事は変わらないが、いくら何でもスタイルが被り過ぎだ。


「視聴者は馬鹿じゃありません、俺が気付いたんだから気付いてる人も多い事でしょう。その結果がアカデミー生配信者の視聴者獲得の苦戦だと思います」


「う~~ん……」


 アカデミー生配信者はもはや正規シャイニングゲートVtuberの劣化版みたいな配信になってた、面白いけど何人か見てると印象は一気に薄れる、そんな配信だった。


 灰川は底辺配信者だが、配信自体が好きで今まで結構な数の人の配信を見て分析したりしてきた。この人はなぜ面白いのか?この人はなぜ面白くないのか?そういった物を考えて自分の配信に……全く生かせなかった。


 だが別に生かせないからと言って無駄だったという訳でもない、この場でこうして意見が出来ている。配信企業の社長とかだって別に自分が面白い配信を出来る訳でもない、むしろ傍から見た感想こそが大事な時もある。


「解決策はこの場で答えが出せる訳ではないけど、僕もやっぱり灰川さんに外部顧問になって欲しい」 


「え?」


「もし灰川さんがシャイニングゲートに入って収まってしまったら、そういう意見を持っても立場的に言えなくなる可能性もある」 


 会社に入れば多くの人間関係が発生する、そうなれば状況や立場は今より複雑になり、スタンスが変わってしまう可能性は大いにあるだろう。


「私としても例のアレ(金名刺)を期待してる部分はあるが、まずはその力を使って助けても良い人間だと思われるようにならなければな」 


「僕もです、そっちに目が行ってましたが目が覚めました、でもやはりいざという時のために灰川さんには控えていて頂きたい」


 社長二人の意見は同じで、やはり灰川には外部顧問になって貰いたいということだ。


「灰川さんを抜きにして我々で勝手に話を進めて申し訳なかったと思ってる、灰川さんすみませんでした」


「事情も考えず目が眩んで先走り、申し訳なかった灰川君」


「いえ、気にして…ないと言えば噓になりますけど、俺も騒いで暴れてすいませんでした」 


 こうして仲は戻り元の関係に戻ったと言えるだろう、この様子に市乃たちは胸を撫で下ろしてる。


「市乃たちにも悪かった、ごめんなさい。大人の男が怒って暴れるなんて怖かっただろ?」


「~! う、うん…でも私だって灰川さんと同じ体験してたら、同じようになってたかも」


「いえ、私は灰川さんがあのように仰ってくれて有難かったです、むしろお慕いする気持ちが強くなりました」


「ううん、灰川さんが言葉にしてくれなかったら、私も有耶無耶にしてたと思う」


 こう言ってはくれてるが思春期の子に大人が怒り暴れる姿は見せて良い物じゃない、灰川は3人にもちゃんと頭を下げた。


「さて、本題に戻るけど、やはり灰川さんにさっきの話を受けて欲しい」


「いや、だから借金したくないし金も無いんですって」


 本題に戻されても灰川の考えは変わらない、借金は怖いし商才があるとも思えない。


「商才の方はそのうち身に付くし、さっきも言った通りハッピーリレーとシャイニングゲートがある限り仕事の心配はしなくて良いんだ、不安だったら空いてる時間に資格の勉強でもすれば良いさ」


「まあ…確かに…」


 仕事に関しては2社が優先して灰川に仕事を回すし、その他の条件なども詳しく聞いていった。


 灰川の事情を優先する、無茶な事は頼まない、無理強いもしない、その他にも市乃たちには聞こえないように金名刺に関しても、灰川が使っても構わないと思った時に力を貸してくれるだけで良い。使う使わないは自身で決めるという条件だった。


「借金に関しては利息ナシ、返済期限ナシ、催促ナシ、保証人ナシというのは僕たちの世界では譲渡と同じ意味合いなんだ、もちろん傘に着せるような事もしない」


「灰川君は不安なようだから、もし私達の申し出を受けてくれるなら灰川君が選んだ弁護士を通して契約する、そうすれば契約に違反する事は実質的に無理になる」


 流石は何年も社会の荒波に揉まれて来た人達で、今度は詳しく灰川にも分かるように説明してくれた。


 借金とは名ばかりの譲渡であること、契約が不安なら第3者の立ち合い弁護士を立てろ、それらの契約を破った場合は借金は帳消しになる契約にしても良い、そういった事を教えてくれた。


 それと同時に会社の経営陣や運営幹部には既に話を通しており、言いくるめる事は出来てるとのことだ。やはり社長職ともなれば口が立つのだろう。


「灰川さんは信用できる霊能力者を探す事が、どれだけ大変な事か知ってるかい?」


「え、いや…俺は探した事が無いですから」


 灰川は自分が霊能力者だしお祓いなども出来る、仮に探そうと思ったら家族や親戚に霊能力者が居る。


「ほとんど見つからないよ、霊能力がある灰川さんには分からないかもしれないけどね」


「そうですか、そうかも知れないですね」


「だから灰川さんを見つけられたのは花田社長にとっても僕にとっても奇跡に近い事なんだ、実際に助けてもらってそう感じたよ」 


 渡辺社長は灰川の霊能力を信用してるし頼りにしてると言ってくれる、それは有難いことだ。


「それと灰川君、騙されるのは労働者だけじゃないぞ、経営者はその10倍は騙される経験をしてる」


「っ! た、確かに…そうですよね」


 花田社長は実は経営という物を通して何度も騙されて来たと語る、投資詐欺や経営権を上手いこと奪われそうになった事もあるらしい。


 他にもブラック化する前に職員が会社の備品を勝手に売ってたり、彼女が居ないイケメンとして配信者で売り出そうと思ってた男が5股してたなんて話もあるそうだ。そういう事がストレスになって重なりブラック企業になった可能性もある。


 社長は2人とも大小合わせて騙された数は覚えて無いそうだ、しかしその都度に立ち上がって来た。今だって騙しや人の悪意には苦労させられてると語る。


「灰川さんっ、私もVtuberになってから苦労した事いっぱいあるよっ、ずっと粘着してネガキャンする人とか居たし、視聴者さんから才能ないからVtuber辞めろってコメントされた事もあったよ! 今考えてもムカツク!」


「私もです、以前にもお話ししたようにVtuberを引退しようと思ってたくらいですから」


「私も今だって悩んでる事はいっぱいあるよ灰川さん、SNSで嫌がらせされた事なんて何回もあるし、Vtuberアンチの人は真っ先に私を攻撃して来るし」


 それぞれの腹の内に溜まってた物が吐き出されていく、人の悪意に嫌な経験をさせられた者は自分だけではない、大概の人間が多かれ少なかれある。


「そうか…そうだよな、嫌な思いしたのは俺だけな訳ないもんな」 


「そうだよ、でも灰川さんはちょっと溜め過ぎかもねー」


「あんな風になるまでストレスを溜め込むのは駄目な事だと思います、今度からは私が責任をもって灰川さんのストレスを解消させて頂きます」


「灰川さんは少し我慢のし過ぎだったんじゃないかな、今度からは私もグチ聞いてあげるから」


 市乃たちが皆で灰川を慰めてくれる、それを感じて灰川は決断した。



「外部顧問の話、受けます」


 「「!!」」



 全員が腹の内を明かしたし、抱える悩みにどう対処すれば良いかも語り合う事が出来た。その結果として灰川は信用するべきだと心から思えたのだ。


「受けてくれるか灰川君!」


「決断してくれてありがとう、灰川さん」


 花田社長と渡辺社長は本気でありがたいと思ってくれてるようだった、ここまで灰川にとって良い条件を提示してくれたのだ、彼らは金名刺以外でも本当に灰川を頼りにしたいと考えてる事は灰川にも理解出来た。


 安心できる契約の仕方なども教えてくれた、譲渡と変わらない形で出資してくれる、それは簡単ではない事だったろうが灰川にはその価値があると踏んでくれたのだ。


「やったぁ! じゃあこれからも一緒だね、灰川さんっ!」


「安心しましたっ、これで灰川さんとマネージャーとして一緒に居て貰える事が出来ますっ」


「一件落着だね、もし何かあっても私が力になるよ灰川さん」


 3人とも灰川が良い返事をして喜んでくれた、それもありがたい事だ。 


「契約や細かい話は後にして、安心したら何だか腹が減ってしまったな。丁度良いからここで食べて行くとしよう」


「なら僕が奢りますよ、今日は気持ち良く食事が出来そうだ」


「私もお腹減ったー、色々あったもんねー」


 そのまま話し合いの会場となってた居酒屋で軽い祝いの席と食事会となった、もちろん灰川も腹が減っており容赦なく食べる。


 その席は皆とても食が進んだ、社長達も市乃達も遠慮など無く食べて笑いと楽しい空気が溢れており、その空気感は互いを信用した者達が共有できるものだった。


 社長は2人とも金名刺の事は約束通り、市乃達にも秘密にすると約束してくれて、これでひとまずは安心だろう。




 その後は食事会はお開きとなり、各自で会社に戻ったり配信のために自宅に帰ったりしたが、その時に市乃と史菜と空羽に呼び止められた。


「灰川さん、今度に美術館に連れてってくれたお礼と、八重香ちゃんを助けてくれた私からの(れい)するからねっ、ちょっと覚悟しててもらったほーが良いかもっ」


「私からもお礼がありますので、灰川さんに私と北川ミナミに夢中になってもらえるよう、頑張りますねっ♪」


「お礼は怪談の朗読音声だけど他にも用意してあるから、灰川さんに喜んでもらえると嬉しいかな」


 そんな事を去り際に言われて、その日は帰宅したのだった。



Vtuberのお礼編とも言えるような話になりますが、極端な内容にならないよう気を付けたいと思います。

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